第69話 オーバードライブ
人形がジンネマンの攻撃により激しく回転し、その回転力を活かして奴の首に刀の軌道を合わせる。
もらった……!!
……はずが、俺の刀の側面に突如として矢が当たり、軌道がズレた。
それにより、ジンネマンの肩から刀が刺さり、胸の近くまで深々と突き刺さった。
「……ぐっ……!!」
俺の攻撃が効いたのか、ジンネマンは膝を着いた。
「ジンネマンよ……何を遊んでおるのだ?」
声の主を見やると、そこには鋭い目付きでこちらを睨む女がいた。
「……カミラか……」
ジンネマンから刀を引き抜いて距離を取って警戒する。
血が溢れ出したが、『無尽蔵』の影響により徐々に傷口が塞がってゆく。
ここでまた新手か……
「この私が助けておらねば、貴様の首が飛んでおったであろう。」
女の言う通り。
アイツが邪魔さえしなければ、俺の刀によりジンネマンの首が飛んでいたハズだ。
「………返す言葉も無いな………」
「まあいい。それより、レイブンから報告がある。間もなくここへエルミール軍がやってくる。すぐに撤収せよ。」
「おいおいぃぃ!!あの奴隷はどうすんだよぉぉ!?それに俺たちの姿まで見られてんだぜぇぇ!?」
「それは貴様らの失態だ。」
「これは手厳しいですな。」
「……チィッ……」
……撤収するだと……?
………助かった………のか…………?
ここで深追いする訳にもいかない。
というより、これ以上戦うのはほぼ不可能だ。
「………しかしながら、だ………」
カミラという女が満身創痍の俺を睨む。
「ジンネマンをあわやという所で仕留めるほどの実力者、か………」
その目は人形の俺を見つめた後、アキに抱えられている俺本体を見つめた。
「その顔、しかと覚えておくとしよう。」
そう言ってカミラは立ち去って行った。
………そこから先の事は覚えていない。
というのも、集中力が途切れたのか、もしくは魔力切れを起こしたのか。
俺の意識はプツリと途絶えてしまったからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、目を覚ましたのは見覚えのある天井……ここは確か王城にある医務室のハズだ。
「………うぅ………」
身体中の骨がバラバラになったんじゃないかってくらい痛い。
けど、それ以上に頭までもが痛い。
空腹もあるにはあるのだが、激しい頭痛のせいでそれどころじゃ無い。
「……ハル……!!」
………あぁ………この透き通るような声は………
「………アリ……シア…………?」
「……良かった………良かった…………!!」
アリシアは目を潤ませて抱きついてきた。
本当なら嬉しい。
女神様の抱擁だぜ?
でも、本当にそれどころじゃ無いんだ。
「…………頭が…………割れる…………!」
「………え!!?……ま、待ってて!!すぐに呼んでくるわ!!」
アリシアが呼んできてくれた【治癒士】により容態を調べられ、調合した薬を飲まされた。
「……ふむ………症状そのものは魔力切れですが………頭痛というのはおそらく、『オーバードライブ』によるものでしょう……」
オーバードライブ?
………って、どゆこと?
「診察によるとですな……現在ハル殿は脳がオーバードライブの代償により、極度の頭痛に苛まれておるようです。」
この世界の人間の体には魔力が流れている。
ジョブがその流れを最適化してくれるのだが、魔力を力づくで注ぎ込むことも出来る。
アスタロトとドラゴンの襲撃時、動けない人形を無理やりにでも動かそうと魔力を注ぎ込んだように。
通常ならば、それは肉体に注がれる。
しかし、今回俺はどうやら脳に魔力を注ぎ込んだらしい。
それにより一時的に脳が活性化された。
……だが、許容量を超えるとオーバードライブを起こしてしまう。
周りがスローモーションに見えた、例のアレだ。
その反動は大きかった。
筋トレをしまくれば筋肉痛が起きるように、脳を酷使したせいでオーバードライブを起こし、この激しい頭痛に見舞われてしまっている、ということだ。
「……それで……この頭痛は………いつまで………?」
「……ハル殿がどれ程まで魔力を注いだのかが分かりませんので……ともかく、しっかりと睡眠を取って脳を休ませるしかありませんな……」
「……寝ろって言われても………この頭痛の中じゃ………」
「それと、オーバードライブは危険ですぞ。」
「………危険………?」
先生によると、本来オーバードライブは肉体に巻き起こる。
オーバードライブとなれば一時的にパワーアップが出来るものの、その分の反動は大きい。
何よりも恐ろしいのは、何度もオーバードライブ状態になると、筋肉そのものを破壊し、二度と立ち上がることすら出来なくなってしまうそうだ。
当然、それは脳のオーバードライブにも当てはまる。
「脳をオーバードライブ状態にするというのは聞いたことはありませんが……ただし、肉体と同じ事が起こりうるでしょうな。」
「……それって……オーバードライブによって脳が破壊されるってこと……?」
「おそらくは。」
………マジかよ………
俺としては意識してオーバードライブを起こした訳じゃないんだけどな……
……ただ、あのオーバードライブ状態は異次元に強かった。
周囲がスローモーションに見えるなんてさ。
でも、それは諸刃の剣ってわけか。
「ともかく、今はゆっくりとお休みくだされ。激しい頭痛が起きた時は、この薬を…」
「……あり……がとう………ございます………」
薬の効能か、さっきよりかは頭痛が少し落ち着いた。
「……本当に……良かった………もしかしたらもう目覚めないんじゃないかって………!」
「……心配……かけちゃったみたいで……ごめん……」
「……謝らないで……ハルのおかげでみんなは助かったんだから……」
「……ハハハ……それなら良かったよ……そういえば、あの後はどうなったんだ……?」
アリシアの口からあの後の顛末を聞かされた。
闇ギルドの連中が過ぎ去った後、俺がプツリと意識を失った途端、俺本体は目と鼻から血が流れていたらしい。
すぐさまリオさんが治療してくれたものの一向に目が覚めなかったんだと。
そうこうしているうちにエルミールから軍が現れ、生存者らは無事に保護されたらしい。
死亡者のほとんどはセント・クラークの4クラス。
30名の内、なんと23名も無惨にも殺されてしまったらしい。
当然ながらグランツは中止。
学校は今も尚休校となっている。
これが俺が意識を失ってから1ヶ月の出来事なんだとか。
「……23人も………」
「……逆よ。ハルのお陰で、23人で済んだのよ。中には木の人形に助けられたって子もいたみたい。」
………あぁ、俺たちが仕掛けた罠に引っかかってたアイツか。
………助かったのか…………良かった…………
「……そういえば、俺たちのクラスメイトは……!?」
「安心して。みんな無事。」
「………そっか………良かった…………」
俺が胸を撫で下ろしたその時、アリシアがそっと抱きついた。
「………もう絶対に、あんな無茶はしないで……!!みんなと引き換えにハルだけが犠牲になるなんて……私は許さない……!!」
「………でも………どうしようも無かったしさ………」
「ハルのお陰だっていうことは分かってる……分かってるけど……それでも………!!」
「…………………」
返す言葉が見つからなかった。
あの時は本当になんとかして状況を打開するしか無いって無我夢中だった。
結果的にオーバードライブになって打開できたはいいものの、一歩間違えれば俺は植物人間になっていた可能性だってある。
俺だって、死にたくは無い。
いや、植物状態は明確に死んでいる訳じゃあ無いんだろうけどさ。
………………
強くならなきゃ。
アリシアが安心して見届けられるくらい、強くならなきゃ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目が覚めてから1週間。
ようやく自分の足で歩けるほどには回復した。
1ヶ月も寝たきりだったためか、身体が鉛のように重いな。
こりゃあ取り戻すのに苦労しそうだ。
治療の間、王城の中で療養させてくれた。
国王様からも直々にお礼が言われた。
何よりも嬉しい……いや、照れるんだけど、俺の身の回りの世話はアリシアが付きっきりで看病してくれた。
食事を食べるのも、服を着替えるのも。
さすがにトイレだけはなんとか1人でやり遂げたけどさ……
普通はそういう役目はアリシアがやるんじゃなくて使用人がやるんだけど、アリシアは頑として俺の看病を誰にも譲らなかった。
ステラとシエルも見舞いに来てくれた。
その時も俺の世話を巡ってアリシアとステラの攻防があったわけだけど………
驚いたのは、父さんと母さん、それと弟のナツまでもが俺の見舞いにわざわざ来てくれた。
勢いよく扉を開けてきた父さんが俺の元気そうな表情を見て、声を震わせながら「……元気そうで良かった……」って言われた時は俺も思わず泣きそうになったよ。
母さんは人目も憚らずに涙を流して俺を抱きしめてくれた。
ただ、ナツはアリシアに看病されている俺を激しく嫉妬してたっけ。
そんなこんなでこの1週間は照れくさくもあり、嬉しくもありという日々だった。
ちなみに、この1週間で頭痛はほぼ完治した。
今俺は王城の書庫をアリシアと共に訪れ、とあることを調べていた。
それは、この世界にあるジョブと、スキルについて。
先日闇ギルドとの戦闘において、俺はもっと他人のジョブについて知る必要があると思い知った。
まずはシェルドン。
あの「ヒャハハ」笑いの骸骨だ。
奴が発動したスキルは『残像』。
『残像』は【処刑人】のジョブだ。
それとジンネマンは【闘士】。
最後に現れたカミラって名前の女。
あれはおそらく【弓士】だろう。
────────
【処刑人】
熟練度1 あらゆる武具の扱いが上達する。
熟練度2 『見切り』スキル。相手の熟練度が2以下の場合、動きを見切ることが出来る。
熟練度3 『毒薬』スキル。武器に毒薬を仕込む。
熟練度4 『刈り取り』スキル。他者の命を奪うことで一時的に能力が上昇する。
熟練度5 『見切り』強化。熟練度5以下の相手の動きを見切る。
熟練度6 『残像』スキル。動きに残像を残す。
熟練度7 『毒薬』スキル強化。致死性の毒を仕込める。
熟練度8 以下不明。
【闘士】
熟練度1 格闘術スキルが上昇する。
熟練度2 さらに格闘術スキルが上昇する。
熟練度3 『瞬足』スキル。移動時の速度を飛躍的に上昇させる。
熟練度4 『直感』スキル。危機が迫ると直感が働く。
熟練度5 『気配感知』スキル。周囲の気配を感知する。
熟練度6 飛躍的に格闘術スキルが上昇する。
熟練度7 『慧眼』スキル。相手の筋肉の微妙な変化から動きを予測する。
熟練度8 『発勁』スキル。相手の体内に甚大なダメージを与える。
熟練度9 『剛拳』スキル。相手の熟練度が8以下の場合、素手により全ての攻撃を防ぐ。
熟練度10 究極秘奥義『無尽蔵』。発動中は即座に傷が再生される。
【弓士】
熟練度1 弓での狙撃能力が上昇する。
熟練度2 『速射』スキル。連射速度が上昇する。
熟練度3 『遠矢』スキル。飛距離が伸びる。
熟練度4 聴力強化。周囲の物音に敏感になる。
熟練度5 『風読み』スキル。風向きを読んだり予測することが可能。
熟練度6 矢の強化。射出した矢の威力・強度が上昇する。
熟練度7 『動体視力』スキル。展開中は視力が格段に上昇し、動体視力が向上する。
熟練度8 『曲射』スキル。矢を曲げて打ち出す。
熟練度9 『影響無視』スキル。矢が風や重力の影響を受けない。
熟練度10 不明。
────────
……ふむ。
こうして見ると【処刑人】相手は生身だとかなりキツいな。
人形でなら毒も無効に出来る。
それと、おそらくカミラの熟練度7の『動体視力』によって俺の攻撃が逸らされたってことか。
それにしても……
「……【人形師】については………やっぱり全然記述が無いな……」
「何か気になるの?」
「……あの闇ギルドの連中が『ヴェリク以来だ』とかなんとか言ってたんだ。もしかすると、奴らの仲間にそのヴェリクってのがいるかもって。」
「……そのヴェリクってのも、ハルと同じ【人形師】のジョブ持ちってことね。」
「そうみたい。」
これだけの書物があっても【人形師】についての記述がほとんど無い。
有用だから秘匿されてる訳では無く、そもそもの母数が少ないのと、大道芸だということでジョブを磨く人が少ないんだな。
……にしても、あのジンネマンが言うほどの奴だ。
俺以上の使い手だと考えておいて損は無い。
ともかく、俺のやるべきことは決まった。
今まではAxelに頼ってばかりだったけど、俺は生身での戦闘をもっとこなすべきだ、と。
今までは生身でトレーニングはしてたけど、いざ戦闘となると人形に頼ってばかりだった。
生身の時に襲撃されて人形が無くて手も足も出ずに殺されてたまるか。
それと、オーバードライブ。
オーバードライブ状態は異常な程の強さを齎してくれるものの、その代償も大きい。
どの程度まで魔力を集中させるとオーバードライブとなるのか、その境界線を熟知しておかなければならない。
一先ずは黒衣の騎士は引退だな。
俺はもっともっと強くならなきゃならない。




