表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

『四葩 ―生命を撒く者たち―』

——それは、触れた生命の存在を侵す()


 生命の色が満ちた葉に、冷たい粒が打ちつける。

 普段の喧騒は、すべて雨音に溶けて霧散していた。

 黙々と動く、正確な指先。

 精密な作業音と、不規則な雨の音が重なっていく。




次の任務――郊外の闇病院。

汚れにまみれた非合法実験施設。


データの回収。

そして、殲滅。

カルテに並ぶのは、名前ではなく番号。




「……できた」


 カチャリ、と静かに置かれたピペット。

 その呟きさえも、雨の湿り気に溶けて消えた。


「……『四葩(よひら)』」


 淡い菫色の液体。

 この任務のために調整された、華の露。




「何色の華が咲くかな……」




 深夜。

 降り続く雨の中、二つの影が吸い込まれるように病院へと消えていった。


「香太。最初は目標の回収。その後、殲滅に移行する。……開始」

「了解。……今日もよろしくな、リク!」

「うん……右手前に一。そのまま消して。……接敵まであと、五」


 声に合わせて、サイレントリボルバーの撃鉄が落ちる。

 寸分の狂いもなく、敵は沈黙した。

 そのまま二人は、堂々と院内を進む。


 病院の最深部。

 頑丈な扉、電子ロック、虹彩認証。


 だが、リクにとって、それはただの『数式の羅列』に過ぎない。

 指先が触れ、数秒で、すべてが黄金色の解を導き出す。


 扉の先は、巨大なサーバールームだった。


「でかいな……」

「側が大きくても、中身はただのゴミだよ」

「はは! 違いないな!」


 外部デバイスを接続し、指先がキーボードの上で踊る。

 その時。


「……香太、くるよ」


一度も視線を逸らさずに、指示を飛ばす。


「おう。背中は任せろ」

「ん……頼んだよ」


 短い会話が終わるのと同時に、


「し、侵入者だ……!!」


 複数の足音が静寂を切り裂いた。


「……殲滅開始」


 リクの言葉を皮切りに、香太のタクティカルナイフが閃く。

 赤い華が舞う部屋で、リクはデータの回収およびサーバーの蹂躙を淡々と進める。

 エンターキーを叩いた時、香太が最後の一人の息の根を、音もなく断ち切った。



 屋上。


 防火用スプリンクラーのタンクへ、『四葩』を落とす。


仕上げ(フィナ―レ)か?」

「うん。……何色だと思う?」


零れ落ちる雫を見たまま、答えた。


「残酷なまでに美しい色だろ?」

「……正解」


 スプリンクラーが起動し、人工の雨が降り注ぐ。

 二つの影は、そのまま闇へと溶けた。


「腹減ったな」

「……寒いから、あんまん食べたい」

「お、いいな!」


スプリンクラーから降り注ぐ水。

その一滴が、床に触れた瞬間。


——色が、咲いた。


音もなく、増えていく。


淡く、確実に侵食しながら、

光を孕んで揺れるそれは、

あまりにも美しかった。


誰もいない病院で、

生命の色だけが増殖していた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ