第82話 召喚魔術
魔人を全て倒し、残るは魔物の残党とドラゴン2匹。
魔物の残党なら下にいる皆に任せて大丈夫そうだな。
ただ残った2匹のドラゴン。
奴らは利口だな。
ステラの霧ブレスで視界を奪われた際、霧の範囲外へと避難するようにすぐに行動を移した。
ここから先、奴らは霧ブレスを警戒して遠距離からブレスを放ってくると予想される。
『貴様!!ドラゴン族のくせに人族に味方するとは…!!裏切り者め!!』
ドラゴンが魔人語で語りかけた。
『私は選んだのです!真に使えるべき主が誰なのかを!!』
『それがその背に乗せている人族というわけか……!!愚かな裏切り者!!』
『愚かだといくらでも笑っていただいて結構。その愚かな私によって、あなた方は良いようにやられているというわけですわ。』
『……貴様……!!』
ステラに煽られたドラゴンが氷のブレスを放ち、巨大な氷柱がいくつも降り注ぐ。
ステラはそれをヒョイと躱し、軽く余裕を見せつけた。
『遠くからでしか攻撃できないのでしょうか?私が裏切り者ならば、あなた方は臆病者ですわね!』
良い煽りだ。
相手さん、かなりイラついてただでさえ怖い顔のドラゴンなのに眉間にたくさんシワを寄せてお怒りのご様子。
とはいえ相手が感情に任せて突っ込んでくるとは思えない。
ここは1つ、こちらも遠距離攻撃といこうじゃないか。
俺は刀を納刀し、今度は背中の槍を取り出して構える。
ステラは横目で俺の様子を伺い、何をするのか察したようだ。
槍を担ぎあげ、足場を確認。
ただ、このまま投げたとて当たる訳もない。
ステラもその点は承知しているようで、『掴まっていてくださいまし!』と言って翼をはためかせて加速した。
相手のドラゴンは威嚇として何度かこちらへブレスを撃ち込んできたが、ステラはそれらを掻い潜りながらドンドン加速してゆく。
そうして相手との距離を徐々に近づけていたが、突然軌道を逸らして相手よりも遥か上空へと飛翔した。
そしてそのまま高度をあげてゆく。
後ろからブレスが飛んでくるが、ステラの速度に追いつくことも無かった。
そうして十分に高度を取った後、反転して太陽を背にしながら相手のドラゴンへと向けて急降下してゆく。
……なるほど……!!
太陽に紛れて攻撃をってことか!!
ステラの身体が自身の速度と重力の影響によりとてつもない速度で落下してゆく。
……もう少し………もう少し…………
……見えた……!!
敵ドラゴン2匹は互いに距離を保っている。
もしもを考えて同時に殺られないための措置だろう。
……それなら、左は任せたぞ、ステラ!!
槍を担ぎあげ、助走を付ける。
そしてそのままステラの背を台座に跳躍した。
ステラはそのままの速度で左のドラゴンへ向けて落下してゆく。
ステラへ向けて炎のブレスが放たれたが、ステラは避けるでも無くそのまま突進した。
そうしてすれ違いざま、ステラの鋭い爪によりドラゴンの身体を切り裂いた。
『……貴様ぁぁああああ!!!!』
残る右のドラゴンがステラへ向けてブレスを放とうと息を吸う。
させるかっての!!!!
どうやら相手は気づいていない。
俺が既にステラの背から居なくなっていたことを。
狙いを定め、渾身の力で槍を投げた。
とてつもない速度で槍が飛んでゆく。
そして、ドラゴンがブレスを放たんと口を大きく開けた刹那、俺の槍がドラゴン背中の外殻を突き破り、的確に心臓を貫き、そのまま貫通していった。
『……!!……な……何が………!!』
ドラゴンが再度上空を見やる。
『……貴様は……背中にいた………!!』
驚きの表情で俺を睨んでいたドラゴン。
槍を投げた俺はそのままそのドラゴンへと落下してゆく。
すでに抜刀していた刀を、敵ドラゴンの脳天へと突き刺した。
俺の攻撃によりドラゴンは脱力し、落下してゆく。
飛び降りるとすぐさまステラが受け止めてくれた。
『……さ……流石ですわ……ハル様……!』
ステラの体には敵のブレスによりいくつもの火傷が見て取れた。
……全く、無茶しやがって……
ともかく、だ。
厄介と思われたドラゴンとその魔人の掃討はこれにて完了ってわけだ……
『ハル様……地上に降り立ちます……!』
あぁ、そうしてくれステラ。
その意味を込めて頷くと、ステラは地上へと降り立った。
アルバート隊長が衛生兵を呼びつけてステラに治療を施す。
誰しもがそう考え、勝鬨をあげようかというその時だった。
地上から『ゴゴゴゴゴ……』という大きな地鳴りが響き渡る。
………なんだ………!?
誰しもが固唾を呑んでいたその時だった。
突如大地に巨大な魔法樹が現れ、続いてその魔法陣から何者かが現れた。
黒い髪に黒い服。
魔人特有の黒い翼が背中に生えている。
……魔人か……?
魔法陣から現れた魔人は薄らと目を開けて周囲を一瞥した。
『……よもや……この私を呼びつける事態になるとは………とても興味深い。』
魔人はボソリと呟くと、先程までの無表情から打って変わって朗らかな笑みを浮かべた。
「どうも、人族の皆様。私の名はアザゼル。どうぞお見知り置きを。」
アザゼルと名乗った魔人は自己紹介した後に丁寧にお辞儀をした。
「……し……召喚魔術か……!!」
「左様です。よくご存知のようですね。さすがはエルミール軍といったところでしょうか。」
「……魔人ども……死に際に何かしていると思ったが……!」
「しかしながら私の配下を全滅させるとは……恐れ入ります。」
笑みを崩さないアザゼルだったが、途端にとてつもない殺気を放ち始めた。
『ハ……ハル様……アザゼルは……彼は危険です……!!』
ステラが声を振り絞る。
それは決して火傷のせいではなく、間違いなくアザゼルのせいだと感じた。
『……彼は……魔人王国の幹部ですわ……!!……一刻も早くここから……!!』
「おやおや、あなたはステラ殿ではありませんか。この近辺に逃げたという報告がありましたが……なるほど。この国に匿われていたというわけですね。」
『……アザゼル……!!』
「娘さんはお元気ですか?どういう訳で人族に付いているのかは知りませんが……今ならまだ引き返すチャンスですよ?」
『……私は……もうあなた方には仕えません!!私がお仕えするのはただ1人……!!』
「……ふむ……仕方ありませんね。では、娘さんだけいただくとしましょう。」
『……そんなこと……絶対にさせませんわ!!』
「おいテメェ!!さっきからなにごちゃごちゃ吐かしてんだ!!」
ステラとアザゼルの間にアーサーが割入る。
「テメェが親玉ってことだろ?テメェもこいつらみてぇにぶっ殺してやるぜ!!」
「ほほう。中々の度胸をお持ちとお見受け致しました。それでは、このアザゼルがお相手差し上げましょう。」
「……その傲慢な態度……気に入らねぇな……!!」
アーサーは大地を蹴ってアザゼルの懐に入り込み、渾身の力で腹に向けて拳を叩き込んだ。
……が、アザゼルはニッコリとした笑みを崩さないまま、アーサーの拳を左手1本でいとも容易く受け止めていた。
「チィッ!!」
アーサーは続けて拳を繰り出したものの、アザゼルは涼しい顔でそれらを払い除けている。
「元気があってなによりです。さすがは私の配下を倒しただけはありますね。……ですが………」
アザゼルがアーサーの攻撃の合間を縫って徐にアーサーの額にデコピンした。
途端にゴツッという鈍い音と共にアーサーが吹っ飛ばされてしまった。
「アーサー!!」
「気をつけろ!!全員で掛かるぞ!!」
アルバート隊長の掛け声のもと、エルミール兵らが一斉にアザゼルへと押し寄せる。
吹き飛んだアーサーへ駆け寄ると額から血を流していたものの、命に別状は無さそうだった。
「……クソ………あの……野郎………!!」
「動かないで!今から治療します!!」
衛生兵がすぐさまアーサーの治療にかかる。
俺は改めてアザゼルへと向き直る。
アザゼルは多数のエルミール兵らの攻撃をスルリスルリと躱している。
そして合間合間に1人、また1人とデコピンだけで兵を無力化させていった。
「……そろそろよろしいでしょうか?私も暇ではありませんのでね。」
そう言うとアザゼルから異様な魔力が膨れ上がる。
そして徐に左手を上空へと翳すと、手のひらから魔法陣が浮かび上がった。
「それでは皆様、お別れのお時間です。」
アザゼルが魔力を解放する。
すると、上空から巨大な岩が多数現れた。
………まずい!!!!
巨大な岩が隕石の如く降り注ぐ。
「防御壁!!展開させよ!!!!」
アルバート隊長の命令により空中に防御壁が形成された。
……が、アザゼルの作り出した岩の前に防御壁はいとも容易く破壊される。
「全員!!防御体勢!!!!」
ステラは龍形態から人形態となり身を潜めた。
俺は戦闘により動けなくなった人の元へと駆け出し、跳躍して岩を次々と両断させた。
……けど……だめだ……!!
とてもじゃないが防ぎきれない……!!
とにかくAxel、アリシアたちは任せたぞ……!!
無情にも巨大な岩が雨のように次々と辺り一面に降り注いだ。
俺はとにかく、岩を斬って斬って……とにかく斬った………
……時間にしてどれくらいだろうか……
とにかく無我夢中で岩を斬りまくった。
アザゼルからの攻撃が止み、一転して静寂が訪れる。
土煙で何も見えないが、徐々に呻き声がどこかしこから聞こえ始めた。
やがて土煙が晴れてゆくと、そこには凄惨な光景が広がっていた。
岩に当たって血を流す人。
落下してきた大岩にそのまま下敷きにされている人。
すでに事切れている人。
たくさんの死傷者が転がっている。
アリシアやロータス、エリオはなんとか無事のようだ。
「……ふむ……これは予想外。私の今の攻撃でもまだこれほどの人数が生きてらっしゃるとは。」
アザゼルは自身の服に着いた砂埃を払い除けながら言った。
「でしたらば、こちらは如何でしょうか?」
アザゼルは再度魔力を高め、両方の手のひらを胸元の辺りへ翳す。
すると、その合間から真っ赤な球体が現れ始めた。
俺は瞬間的に判断した。
あれを撃たせたらまずい、と。
「おやおや、中々優秀な方もいらっしゃるようで。ですが、せっかくの私からのプレゼント。受け取って貰わなくては悲しいですよ。」
俺が動き出そうとしたことをアザゼルはいち早く察した。
が、もう遅い。
俺はアザゼルへと駆け出し、奴の魔術を阻止にかかる。
「随分とせっかちな方でいらっしゃる。そう慌てないでいただきたい。」
アザゼルは駆け寄る俺に向けて別の魔術を発動させた。
それにより大地からいくつものトゲが突出し、向かい来る俺を突き殺そうと襲いかかる。
襲いかかるトゲを刀で払い除け、アザゼルへと接近する。
そしてようやく間合いに入った……ハズだった……
アザゼルは不敵に笑う。
Rexの足に辛うじて生きていた魔物が絡みつき進行を妨害された。
すぐさま魔物を払い除けてアザゼルへと向き直った。
が、その一瞬の間にアザゼルは別の魔術を準備していたらしく、猛烈な突風が吹き、それにより吹き飛ばされた。
「それでは、メインディッシュといきましょう。どうぞ皆様、心ゆくまでご堪能くださいませ。」
アザゼルが魔術を解放する。
赤い球体がゆったりと俺たちに近づく。
やがて球体に亀裂が入り、中に込められた魔術が一斉に湧き出した。
………皆殺される…………!!
その時、アザゼルの放った魔術の前に何者かが立ち塞がった。
Axelだ。
Axelは襲いかかる魔術から皆を守るために立ち塞がった。
アザゼルから放たれた魔術は高濃度の火魔術。
球体に火魔術を貯めに貯め、それが決壊してとてつもない火炎が襲いかかる。
Axelは刀でそれを迎え撃つと、Vの字のように火炎がAxelを起点に左右へと広がった。
その火炎に見舞われた場所はその高熱によりあっという間に焼失する。
Axelはギリギリ耐えてはいるが、徐々に刀が融解し始める。
俺も加勢しに行こうとしたその時、Axelが俺に振り返り首を左右へ振った。
……そうだよな……
俺にはやらなければならないことがある。
「ほほう。私の魔術の前にこうまで耐えるとは恐れ入ります。あなた、本当に人間ですか?まあ、それは置いておくとしましょう。あなたの尽力に敬意を評し、最大限の火力をお見舞い致しましょう。」
アザゼルがさらに魔力を高める。
俺はRexとのリンクを切断し、本体へと意識を戻す。
「……に、兄さん……戻ったんですね……!……あれは一体……!!?」
「悪いがナツ、説明は後だ!」
俺はすぐさまスナイパーライフルのスコープを覗き込む。
ターゲットはアザゼル。
照準を絞ろうにも火炎による陽炎のせいで視界がゆらゆらと歪む。
距離は目測でおよそ600〜700メートル。
Rexの時とは異なり、俺本体だとどうしても照準が揺れる。
焦りから1発撃ってみたが、アザゼルに当たった様子は無い。
……落ち着け……
……呼吸を整えろ……
俺は深呼吸の要領でゆっくりと肺を酸素で満たす。
そうしてゆっくりと息を吐き、肺の酸素が無くなったと同時に息を止める。
すると先程までゆらゆらと揺れていた照準が落ち着き払う。
……冷静に……的確に……
ゆったりと揺れるスコープの中心にアザゼルを捉え、そして………
意を決した俺はゆっくりと引き金を絞り、ドォンという轟音と共に銃弾がアザゼルに向けて射出された。




