表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第一章 白銀の終焉

第一章 EP.1


白銀のピアス


夜空に煌めく星屑


見上げた空の色


手を伸ばす


チリリ…


懐かしい音


探し求めて


……行こう。




――



はぁ…、はぁ……



逃げる


逃げる


――逃げろ。



捕まるわけにはいかない。

今はただ、逃げることしか出来ない。

ひ弱なこの幼すぎる体では、抵抗も復讐もままならない。


灰色の空

今にも雪が降りだしそうな空模様

どこまでも広がる白銀の世界


肺が焼けるように熱い。

喉の奥で鉄の味がする。

薄着の体が凍り付きそうなほど寒かった。


気づいたとき、僕は雪深い山の中にいた。

どこをどう進んできたのかも分からない。


ただ、背後から迫る「何か」から逃げることだけが、麻痺した思考と体を突き動かしていた。


泥と雪にまみれた手足の感覚は、すでにない。

自分の指先がどこにあるのか、地面を蹴っている感覚さえ、わからない。

ただただ、感覚のない足を前に出しているだけ。


雪が降ってきた。


雪の冷たさが、じわじわと体温を奪っていく。

しかし、限界を迎えた体は警鐘を鳴らすことすらできなかった。自身の荒い呼吸音が、雪に吸われて消えていく。


ふと、頭によぎった。


今なら、誰にも見つからずにすべてを終わりにできるのではないか、と。

そうすれば、永遠に捕まることはない。


逃げるのは…もう疲れた。


大切なちち様やはは様、妹、叔父様。

そして、僕を逃がすために手を離した双子の兄……カイ。


大切な人たちと同じ場所にいける…

僕だけが温かい場所を探す理由なんて

……どこにもない。


その瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れ、足が鉛のように重くなった。

山のもっと奥にいけば誰にも見つからない。

重たくなった体に言い聞かせ、歩みを進めた。


――どのくらい歩いたのだろうか。

さほど時間は経っていないのかもしれない。

山の中を進むにつれ、舞い散る雪が増えてきた。


(……あつい)


極限の寒さのはずなのに、不思議と暑かった。

さっきまでは、とても寒かったのに…。

ついに、足があがらなくなった。

大きな樹の根元。

崩れ落ちるように腰を下ろした。


(少し、休もう……)


意識が歪み、視界が白く、白く塗りつぶされていく。

瞼を閉じる。


抗えない疲労。

死という名の柔らかな、けれど冷徹な闇。


それが名もなき少年の意識を、

静かに、

けれど確実に引きずり込んでいった。



六花は静かに降り続く。



――



2. 香太の「笛」と、白い男の子



視界を埋めつくす白銀の世界。

その中に、あってはならない「色」が混じっていた。


彼が見つけたのは、あまりに不自然で、あまりに痛々しい光景だった。

深い雪の真ん中に、一人の子供。

雪山に来る格好ではなかった。

泥だらけの手足。ボロボロで薄汚れた、上質な生地で仕立てられたシャツと擦り切れたズボン。

左耳に煌めく白銀のピアス。靴も履かず、その子は木に寄りかかって眠っていた。


「おい!しっかりしろ!目を開けろ!」


香太が上げた叫びは、吹雪の音を切り裂いた。

弾けるように側に寄り、その小さな体を抱き上げた。

今にも止まりそうなほど微かな呼吸。

腕の中の男の子は、冷たく、消えてしまいそうなほど白かった。


香太は迷わず自分の防寒用の上着を脱ぐと、それで男の子の体を包み込む。

そして、冷え切った小さな手を自分の掌で包み込み、これ以上冷えないように必死にさすり続けた。


仲間を呼ぶために、首に下げた緊急用の笛を口にする。

笛を吹く唇が、寒さで金属に張り付いた。

それでも構わず、命を呼び戻すように、仲間を呼ぶために絶え間なく笛を吹き鳴らした。


ピーッ


(助けてくれ、頼む……)


ピーッ――。


(死ぬなよ、こんなところで!)


絶え間なく鳴り響く鋭い笛の音に、香太は祈りを込めた。


吹雪が弱まってきた頃


龍也たつや茘枝れいし! こっちだ!!」

「「おい、どうした!……!?」」


仲間の茘枝と龍也が駆けつけた瞬間、二人はその光景に言葉を失った。

だが、驚愕は一瞬だった。彼らはすぐに「プロ」の顔に戻る。


「龍也、心音を確認しろ! 茘枝、ルートの確保を頼む!」


三人はその小さな「贈り物」を担ぎ、消えかけている命の火を繋ぎ止めるように、夜の雪山を全力で駆け降りた。


――男の子の呼吸はもっとか細くなっていく。




――



病院の集中治療室(ICU)。

機械的な電子音だけが規則正しく響く無機質な部屋。

香太はただ、ガラス越しに男の子を見つめていた。


『いつ死んでもおかしくない。あの状態で生きているのが不思議なぐらいだ』


医師の宣告は冷酷だった。


どのくらいあの冷たい雪の中にいたのか。


男の子の枕元には、彼が身につけていた私物が置かれている。

美しいペンダントと、左耳に輝いていた白銀のピアス。


「奇跡的に目が覚めたら、渡してあげてください」


看護師にそう言われたが、あの日、雪山から運び込んで数日が過ぎても、男の子のまぶたが上がることはなかった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ