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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第9章 再来
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第78話 模擬戦

「ほらそこ!!立て!!こんな事じゃあいつ死んでもおかしくないぞ!!」



 王城での訓練場にてアルバート隊長が檄を飛ばす。


 エリオもこの訓練に参加したのだが、やはりというか全く着いて来れずにゲロを吐いてぶっ倒れていた。


 まあそれでも歯を食いしばって食らいつこうとしていたところは根性はありそうだ。



 模擬戦ではエリオから直々に俺と手合わせするよう申し出があった。


 そうしてエリオの操る魔術と実際に戦ってみた。



 ……が、ハッキリ言ってスキだらけだ。


 魔術を使用するにも詠唱が必要なためにどうしてもスキが出来る。


 それに、連続して何度も魔術が放てる訳ではない。


 結局エリオは俺を相手に一撃も当てることもなくボコボコにされた。



 それでも回復を受けた後はまた俺との手合わせを申し出てきた。



 ……まぁ、その度にまたボコボコにするんだけど。



 エリオの欠点はやはり詠唱の際のスキが大きすぎることだ。


 それに、動いている相手に魔術を当てるのは相当に難しい。


 FPSゲームでも、当たり前だけど動いていない敵に銃撃を当てるより、動いてる敵に当てる方が難しい。


 だからこそ、FPSでは弾当たりをなるべく避けるために常に動き続けるのが鉄則だ。


 エリオの戦い方は、FPSで例えるなら突撃スナイパーの戦い方になる。


 火力は高いが撃つのに時間が掛かり、外すとかなり危険。


 おそらくエリオも村の中で模擬戦はやったことはあるんだろう。


 でも、相手も同じエルフ族であり、魔術を使用しての戦闘だったろう。


 だからこうして動き回る相手に魔術を当てられずに苦労している。



 この解決策は、相手の動きを注視し、ある程度行動を予測して当てること。



 現実ではゲームのように縦横無尽に動き回ることは不可能だ。


 ジャンプをするにも、走り出すにも、必ず予備動作というものが入る。


 この予備動作の時こそが攻撃のチャンスだ。


 師匠はこれを『先を取る戦法』って言ってた。



 もう1つの戦法が、カウンター。師匠の言うところの『後の先を取る戦法』だ。


 ただし、現状のエリオの身体能力的にはこの戦法は難しいだろう。


 なぜなら、相手の攻撃を見切って躱すという作業が必要なためだ。



 とりわけ、魔術を使用できるのなら間合いは広い。


 それならば、『後の先』を取るよりも『先』を取ったほうがいい。



 と、簡単に言ったものの実際にやるのとでは訳が違う。



 『先を取る』とは、攻撃のタイミングを見計らい、そしてそれを躱されてはならない。



「………ハァッ…………ハァッ…………クソッ………当たらない………!」



 何度目かの挑戦により、エリオはスタミナが尽きて仰向けに倒れ込んでいた。


 いくらケガが治ったところでスタミナまでは治らないからな。



『なあエリオ。なんで当たらないか分かるか?』



 俺は倒れ込んでいるエリオの傍で質問した。



『……なんでって………お前が……チョロチョロと……動き回るから………』


『当たり前だろ。戦闘において動かない敵なんていない。お前の村を襲った闇ギルドの連中だって同じことをしてたはずだろ。』


『…………………』



 エリオは思い出したくも無い過去を蒸し返され、悔しさを滲ませた。



『これから先あいつらとやり合おうってんなら、動き回る敵に魔術を当てられなきゃならない。』


『………………』



 ここで俺がお節介にも当て方を教えてあげるのは簡単だ。


 でも、おそらくエリオ自身が1番分かっているハズだ。



『……お前……エルフ族との戦闘……したことあるのか?』


『無いよ。』


『……なら……どうして僕の魔術を相手にあんな動きを……?』


『魔術が飛んでくるって分かってるからな。それに、エリオの攻撃は単純というか、撃ってくるのが丸わかりだからな。』



 エリオは魔術を使用する際、必ず右手を前に突き出す。


 自分から『今から攻撃します』って教えてるようなもんだ。



『………お前………明日も僕に付き合え。』


『……ま、いいけどさ。』




 そうして次の日も、そのまた次の日も俺はエリオと模擬戦を行った。



 最初こそエリオは闇雲に魔術を撃ちまくっていたものの、次第に狙いを定めてタイミングを見計らっていた。


 が、やはりまだまだだ。



 来る日も来る日もエリオは俺に敵意を剥き出しにして模擬戦を組むも、エリオの魔術は俺に掠りもしなかった。



「……ハル殿。なぜ彼に教えてやらんのです?」



 見かねたアルバート隊長が俺に質問を投げかけた。



「……こういうのって、自分から気付く必要があると思うんです。誰かに答えを貰うようでは、もしも見たことの無い戦い方をする敵に出会った時、対処法を探す前に殺されてしまいます。だからこそ、相手を分析する能力、自己分析の能力。それらを鍛える必要があると思います。」


「……ハル殿がそこまで考えていたとは。」


「ま、ローガン師匠の受け売りでもありますけどね、」


「いやはや、さすがはローガン殿の弟子ですな。」



 俺は元は根っからのゲーマーだ。


 だからこそ、自分で気付くというのが本当に大事だと思う。


 自分の持てる戦法というのは、自分で探して見付けなければならない。


 簡単に対処されてしまうのなら、ならばどうすればいいのか。


 自分の今出来る範囲内でどうすればいいのか。


 または、『今』は出来ないのなら、出来るためにどんな努力をすべきなのか。



 分析し、気付き、改善する。



 これは、俺だけでなくアーサーもやってる。


 アーサーほどプライドの高い奴が他人に強くなるためのコツを聞くハズもない。


 あいつも自分で分析し、気付いて、改善する。



 この一連のプロセスが、自分をさらに高めるためには必要なんだろうって、本当にそう思う。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 エリオが訓練に参加して1週間。


 その日から突然エリオが訓練所に顔を出さなくなってしまった。


 授業にも出ていないため当初は病欠かと思っていたものの、ラインハート先生によるとそうでは無く私用らしい。



 それが3日4日と続き、あっという間に休み始めて1週間が経過した。



「……いくらなんでもおかしいわね。私用とは言え1週間も休むなんて。」



 4人で訓練所へと向かう道中、アリシアがエリオについて話し始めた。



「俺たちに何も言わずに休み続けるなんてさ……まさか闇ギルドに1人で挑んでるとか……!?」


「……いや、俺も気になって聞いたんだけど、ちゃんとヴァレンティアにいるってさ。」


「フン、大方ハルにぶちのめされまくって折れたんだろ。情けねぇ奴だ。」


「……うーーん……あいつがそんな事で諦めるような奴に思えないけどなぁ……」



 訓練するようになってから、放課後の時間はこの4人で行動する事が増えたな。


 こんな事、前世では考えられなかった。



 いや、そんな事よりも、エリオだ。


 あいつが俺に何度もやられたからって諦めるような奴には到底思えない。


 もしかして、余程のっぴきならない事情でも出来たんだろうか?


 もしくは、俺たちが知らないエルフ族特有の習慣でもあるのか?



 結局答えは出ずままに王城の訓練所へと到着した。


 そして、意外な事にそこにはすでにエリオがいた。



『エリオ!何してたんだよ!』


『みんな心配してたのよ。』



 みんなの声に一切耳を傾けず、エリオは真っ直ぐに俺の元へと近付いた。



『……僕と戦え。』


『……いきなりかよ。みんなも心配してたんだぞ。』


『いいから、戦え。』


『……分かったよ。』



 何を聞いても今は答える気が無いってか。


 まあいっか。



 そうして俺とエリオは模擬戦を始めた。



 開始されたものの、エリオは俺をジッと見つめ警戒している。


 ……もしかしてエリオのやつ、私用って言ってたけど隠れて訓練でもしてたのかも?


 ………いや、今はいい。


 俺はエリオへ向けて駆け出し、一気に間合いを詰める。


 直線的ではなく左右へと撹乱しながら。


 前までならここでエリオから魔術が飛んできた。


 ……が、どうやらその気配はない。


 エリオは俺の動きを警戒しながらも、魔術を撃ち込むタイミングを計っているようだ。


 それなら!!


 俺は姿勢を低くして一気にエリオへと詰め寄る。


 袈裟斬りを見舞おうと振りかぶったその時だった。



『ここだ!!』



 エリオが右手を突き出し魔術を撃ち込む。


 なるほど。


 狙いとしては悪くない。


 が、甘い!!


 俺は上半身を逸らして魔術を躱しながらも、少し無理な体勢のままエリオへと袈裟斬りを見舞う。


 ゴツっという音と共に俺の木剣がエリオの肩へと直撃し、エリオは顔を歪めた。


 しかし、体勢を崩されたせいで剣戟に重みは無く、エリオは顔を歪めながらも距離を取った。



『クソッ!!』



 狙いは悪くない。


 遠くの敵に当てられないのなら、近くで当てればいいっていう。


 ただ、エリオにとっての想定外が、俺が躱しながらも無理やり剣戟をねじ込んできたことだろう。


 悪いがエリオ、この1週間が全く無駄だと言いたい訳では無いが、それでは不十分なんだ。



 俺は再度大地を蹴ってエリオへと詰め寄る。


 その時、エリオが大地へ向けて右手を突き出した。


 途端に大地からトゲが突出して襲いかかる。


 回転しながらヒラリと躱し、今度は横薙ぎにてエリオへと斬りかかる。


 その時だった。


 エリオの左手から火魔術が襲いかかった。



『今度こそこれで……!!』



 視界が炎で埋めつくされる。


 咄嗟に木剣の軌道を逸らして襲いかかる火魔術へ向けて剣戟を見舞う。


 木剣と火魔術がぶつかり合い、木剣が燃え始めるだけでなく同時に高熱が周囲を包む。


 俺は力の限り火魔術を蹴散らそうとしてみるも、火魔術は勢いを緩めない。



 ……このままじゃ呑まれる……!!



 咄嗟に俺は火魔術を蹴散らすという戦術を捨てた。


 この火魔術を真正面から蹴散らすのは不可能。


 ならば、逸らしてやればいい。



 俺は力を込めて木剣を握りしめ、今度は火魔術を後方へと逸らす。


 燃え上がる木剣が炭化する。


 関係ない!!



 そしてついに、木剣が折れるのと同時に火魔術を逸らすことに成功した。



『……なっ……!!?』


「……まだ……終わってないぜ!!」



 折れた木剣を捨て、俺は回し蹴りをエリオの腹部へと滑り込ませた。



『……ぐぅ……!!』



 苦悶の表情を浮かべたエリオは、そのまま俺の蹴りで吹き飛ばされて失神した。



「……ふぅ……ったく、なんてもんを撃ち込んできやがるんだよ……」



 あんなもん、直撃していたらどうなっていた事やら。


 前世なら一発で焼死だろうな。


 ただ、この世界では魔力の影響なのか、いきなり死ぬなんてことは無いそうだけど……ま、喰らいたくはないな。



「ハル!!大丈夫!!?」


「あぁ、うん。問題ないよ。それよりエリオのほうは大丈夫かな……結構強めに入っちゃったみたいでさ……」



 エリオの元へ駆け寄ると、俺の蹴りで吹き飛ばされ、白目を剥いて完全に失神してしまっていた。


 すぐさま【治癒士(ヒーラー)】により治療が施され、しばらくもすればハッと目を覚ました。



『……大丈夫かエリオ?悪かったよ、結構強めに蹴っちゃってさ……』


『……………大丈夫……………』



 エリオは俯いて返事をした。


 ……まあ、無理もないか。


 相応に俺に勝つために努力をしたんだろう。


 なにせ、右手だけでなく左手から魔術を放てるようになってたんだから。


 ……いや、それだけじゃない。


 エリオは攻撃のタイミングをちゃんと見計らっていた。


 ……まあ、まだまだ甘いんだけど。



 こんな時、なんて声を掛けてやればいいのか……



 言葉を探していた時、不意にエリオが立ち上がった。



『……僕に……教えてください……!!』


『…………え?』


『……この一週間……ずっとあなたを倒すために訓練した……でも……それでも足りなかった……僕に何が足らないのか、教えてください!!』



 ……これは意外だな。


 まさかエリオが教えを乞うとは。



『……どうして俺に教えを?』


『あなたは今まで、僕に圧勝することも出来た。なのに、しなかった。僕に気付かせるために。』


『……バレてたか。』


『だからこそ、あなたに教えてもらいたい。』


『まあ、それならいいけど、1つ提案があるんだ。』


『………提案………?』


『明日に弟も連れてくるよ。あいつの戦い方から、何か学べると思うぜ。』


『……そんな……僕はあなたから学びたいと願ったのに……!!』


『弟を舐めちゃいけないぜ。あいつは弟でもあるけど俺の1番弟子でもある。それに、戦い方はエリオに似てる。生意気なとこもエリオにそっくりだしな。』


『…………分かった…………』



 「分かった」とは言ったものの、エリオは少々不満気な様子だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……兄さん、いつもここで訓練を?」


「そうだ。って言っても最近だけどな。」



 次の日に早速弟を連れて王城の訓練所へと訪れた。


 ナツもまさかこんな所で俺が訓練しているなんて思ってもみず、訓練するエルミールの軍人さんたちに少々圧倒されている。



「ハル殿。こちらが昨日話しておられた弟君ですかな?」


「あ、はい。弟のナツです。ナツ、こちらは小隊長のアルバートさんだ。」


「……あ……ど、どうも初めまして。兄が普段からお世話になっております。」


「いやいや、世話になっているのはこちらだ。ハル殿の弟君ということであれば遠慮はいらんぞ。」


「ありがとうございます。」



 ナツはもっと萎縮するかと思いきや、意外にも礼儀正しいじゃないか。



「……それで、兄さん。僕もここで訓練すればいいの?」


「まあそれはナツの判断に任せるよ。お前を連れてきたのはさ……」


『……そいつがあなたの弟か?』



 ナツに説明するよりも先にエリオが割入った。


 ナツは初めて見るエルフ族が珍しいのかジロジロと……特に耳を眺めている。



『あぁ、そうだ。コイツが弟のナツ。』


『……お前が……1番弟子……』


『1番弟子?』


『……細かいことはいいから!ナツ、俺と手合わせしてくれるか?』


『……いきなりだな……まあ、いいけど……手加減してくれよ。』


『分かってるって。』



 ということで俺とナツの模擬戦が始まった。


 最初こそエリオは懐疑的な目でナツの戦闘を見ていた。



 ナツのジョブは【弓士(アーチャー)】。


 ジョブレベルは4だ。


 弓を番えて撃つ。その精度は申し分ない。



 ナツは俺の動きを注視し、特に行動の合間へと嫌らしい攻撃を仕掛けてくる。



 俺がそう仕上げたと言ってもいいんだけど、ナツは自分で答えを導き出した。


 動き回る相手……特に相手が【剣士(フェンサー)】や【闘士(ウォーリアー)】といった近接攻撃を行う相手と戦う場合、近づかれたら【弓士(アーチャー)】に勝ち目があるのか否か。


 その答えは、『ある』だ。


 矢を持ち、番え、狙いを定め、そして放つ。


 この一連の行動と、対近接攻撃とでは本来であれば相性が悪い。


 例えるなら、スナイパーライフルを持っている状態で、ショットガンの相手と戦うようなもの。


 普通なら、狙いを定めている間にやられる。


 だが、いつでも撃てる体勢を整えておくのが重要だ。


 行動の合間や予備動作。


 相手が剣での攻撃ならば、その軌道を読み、躱した場合相手がどのような体勢を取っているのか。



 そして、時折混ぜるフェイント。



 撃つ振りをして撃たない。


 これが非常に重要だ。



 最初こそ懐疑的な目で見ていたエリオだったが、次第にナツの立ち回りを見て感心している。


 いや、それだけじゃない。


 訓練所にいた軍人さんやロータスやアーサーまでもが俺たちの模擬戦を食い入るように見つめている。



 ナツは嫌なタイミングで矢を放ち、そのどれもが無意味じゃない。


 しっかりと意味のある攻撃をする。


 が、最終的に俺がナツの攻撃をいなし、ナツの喉元へと木剣を突き立てて模擬戦は終了した。



 途端に誰からなしに拍手が送られた。


 それは、勝利した俺にではなく、ナツに対して。



「……クソ……生身でもまだ兄さんに勝てないか……」


「ハッハッハッ!どうだナツ!兄は偉大だろう!」


「…………そういうのいらないから。それに、1番弟子って何?僕、兄さんの弟子になった覚えなんて無いけど。」


「……いや……まあ、それはさ……言葉の綾というかさ……ってか、いいだろ別に!1番弟子でもさ!」


「………はぁ………まあいいけど。」


「にしても、さすがはナツだ。ホント嫌らしいとこに撃ってくるよな。」


「……それ、褒めてるつもり?」


「褒めてるよ。見てみろよ周りを。この拍手は、俺にじゃなくナツに送られてんだぜ。」



 そう言われて初めてナツはこの拍手が誰に送られているのかを理解し、むくれた表情を緩め照れくさそうにしていた。

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