第79話 公爵令嬢様、幸せを分け合ったら最後に全部抱きしめたくなります
皆さん、こんにちは!!
アルフレッド・シェルザートです。
王城の春の親睦夜会から、五日。
そして。
学園庭園でのお茶会当日。
ついに、その日が来た。
……と。
大きな行事のように言ってしまったが。
王城の夜会とは違う。
王族はいない。
第一舞踏もない。
深い青のドレスも。
濃紺の礼装も。
大広間を満たす楽団の音楽もない。
俺たちは制服。
場所は、学園の東庭園。
参加するのは。
俺。
リリス。
ユリウス。
エレナ嬢。
ニール。
クラリス嬢。
六人。
友人たちだけの、小さなお茶会。
だが。
小さいから、軽いわけではない。
王城の夜会が。
家族や王族や大勢の招待客と過ごした、大きな幸せだったのなら。
今日のお茶会は。
自分たちの手で用意し。
自分たちで席を選び。
自分たちの言葉で過ごす。
小さくて。
近くて。
だからこそ、誰か一人の表情や沈黙がよく見える時間になる。
昨日。
学園側へ、食事の最終注文を出した。
焼き菓子。
果実菓子。
柔らかなパン菓子。
塩味の包み菓子。
花茶。
紅茶。
炭酸水。
全員が、一つずつ選んだもの。
どれか一つを主役にしない。
皆の好きなものを。
少しずつ。
そして。
机の中央には。
青い薔薇を一輪。
リリスが。
フルーラ家の温室から、自分で選んだものを置く。
三百輪ではない。
一輪。
ガロウ公爵が、温室にある青い薔薇をすべて並べようとした。
だが。
セレスティア夫人に止められた。
『一輪を選ぶために温室を解体しない』
という札が出たらしい。
温室は解体しない。
当然である。
リリスは。
今朝。
自分で一輪を選んだ。
夜会用の髪飾りと同じ。
銀を先に見せるのではなく。
青い花そのものが、最初に見えるもの。
花弁は少しだけ外を向いている。
完璧に閉じていない。
誰か一人へ向かうのではなく。
机を囲む全員から見えるような。
そんな一輪。
そして。
今。
その薔薇は。
リリスの手元にある。
朝。
学園正門。
俺が馬車を降りると。
リリスは、いつもの場所に立っていた。
制服。
普段のブルーローズ。
そして。
両手に。
細長い花箱。
その後ろにはミラ。
さらに。
今日はなぜか。
ガロウ公爵がいた。
いる。
学園正門に。
大きな体。
正式な騎士団服ではない。
だが。
どう見ても公爵。
どう見ても騎士団長。
どう見ても。
友人だけのお茶会へ参加できない父親。
胸元には。
札。
『友人の茶会に父親席はない』
自分で掲げている。
「ご機嫌よう、リリス」
「ご機嫌よう、アル」
「足の状態を聞いても?」
「はい」
「痛みは?」
「ありません」
「違和感は?」
「ありません」
「疲れは?」
「ありません」
「睡眠は?」
「途中で一度」
「時計は?」
「見ませんでした」
「よかったです」
「アルは?」
「痛みなし。違和感なし。睡眠も問題ありません」
「受け取りました」
いつもの確認。
それから。
俺は。
リリスの後ろを見る。
「公爵閣下」
「はい」
「なぜ、いらっしゃるのですか?」
「娘を送った」
「馬車で?」
「はい」
「普段はレオナルド先輩とミラが」
「今日は、青い薔薇がある」
「花の護衛ですか!?」
ガロウ公爵は。
真剣に頷いた。
「フルーラ家の温室から運び出された大切な一輪だ」
「学園までの距離です!!」
「花弁が傷つく可能性がある」
「箱に入っています!!」
「揺れが」
「通常の馬車です!!」
「父が抱えれば」
「公爵閣下が抱えても揺れます!!」
正門前。
生徒たちが。
少しずつ足を止める。
もう慣れている。
「あれが札の公爵閣下?」
「今日は何て?」
「友人の茶会に父親席はない」
「ご自分で持っているわ」
「参加しないための札?」
ささやき。
笑い。
ガロウ公爵は。
少しだけ胸を張る。
「参加しない」
「はい」
「見学もしない」
「はい」
「木の陰にも隠れない」
「はい」
「学園の外から望遠鏡も使わない」
俺は止まる。
「望遠鏡を考えましたね?」
「考えただけだ」
「考えたんですね!!」
リリスが。
花箱を抱えたまま。
泣きながら笑う。
「お父様」
「はい」
「今日は」
「はい」
「友人の皆さまと過ごします」
「分かっている」
「お父様には」
「はい」
「帰ってから」
「はい」
「全部ではありませんが」
「はい」
「お話しします」
ガロウ公爵の表情が。
一気に柔らかくなる。
「全部ではない?」
少し沈む。
セレスティア夫人の札が。
どこから。
いや。
レオナルド先輩が。
公爵の後ろから、一枚出した。
『娘にも友人だけの話がある』
いた。
レオナルド先輩も。
「お兄様」
「父上を連れ帰る」
「ありがとうございます」
ガロウ公爵が。
札を見る。
長い沈黙。
「分かった」
言えた。
「話したい範囲でよい」
「はい」
「茶菓子は」
「食べます」
「水は」
「飲みます」
「席は」
「皆で決めます」
「アルフレッド殿の隣へ」
「公爵閣下」
俺が止める。
「席まで決めない」
ガロウ公爵は。
胸元から別の札を出す。
『婚約者の隣席を父が決めない』
「持っているなら読んでください!!」
「今、読んだ」
「聞く前に読んでください!!」
正門前に。
さらに笑い。
ガロウ公爵は。
それでも。
リリスを見ている。
深く。
寂しそうで。
嬉しそうで。
娘が。
家族の外にも。
自分で選んだ居場所を持っている。
それを。
受け取ろうとしている。
「リリス」
「はい」
「楽しんでこい」
短い。
だが。
まっすぐ。
リリスの目から。
涙が一粒。
「はい」
「楽しんできます」
「父は」
「はい」
「屋敷へ帰る」
「はい」
「本当に」
「はい」
「学園の近くでは待たない」
「はい」
「温室にいる」
「はい」
「青い薔薇を」
「三百輪並べ直さないでください」
レオナルド先輩が言う。
ガロウ公爵が黙る。
「考えましたね」
俺。
「少し」
「やめてください!!」
最後に。
皆で笑った。
ガロウ公爵は。
レオナルド先輩と馬車へ戻る。
一度。
振り返る。
だが。
こちらへ来ない。
手を上げない。
札も掲げない。
ただ。
頷く。
リリスも。
頷く。
馬車が動く。
遠ざかる。
リリスが。
少しの間。
見送る。
それから。
花箱を見る。
「アル」
「はい」
「少し寂しいです」
「はい」
「でも」
「はい」
「楽しみです」
「両方?」
「はい」
「受け取りました」
俺たちは。
校門を通る。
一歩。
二歩。
三歩。
同じ速度。
「薔薇は?」
俺が聞く。
「今朝、選びました」
「どんな一輪ですか?」
「見ますか?」
「茶会の時に」
リリスが。
少し驚く。
「今ではなく?」
「皆と一緒に」
「はい」
「机の中央へ置く花なので」
「はい」
「俺だけが先に見るのではなく」
「皆で」
「はい」
リリスの目が。
潤む。
「取っておきます」
「はい」
教室へ。
授業。
午前。
算術。
歴史。
魔法理論。
お茶会は放課後。
まだ。
未来へ走らない。
だが。
教室の窓から。
東庭園が少し見える。
風。
木々。
小東屋。
学園側の使用人が。
机を確認している。
白い布。
椅子。
六脚。
少し。
胸が鳴る。
夜会当日ほどではない。
でも。
楽しみ。
休み時間。
クラリス嬢が。
リリスの花箱を見る。
「その中に?」
「はい」
「青い薔薇が」
「はい」
「近くで見ても?」
リリスは。
一瞬。
開けようとする。
止まる。
「茶会の時に」
「はい」
「皆さまと一緒に」
クラリス嬢の表情が。
柔らかくなる。
「楽しみにしています」
「はい」
ユリウスが。
「僕も」
「花に興味がありますか?」
「三百輪から選ばれた一輪」
「並べていません」
「そうなの?」
「お母様が止めました」
「残念」
「何がですか」
「選考会」
「茶会の前に一日終わります」
エレナ嬢が。
「一輪を選ぶために、ほかの花を落とす必要はありませんわ」
静か。
強い。
リリスが。
目を向ける。
「落とす?」
「選ばれなかった花も」
「はい」
「温室に残り」
「はい」
「それぞれ咲き続けます」
「はい」
「今日、机へ来るのは一輪」
「はい」
「ほかが価値を失うわけではありません」
リリスの目が。
少し潤む。
「はい」
「選ぶことは」
「はい」
「誰かを否定することではない場合もあります」
「はい」
髪飾り。
席。
友人。
婚約者。
すべて。
一人を選ぶ。
でも。
ほかを。
無価値にしない。
「アル」
リリスが俺を見る。
「はい」
「私が、アルの隣へ座りたいと言っても」
「はい」
「クラリス様やエレナ様と話したくないという意味ではありません」
「はい」
「俺も」
「はい」
「リリスの隣へ座りたいですが」
「はい」
「友人全員と話したいです」
「はい」
「受け取りました」
クラリス嬢が。
少し笑う。
「席」
「はい」
「私は、最初はアマリリス様のお隣へ座ってもよいですか?」
リリスの目が。
大きくなる。
「もちろんです」
「アルフレッド様は?」
俺。
一瞬。
胸に。
少し寂しさ。
言える。
「少し寂しいです」
全員が。
こちらを見る。
「でも」
「はい」
「嬉しいです」
クラリス嬢の目が潤む。
「本当に?」
「はい」
「リリス様とクラリス嬢が」
「はい」
「お茶会を提案した者と、楽しみにしていた者として」
「はい」
「最初に隣へ座ることが」
「はい」
「嬉しいです」
リリスの涙。
クラリス嬢の涙。
エレナ嬢の目元も。
ユリウスが。
「アルフレッドはどこへ?」
「どこでも」
「僕の隣?」
「それでも」
「本当に?」
「なぜ嫌そうなのですか」
「僕は嬉しい」
「はい」
ニールが。
小さく手を上げる。
「僕も」
「はい」
「最初、シェルザート君の隣へ座ってよいですか?」
「もちろん」
「話したいことが」
「はい」
「王城で会った方から、書状が届きました」
「本当に?」
「はい」
「お返事を」
「一緒に考える?」
俺が言いかける。
止まる。
「聞いてほしいですか?」
「はい」
「では」
ニールが。
少し笑う。
「ありがとうございます」
席。
決まった。
最初だけ。
リリスとクラリス嬢。
俺とニール。
ユリウスとエレナ嬢。
向かい合う。
途中で。
必要なら変える。
誰かの隣を。
永久に決めない。
でも。
今。
選ぶ。
昼休み。
食堂。
今日は。
放課後のお茶会を考え。
菓子を減らしすぎない。
逆に。
昼食を抜かない。
「アル」
「はい」
「食べられていますか?」
「はい。スープ、パン、肉、野菜」
「全部」
「はい」
「私は、スープ、パン、野菜、肉を少し」
「受け取りました」
「放課後に菓子が」
「はい」
「だからといって」
「昼食を減らしませんでした」
「よかったです」
「評価では?」
「受け取りました」
皆が笑う。
ユリウスは。
「僕は菓子のためにパンを半分」
エレナ嬢が見る。
「ユリウス様」
「はい」
「体調は?」
「問題なし」
「空腹は?」
「少し」
「では?」
「食べる」
パンを戻す。
軽さを半歩。
ニールは。
書状の話を。
少しだけ。
王城で会った同年代の少年。
庭園の話。
学園の話。
また会いたいと。
「友人?」
ユリウスが聞く。
ニールは。
考える。
「まだ」
「はい」
「知り合いです」
「はい」
「でも」
「はい」
「友人になれたら」
笑う。
「よいですね」
リリス。
「はい」
「今日の茶会でも」
「はい」
「どうすればよいか話したいです」
「もちろんです」
友人が。
次の友人を。
呼ぶ。
輪。
広がる。
だが。
急がない。
午後。
授業。
時間。
ゆっくり。
窓の外。
日が少し傾く。
放課後。
鐘。
鳴る。
教室全体が。
少し賑やかになる。
俺たちは。
机を片づける。
鞄。
持ち物。
花箱。
クラリス嬢の申請書。
全員。
東庭園へ。
校舎を出る。
空気。
春。
柔らかい。
風は。
強すぎない。
花が。
少し揺れる。
東庭園。
小東屋。
白い机布。
六脚の椅子。
茶器。
透明なグラス。
小さな皿。
食堂から運ばれた菓子。
焼き菓子。
果実菓子。
塩味の包み。
パン菓子。
花茶。
紅茶。
炭酸水。
全部。
少しずつ。
派手ではない。
王城の大広間とは。
まったく違う。
だが。
綺麗。
大切に用意されている。
ベイル先生が。
最終確認。
「終了は日没前」
「はい」
「体調が悪い場合」
「伝えます」
「食事」
「忘れません」
「席」
「最初だけ決めました」
「固定では?」
「ありません」
「家族の見学」
「ありません」
リリスが答える。
「公爵閣下は?」
先生。
リリスが。
少し困った顔。
「屋敷です」
「確認は?」
「お兄様が」
「よろしい」
先生は。
庭園の木々を一度見渡す。
公爵がいないか。
たぶん。
俺も。
見た。
太い木。
細い木。
生垣。
大きな影。
ない。
よかった。
「では」
先生が言う。
「皆さんの時間を」
「はい」
「楽しんでください」
先生は離れる。
だが。
定期確認。
視界。
完全な二人きりでも。
子どもだけでもない。
必要な距離。
「アマリリス様」
クラリス嬢。
「はい」
「薔薇を」
「はい」
来た。
花箱。
リリスが。
机の中央へ置く。
皆。
立ったまま。
見守る。
留め具。
一つ。
ゆっくり外す。
蓋。
開く。
青。
一輪。
深い。
夜会のドレスより。
少し明るい。
春の午後の光。
青い薔薇。
花弁。
柔らかい。
一枚だけ。
外へ。
開いている。
俺たちの方へ。
いや。
誰か一人へではない。
全部の方向へ。
リリスが。
両手で。
茎を持つ。
学園の小さな花瓶へ。
入れる。
水。
机の中央。
置く。
沈黙。
風。
葉。
鳥。
遠くの生徒の声。
皆。
青い薔薇を見る。
「綺麗」
クラリス嬢。
最初。
小さな声。
「本物は」
「はい」
「もっと」
言葉が出ない。
「青いです」
ユリウスが言う。
「そのままですね」
俺。
「でも本当に」
エレナ嬢。
「光によって」
「はい」
「少し色が変わりますわ」
ニールは。
近づきすぎない位置から。
「花弁が」
「はい」
「一枚」
「外へ向いています」
「リリス様が選んだ?」
俺が聞く。
「はい」
「なぜ?」
リリスは。
一輪を見る。
すぐ答えない。
「皆さまの方へ」
「はい」
「開いているように見えたからです」
クラリス嬢の目が。
潤む。
「私にも?」
「はい」
「ユリウス様にも」
「はい」
「エレナ様にも」
「はい」
「ニール様にも」
「はい」
「アルにも」
「はい」
「そして」
リリスが。
少し笑う。
「私にも」
強い。
誰かのためだけ。
ではない。
自分も。
輪の一人。
「皆さまへ」
リリスが。
一度。
姿勢を整える。
「今日は」
「はい」
「私が大切にしている青い薔薇を」
「はい」
「皆さまと一緒に見たいと思いました」
「はい」
「私の花ではあります」
「はい」
「でも」
「はい」
「今日の時間の中では」
青い薔薇。
机の中央。
「私たちの間に置かせてください」
沈黙。
長い。
皆。
受け取る。
「はい」
クラリス嬢。
「喜んで」
エレナ嬢。
「もちろん」
ユリウス。
「ありがとうございます」
ニール。
俺も。
「はい」
「一緒に見ましょう」
リリスの涙が。
一粒。
「ありがとうございます」
席。
最初。
決めた通り。
リリスとクラリス嬢。
俺とニール。
ユリウスとエレナ嬢。
俺とリリスは。
隣ではない。
斜め。
同じ机。
青い薔薇を挟む。
少し寂しい。
だが。
リリスが。
クラリス嬢と笑う。
嬉しい。
両方。
席へ。
全員。
「最初の飲み物は?」
クラリス嬢。
「花茶」
リリス。
「紅茶」
俺。
「炭酸水」
ユリウス。
「紅茶を」
エレナ嬢。
「花茶」
ニール。
「私も紅茶を」
クラリス嬢。
違う飲み物。
同じ机。
王城と同じ。
でも。
今日は。
友人。
給仕は。
学園の使用人。
一杯ずつ。
受け取る。
湯気。
炭酸。
香り。
「乾杯は?」
ユリウス。
「学園です」
俺。
「茶会だから」
「何に?」
皆。
考える。
大きな成功。
夜会。
友情。
未来。
いろいろ。
だが。
クラリス嬢が。
小さく言う。
「今日、皆さまが集まれたことに」
よい。
それだけ。
「はい」
リリス。
俺たちは。
違うカップ。
違うグラス。
少しだけ。
上げる。
「今日、集まれたことに」
声。
重なる。
食器は。
鳴らさない。
飲む。
一口。
花茶。
紅茶。
炭酸水。
「泡」
ユリウス。
「細かいですか?」
「王城より少し大きい」
「分かるんですか?」
「たぶん」
「たぶん」
笑う。
最初。
菓子。
皆の好きなもの。
クラリス嬢の焼き菓子。
「クラリス様」
リリス。
「はい」
「最初に」
「はい」
「ご自分で選んだ焼き菓子を」
クラリス嬢が。
少し戸惑う。
「皆さまからでは?」
「皆さまも」
「はい」
「クラリス様も」
クラリス嬢は。
自分の皿へ。
焼き菓子を一つ。
「食べます」
「はい」
皆。
拍手はしない。
だが。
温かく見る。
「見すぎです」
クラリス嬢が。
少し恥ずかしそう。
「食べづらいです」
「はい」
俺たちも。
それぞれ。
菓子を取る。
見守りすぎない。
食べる。
「美味しいです」
クラリス嬢。
リリスの目が。
潤む。
「よかったです」
「評価では?」
クラリス嬢が返す。
「受け取りました」
皆が笑う。
ニールが。
俺へ。
「書状のことを」
「はい」
「聞いても?」
俺は。
ほかの皆を見る。
「ここで話してよいですか?」
ニールが。
考える。
「はい」
「皆さまにも」
「はい」
「聞いてほしいです」
書状。
王城で会った少年。
名前。
別の学園。
庭園が好き。
夜会の会話が楽しかった。
また、書状を交わせないか。
ニールは。
嬉しい。
だが。
返事。
距離。
「友人と書いてよいのか」
「はい」
「まだ知り合いなのか」
「はい」
「分かりません」
エレナ嬢が。
「分からないと、そのまま書いてもよいのでは?」
「はい?」
「またお話ししたいです」
「はい」
「書状を交わしながら」
「はい」
「少しずつ知り合えたら嬉しい、と」
「友人と決めなくても?」
「はい」
ユリウス。
「友人になろう、と先に契約しなくても」
「はい」
「会話を続ければいい」
「はい」
リリスも。
「私も」
「はい」
「アルとの距離を」
少し。
俺を見る。
「最初から、すべて決められませんでした」
「はい」
「近い」
「はい」
「離れる」
「はい」
「聞く」
「はい」
「少しずつ」
「はい」
「今があります」
ニールが。
静かに頷く。
「では」
「はい」
「また書状をいただけたら嬉しいと」
「はい」
「書きます」
「よいと思います」
俺。
「一緒に文章を作りますか?」
ニールが。
少し考える。
「自分で書きます」
「はい」
「でも」
「はい」
「書いた後、読んでほしいです」
「もちろん」
選ぶ。
頼る。
両方。
茶会。
続く。
王城の話。
少し。
クラリス嬢が。
聞きたいもの。
「第一舞踏」
「はい」
「もう一度」
リリスが。
恥ずかしそう。
「足を踏みました」
「はい」
「でも」
「はい」
「終わりませんでした」
「はい」
「アルが」
「はい」
「一曲は続くと」
クラリス嬢が。
俺を見る。
「怖くなかったですか?」
「なりました」
「足を?」
「いえ」
「では?」
「リリスが、全部失敗したと思うことが」
リリスの目。
潤む。
「それで」
「はい」
「続くと」
「はい」
「言いました」
「ご自分にも?」
クラリス嬢の問い。
俺は。
少し止まる。
自分。
「たぶん」
「はい」
「俺にも言っていました」
「はい」
「一度の失敗で」
「はい」
「夜会も」
「はい」
「俺たちも」
「はい」
「終わらないと」
リリスの涙。
「アル」
公的ではない。
友人だけ。
「はい」
「ありがとうございます」
「はい」
「何度目でも」
「はい」
「言います」
沈黙。
青い薔薇。
中央。
クラリス嬢。
ユリウス。
エレナ嬢。
ニール。
皆。
聞いている。
でも。
二人だけの世界にしない。
俺は。
クラリス嬢を見る。
「クラリス嬢は」
「はい」
「夜会の夜」
「はい」
「寂しかったと言っていました」
「はい」
「今は?」
クラリス嬢は。
焼き菓子を見る。
青い薔薇を見る。
皆を見る。
「寂しかったです」
「はい」
「皆さまが王城へいて」
「はい」
「私は家族と屋敷に」
「はい」
「お祝いの食事は、幸せでした」
「はい」
「でも」
「はい」
「同じ場所へいたかった気持ちも」
「はい」
「残りました」
言えた。
リリスが。
すぐ。
謝りそうになる。
止まる。
待つ。
「今日」
クラリス嬢が続ける。
「はい」
「皆さまと同じ机へいます」
「はい」
「夜会へ行けなかったことが」
「はい」
「なくなったわけではありません」
「はい」
「でも」
「はい」
「今日の時間ができました」
リリスの涙。
ゆっくり。
「夜会の代わりですか?」
クラリス嬢は。
考える。
「違います」
「はい」
「夜会は、皆さまの夜会」
「はい」
「家族との食事は、私の夜」
「はい」
「今日のお茶会は」
全員を見る。
「私たちの今日です」
強い。
静かな。
だが。
胸へ。
全員。
少し黙る。
風。
茶器。
葉。
「はい」
リリス。
「今日です」
俺も。
「はい」
「今日、集まれました」
ユリウス。
「焼き菓子もある」
「そこですか」
「大事」
笑い。
クラリス嬢も。
笑う。
寂しさ。
消さない。
でも。
今日を。
置く。
時間。
少し過ぎる。
席。
変える。
「次」
クラリス嬢が。
「席を変えますか?」
「はい」
リリスが。
俺を見る。
でも。
すぐ隣へ来ない。
「エレナ様の隣へ」
「はい」
エレナ嬢が。
少し驚く。
「私で?」
「お話ししたいことが」
「喜んで」
リリスは。
エレナ嬢の隣。
俺は。
ニールとの話を続ける。
ユリウスが。
クラリス嬢の隣。
「焼き菓子、もう一つ?」
「はい」
「僕も」
「ご自分で」
「はい」
全員。
動く。
固定しない。
俺は。
リリスと離れる。
少し寂しい。
だが。
彼女がエレナ嬢と話している。
よい。
「アル」
ニール。
「はい」
「見ています」
「何を?」
「アマリリス様を」
「見すぎた?」
「少し」
「はい」
俺は。
視線を戻す。
「ありがとう」
「はい」
「書状の話を」
「お願いします」
自分の時間。
リリスも。
友人と。
やがて。
エレナ嬢とリリスの会話。
少し聞こえる。
「夜会で」
「はい」
「誰かに助けを求めることが」
「はい」
「まだ、少し怖いです」
「はい」
「迷惑になると」
「はい」
「思ってしまいます」
「私もですわ」
「エレナ様も?」
「はい」
「平気に見える方ほど」
「はい」
「頼らなくてよいわけではありません」
「はい」
「茶会で」
「はい」
「今、私へ話してくださったことも」
「はい」
「頼ってくださった一つです」
リリスの涙。
でも。
抱きつかない。
手を。
すぐ握らない。
「手を」
リリスが聞く。
「触れてもよいですか?」
「はい」
エレナ嬢が答える。
机の上。
指先。
少し。
「ありがとうございます」
友人。
俺ではない。
家族でもない。
リリスが。
自分で築く距離。
胸が。
少し。
温かい。
かなり。
時間。
さらに。
席。
また変える。
今度。
リリスが。
俺の隣へ。
来る前。
「アル」
「はい」
「隣へ座っても?」
友人の前。
でも。
聞く。
「はい」
「喜んで」
リリスが。
椅子を。
自分で動かす。
近すぎない。
だが。
隣。
今度。
クラリス嬢はニールの隣。
ユリウスとエレナ嬢。
六人。
新しい配置。
「来ました」
リリス。
「はい」
「一度」
「はい」
「隣へ座りたかったので」
「俺も」
リリスの目が潤む。
「でも」
「はい」
「皆さまと話せました」
「はい」
「アルも?」
「はい」
「ニールの書状」
「はい」
「よい時間でした」
「はい」
同じ机。
それぞれ。
別の話。
戻る。
全部。
できる。
「アル」
「はい」
「菓子を食べていますか?」
「はい。塩味の包み菓子、焼き菓子一つ」
「私は、果実菓子と焼き菓子」
「受け取りました」
「飲み物は?」
「紅茶を半分」
「私は花茶」
「はい」
友人たちが。
笑う。
「夜会から続いてるね」
ユリウス。
「日常にも必要です」
俺。
「僕も聞いて」
「食べていますか?」
「炭酸水と焼き菓子二つ」
「塩味は?」
「これから」
「受け取りました」
「評価されなかった」
「はい」
全員。
自分の体。
食べる。
話す。
風。
青い薔薇。
日が。
少し低くなる。
終わり。
近い。
リリスが。
気づく。
目。
少し曇る。
夜会の時と。
似ている。
でも。
今度は。
自分から。
「終わりが近いです」
「はい」
「少し寂しいです」
「俺も」
クラリス嬢。
「私もです」
ユリウス。
「菓子が」
エレナ嬢が見る。
「皆と」
ユリウスが言い直す。
「はい」
ニールも。
「僕も」
「ですが」
エレナ嬢。
「はい」
「次は?」
皆。
少し驚く。
「また」
クラリス嬢が。
言う。
「お茶会を?」
「はい」
「日程は、まだ」
「決めません」
俺。
「今日の終了前に」
「はい」
「次まで全部決める必要はありません」
「はい」
「ですが」
「はい」
「また集まりたいと」
リリスが言う。
「はい」
「思っています」
「私も」
クラリス嬢。
「僕も」
ニール。
「菓子が」
ユリウス。
「皆と」
エレナ嬢。
「はい」
笑い。
「では」
俺。
「次は」
「はい」
「その時に決めましょう」
「はい」
「今日を」
「はい」
「今日のまま」
「はい」
「終えます」
リリスの涙。
「終えても」
「はい」
「なくなりません」
「はい」
「夜会と同じ」
「はい」
「でも」
「はい」
「今日だけの」
「はい」
「私たちの今日です」
クラリス嬢の言葉を。
リリスが。
受け取っている。
「最後に」
クラリス嬢が。
青い薔薇を見る。
「この一輪を」
「はい」
「どうしますか?」
持ち帰る。
フルーラ家へ。
許可。
だが。
リリスは。
薔薇を見る。
少し考える。
「一輪です」
「はい」
「分けられません」
花を切る?
花弁?
違う。
「皆さまに」
リリスが言う。
「はい」
「一度ずつ」
「はい」
「近くで見ていただいて」
「はい」
「それから」
「はい」
「家へ持ち帰ります」
「はい」
「そして」
「はい」
「温室へ戻す?」
「切り花なので、戻せません」
「そうでした」
少し笑う。
「では」
「はい」
「最後まで大切に飾り」
「はい」
「枯れたら」
リリスの声が。
少し止まる。
枯れる。
終わる。
「花弁を」
「はい」
「押し花にします」
「はい」
「一枚ずつ?」
クラリス嬢。
リリスが。
目を見開く。
「皆さまへ?」
「無理なら」
「いいえ」
リリスは。
薔薇を見る。
一枚。
外へ。
皆へ向く花弁。
「花が終わった後」
「はい」
「花弁を」
「はい」
「皆さまへ、一枚ずつ」
人数。
六人。
花弁。
足りる。
「でも」
俺。
「リリス様も」
「はい」
「一枚」
「はい」
「自分へ」
リリスの目が。
潤む。
「私も?」
「はい」
「分ける時」
「はい」
「自分だけなくさない」
「はい」
リリスの涙。
落ちる。
「アル」
「はい」
「ありがとうございます」
「はい」
青い薔薇。
今は。
まだ咲いている。
花弁を取らない。
枯れてから。
急がない。
その時。
六人へ。
一枚ずつ。
思い出。
今日。
終わった後も。
残る。
「約束です」
リリス。
「はい」
「花が終わった時」
「はい」
「押し花を」
「はい」
「皆さまへ」
「楽しみにしています」
クラリス嬢。
「僕も」
ユリウス。
「大切にします」
エレナ嬢。
「はい」
ニール。
俺も。
「待っています」
リリスが。
泣きながら笑う。
日没前。
ベイル先生が。
少し離れた場所へ。
「終了時刻です」
「はい」
全員。
返事。
食器。
残り。
片づけは。
学園側。
だが。
自分たちで。
皿をまとめる。
椅子。
元へ。
ゴミ。
確認。
青い薔薇。
リリスが。
花瓶から。
すぐ抜かない。
学園側へ。
持ち帰り用の水筒型花入れ。
用意。
入れる。
花箱へ。
丁寧に。
でも。
抱え込みすぎない。
ミラへ任せる?
一瞬。
考える。
「自分で持ちます」
「はい」
ミラ。
「疲れたら?」
「お願いします」
「承知いたしました」
東庭園。
小東屋。
夕方。
六人。
立つ。
「今日は」
クラリス嬢。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
リリス。
「提案してくださって」
「はい」
「皆さまと集まれて」
「はい」
「とても幸せでした」
俺も。
「俺もです」
「僕も」
「私も」
「はい」
「楽しかった」
六人。
言葉。
重なる。
拍手は。
ない。
大広間ではない。
でも。
風。
笑顔。
それだけ。
教室へ戻る道。
皆。
少しずつ別れる。
クラリス嬢。
家族の迎え。
ニール。
姉。
ユリウスとエレナ嬢。
それぞれ。
「また明日」
「ご機嫌よう」
「今日はありがとう」
「押し花、待ってる」
「まだ咲いています」
「分かってる」
別れる。
正門。
リリス。
俺。
レオナルド先輩。
ミラ。
花箱。
「茶会は?」
レオナルド先輩。
リリスが。
笑う。
「幸せでした」
「はい」
「友人の皆さまと」
「はい」
「席を変えました」
「はい」
「青い薔薇を」
「はい」
「皆さまの真ん中へ」
「はい」
「そして」
「はい」
「花が終わったら」
「はい」
「花弁を一枚ずつ」
レオナルド先輩の表情が。
柔らかくなる。
「自分の分は?」
「アルに言われました」
「一枚」
「はい」
「よい」
俺へ。
「君も」
「はい」
「受け取るのか」
「はい」
「大切にします」
「はい」
レオナルド先輩が。
少しだけ。
遠い目。
「兄上も?」
俺が聞く。
「何が」
「押し花」
「私は茶会へいない」
「はい」
「家族として?」
リリスが。
少し考える。
花弁。
有限。
全員。
家族。
友人。
全部へ。
配りきれない。
リリスの顔が。
不安に。
「お兄様にも」
言いかける。
レオナルド先輩が止める。
「いらない」
強くはない。
「でも」
「今日の花だ」
「はい」
「今日、そこにいた者へ」
「はい」
「私は」
妹を見る。
「お前から話を聞く」
「はい」
「それが私の分だ」
リリスの涙。
一粒。
「ありがとうございます」
「父上にも」
「はい」
「話せ」
「はい」
「花弁がなくても」
「はい」
「父上は父上の宝物を作る」
「何を?」
俺。
「茶会の話を聞いた娘の涙」
「またハンカチ枚数が増えます」
「確実」
少し笑う。
正門。
夕方。
今日。
終わる。
「アル」
「はい」
「今日」
「はい」
「隣へ座れました」
「はい」
「最初ではありませんでした」
「はい」
「でも」
「はい」
「嬉しかったです」
「俺も」
「はい」
「クラリス様の隣も」
「はい」
「エレナ様の隣も」
「はい」
「嬉しかったです」
「はい」
「アルは?」
「ニールの隣が」
「はい」
「嬉しかったです」
「はい」
「ユリウス様は?」
「途中で炭酸水の泡を見せに来ました」
「それも?」
「少し」
リリスが笑う。
「友人の皆さまと」
「はい」
「過ごせました」
「はい」
「アルだけではなく」
「はい」
「でも」
「はい」
「アルとも」
「はい」
「過ごせました」
「俺も」
沈黙。
夕方の風。
花箱。
「今日の宝物名は」
「はい」
「青い薔薇を、皆さまの真ん中へ置けた日の宝物です」
「はい」
「あと」
「はい」
「一つの席へ、最後まで座り続けなくてもよいと知った日の宝物です」
「はい」
「あと」
「まだ?」
「私たちの今日ができた日の宝物です」
「クラリス嬢の言葉」
「はい」
「良い名前です」
「はい」
「そして」
リリスが。
少し。
涙を溜める。
「幸せを分けても」
「はい」
「減りませんでした」
「はい」
「青い薔薇も」
「はい」
「皆さまへ見ていただいたのに」
「はい」
「私の大切な花のままでした」
「はい」
「アルと過ごす時間も」
「はい」
「皆さまと過ごしたのに」
「はい」
「大切なままでした」
「はい」
強い。
「分けたから」
「はい」
「増えたかもしれません」
「はい」
「俺も」
「はい」
「そう思います」
リリスの涙。
落ちる。
「アル」
「はい」
「今」
「はい」
「皆さまが帰って」
「はい」
「お茶会が終わって」
「はい」
「少し」
声が震える。
「全部、抱きしめたくなりました」
俺。
止まる。
「全部?」
「はい」
「クラリス様も」
「はい」
「エレナ様も」
「はい」
「ニール様も」
「はい」
「ユリウス様も」
「はい」
「お兄様も」
「はい」
「お父様も」
「はい」
「お母様も」
「はい」
「アルも」
「はい」
「全部」
リリスが。
腕を。
少し広げそうになる。
レオナルド先輩。
ミラ。
俺。
正門。
人。
「今、全員はいません」
「はい」
「物理的にも無理です」
「はい」
「それに」
「はい」
「聞かずに抱きしめない」
「はい」
リリスは。
腕を戻す。
「分かっています」
「はい」
「でも」
「はい」
「幸せがいっぱいで」
「はい」
「大切な方が増えて」
「はい」
「全部、近くへ置きたくなりました」
胸が。
痛くて。
温かい。
リリス。
距離が近い。
最初。
誰かを失うのが怖くて。
抱える。
掴む。
離さない。
今。
友人が。
家族が。
俺が。
大切。
だから。
全部を抱きしめたい。
でも。
全部を、自分の腕の中だけへ入れなくても。
関係はある。
「リリス」
「はい」
「抱きしめなくても」
「はい」
「大切にできます」
「はい」
「離れていても」
「はい」
「友人です」
「はい」
「家族です」
「はい」
「俺も」
一拍。
「はい」
「リリスの」
言葉。
何。
婚約者。
友人。
隣。
「大切な人です」
言った。
リリスの目が。
大きくなる。
涙が。
一気に。
「アル」
「はい」
「もう一度」
「はい」
「俺は」
「はい」
「リリスの大切な人でいたいです」
強い。
俺自身へも。
選ぶ。
リリスの涙。
止まらない。
「私も」
「はい」
「アルの」
「はい」
「大切な人でいたいです」
「はい」
短い沈黙。
正門。
夕方。
レオナルド先輩は。
何も言わない。
ミラも。
皆。
待つ。
「リリス」
「はい」
「今」
「はい」
「抱きしめたいですか?」
リリスが。
驚く。
「はい」
正直。
「俺を?」
「はい」
「友人全員の代わりではなく?」
「はい」
「今、アルを」
胸。
鳴る。
周囲。
公的。
正門。
家族の視界。
婚約者。
抱擁。
長く。
強く。
ではなく。
「少しだけなら」
言った。
リリスの目が。
さらに大きくなる。
「本当に?」
「一度だけ聞く」
「はい」
「今」
「はい」
「俺からも」
リリスが。
息を止める。
「近づきます」
最終話ではない。
だが。
今。
この時。
必要。
俺は。
一歩。
リリスも。
一歩。
近い。
いつもの半歩より。
さらに。
リリスが。
腕を。
すぐ回さない。
「触れても?」
「はい」
俺も。
両腕を。
彼女の肩へ。
軽く。
リリスの腕が。
俺の背へ。
強くしすぎない。
抱きしめる。
一瞬。
春の風。
制服。
花箱。
正門。
人。
でも。
音が。
少し遠い。
リリスの肩。
温かい。
俺の心臓。
うるさい。
リリスも。
泣いている。
「アル」
「はい」
「近いです」
「はい」
「嫌ですか?」
「嫌ではありません」
「はい」
「でも」
「はい」
「そろそろ離れます」
「はい」
自分たちで。
腕を緩める。
離れる。
一歩。
戻る。
終わった。
抱擁。
一回。
リリスが。
泣きながら。
笑っている。
「抱きしめました」
「はい」
「一生分?」
「一回分です」
「はい」
「でも」
「はい」
「一生覚えています」
「それは自由です」
「はい」
レオナルド先輩が。
静かに息を吐く。
「終わったか」
「はい」
俺。
顔が。
かなり熱い。
「お兄様」
「何だ」
「怒りませんか?」
「聞いた」
「はい」
「互いに」
「はい」
「短い」
「はい」
「公の場で許される範囲だ」
「はい」
「父上には?」
全員。
黙る。
ガロウ公爵。
抱擁。
娘。
婚約者。
「話します」
リリスが言う。
強い。
「自分で?」
「はい」
「どこまで?」
「アルと」
少し赤くなる。
「一度だけ」
「はい」
「抱きしめたと」
「はい」
「父上は」
「倒れますか?」
「たぶん」
「お母様が」
「札を用意している」
「何と?」
レオナルド先輩。
小さな札束を確認。
「『抱擁一回は結婚式一回ではない』」
「必要です!!」
「『短い抱擁を長い未来へ直結させない』」
「はい」
「『アルフレッド殿を騎士団へ連行しない』」
「なぜ俺が!?」
「父上用」
「必要です!!」
リリスが。
泣きながら。
大きく笑う。
正門前の生徒たちも。
何人か。
笑う。
温かい。
「アル」
「はい」
「また明日」
「はい」
「今日の抱擁は」
「はい」
「今日のものです」
「はい」
「明日も求めません」
「はい」
「でも」
「はい」
「また」
リリスが。
少しだけ。
照れながら。
「抱きしめてよい日が」
「はい」
「来ますか?」
最終話へ。
未来。
俺は。
逃げない。
「はい」
「その時に」
「はい」
「互いに聞きましょう」
「はい」
「俺からも」
リリスの涙。
「取っておきます」
「はい」
「また明日、アル」
「また明日、リリス」
馬車へ。
花箱。
レオナルド先輩。
ミラ。
リリスが。
乗る。
一度。
振り返る。
今日は。
いつもより。
顔が赤い。
俺も。
たぶん。
同じ。
馬車が動く。
遠ざかる。
俺は。
見送る。
だが。
見えなくなるまで。
立ち続けない。
俺の馬車へ。
ライズ。
待っている。
「若様」
「何だ」
「本日の記録について」
「見ていたのか」
「従者でございますので」
「どこから」
「適切な距離から」
「はい」
「抱擁」
「はい」
「何秒?」
「数えないでください」
「承知いたしました」
「ハンカチは?」
「今は聞きません」
「進歩でございます」
馬車へ。
屋敷。
夕食。
父上。
母上。
茶会。
話す。
青い薔薇。
席。
友人。
クラリス嬢。
ニールの書状。
全部。
一つずつ。
「楽しかった?」
母上。
「はい」
「リリス様の隣へ?」
「途中で」
「最初は?」
「ニール」
「よい時間だった?」
「はい」
「リリス様は?」
「クラリス嬢と」
「よかったわね」
「はい」
父上が。
俺を見る。
「ほかは?」
抱擁。
話す?
家族。
困ったことではない。
大切なこと。
でも。
今。
俺たちだけのもの?
リリスは。
父へ話す。
俺も。
「放課後」
「はい」
「リリスと」
一拍。
「短く、抱きしめました」
母上の手が。
止まる。
父上の眉が。
少し。
上がる。
沈黙。
食堂。
食器。
ライズ。
リーマス。
全員。
止まる。
「聞いたのか」
父上。
「はい」
「互いに?」
「はい」
「公の場?」
「正門。レオナルド先輩とミラの視界内」
「短く?」
「はい」
父上。
長く。
俺を見る。
それから。
頷く。
「よい」
「はい」
母上は。
目元が。
かなり潤んでいる。
「アルからも?」
「近づきました」
母上。
ハンカチ。
「強いです」
「必要なので」
リーマスは。
食堂の端で。
完全に泣いている。
「若様が」
「振り返りは後です」
「はい」
「まだ最終話ではありません」
なぜ。
心の中で。
言っている。
ライズは。
記録。
「若様」
「何だ」
「ガロウ公爵閣下側の反応が」
「もう?」
「先ほど書状が」
早い。
フルーラ家。
いつもの三通。
いや。
今日は四通。
一通目。
『アルフレッド殿。リリスから聞いた。一度だけ、互いに聞き、短く抱きしめたと。父は倒れていない。倒れかけただけだ。セレスティアの札を十四枚使った。「抱擁一回は結婚式一回ではない」「短い抱擁を長い未来へ直結させない」「アルフレッド殿を騎士団へ連行しない」「娘の幸せな顔を見てから判断する」ほかだ。リリスは幸せそうだった。それでよい。たぶん。父はまだ胸が痛い。 ガロウ』
二通目。
『茶会は無事終了。妹は友人全員と過ごし、席を変え、青い薔薇を中央へ置いた。放課後の抱擁についても確認した。互いの同意、短時間、公の場、問題なし。父上は大きな問題あり。母上が対応中。君も、今日の一回を明日の義務にするな。だが、次に互いが望む時まで否定する必要もない。 レオナルド』
三通目。
『アルフレッド様。本日は、リリスと友人の皆さまとのお茶会を大切に過ごしてくださり、ありがとうございました。青い薔薇は現在、屋敷の食堂へ飾られております。リリスは、花が終わった後、花弁を皆さまへ一枚ずつ押し花にしたいと申しております。また、放課後のことも本人より聞きました。互いに言葉を交わし、短く抱きしめたこと。そして、離れる時も自分たちで決められたことを、嬉しく思っております。夫は札を十四枚使用しましたが、アルフレッド様を騎士団へ連行しておりません。継続が大切です。 セレスティア』
四通目。
リリス本人。
『アル。今日は、ありがとうございました。
青い薔薇を皆さまの真ん中へ置いても、私の大切な花でなくなることはありませんでした。
クラリス様のお隣も、エレナ様のお隣も、アルのお隣も、すべて嬉しかったです。
大切な方が増えるほど、全部を近くへ置きたくなりました。
でも、抱きしめなくても、離れていても、大切にできると教えていただきました。
それでも。
今日、アルを抱きしめられたことは、とても幸せでした。
一回分の宝物にします。
次を急ぎません。
でも。
また互いに望む日が来たら、聞いてください。
私も聞きます。
明日、いつもの正門でお会いできることを楽しみにしております。
リリス』
俺は。
四通目を。
何度も。
読む。
一回分の宝物。
次を急がない。
でも。
また。
未来。
「若様」
ライズ。
「何だ」
「本日のハンカチ使用数は」
「聞く」
「アマリリス様十六枚」
「予定より多い」
「青い薔薇共有涙」
「はい」
「クラリス様の『私たちの今日』発言涙」
「はい」
「押し花分配涙」
「はい」
「抱擁」
「はい」
「若様は?」
「三枚?」
「四枚でございます」
「多い」
「友人茶会で一枚」
「はい」
「クラリス様のお言葉で一枚」
「はい」
「抱擁後に一枚」
「はい」
「アマリリス様の書状で一枚」
「今?」
「はい」
「公爵は?」
「四十一枚」
「茶会へいないのに」
「茶会報告涙」
「はい」
「青い薔薇押し花涙」
「はい」
「抱擁衝撃涙」
「はい」
「抱擁受容涙」
「はい」
「騎士団へ連行しなかった自己抑制涙」
「自分でも泣いたんですか」
「左様でございます」
「札は?」
「十四枚」
「書状通り」
「はい」
「明日は?」
ライズが。
少しだけ。
静かになる。
「通常授業」
「はい」
「そして」
「はい」
「フルーラ公爵家温室への、両家家族による夕食会が予定されております」
明日。
最終話。
温室。
青い薔薇。
二つの家族。
リリス。
俺。
物語が始まった場所。
最後。
幸せ。
「準備は?」
「両家で整っております」
「公爵は?」
「札を二十枚」
「また増えた」
「明日は」
ライズが。
少しだけ微笑む。
「大切な日になる可能性がございますので」
胸。
鳴る。
だが。
未来へ走らない。
明日は明日。
今日は。
友人とのお茶会。
青い薔薇。
抱擁。
一回分。
それを。
持ち帰る。
俺は。
窓の外を見る。
夜。
フルーラ家では。
青い薔薇が。
食堂に飾られている。
今は。
まだ咲いている。
花弁を分ける日は。
後。
明日。
温室。
二つの家族。
そして。
俺たち。
俺は。
深く息を吸う。
そして。
今日も。
心の底から叫んだ。
公爵令嬢様!!
幸せを友人の皆さまと分けても、あなたの大切なものは何一つ減りませんでした!!
青い薔薇も、友人との時間も、俺との時間も、それぞれ別の宝物です!!
そして――
今日、あなたを抱きしめられた一回分の時間を、俺も大切に持ち帰ります!!
明日。
青い薔薇の温室で。
家族みんなと。
また新しい幸せを見つけましょう!!
あと、お父様!!
『アルフレッド殿を騎士団へ連行しない』の札を十四回読んだことは分かりましたが!!
連行しなかっただけで!!
自己抑制の感動涙を!!
十二枚も使わないでください!!
俺は!!
何も!!
罪を犯していません!!




