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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第9章 再来
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第80話 狙撃

 新学年が始まって1ヶ月半。


 校内では例の闇ギルド襲撃事件についての話題が上がることも少なくなった。


 俺たちのクラスに加わったエリオも、当初はエルフ語しか喋れなかったものの、この1ヶ月半でそれなりに人語を理解できるようにはなってきていた。



 ここ最近で変わったことと言えば、俺は前までアキとトーヤ、それとアリシアと一緒にいたけど、そこにロータスとアーサー、エリオが加わったことだ。


 たまにリリーも加わることもあった。


 皆はあのアーサーがまさか俺たちと一緒にいるなんてって少し意外だったようだけど。



 まあ、放課後や休日はほぼ一緒に訓練してるんだからな。


 当然勉強も疎かにはしちゃいない。



 平日は昼間は学校、放課後は訓練。


 休日はほぼ一日中訓練。


 ……こうして見るとかなりハードスケジュールだな。



 そんな毎日を送っていた時だった。



 この日もいつものように授業を受けていた俺たちだったが、突如街の中央広場にある鐘がカンカンとけたたましく鳴り響いた。


 それと同時に海側の街から赤色の狼煙が立ち上る。



「皆!急いで避難を!!」



 ラインハート先生が即座に切り替えて避難指示を出す。



「……こ、この警報って……」


「……まさか、闇ギルドか……!?」



 クラスメイトらは一斉に不安そうな表情を浮かべる。



「……ハッ!!ヤツらの方からノコノコと来てくれるとはありがてぇ!!」



 アーサーは返り討ちにする気満々のようだ。



「ドラグルス!!馬鹿なマネは止せ!!さっさと避難しろ!!」


「逃げてぇ奴は勝手に逃げろ。俺はゴメンだな!」



 ラインハート先生がアーサーを止めようとするも、聞き入れるはずも無い。



「ドラグルス!!」


「おい、テメェらはどうんすだ?」



 アーサーはラインハート先生を無視したまま俺たちに問いかけた。


 どうすんだ?って言われても、やることは1つだ。



「俺も行くよ。」


「あぁ!せっかく特訓したんだかんな!」


『闇ギルド……一族の仇……!!』


「……ま、アーサー1人で行かせたら無茶しちゃうからね。」


「…お、おい…!!アルフィード!ボレアス!エリオ!それにエルミリア王女!!」


「ラインハート先生、申し訳ありません。私たちはこの日のために訓練してきました。」


「アキとトーヤは避難してろよ。」


「その方が良いでしょうな。我々が居たとて邪魔なだけ。」


「みみ、みんな!!きき、き、気をつけて…!!」


「あぁ。先生、すんません、みんなを頼みます!」


「……お前たち……!!」



 そうこうしていると遠くのほうで爆発音が鳴り響く。


 悠長にはしていられない。



 校舎を出るとそこにはナツがすでに待機しており、隣には目つきの鋭い女子もいた。



「行くんでしょ、兄さんも。」


「もちろん。その子は?」


「この子は前に話した僕と同じ特待生のエレノアだよ。どうしても来たいって言うもんだからさ……」


「…大丈夫なのか?」


「フン、馬鹿にしないで。私はアナタたちとは違って実力で特待生になったのよ。」



 ……お、おおう。


 なかなか気の強い子ですな……



「言っておくけど、相手が闇ギルドなら殺されるかもしれないのよ。それでも来るって言うのなら、その責任は自分で背負って頂戴ね。」


「言われずともそうするつもりですわ、アリシア王女。」


「……まあいいか……ナツ、その子のこと、任せるぞ。」


「分かってるよ。兄さんも、アリシア様にケガを負わせたら許さないから。」


「……ちょっ……自分の面倒くらい自分で……!!」



 とエレノアは反論した。


 実力がどれ程かは分からないが、ナツに任せておけば問題無い。


 と、無駄話をしている場合じゃないな。


 海側の街からは度々爆発音が聞こえ、空にも黒煙が昇っている。


 急がないと……!!



 走り出そうとしたその時だった。



「……ま……待ってくれ……!!」



 と後ろから何者かが呼び止め、振り返るとそこにはルイスさんがいた。



「ルイスさん?」


「……き……君に……渡したい物が………」



 全速力で追いかけてきたのか呼吸が乱れていたが、整える間もなくルイスさんはカバンから袋を取り出して手渡した。


 袋を受け取った際に中身がチャラっという金属音が聞こえ、中を確かめるとそこには見覚えのある物がギッシリと入っていた。



「……これは……!!」


「……アキ君から頼まれていてね……君なら、これを間違った使い方は絶対にしないって………」



 袋に入っていたのは、銃弾だった。



「……で、でもこれは……」



 ルイスさんはアキに頼まれても首を縦に降らなかった。


 火薬というのは人類の科学が生み出した画期的な発明ではあるものの、それにより多数の命を奪った物でもある。


 ルイス先生は、この世界にそんな物を持ち込んで欲しくなかったからこそ、首を縦に振らなかった。



「……これは、君を信頼して渡す。生憎僕は戦えないが……君なら、これを正しい方法で使ってくれると………信じているよ。」


「……ありがとうございます……ルイス先生……!」


「先生はよしてくれ。今じゃ君たちと同級生なんだから。それより、急いでいるんだろ?」


「……はい!!」



 俺は先生から受け取った袋を握りしめ、戦場へ向けて駆け出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 逃げ惑う人々と逆走するように前線へと向かう。


 先行したアーサーはすでに前線へと合流しているだろうな。


 人の流れに呑まれそうになった俺は建物の屋上への登り、屋根伝いで前線へと向かう。


 そうして遠巻きながらも何がこの街を襲っているのかが見えてきた。



 魔物だ。


 ただし、1匹や2匹じゃない。


 ゴブリンやオークという雑魚だけでなく、ウェアウルフやゴブリンキング、オークロードといった上位種まで何百といる。


 上空からは竜種のワイバーンの群れ。



 すでにエルミール軍も到着して魔物の討伐と住民の避難の誘導をしている。



「……兄さん、どうやら闇ギルドじゃないみたいだね。」


「……みたいだな……にしても、これって……」


「背後に魔族が絡んでいるでしょうね。過去にヴァレンティアを襲った時と同じく、多数の魔物を引き連れてきたのよ。」



 俺もアリシアと同意見だ。



「ナツはワイバーンの処理を。俺は……」



 まずはAxel(アクセル)へとリンクし、早速『転写』を行う。


 そしてお次はRex(レックス)へとリンクした。



 Axel(アクセル)はそのまま戦場へと駆け出し、Rex(レックス)は俺本体のほうへ動かした。



「ち、ちょっと!!貴方のお兄さん、こんな時にこんな所で寝るなんて……!!」



 Rex(レックス)で近づくと、突然意識を無くした俺に対してエレノアがナツに抗議していた。


 お構い無しに俺は本体の近くに降り立ち、それにエレノアが「ひゃっ!!」と悲鳴を上げていた。


 俺はカバンをまさぐってルイスさんから受け取った袋を取り出し、そのまま見晴らしの良い場所へとRex(レックス)を動かした。


 アキが予め作ってくれたスナイパーライフルを取り出し、袋から銃弾を摘んでマガジンへと1発ずつ込め、そして構えた。



 そして俺はアキから学んだことを思い出す。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「……利き目……?」


「左様。利き手・利き足があるように、目にも利き目というのがあるのです。」



 まず両腕を伸ばし、指で輪っかを作る。


 その輪っかの中に遠くの目標を入れる。


 そうしたら片目ずつ目を閉じ、その時にどちらの目でその目標物が輪っかの中心に入っているのか。


 これが利き目の調べ方らしい。


 その結果、俺の利き目は右目だということが分かった。



 FPSなどのゲームでは、スナイパーライフルを覗き込んだ時は画面いっぱいにレンズからの映像へと切り替わる。


 だが実際はそうではなく、どちらか片方の目でスコープを覗き込んでいる。


 もしも利き目と逆側の目で照準を絞った場合、着弾点がズレることがあるのだそうだ。



 そして次は構え方。


 うつ伏せ、膝立ち、座り込み、そしてスタンディング。


 これらの姿勢をアキによって叩き込まれた。



 そして息止め。


 まあこちらはRex(レックス)であれば関係はない。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 俺はまず1発、人のいない適当な目標物へと狙いを定め、発砲した。


 距離は目測でおよそ50メートル。


 ドォンという音と衝撃と共に発射された弾丸は目標物の左下を撃ち抜いた。


 スコープの角度を調整し、排莢し、狙いを定め、再度発砲。


 着弾。


 今度はど真ん中を撃ち抜いた。


 念の為にもう1発、今度は少し遠い目標物へと狙いを定め発砲。


 着弾。


 少しだけ下へと落ちたものの、この程度の誤差なら問題なく着弾した。



 ……よし、いける……!


 さすがはトーヤお手製だ。



 改めて魔物へと狙いを変える。



 上空にいたワイバーンはナツの射撃によりいくつか矢が刺さっている個体がいる。



 俺は地上へと向き直り、スコープでターゲットを探す。



 …………いた。


 今まさに倒れた住民へと襲いかかろうとするゴブリンキングが……!


 俺は冷静に狙いを定め、引き金を絞る。


 ドォンという音と共にゴブリンキングの脳天が銃弾により頭そのものが吹き飛んだ。


 突然頭部を失ったゴブリンキングの体はそのまま倒れたが、それまで来ていた脳からの司令をこなそうとビクンビクンと動いている。



 ……うげ……


 聞いたことはあるけど、本当にそんな事になるとは……グロいな……



 ……いや、今はいい。



 俺はその後も魔物へと狙いを定めて発砲する。



 銃というのは本当に恐ろしい。


 弓矢での攻撃というのは余程当たり所が悪くなければ一撃で死ぬということはあまり無い。


 しかし、銃は違う。


 射出された弾丸はその速度により衝撃波も凄まじい。


 特にスナイパーライフルともなれば。


 スナイパーライフルの銃弾は、先端が変形しやすい。


 なぜなら、ただ貫通するだけではスナイパーライフルのエネルギーが体外へと逃げてしまう。


 着弾時に変形する弾頭であれば、着弾時に対象にエネルギーを全て与えられる。


 言い換えれば、どこに当たってもほぼ一撃死を与えられる、という訳だ。



 俺は1度スコープから目を離し、辺りを確認する。


 アリシアたちは大丈夫かな……


 ………と、危ねぇ!!!!


 咄嗟に銃を構え、エレノアの背後から忍び寄っていた魔物に向けて発砲した。



 ……ふう……危なかった。



 改めて前線を見やるがどうやらこのまま押し切れそうだ。



 アーサーは言うまでもなくこの程度の魔物相手に遅れを取ることなどなく、次々と魔物を片付けてゆく。


 ロータスも申し分無い。


 去年ファングラビット相手に腰が引けてた時とは段違いだ。


 アリシアは自身のジョブを活かしてバフ・デバフを掛けたり、危険な状況になっている兵士を引き上げさせたり、逆に手薄な場所へと兵を送り出している。


 前に聞いた、『転送』というスキルだろう。


 エリオの魔術も俺との特訓のお陰か、早い動きの魔物でも問題なく当てられている。


 ナツの弓矢により上空のワイバーンも数を減らす。


 当然エルミール軍も引けを取らない。


 何百といた魔物たちだったが、どんどん数を減らしてゆく。



 そろそろ俺もスナイパーからの狙撃は十分かな……?



 その時、改めて海側へと目をやると、遥か彼方よりドラゴンのシルエットが見えた。


 それも1匹じゃない。


 5匹だ。



 スコープを覗いてシルエットを確認する。


 微かにだが、ドラゴンの背に乗る人影を確認できる。



 いよいよ本陣ってわけか。


 にしても5匹のドラゴンに5人の魔人とは。



 前に襲撃に来たアスタロトの仇討ちか?


 それともステラとシエルを狙っていた魔人の仇討ちか?



 奴らは空からジリジリとこちらへと近づいてくる。


 およそ1000メートルといったところか。



 何匹か魔物相手に撃ってみて感覚は掴めた。


 物は試しといこうじゃないか。



 俺はスコープを覗き込み、迫り来る魔人に向けて照準を合わせる。


 さすがにこんな距離だ。


 当てられたらラッキー程度。


 風向きを調べるために風向計を取り出してみる。


 風受け用のカップが風を受けてカラカラと回る。


 同時に先端にある吹き流しが風向きを教えてくれた。


 風速は約3メートル。向かい風。



 俺は再度スコープを覗き込む。


 ゆらゆらと揺れるスコープの中心に魔人を捉えてゆく。


 ふぅと息を吐き、集中する。


 途端にオーバードライブが発動した。


 ゆっくりと流れる時間の中で、スコープの中心に捉えていた魔人よりさらに上側へと中心点をズラす。



 そうしてゆっくりと引き金を絞った。

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