第75話 Rex 01
数日後、ついに3人の武器が仕上がった。
まずはロータス。
ロータスの武器は槍だ。
今回作成した槍は斧と鉤、それと刃を組み合わせた所謂ハルバードだ。
この形状の強みは斬る・突く・引っ掛ける・叩くという4種類の使用法がある。
次にアリシア。
アリシアの武器は薄刃の剣だ。
ほぼレイピアに近いくらい細長い両刃の剣だ。
アダチウムのおかげで細身の剣でも折れることなく鋭さと硬さを両立していた。
そしてアーサー。
アーサーの武具はガントレットだ。
普段は拳を守るための物だが、手元のスイッチを押すと3本の刃が突出する。
見た目では1番かっこよかった。
「……これ……王城での剣より軽いわ……それに切れ味も……!」
「……すっげぇ……!!めちゃくちゃカッコイイじゃん!!」
「……フン……」
3人ともお気に召したようだ。
「……あれ?そういやハルの武器は?」
「俺はあるからいいよ。」
俺のは当然刀だ。
Axelの普段使い用とは別ですでに作ってもらった物だ。
「……あ……そ、それと……ぼぼ、僕のスキルでみんなの武器に付与を施せるんだ!」
「……付与……ってことは、ついに熟練度が6になったのか!?」
「う、うん!」
マジか!!
ついに気になってた付与がトーヤが会得したってわけか!
「……で、どんな付与を施せるんだ!?」
「……え、えーっとね………今できるのはこれだけだよ!」
そう言ってトーヤは紙を並べた。
その紙には魔法陣が描かれており、それによりそれぞれの付与を施せるようだ。
……どれどれ……
『重量-2%』
『耐熱+3%』
『対腐食+3%』
『強度+3%』
『延性+3%』
…………………
………ど……どれもなんというか………
「……微妙だなぁ……」
ロータスは思わず声に出した。
「しし、市販で売られてる付与術式は……どど、どれもこんな感じだよ……」
「市販で、ということは、それぞれの鍛冶屋では独自の付与術式を持っているっていうことかしら?」
「……う、うん……ここ、こういうのって、門外不出なんだって……」
だろうな。
そうでもしなきゃ店を守れない。
「……そ、それとさ……ふ、付与は1つまでで……いい、1度付与した武器にもう一度付与し直す……みたいなことは出来ないんだよ。だだ、だから、付与を施したいなら慎重にね。」
……なるほど。
取り敢えず手持ちにある付与を施すべきかどうか。
「俺のはこの『強度』の付与をしてくれ。」
アーサーは迷っている皆を他所に即決した。
「……ア、アーサー!?そ、そんな簡単に決めちまっていいのか!?」
「あぁ?迷ったって仕方ねぇだろ。俺にゃあ軽さやら熱がどうとかどうでもいいからな。」
「……ま……まぁ……そうだけどよぉ……」
「なら、私も『強度+3%』の付与をお願いするわ。細身の剣だし、念の為に。」
アリシアも決まったようだ。
「……なら……俺は……そうだな………俺は『重量-2%』にしてもらおうかな……?」
ロータスが続いた。
「……ハ、ハルはどうするの?」
「……俺は………そうだなぁ………」
こういう時って結構迷っちゃうんだよな。
重量はさほど気にならない。
なら耐熱性は……刀でやり合うような敵と遭遇して耐熱性を上げたとて、俺本体のがその熱に耐えられない。
対腐食性もそうだ。
延性ってのはようは粘り強さみたいなものだ。
刀に粘り強さがいるかどうかが分からん。
となると……
「……うん。俺も『強度+3%』にするよ。」
「分かった!じ、じゃあちょっとやってみるね!」
ということで4人のそれぞれの武器にトーヤが付与を施した。
方法は至ってシンプル。
付与術式が描かれた紙の上に武具を乗せ、そこへトーヤが魔力を流すだけ。
これなら俺でも出来るんじゃね?と思い見よう見まねで魔力を流してみたが、付与術式は反応すらしなかった。
ともあれ、これにて付与が完了し、各々武器を改めて手に取った。
「……既存の鍛冶屋では独自の術式を持ってるって言ってたけど……こんなのをどうやって描くんだろ?」
何気無しに付与術式を手にしながら疑問を言葉にした。
………あ、そういえば。
「……そういやさ、確か魔人って魔法陣を使いこなせる種族だって習ったよな?」
「……正確には、身体に魔法陣を刺青しているハズね。」
「…あ、それそれ。ちゃんと見なかったから分かんないんだけど、アイツらの魔法陣とこの付与術式の魔法陣とで似通ってる所とかあるのかな?」
「……さあ……どうかしら………」
当然魔人から魔法陣を教えてもらうなんて事は考えてはいない。
でも、魔人たちが魔法陣を刺青し、それにより身体能力を高めるということは付与と同じだ。
……それにしてもこの術式。
見たことの無い文字が描かれてるな……
「……この付与術式の文字は……?」
「それはおそらく古代文字ね。」
「……古代文字……?」
「かなり古い時代に使われていた言語よ。確か2年の学習要項に必須科目としてあったはず。」
「………マジか………ここに来て新しい言語とは……」
「じじ、じゃあ、そ、その古代文字をしっかりと習得すれば、僕も色んな付与術式を描けるってことかな!?」
「文字を扱うだけじゃ無理だと思うわ。魔法陣は古代文字を複雑に配置させたり、魔法陣に流れる魔力の道筋なんかを習得しなければならないと思う。」
「……そ……そうなんだ………」
「トーヤ氏よ。そう落胆せずとも、これから学べば良いのですぞ。」
「……う、うん!そうだよね!」
「んな事より、さっさと狩りに行くぞ。」
アーサーは新たに手に入れた武器を早速試したいのか、やる気が満ち溢れている様子だ。
それはどうやらロータスも同じ様子だが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから数日後、いよいよ新たな人形が完成した。
その名も『Rex 01』。
見た目は黒をベースとしながらも、所々でキラキラと黄金色の輝きが鏤められている。
このRexは、開発した合金アドチウムに純金を混ぜた新しい合金『アウラチウム』を随所に使用したモデルだ。
アドチウムは非常に硬く耐熱性も高い。
そこへ純金が持っている柔軟性と耐腐食性を持ち合わせさせた。
これがアウラチウムの最大の利点だと言う。
なぜ硬い金属に柔軟性が必要なのかというと、ただ硬いだけの金属は逆に脆いのだと。
金属の硬さを測るには徐々に加圧された際の耐久度だ。
逆に脆さというのは急激な負荷に対する弱さ。
硬い金属というのは変形することを許さない。
地球でも硬いと言われるダイヤモンドも、ハンマーで強打すれば砕け散る。
硬い、というのは、それだけ変形に対する融通が利かないのだ。
変に聞こえるかもしれないが、これが硬い金属は脆いということだ。
そこで純金の登場。
純金の持っている柔軟性により、曲がっても簡単には折れないという特性をアドチウムに与えるのだ。
これにより、従来のアドチウムとは比べ物にならない程の強度を誇り、さらには耐腐食性までをも持ち合わせる。
Axelとの違いはそれだけではない。
このRexは汎用機だ。
刀だけでの戦闘だけでなく、身体の随所に様々な兵装が仕込まれており、クナイに槍、ガントレットを装備。
足回りには強力なスパイクだけでなく強力なゴムまで装備されている。
「……ゴムなんてこの世界にあったっけ……?」
という俺の問いに対し、
「ルイス氏の協力のおかげですぞ。」
とアキが言った。
ルイスというのは紛れもなく俺たちのクラスメイトであり、前世は俺たちの担任だったあのルイスさんだ。
【錬金術師】というジョブを使用し、強力なゴムを作り出してもらったのだという。
アキ曰く、ルイスさんは闇ギルドの襲撃以降、俺たちに協力を申し出てくれたのだと言う。
……まあ、それでも火薬を作るということにはついには首を縦には降らなかったらしいけど。
ただ、今回のアウラチウムもルイスさんの【錬金術師】のジョブのおかげらしい。
試験的にAxelに『転写』を使用し、俺がRexへとリンクして手合わせした。
どちらも俺なんだからいくら人形の性能に違いがあるとは言え実力は同じだ。
試しに攻撃をガードした際に響く衝撃がAxelの時に比べてかなり軽減されている。
Axelの時は衝撃がダイレクトに響いていたからなぁ…
特に、足回りの強化は著しい。
スパイクだけでなくゴムを採用した事によりグリップ力が増し、滑りづらく、速度の緩急のキレが増した。
結果的に、俺自身との戦闘はRexに軍配が上がった。
「………凄いなRex………性能が段違いだぜ………」
「いやはや……それを扱い熟せるのはハル氏だからでしょうな……傍から見ていた限りでは、自分には到底扱い切れぬ代物ですぞ……」
「ささ、さすがだよハル!凄いよ!」
「足回り以外もかなり強化されてるな。」
「足の指などの関節の数も増やしましたからな。基本的なパワーはAxelと同じですが、足回りを重点的に改良したのに加え、Axelの摩耗具合を鑑みてRexにフィードバックさせておるのです。」
「……さすがだな……!!」
「……あ、そそ、それとさハル……一応……こ、こんなのも作ったんだ……」
そう言ってトーヤが鍛冶場からとある物を持ってきた。
全長1mと20センチほど。
細長い筒が特徴的で、先端には筒よりも一回り大きな部品が取り付けられており、それには複数の穴が空いている。
筒の反対側には持ち手と引き金。
見紛うはずも無い。
「……これって……!!」
「そうです。スナイパーライフルですな。」
「……こ……こんなものまで………というか、火薬が手に入らないんじゃ……?」
「左様です。ルイス氏を説得してはいるものの、中々首を縦には振ってくれんのです。」
「……それなら……こんなの作ったって……」
「ルイス氏の気が変わることもありましょう。そんな時にのために前もって作っておいたのです。」
「………マジか………」
手渡されたスナイパーライフルを近くで見た。
スナイパーライフルにはスコープも取り付けられており、覗き込むと黒い線が十字に交差している。
銃身内にはライフリングまで施されていた。
銃身の先端にはコンペンセイターが取り付けられている。射撃時に銃身が跳ね上がるのを抑制するための部品だ。
アクション方式はボルトアクション型。
実際にボルトをスライドさせると弾薬を入れ込む薬室が現れた。
その下部にはマガジンまで用意されている。
………本格的すぎるだろ……これ………
いや、むしろ本格的じゃないと危ないか……
「それと、当然リローディングマシンも作っておりますぞ。」
「……ん?……な、なにそのリローディング……なんとかって?」
「リローディングマシンです。薬莢にプライマーを仕込み、火薬を入れ、弾頭をプレスして銃弾を作るための器具ですな。」
「……あぁ、なんか映画で見たことあるようなアレか。」
「あとは火薬とプライマーがあればいつでも使用可能なのですがね……」
「……ってかアキ……まさかとは思うけど、撃ってみたいとか?」
「自分はただのミリオタですぞ。収集や知識についての欲はありますが、実際に撃ってみたいという欲はありませんな。ミリオタは戦争そのものが好きという訳ではありませぬぞ。」
「……わ、悪かったよ。」
アキはやや憮然とした表情を見せていた。
そりゃあ俺だってこんな武器を実際に撃つなんてことはやった事なんて無い。
あくまでゲームの中でだけだ。
「こ、これも作ったんだよ!」
そう言ってトーヤから手渡されたのはデカイ計量スプーンみたいなものが4つ付いており、その下にはメモリが取り付けられている器具だった。
「……これって……もしかして風速計……?」
「う、うん!……って言ってもそこまで正確じゃないかもしれないけどね…」
「スポッター用ですな。」
「……本格的……」
「まあ、まだそのスナイパーライフルはゼロインが済んでおりませんがね。」
ん?
なんだって?
「……ゼロ……イン……?」
俺がそのゼロインを知らないことについてアキは深いため息をついた。
「……やれやれハル氏……あれだけゲームをやっていながらゼロインすら知らぬとは……」
「え、ゲームにそんなのあった!?」
「……いえ……ありませんが……知っていて当然の事ですぞ……」
「えぇ!?いやいや知らないって!なんだよそのゼロインって!」
アキはゼロインについて詳しく説明した。
撃ち出された弾丸がスコープのど真ん中に命中するってのは当たり前に聞こえる。
が、実際は違う。
弾丸というのは風や重力の影響を受けて放物線を描くため、直進しない。
さらにいえば、スコープは銃口より少しだけ上に取り付けられている。
そこでゼロインだ。
スコープの真ん中と着弾点を合わせること。
これをゼロインと言うらしい。
ゲームの場合はゲーム性を重視するためにそういうゼロイン調整は省略されているんだとか。
……じゃあ分かんねーよ!!
……と、心の中でだけ叫んでいた。
「……問題はさらなる長距離射撃の場合ですな……その場合はコリオリの力も計算せねばなりませんが……いえその前にこの星の自転速度が如何程のものなのか……まあ、長距離をそこまで正確に射撃する必要はありませんかね。」
……俺は聞くのを止めた。
なんだよコリオリの力って!!




