『四葩 ―生命を撒く者たち―』
——それは、触れた生命の存在を侵す露。
生命の色が満ちた葉に、冷たい粒が打ちつける。
普段の喧騒は、すべて雨音に溶けて霧散していた。
黙々と動く、正確な指先。
精密な作業音と、不規則な雨の音が重なっていく。
次の任務――郊外の闇病院。
汚れにまみれた非合法実験施設。
データの回収。
そして、殲滅。
カルテに並ぶのは、名前ではなく番号。
「……できた」
カチャリ、と静かに置かれたピペット。
その呟きさえも、雨の湿り気に溶けて消えた。
「……『四葩』」
淡い菫色の液体。
この任務のために調整された、華の露。
「何色の華が咲くかな……」
深夜。
降り続く雨の中、二つの影が吸い込まれるように病院へと消えていった。
「香太。最初は目標の回収。その後、殲滅に移行する。……開始」
「了解。……今日もよろしくな、リク!」
「うん……右手前に一。そのまま消して。……接敵まであと、五」
声に合わせて、サイレントリボルバーの撃鉄が落ちる。
寸分の狂いもなく、敵は沈黙した。
そのまま二人は、堂々と院内を進む。
病院の最深部。
頑丈な扉、電子ロック、虹彩認証。
だが、リクにとって、それはただの『数式の羅列』に過ぎない。
指先が触れ、数秒で、すべてが黄金色の解を導き出す。
扉の先は、巨大なサーバールームだった。
「でかいな……」
「側が大きくても、中身はただのゴミだよ」
「はは! 違いないな!」
外部デバイスを接続し、指先がキーボードの上で踊る。
その時。
「……香太、くるよ」
一度も視線を逸らさずに、指示を飛ばす。
「おう。背中は任せろ」
「ん……頼んだよ」
短い会話が終わるのと同時に、
「し、侵入者だ……!!」
複数の足音が静寂を切り裂いた。
「……殲滅開始」
リクの言葉を皮切りに、香太のタクティカルナイフが閃く。
赤い華が舞う部屋で、リクはデータの回収およびサーバーの蹂躙を淡々と進める。
エンターキーを叩いた時、香太が最後の一人の息の根を、音もなく断ち切った。
屋上。
防火用スプリンクラーのタンクへ、『四葩』を落とす。
「仕上げか?」
「うん。……何色だと思う?」
零れ落ちる雫を見たまま、答えた。
「残酷なまでに美しい色だろ?」
「……正解」
スプリンクラーが起動し、人工の雨が降り注ぐ。
二つの影は、そのまま闇へと溶けた。
「腹減ったな」
「……寒いから、あんまん食べたい」
「お、いいな!」
スプリンクラーから降り注ぐ水。
その一滴が、床に触れた瞬間。
——色が、咲いた。
音もなく、増えていく。
淡く、確実に侵食しながら、
光を孕んで揺れるそれは、
あまりにも美しかった。
誰もいない病院で、
生命の色だけが増殖していた。




