過保護な監獄の朝食(後半)
EP14
優しいコンソメの香りが漂う
ゆっくり
ゆっくり
スプーンが静かに運ばれる
最後の一口が無くなる
空になったスープカップ
残った余韻
「……ごちそうさまでした」
小さな声が零れた
気づかれないように
息をつく
ふと顔を上げる
香太と目が合う
眉が緩んでいた
「完食したな」
龍也の声
そちらを見る
その手には、ポータブル心電計と血圧計
「バイタル確認する。服、脱げ」
「……えっ、今?」
僅かに跳ねる肩
スプーンが音を立てた
眉が寄る
……まずい。……今、精密な検査を受けたら……『中程度』の波形がバレる
「今だ。文句言うな」
淡々と告げられる
「リク、頼む……受けてくれ」
心配が隠しきれていない香太の声
「……えっと、……食べたばっかりだし……」
眉を寄せ
困ったように伝える
龍也は少しだけ考え
「……じゃあ、五分後だ。いいな」
そう伝えると、答えを待たずに準備を始めた。
リクはその様子をじっと見つめていた
……昨日、自作薬を服用してから今までの時間を考えて……。効果消失まで、あと二百四十分。
今から検査を受けて、多少の誤差を含めても……「薬無しの素の状態」より、不自然に整い過ぎているかもしれない……
香太の手がリクの手を取る
不意の温もり
微かに震えた手
フォグ・グレーの瞳が香太を見る
一瞬、演算と呼吸が止まる
「リク、頼むから黙って受けてくれ。……お前が倒れていたのを見つけたとき、もう二度と目を覚まさないんじゃないかって……」
底の見えない闇に怯える黒褐色の瞳
水面のように揺れていた
僅かに乱れた計算
……ぁ
アッシュブロンドの前髪が顔を隠す
……無理だ……
「……わかった。……ちゃんと、受けるから」
顔を上げ
小さく頷く
視界に映る
香太の頬
微かに緩んだような気がした
「じゃあ、検査する。……悪いが、みんなは部屋の外で待っていてくれ」
準備を進めながら告げる
「わかった。終わったら呼んでくれよ?」
「わかってる。いいから外で待ってろ」
扉が閉まる
静かになる部屋
「ボタン外して、横になったら教えろ。……ほら。タオル」
大きめのタオルを受け取る
龍也は準備に戻る
「……わかった。……ありがと」
シャツのボタンを外し、横になる
「……いいよ。お願いします」
「少し冷たいかもしれないが、許せ」
龍也は迷いなくシール電極を貼り付けていく
機械の無機質な音が響く
モニターに映し出される波形
露わになる「中程度」の歪み
波が流れるにつれ
龍也の眉がきつく寄せられていく
「……お前」
地を這うような低い声が響く
「……そんなに、良くない……?」
零れた弱いリクの声
凍てつく熱に揺れるボトルグリーンの瞳
「……この状態で、『大丈夫』って言ってたのか?……しかも、今まで出してたバイタルデータ……書き換えてたな?」
声が震えていた
不安定な波形が流れていく
「リク、お前が俺の本を読んでいたのはもちろん知っている。……だがな、お前は医者じゃない。知識があっても、管理できるかどうかは別なんだよ。……この波形……もうあんな市販の安薬でどうにかできる次元じゃねぇ」
フォグ・グレーの瞳が彷徨う
震える唇
微かな声
「……ごめんなさい」
龍也は軽く目を閉じ
息を吐く
「……ひとまず、服を着ていい。みんなを呼ぶぞ」
外された電極
手際よく片づけていく背中
「……うん」
その指先が震えていたのを見逃さなかった
……ごめんなさい。龍也……
ボタンを閉める指先に力がこもった
――
部屋を覆う
重たい空気
モニターに映された波形
「龍也、リクは、大丈夫なのか?」
香太の震える声
龍也を真っ直ぐ見つめた黒褐色の瞳
「……良くない」
「良くない……って。」
龍也は俯くリクをちらりと見る
「いくらこいつに知識があったとしても、それだけで管理できることじゃない」
布が擦れる音が響く
「……ごめん、なさい」
アッシュブロンドの隙間
消え入りそうな声が落ちた
入口のそば
春はブルーグリーンの瞳を細め
淡々と告げた
「――もう、無理はさせない。リク、あなたの心臓を私たちが管理してあげるわ」
――それは絶望的な宣告だった




