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『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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第62話 公爵令嬢様、褒められた後まで立っていられません



 皆さん、こんにちは!!


 アルフレッド・シェルザートです。


 昨日。


 俺とリリスは、初めて夜会用の仮縫い姿で向かい合った。


 深い青のドレスをまとったリリス。


 濃紺を基調とした礼装に、青の刺繍を入れた俺。


 まだ完成前。


 裾も。


 袖も。


 装飾も。


 歩幅も。


 戻る合図の位置も。


 何もかもが、少しずつ調整を残していた。


 それでも。


 大広間の中央で向かい合った瞬間、俺は言葉を失った。


 深い青が見えた。


 金の髪が見えた。


 碧い瞳が見えた。


 そして、その目が俺の言葉を待っていた。


 黙り続ければ、リリスを不安な場所へ置き去りにする。


 だから俺は戻った。


 深呼吸した。


 一拍置いた。


 そして伝えた。


「想像していたより、ずっと綺麗で」


「深い青が、本当に似合っています」


 言えた。


 リリスは泣いた。


 かなり泣いた。


 けれど、それで終わりではなかった。


 今度はリリスが俺を見る。


 濃紺。


 胸元の青。


 袖口。


 銀。


 そして俺の顔。


 リリスも、しばらく何も言えなかった。


 俺も不安になった。


 似合わないのか。


 青が強すぎたのか。


 濃紺が重いのか。


 だが、リリスも戻った。


「とても、素敵です」


「青がちゃんと見えます」


「逃げていません」


 強かった。


 ものすごく強かった。


 俺が父上や母上に何度も言われてきたこと。


 自分を下げすぎるな。


 礼装を地味にして隠れようとするな。


 リリスの隣で逃げるな。


 それを全部見たうえで、リリスは言ってくれた。


 逃げていません、と。


 そして最後には、ガロウ公爵からも言われた。


「その青で、リリスの隣に立ってくれ」


 ……思い返すだけで重い。


 嬉しい。


 ありがたい。


 怖い。


 いろいろな感情が一度に戻ってくる。


 昨夜、俺はなかなか眠れなかった。


 目を閉じると、深い青のリリスが浮かぶ。


 鏡の中に並んだ、濃紺と深い青。


 ダンスの姿勢。


 胸元の青へ触れる戻り合図。


 ハンカチを左手へ持ち替えるリリス。


 ガロウ公爵の涙。


 最後だけ少し違う。


 いや、同じ日の出来事ではある。


 朝。


 食堂へ入ると、父上はすでに新聞へ目を通していた。


 母上は、昨日の仮縫い確認で出た修正点を整理している。


 机の上には、紙が何枚も広げられていた。


『胸元の青、指一本分下へ』


『袖口の刺繍、少し控える』


『肩周り、踊りやすい余裕を残す』


『襟元の白、半幅減らす』


『銀糸は近くで見える程度』


 細かい。


 非常に細かい。


 だが、一つ一つに意味がある。


「おはようございます」


「おはよう、アルフレッド」


「おはよう、アル」


 母上が顔を上げた。


 俺を見て、少し笑う。


「眠れなかったでしょう?」


「なぜ分かるんですか」


「顔を見れば」


「皆、顔で判断しすぎでは?」


 父上が新聞を下ろす。


「深い青が残っている顔だな」


「どんな顔ですか」


「言葉を失った翌朝の顔だ」


「そんな分類はありません」


「昨日からできた」


 父上は楽しそうだ。


 俺は席へ座る。


 朝食が運ばれる。


 だが、食事へ手を伸ばす前に、母上から確認が入った。


「昨日の礼装、着てみてどうだった?」


「思ったより動きやすかったです」


「肩は?」


「ダンス姿勢の時に少し引かれました」


「仕立て師も気づいていたわ。調整するそうよ」


「裾は?」


「歩く分には問題ありません。ただ、段差があると少し気になりました」


「では、ほんの少し上げましょう」


 母上はすぐに書き込む。


 仮縫いは、見せ合うだけの日ではなかった。


 本当に、完成へ向けて直すための時間だった。


「胸元の青は?」


 母上が聞く。


「昨日より下げるんですよね」


「ええ。戻る合図として触れやすい位置へ」


「はい」


「青を減らしたいとは思わなかった?」


 試されている。


 俺は一拍置いた。


「思いませんでした」


「本当に?」


「はい」


 胸元の青。


 リリスは、それを見て言った。


 戻る合図だと思いました。


 本当にそこへ戻れる気がしました、と。


 それを減らしたいとは思わない。


「むしろ」


 俺は続けた。


「少し位置を直しても、ちゃんと見えるようにしたいです」


 母上の表情が柔らかくなった。


 父上も満足そうに頷く。


「よし」


「それだけですか」


「十分だ」


 父上は紅茶を飲む。


「昨日、ガロウ公爵に言われたことは?」


「その青で、リリスの隣に立ってくれ」


「どう受け取った」


 改めて聞かれると、言葉に詰まる。


 重かった。


 それだけでは足りない。


「認めていただけた気がしました」


「気がした?」


「……認めていただけたのだと思います」


「なら、そのように受け取れ」


「はい」


「ただし、完成したと思うな」


「模擬は模擬、本番は本番?」


「それもある」


 父上は少し表情を引き締める。


「公爵から言葉をもらったからといって、何をしても許されるわけではない。リリス嬢の隣に立つ責任が消えるわけでもない」


「はい」


「だが、責任があるからといって、怯え続ける必要もない」


「はい」


「半歩だ」


「そこもですか」


「そこもだ」


 認められたから浮かれすぎない。


 責任があるから縮こまりすぎない。


 たしかに半歩だ。


 ライズは今日も鞄を整えていた。


 昨日、予備を含めて大量のハンカチを用意していた彼は、今朝もいつも通り真顔である。


「若様、本日のハンカチは二十七枚でございます」


「昨日より増えた!?」


「仮縫い対面翌日でございますので」


「翌日の方が増えるのか?」


「余韻による涙が予想されます」


「余韻」


「はい。学園到着時の再会余韻涙、友人方から仮縫い姿について質問された際の照れ涙、若様が深い青を再度褒められた場合の再決壊涙、ガロウ公爵閣下の成長報告による感動涙でございます」


「昨日より多い理由になっていない」


「本日は、さらに最終礼法調整が予定されております」


「何をするんだ?」


「褒められた後も立っている練習でございます」


「……何だそれ」


 ライズは真剣だった。


「昨日の対面時、アマリリス様は若様から褒められた後、大きく感情を動かされました」


「はい」


「若様も、アマリリス様から『逃げていません』と言われた後、目元が危険でございました」


「見ていたのか」


「従者でございますので」


「そうだった」


「王城本番では、装いについて褒められる可能性が高くございます」


「リリスは特に」


「はい。深い青のドレス、公爵令嬢としての装い、若様との統一感。複数回のお声がけが予想されます」


「そのたびに泣いていたら夜会が進まない」


「その通りでございます」


「だから、褒められた後も立つ練習?」


「はい」


 必要だ。


 想像以上に必要だ。


 リリスが王城の広間へ入る。


 誰かが言う。


「まあ、素敵な深い青ですこと」


 泣く。


「お二人の装い、とてもよく合っていますね」


 泣く。


「ご婚約者同士らしい、よい色合わせです」


 崩れる。


 駄目だ。


 本番が進まない。


「若様」


「何だ」


「本日の心の札は、『褒められた後も夜会は続く』でございます」


「先生が言いそうだな」


「本日の授業内容として予測しております」


「かなり高確率だな」


「はい」


 俺は受け取った。


 褒められた後も夜会は続く。


 再合流後も夜会は続く。


 泣いた後も夜会は続く。


 大変だ。


 学園へ向かう馬車の中。


 俺は、昨日のリリスを思い出さないようにした。


 無理だった。


 深い青。


 金の髪。


 碧い瞳。


 また浮かぶ。


 俺は窓の外を見る。


 朝の街。


 いつも通りの道。


 深呼吸。


 今日は制服姿のリリスに会う。


 昨日の仮縫い姿ではない。


 でも、もう知ってしまった。


 制服の下ではない。


 いや、言い方がおかしい。


 制服姿を見ても、その先の夜会姿を想像できるようになってしまった。


 危険だ。


 非常に危険だ。


 正門前。


 リリスはいつもの場所にいた。


 制服姿。


 ブルーローズの髪飾り。


 当たり前だ。


 当たり前なのに、俺の目には昨日の深い青が重なった。


 リリスも同じようだった。


 俺を見つける。


 顔が赤くなる。


 目が潤む。


 歩き出す。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 途中で止まる。


 俺も止まった。


 まだ距離がある。


 互いに昨日を思い出している。


 登校する生徒たちが、俺たちの間を通り抜ける。


 一人。


 二人。


 何人も。


 俺とリリスは、少し離れたまま見つめ合っていた。


 何をしているのだろう。


 いや、本当に。


 先に戻ったのはリリスだった。


 深呼吸。


 そして歩いてくる。


「アル、ご機嫌よう」


「ご機嫌よう、リリス」


「今日も走りませんでした」


「はい。かなり手前で止まりましたけど」


「アルの制服を見たら」


「はい」


「昨日の礼装を思い出してしまいました」


「俺もです」


 リリスの目が潤む。


「深い青を?」


「はい」


「……小声版です」


「朝一回目ですね」


「家で一回泣きました」


「では二回目」


「はい」


 俺はハンカチを渡した。


 リリスは目元へ当てる。


「アル」


「はい」


「昨日、本当に綺麗と言ってくださったのですよね」


「はい」


「夢ではありませんか?」


「夢ではありません」


「言葉を失うほど?」


「はい」


「……強いです」


「聞いたのはリリスです」


「はい。でも強いです」


 涙が増える。


 俺は少し困った。


 昨日より強くなっていないか?


 仮縫い姿を見ていない今の方が泣いている。


 余韻涙。


 ライズの予測が当たった。


「リリス」


「はい」


「褒められた後も夜会は続くそうです」


 リリスがハンカチから顔を上げた。


「何ですか?」


「今日の課題になるかもしれません」


「褒められた後も、夜会は続く」


「はい」


「……厳しいです」


「でも必要です」


「はい」


 リリスは深呼吸した。


 涙を拭く。


 戻る。


「昨日のアルも」


「はい?」


「私が素敵だと言った後、少し泣きそうでした」


「見ていたんですか」


「はい」


「お互い様ですね」


「はい」


「では、二人とも練習です」


「一緒です」


「はい」


 また目が潤む。


「一緒で泣かないでください」


「難しいです」


 ミラが後ろで静かに言った。


「本日二回目、発生。三回目、接近中でございます」


「接近中を止めましょう」


「お嬢様、深呼吸を」


「はい」


 リリスが素直に深呼吸する。


 ミラの管理能力も上がっている。


 教室へ向かう途中。


 ユリウスとエレナ嬢が合流した。


 二人とも、俺たちの顔を見た瞬間に笑った。


 いや、エレナ嬢は微笑んだ。


 ユリウスは普通に笑った。


「おはよう。顔が仮縫い翌日」


「その分類、昨日から気に入っていますね」


「分かりやすいから」


 エレナ嬢はリリスへ近づく。


「アマリリス様、いかがでした?」


「はい」


 リリスの顔が真っ赤になる。


「アルが」


「はい」


「言葉を失ってくださいました」


 表現がおかしい。


 言葉を失うことを喜ぶな。


 エレナ嬢は意味を理解したらしい。


「まあ」


 嬉しそうに目を細める。


「それから、深い青が本当に似合うと」


「ええ」


「綺麗だと」


「ええ」


「何度も」


「ええ」


 リリスの涙がまた溜まる。


「エレナ様、聞き上手すぎます」


「申し訳ありません。でも、嬉しかったのですね」


「はい」


 ユリウスが俺を見る。


「アルフレッドは?」


「俺も褒めてもらいました」


「何て?」


「言わなくていいです」


 リリスがすぐに言った。


「濃紺が落ち着いているけれど、青がきちんと見えて、逃げていないと」


 全部言った。


 ユリウスが一瞬黙る。


「それは強いね」


「はい」


「泣いた?」


「泣いていません」


 俺は答える。


 エレナ嬢が静かに俺を見る。


「本当に?」


「少し危なかったです」


「正直でよろしいですわ」


「先生みたいに言わないでください」


 ユリウスは楽しそうに笑う。


「で、二人とも今日の授業は大丈夫?」


「何がですか」


「褒められた後も立つ練習」


「知っているんですか?」


「昨日の模擬夜会と仮縫いの流れなら、たぶん次はそこかなって」


 ユリウス。


 意外と鋭い。


 いや、前から観察は得意だった。


 エレナ嬢も頷いた。


「夜会本番では、装いを褒められる場面が多いでしょうから」


「はい」


 リリスが真剣に答える。


「特にお二人は、色を合わせていらっしゃいますもの」


 リリスの目が潤む。


「今です」


 俺が言う。


「今、耐える練習です」


「はい」


 リリスは深呼吸する。


 一拍。


「ありがとうございます。装いにも半歩を大切に選びました」


 言えた。


 エレナ嬢が拍手する。


「とてもよろしいですわ」


 また目が潤む。


「二段目が来ました」


「褒め返しにも耐えてください」


「はい」


 朝から実戦的である。


 教室に入る。


 昨日まで、模擬夜会と装いの話題で浮ついていた教室は、今日も同じだった。


 むしろ、仮縫いを終えた生徒が増えたせいで、さらに賑やかだ。


「あの色に決まった?」


「袖、変えたんだって」


「家紋はどこに入れるの?」


「靴がまだ合わない」


「昨日、母が全部やり直すって」


 夜会は、もう遠い予定ではない。


 皆の服が形になり始めている。


 ニールが俺たちへ駆け寄ってきた。


 走ってはいない。


 早歩きだ。


「シェルザート君、アマリリス様」


「おはようございます」


「おはようございます」


「昨日、仮縫い対面だったんですよね」


「なぜ知っているんですか」


「ユリウス様が」


 俺はユリウスを見る。


 本人は遠くで明後日の方向を向いている。


「どうでした?」


 ニールが純粋な目で聞いてくる。


 悪意がない。


 だから余計に答えに困る。


 リリスが一拍置いた。


「とても、大切な時間でした」


「大切な」


「はい。完成前だからこそ、直す場所も分かりました」


「なるほど」


「それから」


 リリスの頬が赤くなる。


「アル……シェルザート様の礼装が、とても素敵でした」


 言った。


 教室の近くにいた生徒たちが、少しこちらを見る。


 俺の顔も熱くなる。


 ニールは嬉しそうに笑った。


「よかったですね、シェルザート君」


「ありがとうございます」


「アマリリス様のドレスは?」


 今度は俺。


 一拍。


「深い青が、本当に似合っていました」


 リリスの目が潤む。


「完成前でしたが、完成した姿が楽しみになるほど綺麗でした」


 さらに強くしてしまった。


 リリスが口元を押さえる。


「アル」


「褒められた後も立ってください」


「今、褒めたのはアルです」


「はい」


「強いです」


「でも立つ」


「はい」


 リリスは深呼吸。


 耐えた。


 教室の何人かが、温かい拍手を送る。


 リリスの涙が一粒落ちた。


 立ってはいる。


 成功……なのか?


 クラリス嬢も近づいてきた。


「アマリリス様、深い青、本当に楽しみです」


「ありがとうございます」


「シェルザート様の青とも、よく合っていたのですよね」


「はい」


「離れて見ても、関係が伝わったと」


「なぜそこまで?」


「エレナ様から」


 情報が広い。


 リリスは一拍置いた。


「ありがとうございます。同じ色ではありませんが、隣に立った時に自然に見えるよう、整えております」


 言えた。


 きれいな返答だ。


 先生がいなくても、もう練習が始まっている。


 一時間目。


 礼法。


 ベイル先生は教室へ入り、全員が席へ着くのを待った。


 教室のざわめきが少しずつ収まる。


 先生は黒板へ向かう。


 白い文字で、ゆっくりと書いた。


『褒められた後の礼』


 やはり。


 ライズもユリウスも正解だった。


「本日は、装いや所作を褒められた後の対応を練習します」


 先生は教室を見渡す。


「褒め言葉へ返答する練習は、すでに行いました」


 言葉にも半歩。


 一拍置く。


 否定しすぎず受け取る。


 それは学んだ。


「しかし、本番では、返答した後も場は続きます」


 先生は黒板へ書き足す。


『受け取る』


『戻る』


『次へ進む』


「褒められたことに感情を動かされ、会話が止まる。泣き続ける。相手に何度も確認する。これでは次の流れへ進めません」


 リリスの背筋が伸びた。


 完全に自分の話だと分かっている。


「喜ぶことは悪くありません」


 先生は続ける。


「涙が出ることもあります。しかし、相手へ感謝を伝えたら、次の会話へ戻ること」


 先生は一拍置いた。


「褒められた後も、夜会は続きます」


 来た。


 正式採用。


 俺はライズの顔を思い出した。


 彼は学園にいない。


 だが、当たった。


「また、婚約者を褒められた時、自分のこと以上に感情を動かす者もいます」


 リリスがぴくっと反応する。


 俺もだ。


「相手が褒められて嬉しい。誇らしい。場合によっては照れる。これらも自然です」


 先生の視線が俺たちへ向く。


「ですが、本人より先に泣かないこと」


「はい」


 リリスが小さく答えた。


 教室に温かい笑いが起きる。


 先生は笑わない。


「アマリリスさん」


「はい」


「昨日、シェルザートさんの礼装をご覧になったそうですね」


 また教室中の視線。


「はい」


「どのように感じましたか?」


 リリスは一拍置いた。


 今朝も話した。


 教室でも話した。


 それでも、また顔が赤くなる。


「濃紺が落ち着いていて、青がきちんと見えました」


「はい」


「シェルザート様が、私の隣に立つことから逃げずにいてくださる装いだと感じました」


 強い。


 何度聞いても強い。


 先生が頷く。


「よろしい。では、私がシェルザートさんを褒めます」


「はい」


「シェルザートさんの礼装は、アマリリスさんの深い青を支えながら、ご本人の誠実さも表す良い装いですね」


 リリスの目に涙が溜まる。


「一拍」


 先生が言う。


「はい」


 リリスは深呼吸。


「ありがとうございます。私も、そのように感じました」


「はい。次へ」


 次へ。


 先生がすぐに続ける。


「胸元の青は、戻る合図にもなるそうですね」


「はい」


「どのような合図ですか?」


 会話が続く。


 リリスはまだ泣きそうだ。


 でも答える。


「私がハンカチを左手へ持ち替えた時、シェルザート様が胸元の青へ触れてくださいます」


「それで?」


「離れていても、戻る意思を確認できます」


「よろしい」


 先生が頷いた。


「今、褒め言葉の後も会話を続けられました」


「はい」


 リリスの涙が一粒落ちる。


「泣いていますね」


「はい」


「ですが立っています」


「はい」


「会話もできました」


「はい」


「それでよいです」


 リリスの表情が、少し緩んだ。


 泣かないことが目標ではない。


 泣いても、立つ。


 答える。


 続ける。


 次は俺。


「シェルザートさん」


「はい」


「アマリリスさんの深い青のドレスは?」


「とても似合っていました」


「具体的に」


「深い色ですが重く見えず、金の髪と碧い瞳がよく映えていました」


 リリスが真っ赤になる。


 先生は続ける。


「裾や袖は完成前だったのでしょう?」


「はい」


「それでも?」


「綺麗でした」


 リリスの涙が落ちる。


 教室が少しざわつく。


 先生は俺へ言った。


「では、アマリリスさんを褒めます」


「はい」


「深い青は、アマリリスさんの公爵令嬢としての落ち着きと、本人の柔らかさの両方を表す良い色ですね」


 俺の胸が熱くなる。


 本当にそう思う。


 嬉しい。


 誇らしい。


 危ない。


 一拍。


「ありがとうございます。俺も……私も、そのように思います」


 言い直す。


 教室が少し笑う。


 先生は続ける。


「袖口には、どのような修正が入りますか?」


 次へ。


 俺は答える。


「手首の薄い布を少し詰め、ハンカチを持ち替えた時に絡まないようにします」


「背中の装飾は?」


「ダンス時に手が触れる位置には置かない予定です」


 言った後で、顔が熱くなる。


 リリスも真っ赤だ。


 教室がざわつく。


 ユリウスの肩が震えている。


 先生の視線が飛ぶ。


「笑わない」


「はい」


 即答。


 俺は会話を続けられた。


 胸はまだ熱い。


 でも、立っている。


「よろしい」


 先生が言った。


「シェルザートさんも、婚約者を褒められた後、次の会話へ進めました」


「ありがとうございます」


 次は、ペアでの練習。


 第三者役が二人の装いを褒める。


 その後、別の話題へ移る。


 まず、ユリウスが前へ出た。


 楽しそうだ。


「シェルザート様、アマリリス様。お二人のお色合わせは、とても婚約者らしく見えますね」


 最初から強い。


 リリスの目が潤む。


 俺も少し照れる。


 一拍。


「ありがとうございます」


 俺が先に答える。


「同じ色に揃えすぎず、並んだ時に自然に見えるよう考えていただきました」


 リリスも続ける。


「完成前ではございますが、互いの歩幅や戻る合図も含めて調整しております」


 ユリウスが頷く。


「なるほど。では、夜会当日の移動は同じ馬車ですか?」


 次の話題。


 俺たちは一瞬、詰まった。


 まだ確認していない。


「両家で最終調整中です」


 俺が答える。


「王城まではそれぞれの家から向かい、入口付近で合流する可能性もあります」


 リリスも頷く。


「当日の動きについては、家族と確認してまいります」


 会話が進んだ。


 先生が頷く。


「よろしい。褒め言葉へ留まりすぎず、次へ進めています」


 次にエレナ嬢。


「アマリリス様の深い青、とても楽しみですわ。アルフレッド様の濃紺も、きっとよくお似合いでしょうね」


 リリスが一拍。


「ありがとうございます。私も完成を楽しみにしております」


 俺も。


「ありがとうございます。仮縫いで見つかった修正を整え、本番へ臨みたいと思います」


 エレナ嬢が続ける。


「第一舞踏は、お二人で?」


「はい」


 リリスが答える。


「最初の一曲は、シェルザート様と踊る予定です」


 強い。


 でも、次へ。


「その後は、別の方からのお誘いもあるかもしれませんわね」


「はい」


「嫉妬にも半歩を忘れないようにします」


 教室に笑いが起きた。


 リリスも少し笑う。


 泣きそうだった空気が、柔らかくなった。


 先生が言う。


「今のように、自分たちの学びを軽く言葉へ置けると、場も整います」


「はい」


 練習は続いた。


 ニールが褒める役になる。


 緊張しながら、


「お二人とも、すごく……その、貴族らしいです」


 と言った。


 少し曖昧。


 だが、真剣。


 俺とリリスは一拍置く。


「ありがとうございます」


 俺が答える。


「バートン様の礼装も、落ち着いた緑に決まりそうだと伺いました」


 話題を返す。


 ニールの顔が明るくなる。


「はい。母も最後に納得してくれました」


「よかったですね」


 リリスが言う。


「バートン様にとても似合うと思います」


 今度はニールが泣きそうになる。


「褒められた後も立ってください」


 俺が言う。


 教室全体が笑った。


 温かい笑い。


 ニールも笑う。


「はい。夜会は続きます」


 言葉が広がっている。


 休み時間。


 リリスは席へ座ると、深く息を吐いた。


「アル」


「はい」


「褒められた後も立てました」


「はい」


「泣きましたけど」


「はい」


「会話も続けられました」


「はい」


「少し、自信になりました」


「俺もです」


「アルも?」


「はい。先生にリリスの深い青を褒められた時、かなり危なかったです」


 リリスが嬉しそうに笑う。


「嬉しいです」


「そこで喜ぶんですね」


「はい」


「俺も、リリスが俺の礼装を褒められて泣きそうだったのは、少し嬉しかったです」


「一緒です」


「はい」


 リリスの目が潤む。


「褒められた後も」


「立つ」


「はい」


 深呼吸。


 耐えた。


 エレナ嬢が水を差し出す。


「今のも練習になりましたわね」


「はい」


 リリスは水を受け取る。


「水の橋です」


「久しぶりですね」


「今日も助かります」


 ユリウスが近づく。


「アマリリス様、昨日のガロウ公爵は本当に最後まで座ってたの?」


「はい」


 リリスが少し誇らしそうに答える。


「立たず、叫ばず、倒れずでした」


「すごい」


「泣いてはいました」


「そこは仕方ない」


「お母様も、大変な進歩だと」


 俺も頷く。


「自分で札を確認して戻っていました」


「ガロウ公爵も半歩してるんだね」


「はい」


 リリスの表情が柔らかくなる。


「お父様も、学んでくださっています」


 その言葉に、少しだけ沈黙が落ちた。


 最初は、娘を思うあまり走り、崩れ、泣いていたガロウ公爵。


 今も泣いている。


 かなり泣いている。


 だが、立たない。


 走らない。


 剣を抜かない。


 札を見て座る。


 少しずつ変わっている。


 半歩は、本当にリリスだけのものではなくなっていた。


 昼休み。


 食堂でも、今日の授業を受けて、皆が褒め言葉への返しを練習していた。


 少し奇妙な光景だった。


「その髪飾り、素敵です」


「ありがとうございます。母と選びました。そちらの靴も落ち着いていますね」


「ありがとうございます。歩きやすさを重視しました」


 あちこちで、一拍。


 受け取る。


 次へ。


 夜会練習が食堂全体へ広がっている。


 リリスはその様子を見て、少し目を潤ませた。


「皆さまが」


「はい」


「半歩を使っています」


「はい」


「褒められた後にも」


「はい」


「……小声版です」


「今は食事中です」


「耐えます」


 耐えた。


 パンを一口食べる。


 水を飲む。


 セレスティア夫人の教え。


 夜会準備の日ほど食べる。


 今日も守っている。


 エレナ嬢が言った。


「アマリリス様、本番の髪型は決まりましたの?」


「まだ最終ではありません」


「ブルーローズは?」


「入れる予定です」


「今の髪飾りを?」


「同じものではなく、夜会用に少し整えたものを」


 俺は思わず聞いた。


「大きく変わりますか?」


 リリスがこちらを見る。


「気になりますか?」


「はい」


 リリスの目が潤む。


「褒められる前から泣かないでください」


「気にしてくださるのが強いです」


「夜会は続きます」


「まだ始まっていません」


 ユリウスが吹き出す。


 エレナ嬢も笑っている。


 リリスは深呼吸して答えた。


「ブルーローズは残します。ただ、髪は少し上げる予定です」


「そうですか」


「似合うと思いますか?」


 まだ見ていない。


 でも、想像する。


 深い青。


 金の髪を少し上げる。


 ブルーローズ。


 危険だ。


 一拍。


「似合うと思います」


 リリスの涙が一粒落ちた。


「立っています」


「はい」


「会話も続けましょう」


「はい」


「装飾品は?」


「耳飾りは小さな銀。首元は、深い青を邪魔しないものを」


「楽しみです」


 また涙。


「アル、会話を続けながら強いです」


「練習です」


「はい」


 午後の魔法基礎。


 今日の課題は、褒められた後の魔力だった。


 もう何でも魔法に応用される。


 教師はリリスの前へ立ち、深い青の光を見た。


「アマリリスさん、昨日の仮縫い姿が大変美しかったと伺いました」


 リリスの魔力が一気に強くなる。


 光が膨らむ。


 教室が少し明るくなる。


「ありがとうございます」


 リリスが答える。


「止めません」


 教師が言う。


「はい」


「褒められて増えた光を、消す必要はありません」


「はい」


「ただし、広がりすぎないよう整える」


 リリスは深呼吸。


 光は消えない。


 だが、輪郭が戻る。


「次へ」


 教師が言う。


「袖口には銀を入れるのですか?」


「はい。少しだけ」


「では、その銀を光へ混ぜてみましょう」


「はい」


 深い青の中に、わずかな銀。


 綺麗だ。


 教室の生徒たちが見とれる。


 教師が頷く。


「よろしい。褒められた感情を、次の形へ使えました」


「ありがとうございます」


 リリスは受け取る。


 涙は一粒だけ。


 立っている。


 魔力も保っている。


 放課後。


 レオナルド先輩は、いつもの場所で待っていた。


 今日は表情が少し穏やかだ。


「リリス」


「お兄様」


「昨日の疲れは?」


「大丈夫です」


「泣いたか?」


「今日は現時点で」


 リリスがミラを見る。


「十二枚でございます」


「多いな」


「余韻日ですので」


「そうか」


 兄も納得するな。


 レオナルド先輩は俺を見る。


「アルフレッド」


「はい」


「昨日、父上の言葉を受け取ったか」


「はい」


「なら、忘れるな」


「はい」


「ただし、浮かれるな」


「父上と同じことを」


「必要だからな」


「はい」


 レオナルド先輩はリリスへ戻る。


「今日は何を学んだ」


「褒められた後も、夜会は続くことです」


「必要だな」


「はい」


「試す」


「今ですか?」


「今だ」


 レオナルド先輩は一拍置いた。


「昨日の深い青は、よく似合っていた」


 リリスの目に涙が溜まる。


「ありがとうございます」


「続きだ。袖口の調整は?」


「手首を少し詰め、ハンカチが絡まないようにします」


「髪は?」


「ブルーローズを残し、少し上げる予定です」


「よい」


 リリスの涙が一粒落ちる。


 しかし会話は続いた。


 レオナルド先輩が頷く。


「合格だ」


「試験だったのですか?」


「確認だ」


「強かったです」


「必要だ」


 今度は俺。


「アルフレッド」


「はい」


「昨日の濃紺と青は悪くなかった」


「ありがとうございます」


「胸元の位置は?」


「指一本分下げます」


「袖口は?」


「刺繍を少し控えます」


「肩は?」


「ダンス姿勢で引かれないよう余裕を持たせます」


「よい」


 褒められた後も、答えられた。


「君も合格だ」


「ありがとうございます」


 レオナルド先輩は少し口元を緩めた。


「父上にも今日の授業を伝えた」


「どうでした?」


「自分も練習すると言った」


「ガロウ公爵も?」


「ああ」


「何を褒められるんですか?」


「騎士団長としての礼装だ」


「なるほど」


「母上が『褒められても立たない』の札を出した」


「最初から座っている前提」


「父上には必要だ」


「成功しましたか?」


「母上が『騎士団長として威厳ある礼装ですね』と言った」


「はい」


「立ちかけた」


「嬉しくて?」


「分からない」


「泣きましたか?」


「泣いた」


「やはり」


「だが、座ったまま『ありがとう』と言えた」


「大きな進歩ですね」


「ああ」


 リリスが嬉しそうに笑う。


「お父様も、褒められた後まで立てたのですね」


「座っていた」


「そうでした」


 正門。


 夕方の光が、校門の石壁を柔らかく照らしていた。


 昨日は、ここで「また後で」と別れた。


 今日は、いつもの「また明日」に戻る。


 それが少し寂しく、少し安心する。


 特別な日が終わり、日常へ戻る。


 でも、昨日の深い青と濃紺は消えない。


「アル」


「はい」


「今日は、たくさん褒められました」


「はい」


「何度も泣きました」


「はい」


「でも、立っていられました」


「はい」


「会話も続けられました」


「はい」


「アルも」


「はい」


 リリスは微笑んだ。


「今日の宝物名は」


「はい」


「褒められた後も、夜会は続くと学んだ日の宝物です」


「良い名前です」


「あと」


「はい」


「昨日の深い青と濃紺を、皆さまに受け取っていただけた日の宝物です」


「……大切ですね」


「はい」


「リリス」


「はい」


「昨日の深い青は、今日思い出しても綺麗です」


 リリスの目から涙が落ちた。


「アル」


「立ってください」


「はい」


「会話も続けましょう」


「はい」


「今日、家へ帰ったら何をしますか?」


 一拍。


 リリスは泣きながら答えた。


「仮縫いの修正を、母と確認します」


「夕食は?」


「食べます」


「泣きすぎませんか?」


「努力します」


「夜は?」


「眠ります」


「よろしい」


 リリスが笑った。


「アルも続けています」


「練習です」


「ありがとうございます」


 俺はハンカチを渡す。


 リリスは目元を拭く。


「アル」


「はい」


「髪を上げた姿も、見てください」


「はい」


「完成後の深い青も」


「はい」


「本番も」


「見ます」


 リリスの涙が増えた。


「また強いです」


「でも、会話は続きます」


「はい」


「また明日、リリス」


「また明日、アル」


 馬車が遠ざかる。


 俺は見送りながら、昨日の深い青を思い出す。


 そして、今日の制服姿のリリスも思う。


 どちらもリリスだ。


 完成前のリリス。


 普段のリリス。


 公爵令嬢として立つリリス。


 泣きながら笑うリリス。


 全部。


 屋敷へ帰ると、父上と母上が待っていた。


 母上は、仕立て師から届いた新しい修正図を見ている。


「お帰りなさい、アル」


「ただいま戻りました」


「今日の授業は?」


「褒められた後も立つ練習でした」


 父上が笑う。


「お前たちに必要だな」


「はい」


「できたか?」


「少し」


「泣いたか?」


「リリスはかなり」


「お前は?」


「泣いていません」


 母上が俺を見る。


「目元は?」


「少し危ない時が」


「なら半分ね」


「何の数ですか」


「泣きかけ」


「数えなくていいです」


 父上は楽しそうに紅茶を飲む。


「ガロウも練習したらしいな」


「聞きました」


「褒められて立ちかけたそうだ」


「なぜ立つんでしょう」


「感情が足へ出る男なんだろう」


「騎士団長らしいのかもしれません」


「そうかもしれん」


 その夜。


 フルーラ家から、いつもの三通が届いた。


 一通目。


 ガロウ公爵。


『昨日の仮縫い対面を思い出した。泣いた。私が。だが今日は仕事中に立たなかった。騎士団長として褒められた。立ちかけた。セレスティアに「褒められても立たない」の札を出された。座ったまま、ありがとうと言えた。成長している。リリスも褒められた後まで立てたと聞いた。よくやった。泣いた。 ガロウ』


 二通目。


 レオナルド先輩。


『褒められた後も場を続ける練習は必要だ。リリスも君も、感情を動かしながら会話を続けられた。よい。本番では、一度の褒め言葉で夜会を終えるな。父上も座ったまま礼を言えた。小さいが確かな進歩だ。 レオナルド』


 三通目。


 セレスティア夫人。


『アルフレッド様。本日は、褒められた後の礼を学ばれたそうですね。喜びや涙を否定する必要はありません。ですが、受け取った後に戻り、次の会話へ進むことも大切です。夜会では、お二人の装いについてお声をかけていただくことも多いでしょう。感情を大切にしながら、最後まで立っていてくださいませ。夫には「褒められても立たない」の札を出しました。座ったまま礼を言えました。継続が大切です。 セレスティア』


 俺は三通を読み終えた。


 今日も、しばらく黙った。


 昨日の言葉。


 今日の言葉。


 少しずつ積み重なっている。


 完成前の装いを見せ合った。


 褒められた。


 泣いた。


 言葉を失った。


 戻った。


 そして今日は、褒められた後にも会話を続けた。


 夜会は、一つの瞬間で終わらない。


 入場して終わりではない。


 踊って終わりではない。


 褒められて終わりではない。


 泣いて終わりでもない。


 一拍ずつ。


 半歩ずつ。


 最後まで続く。


 俺たちも同じだ。


 婚約したから終わりではない。


 認められたから完成でもない。


 綺麗だと言えたから、もう何も学ばなくていいわけでもない。


 その後も続く。


 だから、戻る。


 父上が書状を置いた。


「アルフレッド」


「はい」


「本番まで、もう長くない」


「はい」


「怖いか?」


「怖いです」


「楽しみか?」


「はい」


「それでいい」


「はい」


 母上が微笑む。


「感情を一つに決めなくていいのよ」


「はい」


「怖くて、楽しみで、嬉しくて、緊張している。それを全部持って、立てばいい」


「はい」


 リーマスは胸元へ手を当てた。


「褒め言葉は終着点ではなく、次の一歩を照らす灯りでございます」


 ライズは静かに親指を立てた。


「若様」


「何だ」


「本日のハンカチ使用数は、アマリリス様十七枚、若様零枚、ガロウ公爵閣下は九枚との報告でございます」


「公爵の数が分かったんだな」


「セレスティア様が再計測を開始されました」


「管理が戻った」


「はい」


「明日は?」


「現時点では二十八枚を予定しております」


「また増えるのか!?」


「夜会本番までの日程確認が入る可能性がございますので」


 本番の日程。


 具体的な時刻。


 移動。


 最後の準備。


 また一段階、現実になる。


 俺は窓の外を見る。


 夜空は深い青。


 昨日と同じように、リリスのドレスを思い出す。


 だが今日は、その姿だけではなく、制服姿で泣きながら会話を続けたリリスも浮かんだ。


 褒められた後も立っていた。


 泣いても、答えた。


 次へ進んだ。


 俺も。


 まだ完成前。


 でも、昨日より少しだけ進んだ。


 俺は深く息を吸う。


 そして今日も、心の底から叫んだ。


 公爵令嬢様!!


 深い青は今日思い出しても、本当に綺麗です!!


 でも、褒められた後も夜会は続くので、最後まで立っていてください!!


 あと、お父様も褒められるたびに立たないでください!!

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