第54話 公爵令嬢様、ドレスの色だけで半歩ほど泣きます
皆さん、こんにちは!!
アルフレッド・シェルザートです。
昨日、俺たちは棘のある言葉への返答を練習した。
褒め言葉に見せかけた探り。
心配の形をした嫌味。
冗談のように投げられる釣り合いの話。
俺に対しては、
「フルーラ公爵令嬢の婚約者として、肩身が狭いでしょうね」
という言葉。
リリスに対しては、
「もっと釣り合うお相手もいらしたでしょうに」
という言葉。
正直、思い出すだけで胃が少し重い。
けれど、俺もリリスも一拍置いた。
怒りをそのまま返さず、かといって飲み込みすぎず、言葉に半歩を置いて返した。
リリスは言った。
「シェルザート様は、私が自ら選び、共に歩みたいと願った方です」
……あれは強かった。
今思い出しても強い。
朝、顔を洗っている時に思い出して、危うく水をこぼしかけた。
俺を選んだ。
共に歩みたい。
リリスは、あの言葉を人前で言った。
練習とはいえ、教室の前で。
俺はそれを受け取った。
受け取ったつもりだ。
だが、まだ心の奥がずっと熱い。
父上にも言われた。
自分を下げすぎるな、と。
ガロウ公爵からの書状にも書かれていた。
『アルフレッド殿、自分を下げすぎるな』
まさかガロウ公爵からそんな言葉をもらうとは思わなかった。
あの娘溺愛騎士団長が、俺にそう言ったのだ。
重い。
ありがたい。
そして、少し怖い。
それだけリリスの選択を、周囲も真剣に見ているということだ。
そんな翌日。
夜会準備は、さらに別の段階へ進んだ。
今日のテーマは、立ち回り確認と礼装の色合わせ。
つまり。
王城へ着いてから、誰と挨拶し、どこに立ち、どのタイミングでダンスへ入り、どの程度一緒に行動するか。
そして、俺の礼装とリリスのドレスが、婚約者として並んだ時にどう見えるか。
そこを確認する日である。
……ドレス。
ついに、具体的に来た。
これまでは「ドレス」という単語だけでリリスが泣き、ガロウ公爵が布見本で崩れかけていた。
だが、今日はおそらく、色の話が出る。
もしかすると、布見本が学園に届くかもしれない。
それだけで、俺の心臓には悪い。
朝。
屋敷の食堂で父上は言った。
「今日は色合わせの話が出るだろうな」
「色合わせ」
「ああ。夜会で婚約者として並ぶなら、完全に同じ色でなくても、どこかに統一感を持たせることが多い」
「はい」
「リリス嬢は、おそらく青系だろう」
「でしょうね」
ブルーローズ。
碧い瞳。
フルーラ公爵家の気品。
リリスには青が似合う。
あまりにも似合う。
想像だけで危険だ。
母上が楽しそうに微笑んだ。
「アルの礼装にも、青を差し色に入れるのが良いでしょうね」
「青を」
「ええ。深い青のタイか、刺繍糸か、胸元の飾りか。リリス様のドレスを引き立てるように」
「リリスのドレスを引き立てる」
言葉にしただけで少し緊張する。
俺は伯爵家の子息だ。
主役のように目立ちすぎてはいけない。
けれど、ただの添え物になってもいけない。
リリスの隣に立つ。
それにふさわしい礼装。
父上が言った。
「アルフレッド」
「はい」
「リリス嬢が美しく見えることは当然だ」
「はい」
「だが、お前があまりに地味すぎれば、リリス嬢の隣に立つ者として不自然になる」
「はい」
「逆に、目立ちすぎれば釣り合わない」
「はい」
「礼装にも半歩だ」
「そこにも半歩」
「そこにもだ」
父上は真面目だった。
礼装にも半歩。
つまり、目立ちすぎず、沈みすぎず。
リリスを引き立て、自分もきちんと立つ。
難しい。
けれど、大切だ。
ライズは鞄を整えながら言った。
「若様、本日のハンカチは十九枚でございます」
「十九……」
「色合わせ日でございますので」
「ついに二十枚目前だな」
「想定される涙は、ドレス色想像涙、若様の礼装に青が入ると聞いた時の婚約者実感涙、布見本確認涙、若様が『似合うと思います』等と仰った時の決壊涙、ガロウ公爵閣下の色見本崩壊報告涙でございます」
「決壊ってまた言ったな」
「はい」
「似合うと思います、は言うだろうな」
「高確率でございます」
「止めるべきか?」
「必要な時は言うべきかと」
「泣くぞ」
「泣かれます」
「だよな」
もう、リリスが泣くのは前提で進めるしかない。
問題は、どう泣くか。
そして、どう戻るか。
学園へ向かう馬車の中、俺は青について考えていた。
リリスの青。
ブルーローズの青。
空のような碧い瞳。
彼女のドレスが青なら、きっととても似合う。
けれど、どんな青なのだろう。
淡い青。
深い青。
夜空の青。
花の青。
王城の灯りの下で見た時、どんなふうに見えるのだろう。
……危ない。
想像だけで危ない。
俺も心の札が必要だ。
『色で崩れない』
……ガロウ公爵と同じではないか。
正門前。
リリスはいつもの場所にいた。
今日も制服姿。
ブルーローズの髪飾り。
だが、今日は明らかに顔が赤い。
朝から何かあった。
間違いない。
俺を見つけると、リリスはほっとしたように笑い、次の瞬間また赤くなった。
歩いてくる。
走らない。
ただ、歩幅が少しふわふわしている。
「アル、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、リリス」
「今日も走りませんでした」
「はい。今日は少しふわふわしていました」
「分かりますか?」
「はい」
リリスは胸元で指を絡めた。
「今朝、お母様から、ドレスの色合わせの話をされました」
「うちでも礼装の話が出ました」
「アルの礼装にも」
「はい」
「青が」
「入るかもしれません」
リリスの目が一気に潤んだ。
「小声版では足りません」
「早いですね」
「アルの礼装に、私のドレスと合わせた青が入るのです」
「はい」
「婚約者みたいです」
「婚約者です」
リリスは完全に泣いた。
早い。
だが、これは仕方ない。
俺はハンカチを渡した。
リリスは目元を押さえる。
「アルが即答しました」
「事実です」
「婚約者です、と」
「はい」
「強いです」
「今日は色合わせ日ですから」
「色合わせ日は強いのですね」
「たぶん」
ミラが後ろで静かに言った。
「本日二回目、発生でございます」
「一回目は?」
「お嬢様が青の布見本をご覧になった際に」
「布見本がもう?」
「はい」
リリスが顔を赤くして頷いた。
「お母様が、三種類見せてくださいました」
「三種類」
「淡い青、深い青、少し銀の入った青」
「……全部似合いそうですね」
言った瞬間、リリスの涙が増えた。
「アル」
「はい」
「まだ見ていないのに」
「似合うと思ったので」
「強いです」
自分でも分かる。
強い。
でも本当にそう思ったのだから仕方ない。
教室へ向かう途中、ユリウスとエレナ嬢が合流した。
ユリウスはリリスの目元を見て、すぐ察した。
「おはよう。今日は色合わせ?」
「はい」
リリスが答える。
「もう泣いたんだ」
「はい」
「早いね」
「アルの礼装に青が入ると聞いたので」
「あー、それは泣くか」
「納得しないでください」
俺が言うと、ユリウスは笑った。
エレナ嬢は目を輝かせている。
「アマリリス様のドレス、青系ですの?」
「はい。まだ決定ではありませんが」
「きっとお似合いですわ」
「エレナ様」
「淡い青も、深い青も、銀がかった青も、どれも素敵でしょうね」
「……小声版です」
「今日は仕方ありませんわ」
エレナ嬢は本当に楽しそうだった。
「アルフレッド様の礼装には、深い青の差し色が合いそうですわね」
「俺ですか」
「はい。アマリリス様のドレスが淡い青なら、アルフレッド様には少し深めの青。ドレスが深い青なら、銀や白を添えるのも素敵です」
リリスが両手を胸元で握った。
「エレナ様、想像が強いです」
「ふふ。夜会準備の楽しみですもの」
ユリウスが言う。
「アルフレッド、頑張れ。地味すぎると公爵令嬢の隣で埋もれるよ」
「父上にも言われました」
「目立ちすぎても駄目だけどね」
「礼装にも半歩ですね」
リリスが真剣に言った。
ユリウスが笑う。
「本当に何にでも半歩だ」
教室に入ると、今日は夜会の色合わせの話題でざわついていた。
招待状を受け取った生徒たちは、それぞれ家から礼装やドレスについて話を聞いているらしい。
ニールは困った顔をしていた。
「シェルザート君、礼装の色って難しいですね」
「はい」
「うちは派手すぎるなって言われて、母と姉が揉めています」
「それは大変ですね」
「僕は普通でいいんですが」
「普通が一番難しいのかもしれません」
リリスが頷く。
「場に合う普通、というものがありますものね」
「はい」
ニールは真剣にメモしそうになっていた。
「礼装にも半歩ですね」
「はい」
半歩が礼装にまで広がった瞬間だった。
一時間目。
礼法。
ベイル先生は黒板にこう書いた。
『夜会の装いと立ち位置』
来た。
今日は色合わせと立ち回りだ。
「本日は、夜会での装い、そして広間での立ち位置を確認します」
先生は教室を見渡した。
「装いは、ただ美しければよいわけではありません。家格、年齢、立場、同伴者との関係、場の格。それらを示すものでもあります」
重い。
服にそこまで意味がある。
貴族社会とはそういうものだ。
「婚約者同士で参加する場合、完全に揃えすぎる必要はありません。しかし、どこかに統一感があると、関係が自然に伝わります」
リリスが真剣にノートを取る。
俺も。
「ただし、片方が目立ちすぎ、片方が沈みすぎると不自然です」
父上と同じだ。
先生は黒板に書いた。
『装いにも半歩』
正式採用された。
リリスの目が潤む。
「アマリリスさん」
「はい」
「今、泣きそうですね」
「はい」
「深呼吸」
「はい」
先生が慣れすぎている。
リリスは深呼吸して戻った。
「装いにも半歩とは、目立ちすぎず、沈みすぎず、相手との関係を自然に示すことです」
なるほど。
分かりやすい。
先生は続ける。
「では、実例を確認します。アマリリスさん、シェルザートさん」
「はい」
「お二人の予定色は?」
リリスが少し赤くなりながら答える。
「私は、青系のドレスになる予定です」
「青系」
「はい。淡い青、深い青、銀がかった青の候補があります」
教室が少しざわついた。
皆、想像したのだろう。
先生は俺を見る。
「シェルザートさん」
「はい」
「あなたの礼装は?」
「黒か濃紺を基調に、青の差し色を入れる案が出ています」
「よろしい」
先生は頷く。
「アマリリスさんが淡い青なら、シェルザートさんは濃紺や深い青で支えるとよいでしょう。アマリリスさんが深い青なら、シェルザートさんは黒を基調に銀や青を控えめに入れると釣り合います」
「はい」
「銀がかった青なら、二人とも冷たい印象になりすぎないよう、白や柔らかい色を添えるとよいですね」
具体的。
先生、礼装にも詳しい。
リリスは真剣に聞きながら、目が潤んでいる。
「泣きそうですか?」
先生が聞く。
「はい。アルと色を合わせる話が具体的で」
「深呼吸」
「はい」
リリスは深呼吸した。
教室は温かく見守っている。
もう誰も驚かない。
次に、立ち位置の練習。
王城の広間に入る場面。
入口で礼。
少し進む。
親しい相手に挨拶。
王族に近づきすぎない。
壁際に寄りすぎない。
婚約者として並ぶ。
俺とリリスは前に出て、実際に立ち位置を確認した。
「アマリリスさん、少しシェルザートさんに寄りすぎです」
「はい」
「王城用半歩」
「はい」
下がる。
「シェルザートさん、少し遠慮して下がりすぎです」
「はい」
「戻り版」
「はい」
近づく。
「よろしい」
先生が頷く。
「装いと立ち位置はつながります。衣装が整っていても、立ち位置が崩れると印象も崩れます」
「はい」
「逆に、緊張していても立ち位置が整っていれば、かなり落ち着いて見えます」
これは大事だ。
夜会で緊張しないのは無理だ。
だが、立ち位置を整えれば、少なくとも外からは落ち着いて見える。
リリスも真剣に頷いていた。
休み時間。
リリスは机に座ると、ノートを見つめた。
『装いにも半歩』
『色で関係を示す』
『目立ちすぎず、沈みすぎず』
『立ち位置も装いの一部』
きれいにまとめられている。
「アル」
「はい」
「装いにも半歩でした」
「はい」
「アルの礼装に青が入ります」
「はい」
「私のドレスと」
「はい」
「……小声版です」
「今日は多いですね」
「色合わせ日ですので」
「リリスも分類が上手くなっていますね」
俺はハンカチを渡した。
リリスは涙を拭いた。
「アルは、どの青がいいと思いますか?」
「リリスのドレスですか?」
「はい」
難問。
非常に難問だ。
淡い青。
深い青。
銀がかった青。
全部似合うと思う。
だが、ここで適当に言ってはいけない。
一拍置く。
言葉にも半歩。
「俺は、深い青が似合うと思います」
リリスの目が大きくなる。
「深い青」
「はい。リリスは明るい色も似合うと思います。でも、王城の夜会なら、少し深い青の方が落ち着きと気品が出る気がします」
「……気品」
「それに、ブルーローズにも近い」
リリスの涙が落ちた。
「アル」
「はい」
「決まりそうです」
「今ので?」
「はい」
「いや、セレスティア様と相談を」
「もちろん相談します。でも、アルが深い青と言ってくださったので」
「強かったですね」
「強いです。でも、嬉しいです」
エレナ嬢が近づいてきて、にこにこと言った。
「私も深い青、素敵だと思いますわ」
「エレナ様も?」
「はい。アマリリス様の金の髪に、深い青はとても映えます」
リリスはまた泣きそうになる。
「今日は、色が強いです」
「色が強い」
ユリウスが笑いながらやって来た。
「深い青か。いいね。アルフレッドは濃紺か黒に青の刺繍かな」
「ユリウス様まで」
「並んだ時に映えると思うよ」
リリスはハンカチを握りしめた。
昼休み。
食堂でも、色合わせの話は続いた。
ニールは母親と姉の争いについて相談してきた。
「僕、何色がいいと思いますか?」
「バートン様は、柔らかい緑や落ち着いた茶系が似合いそうです」
リリスが真剣に答える。
「えっ、そうですか?」
「はい。誠実で落ち着いた印象になると思います」
「ありがとうございます。母に伝えてみます」
ニールは嬉しそうだった。
リリスは誰かの装いについても半歩で考えられるようになっている。
エレナ嬢は淡い藤色を予定しているらしい。
絶対似合う。
ユリウスは、
「僕は軽く見えすぎないように濃い色かな」
と言っていた。
先生に「軽さを半歩抑える」と言われ続けた成果かもしれない。
午後の魔法基礎では、色の話が魔力にも影響した。
リリスの光がいつもより少し深い青みを帯びて見えたのだ。
教師が驚いたように言う。
「アマリリスさん、今日は光に色の印象がありますね」
「ドレスの色を考えていたからでしょうか」
「感情と色は魔力にも出ることがあります」
「深い青です」
「良い色です」
リリスの目が潤む。
「ありがとうございます」
「その色を、落ち着きとして覚えておくとよいでしょう。夜会で緊張した時、自分の色を思い出す」
「自分の色」
「はい」
リリスは深呼吸した。
「深い青」
彼女の周囲の光が、少しだけ落ち着いた。
放課後。
レオナルド先輩が待っていた。
今日はなぜか少し緊張した顔だ。
妹のドレス色の話だからだろうか。
「リリス」
「お兄様」
「ドレスは深い青になりそうだと聞いた」
「もう?」
「上級生の耳は早い」
「本当に早いですね」
レオナルド先輩は俺を見る。
「アルフレッド」
「はい」
「君が深い青と言ったそうだな」
「はい。似合うと思ったので」
レオナルド先輩はしばらく俺を見た。
怒られるか?
いや、違う。
「良い」
「ありがとうございます」
「リリスには深い青が似合う」
「はい」
リリスの目が潤む。
「お兄様まで」
「事実だ」
「強いです」
「今日は強い日だ」
レオナルド先輩は少しだけ口元を緩めた。
「父上には布見本を段階的に見せている」
「段階的に」
「淡い青で泣いた」
「はい」
「銀がかった青で座った」
「はい」
「深い青で立った」
「駄目じゃないですか」
「母上が札を出した」
「何の札ですか?」
「『深い青で深く崩れない』」
「語呂!!」
リリスが顔を覆った。
「お父様……」
「さらに、アルフレッドの礼装に青が入ると伝えた」
「どうなりました?」
「泣いた」
「ですよね」
「そして『婚約者だ』と言った」
俺とリリスが同時に固まった。
レオナルド先輩は真顔で続ける。
「父上も、少しずつ受け入れている」
ガロウ公爵。
泣きながらも、受け入れているのかもしれない。
正門で別れる時、リリスは朝より落ち着いていた。
けれど、目元は何度も泣いたせいで少し赤い。
「アル」
「はい」
「深い青に、なりそうです」
「はい」
「アルが、似合うと言ってくださいました」
「はい」
「お兄様も」
「はい」
「お父様も、泣きながら受け入れてくださいました」
「はい」
リリスは小さく笑った。
「今日の宝物名は」
「はい」
「ドレスの色が深い青に近づいた日の宝物です」
「良い名前です」
「あと」
「はい」
「アルの礼装に青が入ると知った日の宝物です」
「俺も、大切にします」
リリスの目が潤む。
「強いです」
「でも本当に」
「はい」
俺はハンカチを渡した。
リリスは涙を拭き、笑った。
「また明日、アル」
「また明日、リリス」
馬車が遠ざかる。
俺はその背を見送りながら、深い青のドレスを思い浮かべた。
王城の灯りの下。
深い青。
金の髪。
碧い瞳。
隣に立つ俺。
……本番、大丈夫だろうか。
俺も札が必要かもしれない。
その夜。
屋敷に帰ると、父上と母上が待っていた。
「深い青と言ったそうだな」
「はい」
「良い選択だ」
「ありがとうございます」
母上が微笑む。
「アルの礼装も、それに合わせましょうね」
「はい」
「濃紺を基調に、青の刺繍を控えめに。胸元に白か銀を少し」
「本格的ですね」
「当然よ」
その後、フルーラ家から書状が届いた。
一通目、ガロウ公爵。
『深い青の布見本を見た。泣いた。私が。立った。セレスティアに「深い青で深く崩れない」の札を出された。座った。泣いた。アルフレッド殿の礼装にも青が入ると聞いた。婚約者だと思った。泣いた。受け入れている。たぶん。 ガロウ』
二通目、レオナルド先輩。
『リリスのドレスは深い青が有力だ。君の意見も悪くない。礼装に青を入れるなら、控えめに、だが逃げるな。父上は深い青で立ったが札で制御。君の礼装に青が入る件は泣きながら受け入れつつある。 レオナルド』
三通目、セレスティア夫人。
『アルフレッド様。本日は色合わせのお話が進んだようですね。リリスには深い青がよく似合うでしょう。あなたの礼装にも青を添えることで、婚約者としての統一感が自然に出ると思います。装いにも半歩。目立ちすぎず、沈みすぎず、共に立つ形を整えてまいりましょう。夫には「深い青で深く崩れない」の札を出しました。座りました。泣きました。あなたの青は受け入れ中です。継続が大切です。 セレスティア』
俺は三通を読み、静かに天井を見上げた。
深い青で深く崩れない。
あなたの青は受け入れ中。
ガロウ公爵は、泣きながらも前に進んでいる。
たぶん。
父上は腹を抱えて笑った。
母上は楽しそうに礼装の案を書き始めた。
リーマスは「装いにも心の距離が表れるのでございます」と頷いた。
ライズは静かに親指を立てた。
俺は深く息を吸い、今日も心の底から叫んだ。
公爵令嬢様!!
深い青のドレス、きっと本当にお似合いです!!
でも、お父様は深い青で深く崩れないでください!!




