第56話 公爵令嬢様、王族への挨拶で半歩ほど震えます
皆さん、こんにちは!!
アルフレッド・シェルザートです。
昨日、俺とリリスは王城夜会の入場練習をした。
扉の前で一拍。
広間へ入る歩幅。
中央での礼。
王族や高位貴族へ向かう立ち位置。
婚約者として並ぶ距離。
そして、隣で逃げない礼。
俺は最初、少し控えめになりすぎた。
父上や母上に言われていたにもかかわらず、やはりどこかで自分を小さくしようとしていたのだと思う。
公爵令嬢であるリリスの隣。
深い青のドレスをまとうであろうリリスの隣。
王城の灯りの下で、皆の視線を受ける場所。
そこで俺は、無意識に一歩引こうとしていた。
だが、先生に言われた。
「謙虚と遠慮しすぎは違います」
その通りだ。
そしてレオナルド先輩にも言われた。
「リリスの隣で逃げるな」
短い言葉だった。
だが、重かった。
俺は受け取った。
受け取ったつもりだ。
今日は、その先。
王族への正式挨拶練習である。
夜会の場で、王子殿下や王族の方に声をかけられた時、どう礼をするか。
どう名乗るか。
どう返答するか。
どこまで話し、どこで引くか。
つまり、今までの集大成に近い。
入場。
立ち位置。
言葉の半歩。
棘のある言葉への一拍。
リリスとの距離。
俺自身が卑屈にならないこと。
全部必要になる。
朝。
屋敷の食堂で父上はいつもより真剣な顔をしていた。
「今日は王族への挨拶練習だろうな」
「はい」
「エドワード殿下は、お前たちに好意的だ」
「はい」
「だが、好意的だからといって気を抜くな」
「分かっています」
「王族の前では、親しさと礼を間違えてはいけない」
「はい」
「特にお前とリリス嬢は、殿下との茶会を経ている。半歩の研究も評価されている。だからこそ、周囲から見られる」
父上は紅茶を置いた。
「殿下と話す時、お前が卑屈になりすぎれば、リリス嬢も困る。逆に、親しげになりすぎれば周囲がざわつく」
「難しいですね」
「難しい。だから一拍だ」
「言葉にも半歩」
「そうだ」
母上も穏やかに言った。
「アル、王族への礼は、心を低くすることではないわ」
「心を低くすることではない」
「ええ。敬意を示すことと、自分を無価値に扱うことは違うの」
「はい」
「リリス様が隣にいるなら、あなたはリリス様の選んだ婚約者として、きちんと立ちなさい」
「はい」
「そして、リリス様が揺れた時は、支えようとしすぎず、隣にいることを思い出させてあげればいい」
隣にいる。
それだけで支えになることもある。
ここまでの練習で、俺は少しずつ学んでいる。
ライズは鞄を確認しながら言った。
「若様、本日のハンカチは二十一枚でございます」
「二十枚を超えたな」
「王族挨拶練習日でございますので」
「まあ、そうなるか」
「想定される涙は、殿下役との挨拶緊張涙、若様が卑屈にならず名乗れた際の安心涙、アマリリス様が公爵令嬢として堂々と返答できた達成涙、殿下から半歩について触れられる想定での感動涙、ガロウ公爵閣下の王族挨拶想像涙でございます」
「最後はもう確定だな」
「はい」
「今日の心の札は?」
「『敬意は低さではない』でございます」
「母上と同じか」
「はい」
俺は頷いた。
敬意は低さではない。
卑屈になるな。
隣で逃げるな。
今日も重い。
だが必要だ。
正門前。
リリスはいつもの場所にいた。
制服姿。
ブルーローズの髪飾り。
今日は朝から、かなり緊張しているのが分かった。
背筋は美しい。
立ち姿は公爵令嬢そのもの。
だが、目が少し潤んでいる。
俺を見つけると、リリスはほっとしたように笑った。
歩いてくる。
走らない。
昨日の入場練習の影響か、足取りはゆっくり、丁寧だった。
「アル、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、リリス」
「今日も走りませんでした」
「はい。今日は王城の廊下を歩くみたいでした」
「お母様に、王族への挨拶は歩くところから始まると言われました」
「セレスティア様らしいですね」
「はい」
リリスは胸元で手を重ねた。
「アル」
「はい」
「今日は、王族への挨拶練習ですよね」
「はい」
「殿下役は、先生でしょうか」
「おそらく。もしくはユリウス様か、エレナ嬢が補助に入るかもしれません」
「ユリウス様が殿下役だと、少し笑ってしまいそうです」
「分かります」
リリスは小さく笑った。
だが、すぐに表情を引き締める。
「殿下には、茶会でもお世話になりました」
「はい」
「でも、夜会では茶会とは違います」
「はい」
「親しさに甘えず、礼を忘れず」
「はい」
「でも、遠ざかりすぎず」
「半歩ですね」
「はい」
リリスの目が潤む。
「アルと一緒に、殿下へご挨拶するのですね」
「はい」
「……小声版です」
「朝一回目ですね」
俺はハンカチを渡した。
リリスは涙を一粒だけ拭いた。
「怖いです」
「はい」
「でも、逃げたくはありません」
「はい」
「アルが隣に立ってくださるので」
「立ちます」
リリスの涙がまた落ちた。
「強いです」
「今日も必要なので」
「はい」
ミラが後ろで静かに言う。
「本日二回目、発生でございます」
「一回目は?」
「お嬢様が今朝、王城で殿下へ礼をする想像をされた際に」
「やっぱり」
「はい」
想定通りである。
教室へ向かう途中、ユリウスとエレナ嬢が合流した。
ユリウスは少し楽しそうだった。
「おはよう。今日は王族挨拶練習だね」
「はい」
リリスが答える。
「ユリウス様、もしかして殿下役をやるのでは?」
「やるかも」
「笑ってしまいそうなので、やめてください」
「ひどいな」
ユリウスは笑った。
エレナ嬢が穏やかに言う。
「でも、ユリウス様は意外と良い練習相手になると思いますわ」
「意外と?」
「少し崩した言葉や、探るような言葉もできますもの」
「褒められてる?」
「はい」
「ならいいか」
リリスは真剣に言った。
「今日は、親しさと礼の半歩ですね」
「いい言葉だね」
ユリウスが頷く。
「殿下は親しみやすいけど、王族だからね。親しさだけで近づきすぎると危ない。逆に遠ざかりすぎると、殿下の意図を無視することにもなる」
「はい」
「王族用半歩かな」
「増やさないでください」
俺が止めたが、リリスはもう考えていた。
「王族用半歩……」
「リリス、採用しなくていいです」
「でも分かりやすいです」
「そういうところです」
エレナ嬢が笑った。
王族用半歩。
また増えそうである。
教室に入ると、机の配置は昨日と似ていた。
中央に道。
前方に王族役の位置。
ただし今日は、昨日よりも距離が細かく印付けされている。
王族に近づく限界線。
礼をする位置。
名乗る位置。
会話を続ける位置。
先生、本気だ。
ニールはすでに真っ青だった。
「シェルザート君、王族への挨拶って、緊張します」
「俺もです」
「シェルザート君でも?」
「はい」
リリスが言う。
「緊張しても、一拍です」
「はい」
「王族用半歩です」
言った。
採用した。
俺は少し天井を見た。
ニールは真面目に頷いている。
「王族用半歩、覚えます」
広がった。
一時間目。
礼法。
ベイル先生は黒板にこう書いた。
『王族への挨拶と距離』
教室が静まる。
「本日は、王族への正式な挨拶を練習します」
先生の声はいつもより少し厳しい。
「王族への礼において大切なのは、敬意です。ただし、敬意とは自分を過剰に低く見せることではありません」
母上と同じだ。
俺は背筋を伸ばした。
「自分の家名、立場、招かれた意味を忘れずに、礼を尽くすこと」
先生は黒板に書いた。
『敬意は低さではない』
ライズと同じ。
今日の心の札が黒板にある。
「また、王族側が親しく声をかけてくださった場合でも、場を忘れないこと。親しさを受け取りながら、礼を保つ」
先生は少し間を置いた。
「つまり、王族用半歩です」
正式採用された。
リリスが真っ赤になる。
俺は額を押さえたいのをこらえた。
ユリウスが肩を震わせている。
「笑わない」
先生が言う。
「はい」
ユリウスが即答する。
今日も先生は隙がない。
「では、実践します。シェルザートさん、アマリリスさん」
「はい」
俺とリリスは前へ出た。
先生は王族役の位置に立つ。
「まず、殿下へ挨拶する想定です。お二人は夜会の場で、殿下から声をかけられました」
声をかけられる。
逃げられない場面。
「距離を取りなさい」
俺たちは印の位置で止まる。
リリスが少し下がりすぎた。
俺は少し前に出すぎた。
先生が言う。
「シェルザートさん、半歩下がる。アマリリスさん、戻り版」
「はい」
調整。
隣に並ぶ。
「礼」
俺たちは礼をする。
「名乗り」
まず俺。
一拍置く。
「シェルザート伯爵家長男、アルフレッド・シェルザートでございます。殿下におかれましては、本日お声がけいただき、誠に光栄に存じます」
先生が頷く。
次にリリス。
「フルーラ公爵家長女、アマリリス・フルーラでございます。殿下にお目通りかない、光栄に存じます」
美しい。
完璧に近い。
先生は頷いた。
「よろしい。では、殿下が親しげに声をかけた場合」
先生の口調が少し柔らかくなる。
「お二人とも、発表以来ですね。半歩の研究は、その後も続いているようですね」
これは実際にありそうだ。
リリスの目が一瞬潤む。
俺も胸が少し熱くなる。
一拍。
俺は先に答える。
「はい。発表後も、学園内で多くの学びを得ております。殿下よりお言葉をいただいたことも、大きな励みとなっております」
先生が頷く。
リリスが続ける。
「はい。半歩は、発表で終わるものではなく、日々の中で意味を学び続けるものだと感じております」
「よろしい」
先生はさらに言う。
「では、殿下が少し踏み込んで尋ねます。アマリリス嬢、その半歩は、シェルザート殿との関係にも役立っていますか?」
強い。
非常に強い。
リリスが真っ赤になる。
教室がざわつく。
ユリウスが絶対笑いを堪えている。
リリスは俺を見る。
俺は小さく頷く。
一拍。
「はい」
リリスは答えた。
「近づきすぎた時も、遠ざかりすぎた時も、半歩を思い出すことで、アル……」
止まった。
危ない。
「シェルザート様と、落ち着いて向き合う助けになっております」
言い直した。
よく戻った。
先生が頷く。
「よろしい。呼び方も戻れました」
「はい」
リリスは真っ赤だ。
俺も顔が熱い。
次に先生が俺へ向く。
「シェルザート殿は、アマリリス嬢の半歩をどう支えているのですか?」
これも強い。
俺は一拍置く。
「支えるというより、共に学んでいるという方が近いかもしれません」
リリスが俺を見る。
目が潤む。
「アマリリス様が近づきすぎた時には半歩を、遠ざかりすぎた時には戻り版を。ですが、私自身も遠慮しすぎることがありますので、互いに整えているのだと思います」
先生が頷く。
「よろしい。自分を上にも下にも置きすぎていません」
「ありがとうございます」
リリスは泣きそうだ。
だが耐えている。
先生は続ける。
「では、ユリウスさん。殿下役を」
「はい」
ついにユリウス殿下役である。
ユリウスは前に出ると、妙に上品な笑みを作った。
腹が立つくらい似合っている。
「ご機嫌よう、シェルザート殿、アマリリス嬢。お二人が並ぶ姿は、ずいぶん自然になりましたね」
これは危険だ。
お似合いに近い。
リリスの涙腺が反応する。
一拍。
俺が答える。
「ありがとうございます。夜会へ向け、アマリリス様と共に学んでおります」
リリスも続ける。
「ありがとうございます。まだ学ぶことは多くございますが、シェルザート様と共に整えてまいります」
ユリウスがにやりとした。
「共に、ですか」
棘ではないが、軽いからかい。
リリスが揺れる。
俺も少し揺れる。
一拍。
「はい」
リリスは静かに答えた。
「婚約者として、共に学ぶことは大切だと考えております」
強い。
教室が静かに息を飲む。
ユリウスの表情が少しだけ真面目になった。
「良い返答だと思う」
先生が頷く。
「今の返答はよろしい。照れを隠そうとして否定せず、必要以上に広げてもいません」
「ありがとうございます」
リリスの目が潤む。
だが、泣かない。
次に、エレナ嬢が王妃役……ではなく、高位貴族令嬢役として質問した。
「アマリリス様は、シェルザート様と並ぶことで、以前より柔らかくなられたように見えますわ」
これは褒め言葉だが、少し踏み込んでいる。
リリスは一拍置いた。
「ありがとうございます。私一人では気づけなかったことを、シェルザート様や皆さまから学ばせていただいております」
綺麗だ。
俺も続ける。
「私も、アマリリス様と共にいることで、礼や距離について多くを学んでおります」
エレナ嬢が微笑む。
「素敵なお返事ですわ」
リリスは限界だった。
「小声版です」
「今ですか」
先生が言う。
「はい。今は良いでしょう。練習を一度止めます」
俺はハンカチを渡した。
リリスは目元を押さえる。
「共に、が多すぎました」
「今日の重要語ですから」
「強いです」
「俺も少し強かったです」
「アルも?」
「はい」
リリスが泣きながら笑った。
休み時間。
リリスは机に座り、深呼吸を繰り返していた。
「アル」
「はい」
「王族用半歩、難しいです」
「はい」
「親しさを受け取りたいです。でも、礼を忘れてはいけません」
「はい」
「アルと共に、と言うたびに心が動きます」
「俺もです」
「一緒です」
「はい」
リリスの目がまた潤む。
「今日は、本当に一緒が強いです」
「王族挨拶練習日ですから」
「何でも日付のせいにできますね」
「便利ですね」
二人で少し笑った。
ニールが近くでぐったりしていた。
「僕、王族役の先生に見られただけで頭が真っ白になりました」
「分かります」
俺が言うと、ニールは驚いた。
「シェルザート君でも?」
「はい」
「でも、ちゃんと答えていました」
「一拍置いたからです」
リリスが優しく言った。
「バートン様も、一拍です」
「はい。王族用半歩ですね」
「はい」
また広がっている。
昼休み。
食堂でも、王族への挨拶の話題が続いた。
招待された生徒たちは皆、かなり緊張している。
王城に行く実感が、日を追うごとに増しているのだ。
リリスはスープを飲みながら言った。
「今日は食べられています」
「よかったです」
「お母様に、王族挨拶練習の日ほど食べなさいと言われました」
「毎日正しいですね」
「はい」
ユリウスが笑う。
「今日のリリス様、かなり良かったよ。共に学ぶ、って返し」
「ありがとうございます」
「殿下本人にも、あれなら通じると思う」
リリスの目が潤む。
「ユリウス様、それは強いです」
「本当だよ」
エレナ嬢も頷く。
「アルフレッド様も、支えるではなく共に学んでいる、と返されたのが良かったですわ」
「ありがとうございます」
「上からでも下からでもなく、隣でした」
隣。
その言葉に、リリスの手が止まる。
「隣」
「はい」
「……小声版です」
「今日は仕方ありませんわ」
午後の魔法基礎では、王族への礼の緊張が魔力にも出ていた。
リリスの光は少し硬い。
教師が言った。
「アマリリスさん、今日は礼の緊張がありますね」
「はい」
「王族への挨拶練習ですか」
「はい」
「では、魔力にも敬意を置きましょう。ただし低くしすぎない」
「敬意は低さではない」
「その通りです」
リリスは目を閉じた。
光が一度小さくなる。
だが、小さくなりすぎず、静かに広がる。
教師が頷いた。
「よろしい。自分を消さずに礼を置けています」
「ありがとうございます」
リリスは受け取った。
涙は出なかった。
放課後。
レオナルド先輩が待っていた。
今日はかなり真面目な顔だ。
「リリス」
「お兄様」
「王族への挨拶練習だったな」
「はい」
「答えられたか」
「はい」
「共に学ぶ、と言えたそうだな」
「はい」
「よい」
リリスの目が潤む。
「ありがとうございます」
レオナルド先輩は俺を見る。
「アルフレッド」
「はい」
「支えるではなく、共に学ぶと答えたそうだな」
「はい」
「良い返答だ」
「ありがとうございます」
「隣に立つ者の返答だ」
その言葉は強かった。
俺は一拍置いた。
「ありがとうございます。受け取ります」
レオナルド先輩は頷く。
「父上には、今日の練習を伝えた」
「どうでしたか?」
「王族への挨拶と聞いて立った」
「やはり」
「母上が札を出した」
「何ですか?」
「『王族で走らない』」
「もう王城では走らない系が多いですね」
「必要だ」
「はい」
「さらに、リリスが共に学ぶと言えたと伝えた」
「はい」
「父上は座ったまま泣いた」
「成長してますね」
「そうだ。座ったまま泣いた」
リリスが小さく笑った。
「お父様、座ってくださったのですね」
「大きな進歩だ」
レオナルド先輩は真剣だった。
正門で別れる時、リリスは少し疲れていたが、昨日より落ち着いていた。
「アル」
「はい」
「今日は、王族への挨拶を練習しました」
「はい」
「親しさと礼の半歩でした」
「はい」
「共に学ぶ、と言えました」
「はい」
「アルも、共に学んでいると言ってくださいました」
「はい」
「とても、嬉しかったです」
「俺もです」
リリスの目が潤む。
「今日の宝物名は」
「はい」
「王族用半歩を学んだ日の宝物です」
「良い名前です」
「あと」
「はい」
「アルと共に学ぶと言えた日の宝物です」
「……俺にとっても大切です」
リリスは泣いた。
静かに、嬉しそうに。
俺はハンカチを渡した。
「また明日、アル」
「また明日、リリス」
馬車が遠ざかる。
俺はその背を見送りながら、今日の言葉を心に置いた。
共に学ぶ。
支えるだけではない。
支えられるだけでもない。
隣で、共に。
その夜。
屋敷に帰ると、父上と母上が待っていた。
「王族への挨拶は?」
「かなり緊張しました」
「答えられたか」
「はい」
「卑屈にならなかったか」
「たぶん」
「ならよい」
母上が微笑む。
「共に学ぶ、と言えたそうね」
「もう聞いているんですか」
「ふふ。耳はあるもの」
「はい」
「良い返答よ」
「ありがとうございます」
その後、フルーラ家から書状が届いた。
一通目、ガロウ公爵。
『リリスが王族への挨拶練習をしたと聞いた。泣いた。私が。立った。セレスティアに「王族で走らない」の札を出された。座った。泣いた。リリスがアルフレッド殿と共に学ぶと言えたと聞いた。座ったまま泣いた。成長している。私が。 ガロウ』
二通目、レオナルド先輩。
『王族への挨拶練習は重要だ。リリスは親しさと礼の半歩を学べた。君も共に学ぶと返せた。隣に立つ者の返答だ。父上は立ったが札で座った。その後は座ったまま泣いた。成長あり。 レオナルド』
三通目、セレスティア夫人。
『アルフレッド様。本日は王族への挨拶練習だったそうですね。王族への礼は、自分を消すことではなく、招かれた者として敬意を持って立つことです。リリスも、あなたと共に学ぶと言えたことを大切に受け取っておりました。夫には「王族で走らない」の札を出しました。座りました。座ったまま泣きました。継続が大切です。 セレスティア』
俺は三通を読み、静かに天井を見上げた。
座ったまま泣いた。
成長している。私が。
ガロウ公爵、自分で成長を認め始めている。
父上は腹を抱えて笑った。
母上は微笑みながら、俺の礼装案にまた少し線を足している。
リーマスは「座して涙することもまた修練でございます」と頷いた。
ライズは静かに親指を立てた。
俺は深く息を吸い、今日も心の底から叫んだ。
公爵令嬢様!!
王族への挨拶でも、ちゃんと共に学ぶと言えました!!
でも、お父様は王族の前では絶対に走らないでください!!




