『栞を置かない休日』
「……ん」
カーテンの隙間から差し込む強い日差しに、リクはもぞもぞと布団から顔を出した。
眩しさに目を細めながら、枕元の時計を確認する。
「……あ、寝すぎた……」
今日は久しぶりの休日だ。
所長の春から「今日は研究室への立ち入りも禁止」と言い渡されているため、
本当に何もない、自由な一日。
リクは布団の中で、左耳のピアスに触れた。
銀色のそれは指先で冷たく、キラリと光る。
「……。」
何かを確かめるように数秒だけ指を止め、それから身体を起こして身支度を始めた。
今日は少しだけオシャレをする。
けれど、目立つ髪と瞳を隠すためにフード付きの服を選ぶのは、いつもと変わらない。
染めてしまえば楽なのだろうが、それはそれで面倒だ。
リクは自室のドアを開け、廊下へ出た。
「おはよう、リク。……おや? 出かけるのか?」
玄関前で鉢合わせたのは、仕事に行く前の茘枝だった。
「ん、おはよ、茘枝。……そう。久しぶりの休みだから、本屋に行こうかなって」
「本の虫だな、お前は。夕方には帰ってこいよ?」
「わかってるよ。じゃあ、いってきます」
外に出ると、眩しさに一瞬だけ目が眩んだ。
穏やかな陽気に、爽やかな新緑の香りが鼻をくすぐる。
リクはまた、無意識にピアスに触れた。
それが癖のようになっていることに、本人は気づいていない。
「……。」
目的の本を購入したあと、リクは人気のない小高い丘へと向かい、大きな木の上にいた。
「ここならどうかな……」
枝に背を預け、買ったばかりの本を開く。
チャリっと、
耳元で小さな金属音が鳴った。
その音に、リクはふと目を伏せる。
「……一人だと、静かすぎるよ」
その声は、誰に届くことなく落ちていった。
ページを捲る指を止め、リクは遠くの景色を眺めた。
春の風が、自分とよく似た色の髪を揺らしていく。
新緑のざわめきだけが、そこにあった。




