第70話 熟練度9
俺の名はハル・アルフィード。16歳。
先日の闇ギルドの襲撃から生き延び、昨日まで王城にて療養を終えたばかりの青春真っ盛りの青年だ。
本日はわざわざシルバーレイクからやって来た両親と弟を引き連れてヴァレンティアの街並みを案内している。
「まあまあ見て見てお父さん!こっちにはこんな服があるわねぇ!ほら!あそこにも!」
母さんは初めて来る都会に圧倒されることもなく色んな店を周ってショッピングを楽しんでいる。
父さんはというと人の多さに少々圧倒されていたが、少女のようにはしゃぐ母さんに少し気を良くしているようにも見えた。
「……にしても………信じられない…………兄さんが………女神様とお付き合いしてるだなんて……」
ナツは俺とアリシアが付き合っていることに未だ信じられない様子だ。
……まあ、それに関しては父さんも似たような反応だったが。
そんな相手でも母さんは「ちゃんと節度あるお付き合いをするのよ。」と忠告してくれた。
「…ゴホン。それよりナツ。勉強はどうなんだ?特待生になれそうか?」
「………わざと50点しか取らなかった兄さんよりは出来てるよ。問題は熟練度だけど。」
……バレてたか。
ナツは夏休みにこっちへ来た時、セント・クラークの特待生になると意気込み、それからはジョブの訓練に勤しんだ。
俺も手伝ったけど、贔屓目無しにしてもナツは結構動けるほうだ。
初めての狩りも上手く出来たし、今じゃあCランク程度の魔物なら単独で狩れる。
如何せん、シルバーレイクには熟練度の鑑定台がまだ普及していないので、どれほどの熟練度になっているかが不明だが。
それと学業。
こちらは文句の付け所は無い。
シルバーレイクとヴァレンティアでは授業内容の難易度に開きがあるのが分かっていたので、シルバーレイクの問題集はもとより、ヴァレンティアでの問題集も購入し、それで勉学に勤しんだ。
おかげで、セント・クラーク高校入学時で比べれば俺よりナツのが高い点数を取れるだろう。
「んじゃあこの後、みんなでセント・クラークに行こうか。例の件があって休校中だから入れるかどうかが分かんないけど。」
というわけで、セント・クラーク高校までやって来た。
母さんは「ホント立派な学校ねぇ…!」と感心しきりだ。
門には衛兵が立っており、さらに何人か先生も見て取れる。
「あの〜、すいません……俺、セント・クラーク生なんですけど……家族に校内を案内したりって出来ますか?」
無理を承知で聞いてみた。
ところが、俺の学生証を確認するなり「……あのアルフィード殿とそのご家族でしたか!!どうぞ!!」と通された。
「……兄さん……有名人なんだね……」
「……嬉しいような……恥ずかしいような……」
「立派じゃない!ねえあなた!」
「……ん……あ、あぁ……そうだな。」
校内は休校中ということで閑散としているが、どうやら先生方はいるようで遠くのほうで気配はする。
多分、今後の対応とか対策とか、あるいは犠牲になってしまった子たちの事とか。
色々とあるんだろうな。
ともかく、あまりブラブラと校内を案内出来る空気じゃない事だけは確かだ。
早速例の鑑定台へと行き、早速ナツの熟練度を測ってみた。
そうして出て来た羊皮紙には、『熟練度4』と記載されていた。
「おぉぉ!!やったじゃないかナツ!!」
「まぁ!!本当に凄いわ!!ねえあなた!!」
「……ん……お、おぉ……そうだな……!」
………ん?
当のナツはあまり嬉しそうじゃない、のか……?
「……それもこれも、兄さんのお陰だ。ありがとう。」
小生意気なあのナツが……!?
俺に礼を言って頭を下げただと……!!?
「……な……何を言ってんだよナツ………お前が頑張ったからだろ!」
「……それでも、兄さんが居てくれなければここまで成長出来なかった。」
「……そ、そうか……?」
随分と殊勝なことを言うもんだ。
その時、父さんが俺たち2人の肩にポンと手を置いた。
「……さすがは俺たちの息子だ。特にハル……お前には苦労を掛けたな。」
「……や、止めてくれよ父さん……家族なんだから当たり前だろ。」
「だとしても、だ。」
……そう……かな…………
だとしても、こんな時。どう言葉を返したらいいのか……
「……だがハル。あまり無茶はするな。ナツもだ。困った時はあまり頼りにはなれんが、お前たちの為ならなんだってやるさ。」
「……心得ておくけど……父さんも、あんまり無茶はしないでよ。」
「……む……わ…分かった……」
「……ふふっ……無茶をするのは似た者同士ね。」
その後、俺も試しにと鑑定台に手を載せた。
この前測ったときは7だった。
ただ、7から8になるには結構な年数がかかる。
魔物を倒せる戦闘職ならまだしも。
そうして現れた羊皮紙に目をやる。
『熟練度 9』
……………
………えっ?
…………まじで?
「……じゅ……熟練度が……9……!!?」
「まぁ……!!」
「……9だと……!!?」
……いや、確かに9だ。
けどさ、9だからってどんなスキルを取得したのかが分からんのが悩みだ……
オーガロードを倒したり、闇ギルドとの戦闘。
色々あったもんな。
いや、なんとなくは想像はついてた。
それはジンネマンとの戦闘において。
奴は自分で熟練度が10だと言っていた。
【闘士】のスキルには、熟練度9で手に入る『剛拳』というスキルがある。
これは、相手の熟練度が8以下の場合、素手により全ての攻撃を防ぐ、とされている。
あの時ジンネマンに攻撃を与えることが出来たんだから、もしかしたらとは思っていた。
でも、本当にそれほどに熟練度が育っていたとは………
「……あのさ、俺の熟練度に関しては秘密にしといて欲しい。とある人にも言われたんだけど、この【人形師】、使い方次第ではとても強力でさ……人形の数だけ兵隊を持つって。」
「………確かに、とりあえず人形をたくさん作ってリンクさえ済ましてれば、いつでも切り替えて戦えるよね。」
「安心なさい。俺も母さんも人には話さん。」
「特にお父さんは口が堅いというよりも口数が少ないからねぇ。」
「……む……」
「安心してハル。誰にも話さないわ。でも、さっきお父さんが言ったように、無茶だけはしないでね。ハルにもしもの事があれば、私たちが悲しむのは当然の事、お友達やアリシアちゃんまで悲しませることになるのよ。」
「……うん………肝に銘じておくよ、母さん。」
「………それにしても……未だに信じられんもんだ………お前がこの国の王女とお付き合いしているなんてな…………」
「……僕はまだ許してないけどね。」
そう言ってナツは俺を睨んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後一通りヴァレンティアを案内し、次の日には3人とも帰郷した。
師匠とも初の顔合わせには父さんは珍しく萎縮してたっけ。
3人の見送りを済ませた俺は、寮へと戻った。
それにしても、熟練度が9か………
もしかすると、人形の性能がアップしたり、もしくは3体同時に動かせたりする、とかか?
そう思い、俺はまずAxelへとリンクした後、BlazeとFrostへとリンクを試みた。
すると、予想通り3体の人形へと同時にリンクする事が出来た。
続いてBlazeとFrostのリンクを切断し、Axelのみにリンクする。
一通り動作テストを行ってみたものの、性能がアップしたようには思えなかった。
ということから、熟練度8か9のどちらかが人形へのリンク数を増やすってことか。
残る1つは何だ?
熟練度が向上することで得られるスキルは大きく分けて2つ。
1つは新しいスキルの獲得。
もう1つは既に得ているスキルの性能の向上。
今試したのは2つ目のスキル性能の向上という可能性だった。
だけど、結果的に残る1つのスキルはそれでは無さそうだ。
ということは、新しいスキルを会得してるってことだ。
一体何が出来るのか……
いや、一先ずそちらは置いておこう。
それよりも、どの程度魔力を注ぐことでオーバードライブを起こしてしまうのか。
その度合いを試しておかないといけないな。
というわけで、俺は集中して魔力を注ぐ。
あの時は極限状態だったのもあって相当に魔力を集中させたハズだ。
……集中しろ……
…………集中……………
そうして魔力を注ぎ続けた時、突然周りの音や動きがスローになった。
すぐさま集中を切ると、スローな世界から元の世界へと戻る。
再度集中させるとすぐさまオーバードライブを起こした。
……なるほど。
大体分かってきた。
今この状態がオーバードライブを起こす1歩手前ってことか。
この状態を……そうだな。仮に『フル状態』として、このフル状態を持続させて体に染み込ませておけば、いざと言う時にオーバードライブを起こす心配も無いだろう。
……にしても難しいぞこれ……
ちょっとでも許容量を超えればオーバードライブになってしまう。
かといって抑えすぎると意味が無い。
ギリギリのライン……フル状態を維持させる。
これは一朝一夕じゃあ身につかないだろうけど、これから先を見据えるなら絶対に知っておくべきだ。
時間にして2時間近くフル状態を維持する訓練をしていた。
とは言えまだまだだけどさ。
ここまでで分かったのは、オーバードライブは少しの間なら激しい頭痛に見舞われる事も無い、ということだ。
ということは、ここぞという場面でオーバードライブを起こして戦局を打破するのに役に立ちそうではある。
……と言っても、これは本当に危機的状況の時にのみ使うようにしないとな。
ここいらで一旦休憩して夕食でも摂るか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「たまには外食も良きものですな。」
「ハルは体調はもう大丈夫なの?」
「あぁ。もう大丈夫!」
俺は久しぶりにアキとトーヤと外食へと出掛けていた。
と言っても行ったのは大衆食堂のようなお店だ。
最近まで療養のために味の薄い料理ばっかりだったからな。
あと、糖分が欲しい。
さっきの訓練で脳への負担が大きかった分、脳が糖質を欲している。
「……ハ、ハル……めめ、めちゃくちゃお腹空いてたんだね……」
トーヤに言われて気付いたが、俺はあれやこれやと注文しては食べまくり、アキやトーヤの2倍もの量を平らげていた。
「……いやぁ……病院食って味が薄いじゃん?だもんでさ。」
「それにしては、ハル氏にしては珍しくデザート類が多いですな。」
「糖分が欲しくってさ。」
「ほう。先日聞いたオーバードライブ。脳へと魔力を注ぎすぎた為に発動したことによる副作用のようなもの、ですかな?」
「……この前のとは少し違ってさ……」
俺はここに来るまで寮で行っていたトレーニングについて2人に説明した。
「……では、フル状態を体で覚えさせるためにそのような訓練をされているというわけですな。」
「そそ、そんなの大丈夫なの!?」
「今は副作用は何もないかな……強いていえば、糖分が欲しいってことくらい。」
「……あまり無茶はされませんようにな。先日はハル氏のお陰で我々も助かったのですが……我々としても、それでハル氏ばかりに泥を食わせたくは無いのです。」
「……本当だよ……ああ、あ、あの時さ……ハルが目とか鼻から血が出てて………本当に心配したんだから………」
「……分かってる。だからこそのトレーニングだよ。俺としても、せっかく転生できてようやっと人生の春を謳歌してるってのに、こんな所で脳死だなんて嫌だからな。」
「……そ、そそ、それなら……良いけどさ……」
「……ハル氏よ。」
「ん?」
アキは手を止めて神妙な面持ちで俺を見つめた。
「ハル氏は覚えておいでですかな?前世にて、中学2年の頃。自分が他校の生徒に絡まれていたのを。」
………言われてみて思い出す。
……確かに、俺とアキの出会いは中二の頃だ。
アキが他校の生徒に絡まれている所に俺がたまたま通りがかったんだ。
「……そういやあったな。そんなことも。」
「自分はこういう性格なものでしてな。昔から友と呼べる者なぞ1人もいなかったのです。あの時も、ハル氏とは顔も名前も知らない間柄でしたな。」
「そそ、それを言うなら僕だってさ……た、たまたま中学1年の時に同じクラスだったからハルと出会えたけど……そ、それまでとと、友達なんて……」
「ハハッ。それなら俺もだっての。クラスの人気者から一転して陰キャになってさ。」
「………ハル氏は、そんな友達未満の自分を助けてくれたのです。あの時から、自分の中ではハル氏はヒーローだったんですぞ。」
「……よ、よしてくれよそんな…ヒーローだなんて……それにさ、確かあん時は俺もボコボコにされたような思い出が……」
「力の差など関係無いのです。ハル氏は全く知りもしない自分を助けるためにその身を呈して下さった。それだけで、自分がどれほど救われたことか。」
「……いやぁ……なんっつーか……そんな大したもんじゃ無いって。」
「それからでしたな。自分とハル氏、そしてトーヤ氏と友達になったのは。」
「たた、確かそうだっけ。アキは戦争ゲームとか強かったよね!」
「懐かしいですな。」
……アキ、そんな事を覚えてたのか。
俺としては本当に大した事でもなんでもなくって。
というか、本当は助けるつもりなんて無かったんだ。
考え事してて……それでアキに絡んでた連中にぶつかってさ………
………いや、でも………
始まりはどうであれ、俺はアキを放っておけなかったのは事実だ。
その時は全然知らない奴だったけど、妙に親近感って言うのかな。
地べたに這い蹲る陰キャ。
あの時のアキに、俺自身を重ねていたんだろうな。
当然ケンカで敵うハズもなくボコボコに。
まあでも、途中から携帯で動画を撮って、それをネットに拡散してやるって脅したら二度と俺らの前には現れなかったっけ。
「ハル氏よ。脱線しましたが、ハル氏は自分にとってヒーローなのです。残念ながらこの世界でも自分はハル氏と共に戦える訳ではありませんが、ハル氏のためとあらば、なんでも協力するつもりですぞ。」
「ぼ、僕もだよ!ハル!なな、なんでも言ってよ!」
「………分かってる。でも、俺だってお前らに助けてもらってんだ。お前たちが居なきゃ、Axelはこの世界に居なかったし。こっちこそ、色々と助けてもらってるんだ。お互い様ってことにしよう。」
「……そ……そう言われると…なんかて、照れちゃうな……」
そうして楽しい食事を終え、帰路に着く。
3人で他愛ない話をしながら寮へと戻ろうとしていたその時だった。
裏路地から突然現れた男がこちらへ向かって飛び出し、トーヤにぶつかってよろけたもののそのまま走り去って行った。
「……いたた………」
「大丈夫かトーヤ!?」
「……う…うん……へ、平気だよ。」
「……ったく、ぶつかってきたのに謝りもしないなんてよ……」
「トーヤ氏、何か盗られたりはしておりませぬか?」
「……えっ?……え、えーっと……」
突然のアキの質問にトーヤは狼狽えながらも体のあちこちを手で確かめた。
「……な、ない!!ぼぼぼ、ぼ、僕の財布がっ……!!」
「……やはり……」
「……って、さっきのヤツがスったのか!?」
「恐らくは。」
「……んの野郎……!ならここは……」
俺がすぐさまAxelへとリンクしようしとしたその時だった。
「お待ちくだされハル氏!……あれは……!?」
突然アキが制した。
スリが走り去った方向から何者か、黒い人影が歩いてくるのが見て取れる。
……誰だ……?もしかしてさっきのスリの仲間か……?
そうして警戒しながらその人影を注視する。
徐々にこちらへと近づいてくるその人影のシルエットが明瞭になる。
………なんだ………?
………騎士団の人………?
………いや、違う………?
………え………!?
………いやいや…………
………あ、有り得ないって、そんなの………
その人影はトーヤの前で立ち止まり、トーヤが盗られた財布を手渡した。
いや、それ以上に。
俺は……いや、俺たち3人は………有り得ない物を目の当たりにしていた。
「……こ……これって…………」
「………これは……驚きですな………」
「………あ………Axel…………!!!?」




