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『公爵令嬢様、距離感が近すぎます! 〜伯爵子息は今日もツッコミが追いつかない〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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24/73

第24話 公爵令嬢様、半歩を研究に組み込みます


 皆さん、こんにちは!!


 アルフレッド・シェルザートです。


 最近、俺たちの学園生活には新しい言葉が増えた。


 半歩。


 そう、半歩である。


 もともとは、母公認後に少し距離が近くなったリリスへ、俺が、


「あと半歩だけ下がりましょう」


 と言ったことが始まりだった。


 ただの距離調整。


 そのはずだった。


 しかし、リリスにとっては違ったらしい。


 リリスはそれを、


『戻る場所があるみたいで嬉しいです』


 と言った。


 正直、少し胸に来た。


 リリスにとって、俺が止めることは拒絶ではない。


 嫌いだから離れろ、ではない。


 近すぎたら、ここまで戻ればいい。


 そう示すこと。


 それが安心になる。


 なら、半歩も悪くない。


 いや、かなり良い。


 そう思い始めていた。


 だが、当然のように問題も起きる。


 まず、リリスが自由研究に組み込み始めた。


『感情を否定せず半歩引く礼法』


 これは、正直かなり良い。


 小皿や心の椅子より、ずっと発表向きだ。


 礼法の授業ともつながる。


 感情表現と周囲への配慮。


 自分を責めず、相手を困らせすぎず、半歩だけ整える。


 うん。


 普通に良い。


 問題は、その半歩がフルーラ家にも伝わったことだ。


 ガロウ公爵は意味が分からないまま感動した。


 レオナルド先輩は有用な概念として評価した。


 セレスティア夫人は、


『夫には三歩ほど必要かもしれません』


 と書いてきた。


 三歩。


 ガロウ公爵には三歩。


 あまりにも的確である。


 俺は昨夜、その書状を読んで天井を見上げた。


 そして今日の朝。


 当然のように、父上がその話題を出してきた。


「アルフレッド、ガロウには三歩らしいな」


「父上、朝からそれですか」


「セレスティアはよく分かっている」


「否定できません」


「ガロウは娘のことになると、半歩では止まらないからな」


「三歩でも止まりますか?」


「セレスティアが言えば止まる」


「基準がセレスティア夫人」


 父上は楽しそうに笑った。


 母上も微笑んでいる。


「でも、半歩という考え方は素敵ね」


「母上もそう思いますか?」


「ええ。気持ちを否定せず、少し整えるのでしょう?」


「はい」


「リリス様に合っているわ」


「そうですね」


「アルにもね」


「俺にも?」


「あなたも、気持ちを抑え込みすぎるところがあるもの」


「……そうですか?」


「ええ。リリス様の前では少しずつ出せているみたいだけれど」


 母上の言葉に、俺は少し黙った。


 自分ではあまり意識していなかった。


 でも、確かにリリスの前では、最近かなり素直に言ってしまうことが増えた。


 可愛い。


 大切。


 婚約者でよかった。


 ……思い出すと恥ずかしい。


 だが、それは悪いことではないのかもしれない。


 父上がにやりと笑う。


「お前も半歩下がるばかりではなく、半歩近づくことを覚えた方がいいな」


「父上」


「リリス嬢だけが近づいていては不公平だろう」


「朝から何を言うんですか」


「真面目な話だぞ」


「真面目に聞こえません」


 父上は笑った。


 ライズは背後で鞄を整えながら、当然のように会話へ入る。


「若様、本日の心得でございます」


「またか」


「アマリリス様が半歩下がられた場合、必要に応じて若様が半歩分の感謝をお伝えください」


「半歩分の感謝とは」


「例として、『今、ちゃんと下がってくれて助かりました』など」


「なるほど」


「これにより、アマリリス様は距離調整を拒絶ではなく協力と受け止めやすくなります」


「お前、本当に専門家みたいになってきたな」


「若様の平穏のためです」


「平穏から遠ざかっている気もする」


「結果的には近づいております」


「そうか?」


「はい。以前より若様は慌てなくなりました」


 そう言われると、確かにそうかもしれない。


 最初はリリスが少し近づくだけで慌てていた。


 泣かれるたびに困っていた。


 今は、半歩や小声版がある。


 対応方法が増えた。


 ……いや、なんだこの対応方法。


 冷静に考えるとおかしい。


 でも役に立っている。


 悔しい。


 学園へ向かう馬車の中、俺は今日の予定を確認した。


 午前は自由研究準備。


 次に礼法。


 昼食。


 午後は魔法基礎と歴史。


 自由研究準備で、リリスはきっと半歩について書く。


 俺も領地運営の資料を進める予定だ。


 ただ、気になるのはオスカー・ベルクだ。


 昨日、彼は以前より慎重に接触してきた。


 王子殿下の名前を出しつつ、こちらの様子を探った。


 セレスティア夫人の件で強くは出られない。


 だが、あきらめたわけではない。


 王子側の視線はまだ消えていない。


 リリスが安心している今だからこそ、浮かれすぎてはいけない。


 俺は馬車の窓から空を見上げ、深呼吸した。


 正門前。


 リリスはいつもの場所にいた。


 今日も制服姿。


 ブルーローズの髪飾り。


 俺を見ると、花が咲くように笑う。


 走らない。


 歩いてくる。


 ただし、やはり少し早い。


「アル、ご機嫌よう」


「ご機嫌よう、リリス」


「今日も走りませんでした」


「はい。少し早歩きでしたが、ちゃんと歩いていました」


「はい」


 リリスは嬉しそうに頷いた。


 そして、俺の隣に立つ。


 近い。


 昨日よりは少し控えめ。


 だが、まだ近い。


 俺は一拍置いた。


「リリス」


「はい」


「今日は、あと四分の一歩だけ下がりましょう」


「四分の一歩」


「昨日よりは近すぎません。だから半歩ではなく四分の一歩で」


 リリスの目がぱっと輝いた。


「アルが、昨日との差を見てくださいました」


「そこが嬉しいんですね」


「はい。私、昨日より少しできていましたか?」


「はい。昨日よりはちゃんと調整できていました」


「……っ」


「小声版?」


「朝一回目です」


「深呼吸を」


「はい」


 リリスは四分の一歩だけ下がり、深呼吸した。


 なんだこれ。


 朝の正門前で、歩幅を調整している婚約者同士。


 でも、リリスは本当に嬉しそうだ。


「四分の一歩。進歩です」


「下がったのに進歩」


「はい」


「うまいこと言いましたね」


「アルが笑ってくださいました」


「それも嬉しいんですか」


「はい」


 ミラが後ろで静かに頷いた。


「お嬢様、昨日より安定しております」


「ミラも見ていたのですね」


「もちろんです」


「皆に見られている」


「安全のためです」


「距離感の安全管理」


 いよいよ何を管理しているのか分からなくなってきた。


 教室へ向かう途中、ユリウスとエレナ嬢が合流した。


「おはよう、半歩の二人」


「呼び名を増やさないでください」


 俺はすぐに返した。


 ユリウスは楽しそうに笑っている。


「今日は半歩じゃない?」


「四分の一歩です」


「細かくなった」


「昨日より調整できていたので」


「なるほど。進歩に応じて距離が変わるんだ」


 エレナ嬢が微笑む。


「とても丁寧ですわ」


「丁寧でしょうか」


「ええ。アマリリス様も安心されているようですもの」


「はい」


 リリスは嬉しそうに言った。


「アルは、私の距離をちゃんと見てくださいます」


「言い方」


 俺が照れる。


 ユリウスがにやにやする。


「聞きようによってはかなり甘いね」


「やめてください」


「いや、甘いよ」


「学園の廊下です」


「だから面白い」


 リリスが少し顔を赤くする。


「甘い、のでしょうか」


「かなりですわ」


 エレナ嬢が優しく言う。


「でも、とてもお二人らしいです」


「私たちらしい」


 リリスがその言葉を大切そうに繰り返す。


 目が潤む。


「小声版?」


「はい」


「今日は多くなりそうですね」


「嬉しいことが多いので」


 深呼吸。


 涙は出ない。


 成長だ。


 教室に入ると、ニールがこちらを見て少し笑った。


「おはよう、シェルザート君。アマリリス様」


「おはようございます」


「おはようございます、バートン様」


「今日は……四分の一歩?」


「聞こえていました?」


「少し」


 俺は額に手を当てそうになった。


 廊下での会話は思ったより聞こえる。


 ベイル先生の言う通りだ。


 声量には気をつけなければならない。


 ニールは穏やかに笑った。


「でも、何だかいいね。ちゃんとお互いに分かる距離を作っている感じで」


「そう見えますか?」


「うん。僕だったら、何となく近いとか遠いとか言われるより、半歩って言ってもらえた方が分かりやすいと思う」


 ニールの言葉は素直だった。


 リリスが嬉しそうにする。


「バートン様もそう思いますか?」


「はい」


「では、半歩は分かりやすいのですね」


「たぶん」


 リリスがメモを取り出しかけた。


「リリス」


「はい」


「教室です」


「あとで書きます」


「書くんですね」


 自由研究準備の時間。


 リリスは予想通り、半歩について真剣に書いていた。


 俺は自分の研究ノートを開いていたが、時々リリスの様子が気になってしまう。


 彼女は見出しを作っている。


『感情の半歩』


『距離の半歩』


『相手を否定しない断り方』


『戻る場所としてのほどほど』


 普通に研究らしくなっている。


 心の椅子とは違う。


 いや、心の椅子も本人にとっては大切なのだろうが、発表には向かない。


 半歩は発表に向く。


 先生がリリスの席に近づいた。


「アマリリスさん、進んでいますね」


「はい」


「半歩、ですか」


「はい。感情が近づきすぎた時、あるいは相手との距離が近くなりすぎた時、少しだけ整える考え方です」


「面白いですね」


「アルが教えてくださいました」


 先生が俺を見る。


 俺は軽く礼をした。


 巻き込まれる予感がする。


「シェルザートさん」


「はい」


「良い助言です」


「ありがとうございます」


「ただし、発表では個人名を控えめに」


「ぜひそうしてください」


 リリスが真剣に頷く。


「信頼できる相手、と書きます」


「それがよいでしょう」


 先生は穏やかに頷いた。


「アマリリスさん、自分の感情を扱う内容ですが、客観化できています。良い方向です」


「ありがとうございます」


 リリスの目が潤む。


「小声版です」


「深呼吸を」


 先生が自然に言う。


 もう完全に授業に組み込まれている。


 俺は驚かなくなってきた。


 慣れとは恐ろしい。


 休み時間、リリスが俺の席へ来た。


「アル」


「はい」


「先生に、良い方向だと言われました」


「はい。よかったですね」


「半歩のおかげです」


「リリスがちゃんと考えたからです」


「……っ」


「小声版?」


「はい。でも、今は感情の半歩をします」


 リリスは目を閉じ、深呼吸した。


 そして、少しだけ微笑む。


「できました」


「できましたね」


「アル」


「はい」


「褒めてください」


「自分で言いましたね」


「今日は、受け取る練習もしたいです」


「なるほど」


 俺は少し考え、柔らかく言った。


「リリス、ちゃんと自分で整えられていました。とても良かったです」


 リリスの目が一瞬潤む。


 しかし、彼女は深呼吸した。


「ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです」


 泣かなかった。


 受け取った。


「すごいですね」


「……っ」


「追い褒めになりました」


「危険です」


 結局、少しだけ涙が出た。


 でも、以前よりずっと落ち着いている。


 二時間目は礼法。


 ベイル先生の授業は、今日も俺たちに刺さる内容だった。


「本日は、相手を支える時の距離についてです」


 来た。


 完全に来た。


 クラスの何人かがこちらを見る。


 俺は前を向いた。


 リリスも前を向いている。


 ただし、耳が赤い。


「支えるとは、常に隣に密着することではありません。時には少し離れて見守ることも支えです」


 リリスが反応した。


 俺も反応した。


「また、支えられる側も、相手に寄りかかりすぎないこと。互いに立ちながら、必要な時に手を差し出す距離。それが礼ある支え方です」


 良い授業だ。


 本当に良い。


 俺たちに必要すぎる。


 授業では、隣に立つ距離、手を貸す距離、会話する距離の違いを実際に確認した。


 男女の距離には特に注意が必要だ。


 婚約者同士であっても、学園では節度がある。


 リリスは真剣に取り組んでいた。


 ただ、教師が「婚約者の場合でも」と言った時、少しだけこちらを見そうになって止まった。


 偉い。


 授業後、ベイル先生が静かに言った。


「アマリリスさん」


「はい」


「あなたは最近、距離を考えることに前向きですね」


「はい」


「それは良いことです。ただし、距離を測ることに気を取られすぎて、会話の中身を忘れないように」


「……はい」


 リリスは少し驚いたように頷いた。


 確かにそうだ。


 距離感を気にしすぎると、かえって自然さがなくなる。


 俺も気をつける必要がある。


 先生は俺にも視線を向けた。


「シェルザートさんも」


「はい」


「止めるだけでなく、時には受け止めることも必要です」


「はい」


「ほどほどに」


「はい」


 ほどほど。


 その言葉が、今の俺たちには一番難しい。


 昼休み。


 食堂では、いつもの四人で座った。


 今日はオスカーの姿はあるが、近づいてこない。


 王子殿下本人の姿も遠くに見えた。


 エドワード殿下は何人かの生徒と談笑している。


 一瞬、こちらへ視線が向いた。


 俺は軽く礼をした。


 リリスも公爵令嬢として礼をする。


 殿下は微笑み返した。


 それだけ。


 だが、その一瞬だけで、食堂の空気が少し変わった。


 ユリウスが小声で言う。


「殿下も、静観しているみたいだね」


「静観」


「今のところは」


 エレナ嬢がリリスを気遣うように見る。


「アマリリス様、大丈夫ですか?」


「はい」


 リリスは小さく頷いた。


「少し緊張しましたが、半歩です」


「感情の?」


「はい」


「良いですね」


 リリスは深呼吸する。


 落ち着いている。


 以前なら、王子の視線だけでかなり不安そうだった。


 今は違う。


 怖さがないわけではない。


 でも、整えられている。


 俺はその様子を見て、少し安心した。


「リリス」


「はい」


「今、ちゃんと落ち着けていました」


「……ありがとうございます」


「受け取れましたね」


「はい」


 リリスは嬉しそうに笑った。


 泣かなかった。


 すごい。


 エレナ嬢も微笑む。


「アマリリス様、本当にお強くなられていますわ」


「エレナ様」


「はい」


「それは、小声版です」


「どうぞ」


 ハンカチが出た。


 結局、一粒だけ泣いた。


 まあ、エレナ嬢からの言葉には弱い。


 午後の魔法基礎では、感情を半歩引くという考え方が役に立った。


 リリスは魔力が揺れそうになると、目を閉じて深呼吸し、光を整える。


 教師も感心していた。


「アマリリスさん、今日は安定が早いですね」


「ありがとうございます。感情の半歩を意識しています」


「感情の半歩?」


 教師が興味を持った。


 リリスが説明する。


「感情を否定せず、少しだけ整える考え方です」


「なるほど。魔力制御にも応用できそうですね」


 教師が本気で頷いた。


 広がる。


 半歩が広がる。


 リリスは嬉しそうだ。


 俺は少し遠い目をした。


 放課後。


 廊下でレオナルド先輩が待っていた。


 今日は少しだけ表情が柔らかい。


「リリス」


「お兄様」


「半歩が魔法基礎にも使えたらしいな」


「本当に早いですね」


 俺はもうツッコむしかない。


 レオナルド先輩は涼しい顔だ。


「上級生の耳は早い」


「便利な言葉」


「リリス、よくできたな」


「はい。アルと一緒に考えた半歩です」


 リリスが嬉しそうに言う。


 レオナルド先輩は少し目を細めた。


「そうか」


「お兄様?」


「いや、少し感慨深いだけだ」


「泣きますか?」


「泣かない」


「本当ですか?」


「泣かない」


 怪しい。


 レオナルド先輩は話を変えるように俺を見た。


「アルフレッド」


「はい」


「父上に三歩を試した」


「え」


「どうでした?」


「失敗した」


「失敗したんですか」


「母上が『あなたは五歩ですね』と言った」


「増えた!!」


 リリスが口元を押さえる。


「お父様……」


「父上は不服そうだったが、五歩下がった」


「下がったんですね」


「母上だからな」


「最強」


 セレスティア夫人、ガロウ公爵には五歩。


 半歩から始まった概念が、ついに五歩へ進化した。


 距離感とは何なのか。


 正門で別れる時、リリスは少し名残惜しそうだった。


 だが、昨日より落ち着いている。


「リリス」


「はい」


「今日は、かなり整えられていましたね」


「半歩のおかげです」


「リリスが頑張ったからです」


「……小声版です」


「はい」


 俺はハンカチを差し出した。


 リリスは受け取り、涙を一粒だけ拭く。


「今日の宝物名は?」


「感情の半歩ができた日の宝物です」


「研究っぽいですね」


「はい」


「良い名前です」


「ありがとうございます」


 リリスは微笑んだ。


「アル」


「はい」


「私、少しずつ、近づくだけではなく、戻ることも覚えます」


「はい」


「でも、アルのことが大切なのは、変わりません」


「……はい」


「そこは、半歩下がりません」


「強いですね」


「はい」


 俺は少し笑った。


「では、そこはそのままで」


 リリスの目が大きく開いた。


「アル」


「はい」


「それは、かなり強いです」


「言ってから思いました」


「泣きそうです」


「はい」


 ハンカチをもう一枚出した。


 リリスは笑いながら涙を拭いた。


「また明日、アル」


「また明日、リリス」


 馬車が去っていく。


 俺はそれを見送りながら、今日一日を振り返った。


 半歩。


 四分の一歩。


 感情の半歩。


 五歩。


 どんどん広がっている。


 でも、ただの笑い話ではない。


 リリスは本当に、少しずつ自分を整えようとしている。


 それが嬉しい。


 俺も、止めるだけではなく、受け止めることを覚えなければならない。


 その夜。


 屋敷に帰ると、父上が待っていた。


「今日はどうだった?」


「半歩が魔法基礎にも応用されました」


「ははははは!」


「笑いますよね」


「いや、すごいじゃないか」


「さらに、ガロウ公爵には五歩が必要になりました」


「五歩か!」


 父上は腹を抱えて笑った。


 その後、フルーラ家から書状が届いた。


 一通目、ガロウ公爵。


『セレスティアに五歩下がれと言われた。五歩は遠い。だが娘のためなら下がる。アルフレッド殿、半歩とは何だ。説明しろ。あと、リリスが感情の半歩を覚えた。泣いた。私が。 ガロウ』


 二通目、レオナルド先輩。


『半歩は魔法制御にも有用らしい。リリスの成長に感謝する。父上には五歩が適用された。効果あり。ただし油断すると三歩戻る。 レオナルド』


 三通目、セレスティア夫人。


『アルフレッド様。リリスが感情の半歩を嬉しそうに話してくれました。あなたと考えたものが、あの子の支えになっているようです。ありがとうございます。なお、夫には五歩を試しましたが、しばらくすると二歩ほど戻っておりました。継続が大切ですね。 セレスティア』


 俺は三通を読み、静かに天井を見上げた。


 ガロウ公爵、五歩下がって二歩戻る。


 つまり実質三歩。


 セレスティア夫人の最初の見立て通りでは?


 父上は笑いすぎて涙を拭いていた。


 リーマスは「距離感とは奥深いものでございます」と頷いた。


 ライズは親指を立てた。


 俺は深く息を吸い、今日も心の底から叫んだ。


 公爵令嬢様!!


 半歩が研究になって!!


 お父様には五歩必要になりました!!

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