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不感の臨界(デッド・エンド)、白き空白

第2章 EP0


黄金色のスープの熱

柔らかな毛布


溶ける演算


――深い眠りに落ちる、


視界の端


白い華がちらついていた――




1.凍てつく境界線


――三年前


白い吐息

奪われる熱


塩の結晶が混ざる風

雪の匂いが

金属の刃となって鼻腔に刺さる


ちらつく白い華


コンテナの迷路

落ちる黒影

差し込む白色の光

闇に潜む二人



「さむ……」


白い指がネックウォーマーを引き上げる 

温かい吐息

少しだけ温まる指先


「大丈夫か?」


落ちる声

隣から伝わる熱


「……ん。平気」


かじかむ手をポケットに戻そうとした

その時


香太がその手を掴み

自分のポケットに引き入れる

肩が小さく跳ねる


「我慢するなって。……ほら、これ」


指先に当たるのは

熱を持った予備のグローブ


「……ありがと」


かろうじて届く声

緩む目元

握りしめたそれ


「おう」


指先の震えが止まった。





2.冷徹な盤面(ボード)


『香太、……左』


闇に青白い光が灯る

青灰色に光るアッシュブロンド

端末の画面を滑る細い指

白い息


『三、二、一……今』


静かに叩かれた画面

沈黙する監視カメラ

解錠する電子ロック


『……角、二。右が銃を持ってる。静かに……。動けなくするだけでいいよ。』


『了解』


影がひらりと飛び出す。


「――?!」


音はない


静かに崩れる2つの人影

靡いた長い黒髪が落ちる


『……リク、お前、透視できるんだろ?』


冗談混じりの声が聞こえる


『……なにそれ』


眉を僅かに寄せる。

画面を一つ叩く。


『対象セキュリティ、無効化完了(オールクリア)。そっちに行くね』


『了解、気をつけろよ』


端末をしまう

フードを深くかぶり直し

闇を縫うように

移動する


――


白い蛍光灯

白灰色の鉄の扉

木箱の山


木箱にもたれた見慣れた影

ひらりと振られた手



静かに開かれた扉

二つの影が滑り込んで消えた




3.演算の断絶


「……静かに、な」


言葉一つ上げずに落ちる敵



「次……止まって」


重厚な扉

解錠されてるロック


拠点の最深部

演算の終着点

狂いはない


「――行こう」



――


コンテナだらけの見慣れた景色

曲がり角


音はない

何一つ


首筋に走る衝撃


「――」


気づいたときには闇の中

低い位置で結われた黒髪が踊る


闇から闇へ


蜘蛛が巣に掛かった獲物を

捕食するように



――



「――!―――!!!」


錆びた配管

足元に見える

混乱し声を上げる男


目標(ターゲット)確認……片づけるね』


空気に溶ける声が届く


コンテナの影

小さな姿


『了解』



視界の端

小さな


――違和感



――



頭を掻きむしり

叫ぶ男

耳障りな声


コンテナの影から飛び出す

フードの下のアッシュブロンドが揺れる

袖口の獲物に指が触れた

その時




「あぁ……あぁぁぁぁ!!」


届いたノイズ


男の手がポケットを探る

握られた

小さな(スイッチ)


濁った瞳

視線が合う


「――っ!?」


不気味に上がる口端

獲物を捉えた狂気の眼


咄嗟に逆方向へ反転する


小箱を持った手が上がる

そして



「あ――」



――止まる

動きが

音が

演算が


小箱が叩きつけられる


蛍光白が覆う

背後から迫る衝撃波



眩しさに目が眩む


……間に合わない


収束する数字


無意識に触れた左耳のピアス




「――リク!こっちだ!」


引き寄せられる右腕

視界が反転する

熱に包まれる



ドォォォォ――!!



フードが外れる

黒髪とアッシュブロンドの髪が混じる


砂塵が

鉄粉が

金属音が

二人を包み込む



音が戻る


「……大丈夫か?」


頭上から声が落ちる

その腕は僅かに震えていた


「怪我は、ないか?」


心配する声。


見上げた

埃にまみれた、いつもと変わらない笑顔。


――その後ろ

背後のコンクリートの壁

深く突き刺さった

微かに震える

巨大な金属の破片



見開かれたフォグ・グレーの瞳

ヒュッ、と喉を鳴らすように息を飲む

呼吸が止まる


……あと……数センチ。数センチずれていたら――……


心臓のリズムが狂いだす。


色が

音が

温度が

……消えた


「……リク?」



――ぷつり




4.虚空の眼差し、剥き出しの脆さ



「   」


見開かれたフォグ・グレーの瞳の奥

色が抜け落ち

消えていく


「……おい、どうした?」


視線が合わない

浅くなる呼吸


「しっかりしろ!」


腕の力を強めようとした……

が、リクはその腕からすり抜けた



――



空白


痺れる指先

感覚が消えた


わからない


酸素が足りない


「   」


うるさい呼吸音

入らない


頭がぼやける

痺れる

痛い


……だめ、やめて


来ないで


まとわりつく黒くて重い空気


寒い

嫌だ……


視界が赤く染まった



香太の腕をすり抜ける




ぐちゃぐちゃな数式


汚い


――Error


「……目障りだ、消えて」


誰にも届かない零れた音


踏み出した一歩





5.無感の解体、逃げ惑う「影」



穴から舞い散る雪

音はしない…


闇に沈む剥き出しのアッシュブロンド

白い華が落ちて

消える


浅い呼吸

白くならない息


沈むフォグ・グレー


汚れた数式を目指す


袖口に煌めく白銀の刃

握り締める


白い顔


開かれた扉

外に出る


「待て!行くな、リク!!」


香太が手を伸ばす

届かない


そのまま外へ滑り出る


――



コンテナの迷路に差し込む白い光

雪の華が落ちる

銀灰色の糸が煌めく


光が照らす道を

小柄な人影が進む


殺意も

憎しみもない


あまりに静かで

何も無い



生き残った残党

その姿に立ち尽くす


――目が合った


「……っ」


あまりに綺麗な静寂


一歩

また一歩

後ずさる男たち


構えることを忘れた銃を持つ手が震える


「……来るな、来るな――!!」


閃く白銀

踊るアッシュブロンド


音もなく

流れるように肉薄する


指。

腕。

膝。


撫でるように

機能を止める


「……逃げろ……嫌だ、来るなぁぁ!」


恐怖に歪む顔。

銃を放り出し、逃げ惑う男


視界に映る銀灰色の髪


「……逃げちゃ、だめ」


「――!?」


叫び声は上がらない

白銀の一閃が

音の元を事務的に解体していく


汚れひとつない

あまりに完璧で

あまりに悲しい「掃除」だった。



6.システム・ダウン


光の筋が差し込む隙間

最後の一人が崩れ落ちる

静寂が戻る


立ち尽くす

風がアッシュブロンドの髪を揺らす


……ノイズ排除、完了。

感情、復旧……拒絶……Error…


手から落ちるメスとナイフ

急速に視界が白く染まる

震える身体


「――リク!もういい!戻ってこい!」


香太が駆け寄る。

その肩に触れた

その時


フォグ・グレーの瞳から光が消え、瞼の下に隠される。

そのまま、糸が切れたように崩れ落ちる。


「おい!?リク!?」


間一髪で抱きとめる。

腕の中のリクは、意識を失ったまま、小さく震え続けていた。

その身体は驚くほど軽くて冷たかった。



7.相棒の誓い


「リク、しっかりしろ!」


白い華が舞い散る中

香太は、リクを強く、強く抱きしめる。

自分の熱を分け与えるように


「俺はここにいる!……熱いだろ!」


伝わる熱

微かにリクの指先が動く。

浮上する意識


……こうた?……いきてる。……生きてる、……よか、った……


「……ぁ…、……ぅ……」


微かな泣き声

震える手が、香太の服を力いっぱいギュッと掴んだ


とめどなく零れ落ちる透明な雫

恐怖が落ち着くまで止まることはなかった



――


翌朝

医務室のベッドで目を覚ましたリクは、昨夜の「殲滅」の記憶をほとんど持っていなかった。


リクが目覚めるまで、香太は一睡もせずにその手を握り熱を伝え続けた。


「……リク、二度とあんな風に一人で消えようとするな」


握る手に力を込める。


「俺はどこにも行かない。ここにいる」


リクは、その手をそっと握り返した。




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