閑話『距離の掴み方』
スッ……
ここで、右脚
タン……
左脚に重心…で蹴る
タッ……
オレンジの光と
少しの汗の匂い
他の誰もいない地下訓練場
呟きが落ちる
「……ここをこうするんだっけ……」
……三、二、一……――ここ
ふわりと踊るアッシュブロンドの髪
模擬標的の喉元
突きつけられた
フェイクナイフ
少し上がった息
眉を寄せ
先程の動きを反芻する
……重心が違う
幼く小さな影が
静かに踊る
息遣い
力の込め方
足の運び方
最適解を求めて
何度も
何度も
ただ、静かに繰り返される
――
事務所に来て、数カ月
教練の日々
数日前から始まった仕事
周囲から送られる視線
気にしている暇はない
夜。
誰もいない訓練場
役に立つための訓練
目を閉じ
左耳のピアスに触れる
呼吸を整える
開かれた目
感情を押し込めた
静かな瞳
息を吸う
踏み込む右脚
吐く
……五、接敵
左
右
左
右
一……
一閃
……次
倒れる模擬標的
……
次の一歩を踏み出した
――刹那
「そんなに無理すんなよ?まだ本調子じゃないんだろ?」
背後から掛かった
声変わり前の明るい声
「……!?」
肩が跳ね
重心が崩れる
……ぁっ
左……
ここで、捻る
突く
……二
右
振り返る
そこにいたのは
笑顔の似合う
”相棒になる予定”の少年
「あ……、……はい」
「わりぃ、わりぃ、驚かせちまったな」
片手をひらりと上げ
ベンチに歩みを進める
濡れ烏の長髪が軽やかに揺れる
少年は周囲に視線を走らせ
こちらを真っ直ぐ見つめる
「今の動き、かなり良かったと思うぞ!」
屈託のない、眩しい笑顔
単純で
温かな肯定
咄嗟に目を逸らし
俯く
アッシュブロンドの髪が顔を隠す
「……ありがとう、ございます」
零れた声
黒髪の少年は
僅かに口角を上げた




