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—鴉の夜—  作者: こんぺいとう
第三章 白銀の境界線
26/43

硝子の矜持と、繋ぎ止める手

EP11

1.鴉《からす》達の夜


『香太、茘枝《れいし》、どう?』


『配置《ポジション》ついたぜ』


『俺も完了だ』


叩きつけられる粒

踊り、跳ね回り

音を奪い尽くしていく


肺を満たす水の粒子

膜に覆われる景色


『……了解。香太、茘枝。前方薬品タンク裏、敵五、二階階段、狙撃手二』


むき出しの配管

打ち捨てられた空の薬品タンク

縫うようにつながる足場


闇に溶ける三つの影


深く被ったフード

水の粒を弾く


『カウントで香太が突入、茘枝、二階制圧。いける?』


フードの下

右耳のインカムを押さえる


『おう』


『問題ない』


迷いのない声が届く


目を閉じる

息を吸い――


感じるリズム


――吐く


……大丈夫。


瞼を上げる


『……三、二、一、行け』


二つの影が地を蹴り

闇から飛び出す


同時に振りかぶり、投げつけられる

閃光


一つは配管の迷路を辿り

一つはタンクの隙間を抜けていく


怒号が上がる

すぐにかき消される悲鳴


香太のタクティカルナイフが鈍色の閃光を放ち

しなやかに駆け回る


二人の狙撃手が香太を狙う

引金に指が掛かった


瞬間


――カチン


跳ね上がるサイレントリボルバー


静かな声


『……右、無力化』


同時に煌めく白銀の刃


フードの下から覗く赤毛


『左も無力化した』


崩れ落ちる二人の敵

引き金は引かれない


『二階、制圧完了。合流する』


『茘枝、了解』



――



するりと配管から配管へ移動する小柄な影

香太の死角から現れた敵


跳ぶ

同時に袖口からメスとナイフを滑らせ

勢いのまま

急所を捉える


『香太、右三、正面四。茘枝、四は背後から突破して』


赤い華が散る

地面を蹴る


『『了解』』


奥、三。まずは手前……


弾む呼吸

……止める


煌めく一閃


……二


円を描く白銀の線


……一


僅かに上がる水飛沫

落ちる雨粒



『『制圧完了』』




2.算出された「居場所」


事務所の資材置き場

駐車場から直結する場所


遠くに聞こえる不規則でにぎやかな音


「よく降るな」


「……そうだね。茘枝、これ」


救急セットを手渡す


「ありがと。……補充はいらないな」


「……うん」


下ろした手


手首を軽く掴む

その指先は

袖口裏の僅かな膨らみに触れる。


(……計算通り。誰も、傷つかなかった。……これでいい)


「……」


救急セットを片付けながら

気づかれないように隣のリクを見る


アッシュブロンドの髪で表情は上手く見えない

僅かに伸びた背

ぶかぶかの服


髪が揺れる


「……茘枝」


小さな声


「どうした?」


俯く

零れた銀灰色の髪が更に顔を隠す


「俺、ここにいてもいいのかな……」


落ちる静寂


リクを見る

左耳のピアスに触れる白い指先


ふっと笑いが落ちる

僅かに眉を寄せ、頬が上がる


リクの頭に手を載せる


「何言ってるんだ、リク。ここはお前の家、だろ?」


そのまま、アッシュブロンドの髪をワシャワシャと撫でる


「……茘枝、髪、やめて……!」


止めに入る白い手。

それでもやめない、大きな手


「ははは!末の弟分が寝ぼけたこと言ってるからだ」


キッと見上げるフォグ・グレーの瞳

軽く受け流す


手を止め、華奢な肩にその手を置く


「……リク、お前がどこへ行こうとしても、お前は俺達の家族だ。どこまでも追いかけてやるよ。春さんに言われただろ?」


フォグ・グレーの瞳が揺れる


「……なにそれ。茘枝、それ、誘拐だよ」


「ははは、だな」


アッシュブロンドと赤毛が静かに揺れる


遠くで二人を呼ぶ声が聞こえた気がした




3.約束の続き



「リク!茘枝!終わったか?」


資材置き場の扉が開く

香太の声が空間に響く


「今終わったところだ、どうした?」


「よし!……飯、行こうぜ!龍也も一緒だ。」


叩かれる手

弾む香太の声


「……ん、いいね。お腹すいたし」


「四人で行くのは久しぶりだな」


「だろ?今日は、オムライスだ!」


茘枝は、引っ掛けていた二人分の上着を手に取る


「いつもの?」


「そう!」


資材置き場の電気が落とされた



――


深夜の街に溶け込む裏路地の喫茶店

扉を開ける


琥珀色の柔らかい光

蓄音機から流れる静かな調

漂う珈琲と優しい酸味の香り


「おやじ!四人、席空いてる?」

「香太か、いつもの場所空いてると思うよ」

「ありがとさん」


カウンターの奥から響く店主の声

隅のボックス席

腰を下ろす


珍しく他に人はいなかった。


「……オムライスで。今日はデミグラスソースにしてみようかな」


「お、いいな。俺も同じのにしようかな」


店主が人数分の水を置いていく。


「お前ら、メニュー見るか?」


「……大丈夫」


「大丈夫。決まった」


メニューを閉じる


「……だと思った。俺、ノーマルで。珈琲も頼む」


「俺はホワイトソースで。食後に珈琲もつけておいてくれ」


「はは、メニュー見といて、結局みんなオムライスだな。了解」


香太は席を立った。



――


「はいよ、お待ち。オムライス四つだ」


鼻腔をくすぐる、バターとソースの香り。

黄金色の曲線を描く。


「冷めないうちに食おうぜ!」


各々スプーンを手に取る。


「「「「いただきます」」」」


黄金色の膜が弾ける






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