凍てつく境界線
EP9
――
任務:敵対武装集団からの[新型信号妨害デバイス]の奪還
――
無数の線路。
整理されたコンテナ。
闇夜に浮かぶ貨物ターミナル。
併設された事務所の一つ
出入りする人影
無数に咲く透明なクラウン
地面を透明の粒が跳ね回る
『リク、いつでも行けるぞ』
右のインカム越しに聞こえる香太の声
雨音が音を掻き消そうとする
インカムを軽く押さえ
『了解。俺も行ける』
一つ瞬きをする
前を見据える静かな瞳
「……カウント、三、二、一、開始」
跳ね上がる泥水
深く被ったフード
コンテナの影を縫う二つの影
【Zwei ratten krost. (鼠が二匹だ) 】
【……Quat’s theor prai? (狙いは?)】
【Elimin morta...Rekts, Scharf bereit! (殺るぞ……右、狙撃準備だ!)】
左から聞こえる複数の言葉
目を細める
『香太、狙撃来る』
『了解』
駆ける
駆ける
濡れる裾
身体を弾く水の粒
【Sicht zi! Zielt a kranius! (居た!頭を狙え!)】
『上、注意』
……三、二…
僅かに沈む身体
貫かれるコンテナ
そのまま駆ける
右
左
右足が地に着く
……っ!?
歪む世界
欠落する色
片頬がぴくりと動く
奥歯を噛み締める
漏れ出る空気
白くなる視界の端
急速に痺れる末端
前に出る左足
視線をずらす
零れる酸素
コンテナの影
香太の視界から消える
――コンマ数秒
酸素を出し切る
袖口を口元に寄せ
深く吸い込む
送り込まれる薬剤
震える指先
『そろそろ目標地点だ』
『……了解』
飛び越えるレール
右へ
左へ
踏まれるクラウン
闇から
闇へ
――消える
――
透明な糸の滝が降り注ぐ
漏れ出る光の筋
するりと建物に忍び込む二人
武装した人影はない
【Per morta zi…! Wo sint krost?! ( 見失った……!どこだ!)】
「香太、まだ気づかれてない」
【Cerca zi! Nul-leave livin'! (探せ!生きて帰すな!)】
「じゃあ、さっさと終わらせちまおう」
小さく頷き
端末を開く
青白い光がフォグ・グレーの瞳を照らす。
端末の上を滑る白い指先
静かな眼差し
「セキュリティ掌握。敵位置、把握」
端末を閉じ、仕舞う
フードをさらに深く被る
「よし、行くか」
前を行く香太の背
フードの中からそっと見つめ
視線を外す
冷え切った、痺れの残る指先
気づかれないように
握りしめた
――
死角に潜む二人
端末を叩く
動き回る十五の赤い点
「中に十五……ロック解除」
「任せろ」
落ちる声
扉を開ける
武装した集団
投げ込む『乱層雲』
立ちのぼる黒灰の煙
叫び声
怒号
奪われた視界
混乱する敵
飛び込む
黒の長髪
扉の外
見送る小柄な影
『直線、次、左。その先、五歩右。』
……トントン(了解)
『目標、銀の箱。……箱セキュリティロック、解除』
……。
……トン(完了)
『了解』
端末の上を踊る指
散らばる赤い点と滑る緑の点
演算される帰り道
『左右に五ずつ、三歩右、回避』
盤上を迷いなく進む緑
『直進……次斜め左、そこ』
緑の点が部屋から飛びだす
現れた見慣れた影
踊る黒髪
「帰還!」
――
車窓を叩く粒
道を照らす外灯
窓に映る相棒
流れる景色を見つめる瞳
頬杖をつく白い横顔
「それにしても今日は寒かったな。リク、大丈夫だったか?」
「……大丈夫」
視界に入る
微かに震える指先
「……。ならいいけど。……腹減ったな。帰ったら飯行くか?」
「……俺は、パス。寝る」
アッシュブロンドの髪がかかる目元
「今日はつれなかったな、香太」
静かな茘枝の声
「だな。今回の任務はだいぶハードだったし」
「そうだな。それに時間も時間か」
車内を満たす談笑
隠された瞳
触れた左耳のピアス
(……いつか。その時まで)
握りしめる
――完璧な相棒でいるために




