二百四十分の猶予
EP15
カーテンの向こう側
銀鼠色の雲
扉が閉まる
取り残された二人
落ちる
沈黙
俯き
頬にかかる
灰色が深まるアッシュブロンド
白い指先
無意味に弄るブランケットの端
僅かに早い呼吸音
……色が無くなるまで、残り二百十分。……これ以上は、ダメだ……
髪の隙間
ベッドの縁に座る香太
気づかれないように視線を送り
戻す
……何としてでも、飲まないと
――
ベッドの上
俯き
ブランケットの端を弄っている
華奢な相棒
その顔は見えない
……良くない
龍也の声が頭から離れない
……くそ
――なんで気づかなかった?
いや……
気づいていないわけじゃなかった
見えないように
拳を握りしめた……
――
「……リク」
静かな声が落ちる
微かに揺れる細い肩
「今、何を考えてる?……何をそんなに考え込んでいるんだ?」
顔が上がる
フォグ・グレーの瞳と目が合う
「何も考えてないよ……。龍也の話、を思い出していただけ」
リクの眉尻が下がる
「……あとは、今後の仕事のこと、かな」
「仕事のことなんて、考えるな。馬鹿。……今はしっかり休むこと。それで十分だ」
一瞬、開かれた瞳
寄せられる眉
「……ははは、そうだね」
少し細められた目
……どうにかして、隙を作らないと
――チクリ……
胸の奥が痛んだ気がした
香太から視線を逸らす
一冊の本に手を伸ばす
「これか?」
「あ……ありがとう」
「おう。遠慮なく言えよ?取ってやるから」
香太の口端が上がる
窓の方から
不規則な音が聞こえ始めた
――
頁を捲る音が部屋に満ちる
……どうしたら怪しまれない?
……香太が納得して、ある程度の時間が確保できること……
頁を捲る指が止まる
……あ
本から視線を上げ
瞬きをする
「……香太」
「どうした?」
「……そんなに見てても、何も変わらないよ?」
こちらを見つめる
黒褐色の瞳
「目を離すなって言われてるからな」
「……そういう意味じゃないと思うんだけど……」
下がる眉
本を静かに閉じる
「香太、一つ、お願い聞いてくれる……?」
彼の瞳を真っ直ぐ見つめ返す
開かれる目
「なんだ?……俺にできることだったら言ってみろ」
「……えっと……ココアが飲みたいんだ。香太がいつも淹れてくれる、あの甘いココア……」
動きが止まる
「ココア?」
首を縦に振る
「……だめ、かな」
珍しい頼み
カップ一杯のココア
「……」
香太の眉が徐々に寄る
彷徨い揺れる瞳
「……無理、だよね。……ごめん」
視線を外し、落とす
気づかれないように唇の内側を噛む
本を持つ指先が微かに震える
「……仕方ねぇな。相棒の頼みだからな。……龍也に怒られるかもしれないが、そうしたら一緒に怒られてくれよ?」
頭を上げ、香太を見る
寄せたままの眉
頭を掻く
その口元は緩んでいた
「すぐに戻ってくるから、どっか行こうとするなよ?」
立ち上がり
念押しするように言う
「……もちろん」
リクの声を聞き
くるりと背を向け
香太は部屋を出た
……猶予は、百八十秒
僅かに鼓動が速くなる
――
ドアが閉まった
――残り百五十
袖口の縫い目
僅かな綻び
微かに震える指先で
糸を解く
落ちた極小の銀のケース
入っていたのは
小さなカプセル
口に含み
無理やり飲み込む
「……っ」
喉に残る違和感
――九十
ケースを戻す
その時……
部屋の外から音がした
……?!……早すぎる
急いで糸を始末する
プツッ……
……――ガチャ
枕に散るアッシュブロンドの髪
「戻ったぞ!大人しくしてたか?……おい、大丈夫か?」
香太の声が部屋に響く
「……大丈夫。……早すぎ」
「はは、急いで戻らないとって思ってな!……ほら、いつも通りチョコ多めにしておいたぜ」
香太の緩んだ目元
少し弾んだ呼吸
「そんなに急がなくても大丈夫なのに……」
一息つき
身体を起こす
左耳のピアスが煌めく
「龍也に見つかってもやばいだろ?それに、朝のうちに準備だけしてあったんだ」
差し出された甘い香り
本をよけ
受け取る
「……流石、香太だね。……ありがとう」
触れたカップの熱は
少し熱すぎた
窓の外
上がった通り雨
雲の隙間から差す天使の梯子
飴色の光が部屋を満たした




