真珠の牙、亡国のスナイパー
第二章 EP.4
星屑が黄白色の光に隠される
土と水の匂いが漂う高台
地に伏せた一つの影
朝露が落ちる
―――トッ
葉が静かに揺れていた
1. 計算された静寂
画面に並ぶ文字
―――
目標:亡国の崩壊に関与した『海斗王国』の極秘軍事施設
任務:略奪された機密データの完全消滅、および施設動力炉の物理的破壊、機能停止
―――
「「……」」
青白い光が二人の顔を照らしていた。
「いけるか?」
「……うん」
……作戦開始まで、残り十二時間
――
星が散らばる空
夜風が頬を冷やす
『……地点到着』
『……了解。俺も待機地点到着』
目標から一キロメートル。
少し開けた丘の頂
(……湿度四十五、風速三.一……誤差の範囲)
リクは右頬を銃床にゆっくり預ける。
スコープの先にあるのは、弾道の軌跡予測。
(標的……右二、上三)
何もない虚空に固定された照準。
――通信機から届く声。
『リク、外周センサー残り二。……龍也なら「帰りてぇ……」って飽きてるところだぜ』
僅かに緩む目元
『……ん。龍也の代わりにはならないけど……。香太の歩く道に、塵一つ落とさせないよ』
『心強いな、相棒』
通信機の向こうの笑顔が見えた
空が白み始める
アッシュブロンドの細い束が銀灰色に輝いていた。
……残り十分
2. 狙撃と潜入:死の弾道
風が駆け抜ける
弄ばれる白金の糸
息を吸う……
……吐く
ゆっくり、落ち着かせるように…
銃床に預けた頬
微かに動く前髪
引き金に指をかける
――風が止まる
ゆるり
瞼が閉じる
……息を止める
瞬間
瞼が上がる。
遠い目標を射貫く
白灰の鋭い輝きを秘めたフォグ・グレーの瞳
細い指先に力がこもる
更に白くなる
―――トッ
反動で僅かに後退する身体
頬が少し耳側に引っ張られる
鎖骨の僅か下の窪み
銃床が食い込む
反動とともに銀灰色の束が
ふわりと跳ね
揺れ落ちる
チャリ……
息を吸う
吐く
―――トッ
……
―――トッ
硝煙の香りが土に混ざる。
――
朝日を浴びた監視塔
衛兵は声を上げる暇なく崩れ落ちた。
外周センサーの制御盤も物理的に
静かに無力化されていった。
『……オールクリア』
『了解。……相変わらず、気味がいいほど正確だな』
ライフルを仕舞い、背負う
『そうかな……合流するよ』
フードを深く被り
そのまま崖を滑り降りていった。
――
「お疲れさん」
香太は壁にもたれながら、ひらりと手を振る。
「……ん。……少し遠かった」
「はは、意外と距離あるもんな。動けなくなったら、担いでやるぜ?」
「……遠慮しておくよ」
二人は重厚なセキュリティドアの前にいた。
周囲には無力化された人影が倒れている。
リクは、小型のハッキング端末を取り出し、接続する。
「……これ、真珠王国の暗号化アルゴリズムを流用してる」
指先が淀みなくキーを叩く。
数万の乱数が画面を駆け抜ける。
――数秒後
「ACCESS GRANTED」
緑の文字が現れた
「……開いたよ」
3. 狭間のダンス
メインサーバー室の目前。
狭い通路
蛍光灯が割れる
『海斗』の精鋭部隊
至近距離での銃撃戦
「侵入者だ! 殺せ!」
憔悴混じりの怒号
響く銃声
落ちる金属音
抉れる壁
「リク、出てくるなよ?」
振り返らない。
冷え込む黒褐色の瞳。
水平に構えられた愛銃
落ちる撃鉄
迷いのない指先
繰り出す速射
「……!……香太、上」
直後
斜め後方の通気口
音もなく躍り出てくる敵
鈍色に煌めくナイフ
その目標はリクの首
腰のホルスター
流れるようにサイレントリボルバーを引き抜き
撃つ
勢いのまま崩れる敵
飛んできたナイフをリボルバーで弾き飛ばす
「……残り三」
袖口からナイフを滑り出させる
「……香太に近づかないで」
地を蹴る
敵の懐に潜り込む
白銀が閃く
一人
返す刃
二人
……三人
無音の撃鉄
「無茶すんなって言っただろ!」
香太のタクティカルナイフが煌めく。
リクを狙っていた別の敵が沈む。
「……大丈夫。香太の動きは計算に入ってるからね」
――
メインサーバー室
硝煙と血の匂いが混じる
メインサーバーに「毒」を仕込んだデバイスを突き刺した。
自己増殖型ウイルスがサーバーを内部から破壊していった。
4.安堵の体温
「これで完了だな」
「うん……後、五秒」
敷地の外
一歩、踏み出した。
その時。
背後から爆風と地鳴りのような重低音が響いた。
故郷を焼いた者たちを焼き尽くす。
「「任務完了」」




