第78話 公爵令嬢様、次の幸せを決めただけで昨日の夜会が終わっていない気になります
皆さん、こんにちは!!
アルフレッド・シェルザートです。
王城の春の親睦夜会から、二日。
夜会は。
終わっている。
これは、もう何度も確認した。
王城の大広間には、今も灯りがともっているかもしれない。
だが、それは昨日の夜会のための灯りではない。
楽団も。
王族も。
招待客も。
深い青のドレスも。
濃紺の礼装も。
第一舞踏も。
庭園の見える回廊も。
今は、そこにない。
俺は制服を着ている。
リリスも制服。
王城ではなく学園。
大広間ではなく教室。
足元も、夜会用の靴ではない。
それでも。
昨夜まで。
いや。
一昨日の夜までのことが。
まだ、すぐ近くにある。
ふとした瞬間。
王城の灯り。
深い青。
手袋越しの指先。
拍手。
回廊の窓。
夜の庭。
思い出す。
だが。
昨日。
ベイル先生が言った。
経験を、一晩で完成した思い出にしなくてよい。
話すたび。
時間が経つたび。
意味が変わることもある。
嬉しかったことが、後からもっと嬉しくなる。
怖かったことが、後になって胸へ残る。
そのどちらも。
急いで、綺麗に整えない。
だから。
今日も。
夜会の続きがある。
だが。
今日の中心は。
王城ではない。
次の幸せ。
学園の庭でのお茶会。
クラリス嬢が提案してくれた。
王城ほど特別ではない。
制服。
学園。
昼間。
家族ではなく。
友人。
深い青のドレスもない。
第一舞踏もない。
王妃殿下もいない。
ガロウ公爵の札も。
たぶん。
ない。
……いや。
学園の庭で、リリスと俺が友人たちとお茶を飲むと聞けば。
公爵は何か作るかもしれない。
『学園の茶会は婚約披露宴ではない』
あり得る。
かなり。
だが。
それはまだ。
今日の話ではない。
今日は。
日程を決める。
ただ、それだけ。
ただ。
日程を決めるだけなのに。
リリスは。
昨日の放課後から。
かなり楽しみにしている。
そして俺も。
少し。
いや。
かなり楽しみだ。
夜会のような大きな行事ではない。
でも。
友人たちと。
学園の庭で。
菓子。
茶。
話。
王城の思い出。
それだけ。
それが。
今の俺には。
とても大切に思える。
朝。
食堂。
父上と母上は、いつものように朝食を取っている。
夜会の疲れも。
昨日よりは抜けたように見える。
俺も。
体は軽い。
足。
問題なし。
睡眠。
途中で起きなかった。
時計も見なかった。
朝食。
温かいスープ。
パン。
卵。
果物。
「おはようございます」
「おはよう、アル」
「おはよう」
席へ。
母上が俺を見る。
「眠れた?」
「はい」
「途中では?」
「起きませんでした」
「時計は?」
「見ていません」
「よろしい」
父上が新聞を一度下ろす。
「夜会の夢は?」
「見ていません」
「本当に?」
「覚えていません」
「それでよい」
「はい」
母上が微笑む。
「夢に見なくても、忘れたわけではないものね」
「はい」
昨日の俺なら。
夜会を夢に見なかったことへ。
少し不安になったかもしれない。
もう薄れている。
もう過去になっている。
そう思って。
だが。
今は。
夢に見なくても。
胸にある。
「今日は?」
父上が聞く。
「通常授業です」
「ほかに」
「学園の庭でのお茶会の日程を、友人たちと相談します」
「茶会?」
母上の表情が明るくなる。
「クラリス様が提案してくださいました」
「いつ頃?」
「今日、決めます」
「誰が参加するの?」
「俺、リリス、ユリウス、エレナ嬢、ニール、クラリス嬢」
「ご家族は?」
「友人だけの予定です」
父上が頷く。
「よい」
母上も。
「王城の夜会とは違う時間ね」
「はい」
「何を着るの?」
「制服です」
「本当に?」
「学園です」
「そうね」
母上が少し笑う。
「つい、次の特別な衣装を考えそうになったわ」
「増やさないでください」
「分かっているわ」
「公爵家へ伝わると」
「ええ」
父上が新聞の向こうで言う。
「ガロウが茶会用の庭園を造る」
「学園の庭です」
「持ち込もうとするかもしれん」
「止めてください」
「セレスティア夫人が止めるだろう」
「はい」
ライズが。
食堂の端から。
静かに口を開く。
「若様」
「何だ」
「すでにフルーラ公爵家より、茶会用の確認書が届いております」
早い。
「何が書いてある?」
「クラリス様発案の学園庭園茶会について」
「はい」
「参加者」
「はい」
「監督者」
「先生方です」
「はい」
「飲食物」
「学園側へ確認します」
「はい」
「お席の配置」
「まだ決めていません」
「はい」
「アルフレッド様とアマリリス様の着席距離」
「そこまで!?」
俺の声が食堂へ響く。
母上が笑う。
父上も。
「公爵から?」
「セレスティア様が途中で回収され」
「はい」
「確認書の最後に」
ライズが一枚の紙を開く。
「『友人のお茶会は婚約披露宴ではない』と追記されております」
やはり。
「札ではなく確認書」
「事前対応かと」
「公爵は?」
「茶会用の青い薔薇を三百輪」
「いりません!!」
「セレスティア様が一輪へ」
「それでも持ち込むんですか?」
「アマリリス様のお席へ、小さな花瓶を一つとの案で」
「学園側へ確認してください」
「承知いたしました」
母上が。
少しだけ真面目な声になる。
「アル」
「はい」
「友人のお茶会で」
「はい」
「リリス様だけを見続けない」
「はい」
「夜会後です」
「はい」
「お二人とも、互いを確認したくなるかもしれない」
「はい」
「でも」
「はい」
「友人の時間を、二人の振り返りだけにしない」
「はい」
それは。
大切。
クラリス嬢。
ユリウス。
エレナ嬢。
ニール。
皆。
夜会へ参加した者。
しなかった者。
それぞれ。
話したいことがある。
夜会の続きだけではなく。
今の話も。
「二人だけの話は?」
「別に時間を」
「はい」
「友人との時間は?」
「友人と」
「よろしい」
父上が言う。
「人と過ごす時」
「はい」
「そこにいる全員へ、少しずつ視線を配れ」
「はい」
「全員を平等に喜ばせようとする必要はない」
「はい」
「だが」
「はい」
「誰か一人だけが、ずっと外へ置かれていないかは見る」
「はい」
王城の夜会。
群衆。
知らない人。
家族。
友人。
学んだ。
今度は。
小さな茶会。
人数が少ない分。
一人の沈黙が。
大きく見えるかもしれない。
「今日のハンカチは?」
俺が聞く。
ライズが答える。
「十枚でございます」
「昨日の予告通り」
「通常授業および次回交流計画確認日」
「はい」
「想定涙は?」
「次の幸せを決められた未来継続涙」
「ありそう」
「夜会と日常の価値を比較しなかった別形幸福確認涙」
「はい」
「クラリス様が、参加できなかった夜会を嫉妬ではなく共有の喜びとして受け取られた友人信頼涙」
「強い」
「さらに」
「公爵」
「左様でございます」
「何をしますか」
「学園庭園茶会へ、家族席を追加しようとなさる可能性がございます」
「友人だけです!!」
「セレスティア様の札候補」
「はい」
「『友人の茶会に父親席はない』」
「必要」
「『木の陰から見守らない』」
「回廊の柱と同じです」
「『茶菓子を騎士団の毒味対象へしない』」
「王城ではありません!!」
「『青い薔薇を三百輪持ち込まない』」
「一輪でも確認が必要です」
「本日の心の札は」
「はい」
ライズは。
少し静かに。
「『次の幸せは、前の幸せを薄くしない』でございます」
胸。
温かい。
次。
学園の茶会。
それを楽しみにすることが。
夜会を忘れることにはならない。
夜会が大切だから。
次は小さく見える。
違う。
別。
どちらも。
「受け取る」
「よろしいかと」
学園へ向かう馬車。
窓の外。
春の朝。
少し風がある。
木々の葉が。
昨日より。
少しだけ濃い緑。
季節も。
進んでいる。
夜会の前。
ずっと同じ日に近づいていた。
夜会後。
今度は。
時間が前へ進んでいるのを。
少し強く感じる。
でも。
置いていかれているわけではない。
俺たちも。
一緒に進んでいる。
正門前。
リリス。
いる。
制服。
普段のブルーローズ。
今日は。
髪飾りの青が。
昨日より。
少しだけ明るく見える。
俺が。
夜会の青を知ったからかもしれない。
リリスが俺を見つける。
笑う。
今日は。
泣く前に。
笑顔。
一歩。
二歩。
三歩。
俺も。
「ご機嫌よう、リリス」
「ご機嫌よう、アル」
「足の状態を聞いても?」
「はい」
「痛みは?」
「ありません」
「違和感は?」
「ありません」
「疲れは?」
「昨日より軽いです」
「睡眠は?」
「一度だけ起きました」
「時計は?」
「見ませんでした」
「よかったです」
「評価では?」
「受け取りました」
リリスが笑う。
「アルは?」
「痛みなし。違和感なし。疲れもほぼありません」
「睡眠は?」
「途中で起きませんでした」
「夢は?」
「覚えていません」
リリスの表情が。
少しだけ止まる。
「夜会の夢を?」
「見たか分かりません」
「はい」
「でも、忘れていません」
先に。
伝える。
リリスの目が。
潤む。
「私も」
「はい」
「夢には見ませんでした」
「はい」
「でも」
「はい」
「今朝、髪飾りを選ぶ時」
「はい」
「青い薔薇を見て」
「はい」
「王女殿下のお言葉を思い出しました」
「はい」
「残っています」
「はい」
「夢を見なくても」
「はい」
「持っています」
涙。
一粒。
「受け取りました」
「はい」
「今日は」
俺が言う。
「はい」
「お茶会の日程を」
リリスの笑顔が。
一気に明るくなる。
「楽しみです」
「はい」
「いつがよいでしょう」
「皆で」
「はい」
「決めましょう」
「はい」
「リリス様だけで未来へ走らない」
「はい」
「俺も」
「はい」
「皆の予定」
「はい」
「天気」
「はい」
「学園側の許可」
「はい」
「青い薔薇三百輪」
「何ですか?」
リリスが止まる。
「公爵閣下が」
「お父様」
「セレスティア様が一輪へ」
「一輪でも?」
「学園側へ確認」
「はい」
リリスが。
顔を覆いそうになり。
止める。
「アル」
「はい」
「お父様は」
「はい」
「昨日、茶会の話を聞いてから」
「はい」
「庭師を呼びました」
「やはり」
「学園の庭へ植えられる青い薔薇を」
「植えません!!」
正門前。
俺のツッコミ。
周囲の生徒たちが。
振り返る。
笑い。
「お母様が」
「止めましたか」
「『学園の庭はフルーラ家領ではない』と」
「正しい」
「お父様は」
「はい」
「では、鉢植えならと」
「そういう問題ではありません!!」
リリスが。
泣きながら笑う。
「お父様らしいです」
「公爵閣下は参加しません」
「はい」
「友人の茶会です」
「はい」
「家族席はありません」
「聞いたのですか?」
「確認書に」
「お父様」
「はい」
「でも」
リリスが。
少しだけ。
柔らかく笑う。
「青い薔薇を、一輪だけ」
「はい」
「先生が許してくださったら」
「はい」
「皆さまのお席へ飾りたいです」
「皆の席?」
「はい」
「私の前ではなく」
「はい」
「真ん中に」
友人たち。
全員の間。
青い薔薇。
リリスだけの印ではない。
共有。
「良いと思います」
「本当に?」
「学園側が許可すれば」
「はい」
「それと」
「はい」
「クラリス様たちへ確認」
「はい」
「青い薔薇が主役ではない」
「はい」
「友人たちが」
「はい」
「主役でもありません」
「では?」
「皆で過ごす時間です」
リリスが。
少し考える。
そして。
「はい」
「時間が中心です」
「はい」
ユリウス。
エレナ嬢。
ニール。
クラリス嬢。
合流。
「おはよう」
「ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
ユリウスが。
俺たちの話を聞いたらしい。
「青い薔薇三百輪?」
「持ち込みません」
「ちょっと見たい」
「学園の庭が公爵家の温室になります」
「一日だけなら」
「片づけるのは誰ですか」
「騎士団?」
「騎士団を花係にしないでください」
エレナ嬢が。
リリスを見る。
「一輪なら、素敵だと思いますわ」
「はい」
「ただし」
「はい」
「皆で決めましょう」
「もちろんです」
ニールが。
「僕は、青い薔薇を近くで見たことがありません」
「本物を?」
「はい」
「温室へ?」
リリスが言いかける。
未来へ走る。
止まる。
「いつか」
「はい」
「ご家族や皆さまの予定が合えば」
「はい」
「フルーラ家の温室へも」
ニールの目が明るくなる。
「行ってよいのですか?」
「今は」
「はい」
「提案だけです」
「はい」
「お父様へ話す前に」
「はい」
「お母様へ」
「正しいです」
皆が笑う。
教室。
クラリス嬢は。
すでに。
小さな紙を持っていた。
「皆さま」
「はい」
「日程候補を」
机へ。
三日。
候補。
放課後。
昼休み。
休日。
「放課後がよいと思います」
クラリス嬢。
「授業後、庭園の東屋を」
「学園側へ?」
「先生へ仮相談しました」
「早いですね」
「楽しみでしたので」
リリスの目が潤む。
「クラリス様」
「はい」
「私も」
「はい」
「とても楽しみです」
クラリス嬢の目も。
少し。
潤む。
「よかったです」
「はい」
ベイル先生。
教室へ。
机の上の日程候補を見る。
「授業前に、茶会の計画ですか」
「はい」
「許可は?」
クラリス嬢が立つ。
「仮相談のみです」
「はい」
「東庭園の小東屋を、放課後に六名で使用したく」
「目的は?」
「友人との交流と、夜会後の短い振り返りです」
「飲食物は?」
「学園の食堂へ、菓子と茶をお願いする予定です」
「持ち込みは?」
リリスが。
少し手を上げる。
「青い薔薇を一輪」
「なぜ?」
「夜会で、自分で選べた花を」
「はい」
「友人の皆さまと見る机の中央へ、置きたいと思いました」
先生が。
すぐ答えない。
「三百輪では?」
先生が言う。
教室が。
一瞬静か。
次に。
大きな笑い。
「先生までご存じなのですか!?」
俺が聞く。
「フルーラ公爵家から、学園長へ問い合わせがありました」
「お父様!!」
リリスが顔を覆う。
「学園長からは」
「はい」
「庭園の植生計画を変更する予定はないと」
「当然です」
「鉢植え三百鉢も」
「はい」
「安全上、不可」
「はい」
「一輪であれば」
先生が。
少し微笑む。
「学園の花瓶を使用すること」
「はい」
「机の中央」
「はい」
「持ち帰りは」
「フルーラ家へ」
「よろしい」
リリスの目が。
潤む。
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい」
「茶会の目的を、青い薔薇を見る会へ変えないこと」
「はい」
「一輪は一輪」
「はい」
「夜会は夜会」
「はい」
「茶会は茶会」
「はい」
「友人は?」
「友人です」
「よろしい」
許可。
日程。
候補。
先生は授業前。
「本日の放課後に決定し、申請書を提出してください」
「はい」
「授業中は?」
「授業へ集中します」
「よろしい」
黒板。
通常授業。
算術。
夜会ではない。
茶会でもない。
今日。
問題。
数字。
俺は。
少しだけ。
次の幸せを思いながら。
授業へ戻る。
休み時間。
日程候補。
第一候補。
三日後の放課後。
天候。
春。
予報は。
学園の気象担当へ確認。
晴れの見込み。
第二候補。
五日後。
第三候補。
一週間後。
「三日後」
ユリウス。
「早い?」
「僕は大丈夫」
エレナ嬢。
「私は問題ありません」
ニール。
「姉へ確認が」
「参加はニール様だけです」
クラリス嬢。
「帰宅時間の確認を」
「はい」
「俺も」
家族へ。
リリスも。
「お父様へ」
全員が止まる。
「お母様へ先に」
俺が言う。
「はい」
「公爵へ先に伝えると」
「はい」
「茶会まで三日間、学園の庭を確認します」
「騎士団で」
「はい」
リリスが。
申し訳なさそう。
「すみません」
「リリス様の責任ではありません」
「はい」
「でも」
「はい」
「お母様へ」
「正しいです」
昼休み。
食堂。
今日は。
茶会の菓子を相談。
「王城と同じ菓子?」
ユリウス。
「同じは難しいです」
エレナ嬢。
「食堂の菓子で」
「何がありますか?」
クラリス嬢。
「小さな果実菓子」
「はい」
「焼き菓子」
「はい」
「塩味の包み」
「王城で美味しかったもの」
「学園でもあるのですか?」
「似たものなら」
「全部?」
「多すぎます」
俺。
「一人三つまで」
エレナ嬢。
「種類を?」
「はい」
「皆で選ぶ」
候補。
甘い。
塩味。
果物。
茶。
花茶。
薄い紅茶。
炭酸水。
「炭酸水」
ユリウス。
「茶会です」
「飲み物の一つとして」
「一種類だけ」
「二種類を飲み比べ」
「夜会で終わりました」
「次の幸せ」
「泡を幸せの中心にしないでください」
皆が笑う。
リリスも。
「でも」
「はい」
「炭酸水を一種類」
「よいと思います」
クラリス嬢。
「ユリウス様のお好きなものも」
ユリウスが。
少し驚く。
「僕の?」
「はい」
「皆さまが一つずつ、好きなものを」
「六種類になります」
「少量ずつ」
クラリス嬢が。
紙へ書く。
リリス。
花茶。
俺。
塩味の包み菓子。
ユリウス。
炭酸水。
エレナ嬢。
果物菓子。
ニール。
柔らかなパン菓子。
クラリス嬢。
焼き菓子。
全員分。
一つずつ。
「クラリス様」
リリスが呼ぶ。
「はい」
「ご自分の好きなものを」
「はい」
「きちんと入れてくださいました」
「はい」
「以前なら?」
クラリス嬢が。
少し考える。
「皆さまに合わせて」
「はい」
「自分の分は、なくてもよいと思ったかもしれません」
「はい」
「今は?」
「焼き菓子を食べたいです」
教室ではない。
食堂。
でも。
皆が。
少し拍手。
クラリス嬢の頬が。
赤くなる。
「大げさです」
「大切です」
リリス。
「褒められた後も?」
「昼食は続きます」
クラリス嬢が答える。
笑い。
食べる。
スープ。
パン。
肉。
野菜。
「アル」
「はい」
「食べられていますか?」
「はい。スープ、パン、肉」
「分かりました」
「リリスは?」
「スープ、パン、野菜」
「菓子は?」
「茶会で」
「三日後です」
「今日は果物を」
「分かりました」
夜会の習慣。
でも。
今は。
日常に。
馴染んでいる。
午後。
授業。
魔法基礎。
今日は。
複数人で。
小さな魔力球を一つずつ。
中央へ。
「互いの魔力を混ぜない」
教師。
「はい」
「近くへ置く」
「はい」
「同じ場所へあっても」
「はい」
「一つにしない」
「はい」
六人。
色。
違う。
俺。
リリス。
ユリウス。
エレナ嬢。
ニール。
クラリス嬢。
近く。
並ぶ。
混ざらない。
でも。
同じ輪。
「友人と過ごす時間も同じです」
教師が言う。
「はい」
「全員が同じ気持ちになる必要はありません」
「はい」
「楽しい者」
「はい」
「少し疲れる者」
「はい」
「話したい者」
「はい」
「聞いていたい者」
「はい」
「同じ茶会へいても」
「はい」
「それぞれ」
「はい」
「自分の色を保つ」
リリスの深い青。
俺の色。
隣。
でも。
混ざらない。
全員。
違う。
それで。
輪。
「よろしい」
教師が言う。
「では、今度は」
「はい」
「自分の魔力球を、半歩だけ動かしてみなさい」
半歩。
それぞれ。
自分で。
中央へ。
あるいは。
少し外へ。
クラリス嬢は。
最初。
外側。
だが。
自分で。
少し中央へ。
ニールは。
姉がいない。
でも。
自分で。
輪へ。
ユリウスは。
中央へ行きすぎそうになり。
エレナ嬢を見る。
止める。
半歩。
リリスは。
俺の隣へ寄せそうになる。
だが。
クラリス嬢の方へも。
少し。
全体の中央へ。
俺も。
リリスだけではなく。
輪の中へ。
六つ。
近い。
でも。
それぞれ。
「よろしい」
教師。
「友人の時間を」
「はい」
「誰か一人の関係だけで覆わないこと」
胸へ。
今日。
何度目。
茶会。
俺とリリス。
でも。
全員。
放課後。
申請書。
クラリス嬢。
代表。
「私が?」
「発案者です」
エレナ嬢。
「はい」
「でも」
「はい」
「皆で記入を」
「もちろんです」
名前。
目的。
日時。
場所。
飲食。
持ち込み。
『青い薔薇一輪』
特記事項。
『友人六名による小規模茶会。婚約披露宴ではない』
誰が。
書いた。
「先生」
俺が聞く。
ベイル先生が。
少し視線を逸らす。
「学園長から」
「公爵対策?」
「はい」
「必要です」
申請。
提出。
学園側。
確認。
許可。
「三日後の放課後」
「はい」
「東庭園小東屋」
「はい」
「終了は、日没前」
「はい」
「先生が定期確認」
「はい」
「家族の見学は?」
「不可」
リリスが。
少しだけ。
ほっとする。
そして。
少し寂しそう。
俺は。
その両方を見る。
「リリス様」
「はい」
「家族に見てほしいですか?」
「少し」
「はい」
「でも」
「はい」
「友人だけでも過ごしたいです」
「はい」
「両方です」
「はい」
「家族には」
「はい」
「帰ってから話せます」
「はい」
夜会と同じ。
見ていなくても。
話せる。
家族の幸せ。
別。
「では」
クラリス嬢が。
申請書の控えを持つ。
「三日後」
「はい」
「楽しみです」
全員。
頷く。
「楽しみです」
リリス。
「僕も」
ユリウス。
「はい」
エレナ嬢。
「緊張します」
ニール。
「でも楽しみです」
クラリス嬢。
俺。
「俺もです」
拍手は。
ない。
大きな行事ではない。
でも。
全員。
笑っている。
それで。
十分。
正門。
夕方。
レオナルド先輩。
いつもの場所。
「リリス」
「お兄様」
「足は?」
「問題ありません」
「アルフレッド」
「問題ありません」
「よい」
短い。
そして。
「茶会は?」
知っている。
「三日後です」
リリス。
「友人六名」
「はい」
「青い薔薇一輪」
「はい」
「父上は?」
「ご存じなのですか?」
「学園長への問い合わせを止めた」
「お兄様が?」
「母上と」
「ありがとうございます」
「父上は」
「はい」
「見学席を希望した」
「ありません」
俺。
「騎士団の警備も」
「学園の通常警備です」
「茶菓子の毒味」
「必要ありません」
「青い薔薇三百輪」
「一輪です」
全部。
予想通り。
「母上の札は?」
リリスが聞く。
レオナルド先輩が。
小さな束を出す。
「十二枚」
「茶会だけで?」
「ああ」
「主なものは?」
「『友人の茶会に父親席はない』」
「はい」
「『学園の木の陰に隠れない』」
「柱から木へ」
「『茶会終了まで馬車で待機しない』」
「待ちすぎです」
「『娘の菓子の量を遠隔確認しない』」
「どうやって?」
「ミラへ聞こうとした」
「ミラも茶会中は」
「必要な距離にいる」
「はい」
「『婚約者の隣席を父が決めない』」
リリスの顔が。
赤くなる。
「席は?」
レオナルド先輩が聞く。
「まだです」
「誰が決める」
「皆で」
俺。
「お前たちは隣か」
問い。
俺とリリス。
顔を見る。
夜会。
常に隣ではなかった。
茶会。
六人。
どうする。
「決めていません」
リリスが答える。
「アルの隣へ座りたい気持ちはあります」
正直。
「はい」
「でも」
「はい」
「クラリス様ともお話ししたいです」
「はい」
「エレナ様も」
「はい」
「皆さまと」
「はい」
「では?」
「当日」
「はい」
「皆で決めます」
レオナルド先輩が。
頷く。
「よい」
俺も。
同じ。
リリスの隣。
嬉しい。
だが。
茶会。
全員。
「兄上は?」
俺が聞く。
「何が」
「茶会」
「私は参加しない」
「友人と?」
「別の予定がある」
リリスの目が。
少し大きくなる。
「どなたと?」
「一度だけ」
「はい」
「先日の令嬢と」
「お二人で?」
「家族同席だ」
「楽しいですか?」
「まだ行っていない」
「楽しみですか?」
レオナルド先輩が。
黙る。
夕方。
風。
俺たち。
待つ。
「少し」
言った。
リリスの目が。
一気に潤む。
「お兄様」
「泣くな」
「嬉しいです」
「はい」
「お父様は?」
「同席を希望した」
「やはり」
「母上が、家族同席は両家の母親のみへ」
「お父様は?」
「別室」
「来るのですか」
「同じ屋敷に」
「見守り?」
「本人は、偶然の滞在だと」
「回廊の柱と同じです」
俺。
レオナルド先輩が。
少し笑う。
「母上の札」
「何と?」
「『息子の茶会も駆け落ちではない』」
「公爵閣下!!」
俺の声。
正門。
笑い。
リリスも。
泣きながら笑う。
家族。
次。
兄。
それぞれ。
未来。
「お兄様」
「何だ」
「楽しんでください」
「はい」
「私の茶会も」
「はい」
「楽しみます」
「よい」
正門。
馬車。
夕暮れ。
リリスと。
少しだけ。
二人。
「アル」
「はい」
「三日後」
「はい」
「楽しみです」
「はい」
「夜会より?」
一瞬。
比較。
リリスが。
自分で気づく。
「違いました」
「はい」
「夜会は夜会」
「はい」
「茶会は茶会」
「はい」
「どちらが上ではありません」
「はい」
「夜会を忘れたわけでも」
「はい」
「茶会が小さいわけでも」
「はい」
「別の幸せです」
「はい」
リリスの笑顔。
穏やか。
「今日の宝物名は」
「はい」
「次の幸せを、友人の皆さまと決められた日の宝物です」
「良い名前です」
「あと」
「はい」
「青い薔薇を、自分の前ではなく皆さまの真ん中へ置くと決めた日の宝物です」
「はい」
「あと」
「まだ?」
「お兄様にも、少し楽しみなご予定ができた日の宝物です」
「レオナルド先輩の宝物では?」
「家族の喜びです」
「はい」
「持ち帰ります」
「はい」
短い沈黙。
風。
校門。
「アル」
「はい」
「お茶会で」
「はい」
「隣に座れなくても」
「はい」
「嫌ではありませんか?」
「嫌ではありません」
「はい」
「少し寂しいかもしれません」
「私も」
「はい」
「でも」
「はい」
「同じ机です」
「はい」
「話せます」
「はい」
「途中で席を変えても」
「はい」
「いいかもしれません」
リリスの目が。
大きくなる。
「変えてよいのですか?」
「皆がよければ」
「はい」
「最初から最後まで固定しない」
「はい」
「隣も」
「はい」
「半歩も」
「はい」
「その時に」
「はい」
「選びます」
リリスの涙。
一粒。
「取っておきます」
「はい」
「でも」
「はい」
「一度は、アルの隣へ座りたいです」
正直。
俺の胸。
鳴る。
「俺も」
「はい」
「一度は」
「はい」
「リリスの隣へ」
完全に泣く。
「強いです」
「必要なので」
「はい」
「でも、茶会は」
「友人全員の時間です」
「はい」
「約束です」
「はい」
馬車へ。
「また明日、アル」
「また明日、リリス」
見送る。
今日も。
明日。
ある。
屋敷へ。
夕食。
茶会の話。
父上。
母上。
「三日後」
「はい」
「許可が出ました」
「よかったわ」
「青い薔薇は?」
「一輪」
「机の中央」
「はい」
「席は?」
「当日、皆で」
父上が頷く。
「よい」
「父上なら?」
「何が」
「母上の隣へ」
「座る」
即答。
母上が笑う。
「でも」
父上が続ける。
「友人の茶会なら」
「はい」
「全員と話せる位置を考える」
「はい」
「夫婦の茶会なら」
「はい」
「隣だ」
「父上」
「事実だ」
母上の目が。
少し潤む。
「褒められた後も?」
俺が言う。
「夕食は続く」
父上。
笑い。
家族。
今日。
その夜。
フルーラ家から。
三通。
一通目。
『三日後、学園庭園で友人の茶会がある。父親席はない。学園長へ確認した。ないと言われた。木の陰から見守ることも不可。青い薔薇三百輪も不可。一輪のみ許可。リリスは、その一輪を自分の前ではなく、友人たちの中央へ置くと言った。少し寂しい。しかし、よいと思う。父は参加しない。たぶん屋敷にいる。 ガロウ』
二通目。
『茶会の許可が出た。友人の時間を、妹と君の関係だけで覆うな。ただし、互いに隣へ座りたい気持ちを否定する必要もない。当日、皆で選べ。私にも数日後、騎士団関係者の令嬢との家族同席の茶会がある。父上は同席しない。別室にいる可能性は高い。 レオナルド』
三通目。
『アルフレッド様。リリスは、次のお茶会を心から楽しみにしております。夜会より上か下かではなく、別の幸せだと話すことができました。また、青い薔薇を自分の前ではなく、皆さまの中央へ置きたいと申しました。自分の大切なものを、独占するのではなく分かち合いたいと思えたようです。夫は友人茶会への参加を希望しましたが、家で待つこととなりました。木の陰へ隠れない旨も確認済みです。継続が大切です。 セレスティア』
俺は。
三通目を。
もう一度読む。
大切なものを。
独占するのではなく。
分かち合う。
青い薔薇。
リリスの象徴。
でも。
机の中央。
皆の間。
自分が消えるわけではない。
大切さが減るわけでもない。
分けても。
なくならない。
幸せと同じ。
「若様」
ライズ。
「何だ」
「本日のハンカチ使用数は」
「聞く」
「アマリリス様九枚」
「予定の十より少ない」
「はい」
「若様一枚」
「どこで?」
「放課後、茶会で一度は互いの隣へ座りたいと確認された際」
「見ていたのか」
「従者でございますので」
「公爵は?」
「二十四枚」
「なぜ」
「家族席がないと知った父親不参加涙」
「はい」
「青い薔薇三百輪から一輪へ縮小された縮小受容涙」
「はい」
「娘御が一輪を友人の中央へ置くと知った共有成長涙」
「はい」
「さらに」
「まだ?」
「レオナルド様にも茶会予定があると知った息子自立不安涙」
「公爵の涙は家族全体へ広がっていますね」
「左様でございます」
「札は?」
「十二枚中七枚使用」
「茶会前なのに」
「事前確認でございます」
「明日は?」
「通常授業」
「茶会準備?」
「食堂への最終注文」
「はい」
「花瓶の確認」
「はい」
「そして」
「何だ」
「フルーラ公爵閣下が、青い薔薇一輪を選ぶため、温室の花をすべて並べる予定とのことです」
「一輪を選ぶために全部!?」
「アマリリス様ご本人へ選んでいただくと」
リリスが。
自分で。
一輪。
また。
選ぶ。
今度は。
髪飾りではない。
皆の真ん中へ置く花。
「それなら」
「はい」
「公爵が選ばないなら」
「はい」
「良いと思う」
「承知いたしました」
窓の外。
夜。
王城の灯りではない。
屋敷の庭。
普通の夜。
三日後。
茶会。
まだ。
でも。
楽しみ。
夜会の幸せは。
薄れていない。
その隣へ。
次の幸せが。
置かれた。
混ざらない。
競わない。
別々に。
胸へ。
俺は。
深く息を吸う。
そして。
今日も。
心の底から叫んだ。
公爵令嬢様!!
次のお茶会を楽しみにしても、王城の夜会は少しも薄くなりません!!
深い青のドレスのあなたも、制服で友人たちと笑うあなたも、どちらも大切です!!
三日後は、青い薔薇を皆の真ん中へ置いて、友人全員で新しい幸せを見つけましょう!!
あと、お父様!!
友人の茶会に父親席はありません!!
学園の木は、柱より細いので!!
隠れても!!
今度こそ!!
全身が!!
見えます!!




