過保護な監獄の朝食(前半)
瞼が震える
ゆっくりと覗くフォグ・グレーの瞳
見慣れた自室の天井
淡い黄白色の光が筋を作り
積まれた本を照らす
色が……ある……
ゆっくりと頭を動かす
八を指す、時計の短針
……起きないと……
「……ぁ……」
身体を動かした
――瞬間
不規則に跳ねる鼓動
詰まる息
僅かに上がる呼吸
沈む身体
触れる左耳のピアス
冷たいそれを握りしめ
目を閉じ
自分自身に言い聞かせる
……大丈夫……いつもの。……大丈夫……
静かに開かれた瞼
ふと、前夜の事を思い出す
暴かれた「安薬」、あの夜……
唇を軽く噛む
頬が微かに熱くなる
(……――安薬を没収された今……自作薬を飲む隙が作れるかな……)
軽いノック音が響き
扉が開く
「……起きたか、大馬鹿野郎」
ピアスから離れる手
低い声が落ちる
気怠そうなボトルグリーンの瞳がこちらを見る
その手には湯気の立つスープカップ
その背後
眉尻が下がった香太と茘枝、春も顔を出す
漂う柔らかなコンソメの香り
「……みんな……おはよう」
リクはゆっくり、身体を起こす
一瞬、視界が揺れる
気づかれないよう
俯き
奥歯を噛み締め、やり過ごす
時計を見る
「……あの、……仕事は……」
額に衝撃が走る
指先で弾かれる
「仕事?そんな単語、今の俺の耳に入れるな。……手首、出せ」
手を差し出す
龍也はその手を取る
手首に指が触れる
微かに伝わる震え
「……まだ不安定だな。茘枝」
「おうよ」
茘枝は手に持っていたクッションを
ベッドの背もたれとリクの間に入れ
華奢な肩を掴む
逃げられないように固定した
「……茘枝?……逃げないから、離して」
「すまんな、龍也に頼んでくれ」
眉を寄せる
「……えっ……と」
「春さんの特製スープを食べ終わるまでは駄目だ」
龍也がスープカップを差し出す
優しい香りが湯気とともに立ち上る
「リク、私特製・滋養スープを完食するまでは、部屋から出ることは許さないわ」
声のする方を見る。
穏やかな笑みを浮かべる春
しかし、瞳の奥にあるのは冷徹な守護者のそれ
リクだけが知る「所長」の姿
「……春さん……俺、そんなに――」
(……そんなに「重症」じゃないんだ……自分が一番わかってるよ)
紡ぎかけた言葉を飲み込む。
視界に入った香太達の顔。
あまりに必死で、余裕が消えていた。
「……飲むから。……スープ、飲むから」
色の抜けた白い手で
カップを受け取る
スプーンを握る
その時
香太がベッドの端へ腰を掛ける
香太と目が合う
緩まない眉間
目の下の隈
心配を湛えた瞳が、微かに揺れた
「リク、お前が一口食うまで、俺も茘枝も龍也もこの部屋から一歩も動かないからな」
静かに紡がれた言葉
滲む憔悴と不器用な執着
……逃げられない
「……」
視線をスープカップに落とす
……今は、だめだ……。
食べやすいサイズの野菜
黄金色の水面が揺らぐ
……これ以上、みんなを、怖がらせちゃだめだ……
震える手で
一匙掬う
鼻腔をくすぐる優しい香り
「……いただきます」
黄金色のスープを口に運ぶ
広がる甘みと熱
優しさが染み渡る
僅かに狂う鼓動
計算外の温もり
「……美味しい」
零れた言葉
部屋の空気が解けた




