最適化の代償と、算出された「居場所」
EP.10
1.ゼロ・リスクの追求
デスクに散らばる無数の紙
放り出されたペン
数式と線が描かれたメモ
「……これで大丈夫、かな」
どこかの図面データ
香太と茘枝の癖を重ねた
複数のシミュレーション
波が映し出された端末
冷たく見つめる瞳
ふと、窓の外を見る
突き抜ける青と白の綿
羽ばたく鳥
目を細める
……大丈夫。
――
「ここはどうする?」
「そこは茘枝にお願いしたほうがいい」
「了解」
温かい湯気が立ちのぼるマグカップ
綺麗に整ったデスクの上に
三つの端末
「これ。次の任務先の図面とシミュレーション内容」
白い指が画面を滑る
「ありがと!」
「確認しておく」
香太と茘枝はさっと内容を見る
「……香太、次の任務、三秒早く突入して。被弾確率0.02%まで下げられる」
「三秒だな?ははっ、相変わらず細かいな!了解!」
笑いながら叩かれる肩
軽い衝撃が伝わる
静かに受け流す
「……茘枝もいける?」
茘枝のヘーゼルの瞳を見る
柔らかな眼差し
「あぁ。問題ない」
「じゃ、それで」
マグカップを取る
冷えた指先
そのぬくもりは
――少しだけ熱すぎた
――
自室のデスク
山積みにされた本
端末の波
その目に映るのは波ではない
脳内に絶え間なく流れる
化学式と数式
算出された
引きの最適解
小さな遮光瓶と銀のケース
証拠は何も残らない
誰一人として傷つけさせない
2. 春の試験と、成長の証明
「……」
地を蹴る
踊るアッシュブロンドの髪
最短距離で移動する
一…
二…
メスとナイフが白銀の線を引く
次々に床に転がる
模擬標的
三…
流れのままに滑り込む
キィィィン……
響き渡る金属音
ふわりと舞う
金の糸と白銀の糸
「……」
「……っ」
タクティカルナイフがメスを受け止める
静かなフォグ・グレーの瞳が
春の喉元を見つめていた。
春は一つ瞬きをする
ふっと息が零れた
「合格よ」
冷えた空気が霧散する
降ろされるメスとタクティカルナイフ
「ありがとうございました」
「ええ。……無駄な動きが無くなったわね」
お互いの獲物を仕舞う
「……力で勝てないなら、流れで止める。春さんの教え通りにやっただけだよ」
春のブルーグリーンの瞳を見る
まっすぐ受け止められる
「ええ、そうね。……あなたのその、『演算』を支えているのは…」
「それ以上はだめだよ、春さん」
遮るように落ちた、低い声
フォグ・グレーの瞳の温度が下がり
僅かに揺れる
「安全は、確保してる。……それに、俺はみんなの足手まといになりたくないだけ」
「……本当に?」
「……うん」
一瞬の静寂
「……ねぇ、春さん。道具が壊れたら……その時は、迷わず切り捨てて」
空気に溶けるほど微かな声
春は無言でリクに歩み寄り
両手で白い頬を挟む
「……リク、あなたが『引く』判断を下したときは、私が背中を押すわ。でもね……勝手に『消える』計算だけは、しないでちょうだい。……これは、所長命令よ」
鋭いブルーグリーンの瞳
リクは眉を微かに寄せた
「……了解。……努力するよ」
春は静かに息を吐き
頬の手を離した。




