忘却のラボ
EP24
――深夜
ふらり
時折崩れる
壁を伝い
ただ、
ただ、
脚を前に出す
「……っ……は…」
人通りのない路地
まばらな街灯
雲に隠された月
深くかぶったフード
覗くアッシュブロンドの髪
すれ違う人
誰も気にしない
記憶に残らない
無臭の子供
とある建物
その地下
薄暗い階段
下りた先
一つの扉
電子ロックとアナログな鍵
チャリ……
ポケットから取り出した鍵
鍵穴に差し込み
回す
ピピッ……
起動する電子ロック
青白い光
画面を滑る白い指
……カチャッ
鍵が開く
ノブを回し
扉の向こうへ消える
……カチャン
電子ロックの色が消える
――
山積みされ
棚を、床を埋め尽くす本
冷却装置の音が響く
設置された
電界放射型走査解析装置
その他分析装置
医療機器
鍵のかけられた薬品棚
一台のソファー
倒れ込むように沈む
そばのローテーブル
置かれた小さな小箱
手を伸ばし
抱き締める
「……は……ふぅ…」
乱れた鼓動
目を閉じる
小箱の感触
部屋に響く
浅い呼吸
徐々に
深く
穏やかになっていった
――
「ダメだ……本当に何もない……」
「何か一つでもいいから……」
リクの部屋
見つからない
鍵
「どこから出て行ったんだ?」
「逃走経路さえわからないって……くそっ……」
崩れた本の山
難解な物理学書
無理やり復元した
端末のログ
窓から入る
橙色の光
遠い日の記憶
静かで
少し弾んだ声
――自分だけの秘密基地があったら、楽しそうだね
小さな背中
「……秘密基地」
ぽつりと落ちた声
「は?龍也、突然どうした」
「……いや、昔、リクと一緒に本屋に行った帰り道に、あいつが言ってたんだ。自分だけの秘密基地があったらなって」
懐かしい幼い記憶
山積みされた本を見つめる
「リクが?」
「リクがそんなに普通の子供みたいな事言ったのか?」
「……香太、リクが見つかったら一言一句、間違いなく伝えてやるよ」
「……よせ」
――
瞼が震え
フォグ・グレーの瞳が覗く
重く
色の無い世界
流れる数式
ソファーに沈んだ身体
「……寝て、た」
手の中にある
小さな小箱
目を閉じ
優しく
ひとつ
撫でる
瞼を上げ
ポケットから包みを一つ
中身を口へ
広がる甘さ
ピアスに触れる
――もう、時間が……
優しく
握りしめ
指を離す
チャリ……
冷たい音
瞳を滑らせ
目をぎゅっと閉じ
開く
小箱をローテーブルに置き
身体を起こす
背もたれに身体を預け
部屋を見渡す
「……はじめよう」
テーブルの上
小さなリモコン
ボタンを押す
部屋を灯す
柔らかな白色光
小箱を手に取り
ふらつきながら
実験台に向かう
デスクのわきに小箱を置く
そばの椅子
背に引っ掛けられた白衣
袖を通す
震える手
おぼつかな足
道具を集め
並べていく
そばに置かれた小箱
メモ用紙
一本のボールペン
書き起こされた
反応式と文字
迷いのない手
一滴
――また、一滴
フラスコへ
落ちていく
――
ガラス同士がぶつかる音
混ぜる手が
止まる
「……」
無色透明
香りもない
それを静かに見つめる
フォグ・グレーの瞳
……あと、少し
すべてを……
……ごめんなさい
最後の一滴
ピペットの先の雫
滴下せずに
震え
揺れる
胸を押さえる手
響く振動を
無理やり押さえつける
「……っ」
唇を噛む
滲む赤
首を振り
手元を睨みつける
落ちる雫
フラスコの中
波紋が
広がる
――
薄暗い部屋
復元したログと秘密基地の記憶
行きつけの本屋
周辺の地図
「……春さん、ここ」
香太が指差す
一点
少し古い記憶
「ええ……昔の事務所があった場所ね」
「……これ以上、手掛かりは――」
「ない」
静かに落ちる
「駄目でもいい。行くわよ」
翻る
ブロンドの髪
握りしめられた
掌
一粒の白銀が煌めく藍の空
街をとばす
黒いバン
闇に溶ける




