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—鴉の夜—  作者: こんぺいとう
第4章 家族の証
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空虚な檻

EP23


リクの部屋

部屋の前に一つの影

壁に背を預ける茘枝《れいし》


足音が近づく


香太はドアノブに手を伸ばす


「……今は入らないほうがいい」


手を止め

振り返る


「なんでだ?」


「……診察中だ」


「……尋問の間違いだろ」


「違いねぇな。……だが、あいつの言うこともわかるだろ?」


「……龍也《たつや》には逆らえるけど、医者には逆らえねぇよ」


「はは、確かにな」



扉が開く


「終わったのか……?……龍也?」


「……龍也?」


龍也は二人の間を何も言わずにすり抜け

足早に部屋を後にした


閉まる扉


嫌な予感


扉の方を一度振り返る


そのまま二人は龍也を追った



――



散らばった紙

薄暗い地下のラボ


落ちた沈黙

俯く龍也


「――どういうことだよ。……そんなことまで言う必要なかっただろ?」


香太の低い声

沈黙を破る


龍也の肩を掴む

震える手


「……そのまんまだよ」


「だからって、そこまで言っていいことにはならないだろ!?」


「……わかってる……そんなのわかってた!」


顔を上げ、黒色の瞳を見つめる


「だがな……自分の命を大切にできないなら、俺は止めないといけない……たとえ、嫌われようとも……信頼されていなくてもな」


「……」


茘枝が二人の間に入り

香太の手を掴み

龍也の肩から外す


「……龍也、お前の言いたいことはわかる。医者として言わなきゃいけなかった。それは、お前しかできないことだ。……だがな、限度がある。香太、お前もだ。龍也一人を責めるのは違う。……わかってるんだろ?」


二人を交互に見る


「……そんなの、俺だってわかってた」


俯く

龍也の肩がかすかに震える


「だろうな。わからないはずがないよな」


香太は目をそらす。


「龍也の言いたいこともわかる……。わかるけど、別の方法もあったと思う」


「……そうだな……それは、そうだと思う」


茘枝は一つ息をつき

二人の頭をかき乱す


「茘枝!やめろっ!」


「髪が乱れるだろ!」


「はっ!今、お前らがここで言い争ってる場合じゃねぇんだよ。わかったか?」


「……」


「……」



――



部屋に響くノック音

返らない声


ベッドに沈む

華奢な身体

どこかを見つめる灰の霧


部屋に満ちる淡い白黄色の光


「……なぁ……一口でもいいから……食べてくれよ、リク」


零れた声

握りしめた拳


反応はない


人形のように

ただ、そこにいた


一日

また一日


終わっていく



――



静かな朝

響き渡った

硝子と陶器の砕ける音


整頓された本

ズレなく置かれた

端末と周辺機器


綺麗に整えられたベッド

皺も

髪の毛も

何もない


差し込む光

埃が煌めく


無臭の空間


「……リク?」


散乱する食事だったもの


「……春《しゅん》さん!茘枝!龍也!リクが、リクがいねぇ!」


廊下に響く声


鍵のかかった窓


初めから誰もいなかったかのような

空間


駆けつける三人

立ち尽くす


「……」


「……どこに……」


「あんな身体でどこに行くっていうんだよ……まだ、薬を持っていたってことか?!薬は、回収したはずなのに……」


痕跡を探す


残された端末

消されたログ


リクの服

春のブルーグリーンの瞳が細められる


袖口のわずかな綻び

中から落ちた小さな銀のケース


……こんなところに隠していたのね。


「……龍也、あの子、予備の薬まで隠していたみたいね」


服を置き

銀のケースを見せる


「……っ!そんな……」


龍也は唇を噛みしめる


「あの子、こうなることを予想していたのかしら……」


沈黙が落ちる


枕の下

茘枝の視界が捉えた違和感


探して見つけたのは

飴の包み紙

拾い上げ

広げる


書き込まれた

綺麗な字


茘枝は静かに読み上げる


『ごめんなさい

 家族になれなくて

 みんなを巻き込んでごめんなさい


 俺がいないことが

 みなさんの日常と「普通」を守る

 唯一の正解です


 ありがとうございました』


しん……と静まり返る


「……普通ってなんだよ……お前がいない方が普通じゃねぇんだよ。……何も言わずにいなくなるなよ……」


震える声

香太は拳を振り上げ

力なく下ろした


「正解ってなんだよ……勝手に答えを出すなよ。……早く、早く見つけねぇと。あいつ、薬が切れたら野垂れ死ぬことぐらい、わかってるはずだろ……」


焦燥のにじむ龍也の声


「……手遅れになる前に、探すわよ。感情は後よ」


春は背を向け

部屋を出る




主《あるじ》の消えた部屋

柔らかな白い光が部屋を満たしていた






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