第71話 新スキル
トーヤのスられた財布を取り戻したのはAxelだった。
…………
………ハァ!!?
ど、どゆこと!!!?
財布を手渡したAxelはそのまま颯爽とどこかへと立ち去ってしまった。
「……ハハ、ハ、ハル……!!?ここ、これって一体……!!?」
「お、俺も分かんねぇよ……!!ってか、誰かが俺たちのAxelを勝手に操作してる……とか……!?」
「あるいは、黒衣の騎士の模倣ということですかな。鎧を身に着けた生身の人間の可能性ですが……」
何が何だか訳が分からない。
アキの言うように模倣の可能性もあるにはあるが、俺たちは細部に至るまでAxelをよく知っている。
さっきの黒衣の騎士は、紛れもなくAxelそのものだったハズだ。
「……いずれにせよ、ハル氏はリンクして確かめて見てくだされ。」
アキの言葉で急いで俺はAxelへとリンクした。
さっそくAxelを通して視界が開ける。
が、そこに映ったのはいつもの保管場所ではなく、俺がいつも見張りに使っていた図書館の屋上だった。
……ち……ちょっと待った……
何が起きてる!!?
俺は確かにAxelを保管場所に移してからリンクを切ったハズだ。
にも関わらず、Axelは今図書館の屋上にいる。
……まさか、他の【人形師】がAxelを見つけ、リンクして動かしたのか……?
……そんな馬鹿な……
それに、だ。
1体の人形に何人もリンクさせることがそもそもとして出来るのか?
………分からん。
ともかく、このままにはしておけない。
もしも誰か別の【人形師】がAxelを操作しているとするなら捨ておくわけにはいかない。
それがたとえ、どんな行いにせよ、だ。
俺はそのままAxelに繋いだまま、いつもの保管場所へと移動させてリンクを切断した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ハル氏、戻られたのですな。」
「ど、どうだったの!!?」
「………どうもこうも………さっきのは多分、Axelで間違い無いよ。俺がリンクした時、Axelは俺がいつも見張りに使ってる図書館の屋上にいた……」
2人とも驚いていた。
無理もない。
いや、俺も驚いてたけど。
「……一先ず、我々もすぐに寮へ戻り、保管場所を確認致しましょう。」
「……う、うん、そ、そうだよね…!!」
俺たちは駆け足で寮へと戻り、保管場所を確認した。
扉を開けると、そこにはAxelの姿があった。
………が、様子がおかしい。
俺がリンクを切った時、Axelは糸が切れた人形のように地べたに崩れ落ちる。
にも関わらず、だ。
今ここにあるAxelは、しっかりと自分の足で直立している。
「……な………なんで………!!?……い、いや、誰が………!?」
驚きのあまり言葉が出なかった。
予想通りではあるが、Axelは今、確実に誰かによって操作されている。
だが、驚きと同時に新たな疑問も湧き出た。
このAxel、俺がこの保管場所へ移動してリンクを切った瞬間から、なぜここでじっとしていたんだ?
それに、なぜ俺の見張り場所を知っている?
………それから………
このAxel、俺たちを見つめながら攻撃の意思すらも見せない。
「……お前………一体何者なんだ………?」
俺の問いかけに、Axelは体内に仕込んである紙とペンを取り出し、何やら記入しては紙を手渡してきた。
『俺はお前だ。』
………………
…………は?
……えっ……い、いや……どゆこと……!!?
「……もしや……今Axelにリンクしているのはハル氏だと……そう仰りたいのですかな?」
アキの問いかけにAxelは頷く。
「……い、いやいや……俺は今リンクしてないっての……!!」
俺がそう答えると、Axelはまた何やら書いて手渡した。
『お前の意識が、このAxelに転写されてるっぽい。』
………『転写』……だと………?
「……『転写』……ってことは、俺のコピーだってのか……!?」
Axelは頷いた。
「……えぇ!!?……ってことは……ここ、このAxelにはハルの意識がコピーされて乗り移ってるってこと……!!?」
「……このAxelが言う事を信じるならばそういう事ですかな……」
信じられない。
そもそも、本当に今Axelにリンクしているのは俺なのか?
……そうだ。
確かめる方法が1つある。
「……もしお前が俺だって言うんなら、俺しか知らない秘密も知ってるだろ……?」
その問いかけにAxelはしばらく考えた後、サラサラと記入した。
かなりの長文のようだ。
しばらくすると書き終わったのか、俺に紙を手渡した。
『小学2年の時、寝小便をしたことがある。親にバレたくなかったために、お茶をこぼしたと言い訳したがすぐにバレた。
中学3年の時、家でゲームをしていた時、屁をここうとしたがまさかのうんこだった。バレたくなかったために、その時履いてたパンツごと捨てた。それ以来、屁をこく時は警戒している。
よく利用していたお気に入りのアダルトサイトは……』
そこまで読んで速攻でぐしゃぐしゃに丸めた。
「あぁ!ち、ちょっとハル!まだ読んでる途中だったのに…!」
「読まんでよろしい!!コイツは俺だ。俺が俺であると俺が保証する!!」
何言ってるか自分でも分からん。
が、間違いなくこのAxelにリンクしているのは俺だ。
……そうか。
今分かった。
俺の熟練度。
現在俺の熟練度は9
8か9のどちらかにリンクする人形の数が増えた。
そして、もう一方が、人形へと意識を転写するスキルだったのだろう。
俺は今日、Axelでフル状態になるためにリンクしては魔力を相当に注ぎ込んだ。
それにより、『転写』スキルが発動。
Axelに俺の意識が転写されたってことか。
………え?
じゃあ、Axelはこのまんま俺の意識が転写されっ放しってことか?
……いやいや、そんなのいくらなんでも魔力が持たん。
今は大丈夫でも、いきなり魔力切れでぶっ倒れちまうって。
「……で……完全にシャットダウンするにはどうすりゃいいんだ?」
Axelはウーンと考えた後、サラサラと紙に書いて手渡した。
『よく知らんけど、いきなりプツッとリンクを切るんじゃなく、魔力を少しずつ緩めて切ればいけるんじゃね?俺を動かしてんのは魔力な訳だし。』
……この口調、ホント俺だな。
「……もう1つ、確認したいんだけどさ。主人格の意に反して行動したり、主人格を乗っ取ろうとか……そういうのがあったりするのか?」
『俺はお前だって。安心しろよ。俺がお前を乗っ取ったって、結局それ俺じゃん。』
「……いや、まあそうだけどさ……」
『まあ、懸念してるのは理解できる。漫画で言う分身みたいなもんだろ、たぶん。』
……確かに……そうか。
それに、俺自身で3体もの人形を操作するより、『転写』させた人形と共闘するほうがおそらくは戦闘能力は高い。
「……じゃあ……一旦切るぞ?」
俺の問いかけにAxelが頷く。
そして俺はAxelへとリンクし、今度は注ぐ魔力量を0へと近づけてリンクを切断した。
すると今度はAxelがガシャンと力無く崩れ落ちた。
「……これで、Axelには『転写』されて無いって事か……」
「しかしながら……これは大変興味深いスキルですな……」
「……ささ、最初は驚いたけど……」
これは面白いスキルだ。
今まで人形を同時使用しての戦闘は行ったことは無いので憶測になる。
俺が人形1体のみで運用しているのは、その方が強いし楽だからだ。
例えば、人形1体のみでの戦闘能力を10とした場合、2体同時使用だと1体あたりの戦闘能力が多少下がって、大体8だ。
となると、2体合わせて16の戦闘能力となる。
当然これが3体だと1体当たりの戦闘能力はもう少し下がる。
しかし、この『転写』であれば、戦闘能力を下げずに運用することが可能だ。
1体を俺、もう1体を『転写』させれば、2体同時使用でも1体当たりの戦闘能力が10のまま。
熟練度が上がった際に並列思考が強化されているとはいえ、『転写』による運用でなら脳のリソースを割く必要が無い。
ただ、もう少し試したいことがある。
リンクをブチ切ると勝手に『転写』されてしまうのなら、複数の人形を代わる代わる運用した場合、『転写』が書き変わっていくのかどうか。
どの程度の魔力を注ぐと『転写』されるのか。
『転写』する際、予め定めた行動を取ってくれるのかどうか。
例えば、『畑を耕しといてほしい』とか『街の警護をしといてほしい』みたいな。
……まあ、中身が俺なんだから勝手にやってくれるかもしれないけど。
「アキ、トーヤ。またまたで悪いんだけどさ……」
「ハル氏よ、分かっておりますぞ。」
「ああ新しいにに人形だよね!」
「いつも悪いな。素材集めは任せてくれ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後アキとトーヤはすぐさま人形開発に着手してくれた。
俺はと言うと素材集めと、AxelとShadowを使用して『転写』のテストだ。
素材集めと言っても金はあるもんですぐさま鉄やらアダマンチウムを仕入れることが出来た。
そして『転写』テスト。
これにより色々と分かったことがある。
まず1つ目、複数の人形でリンクを次々に切り替えた場合、その都度『転写』が書き換わるのか?ということ。
これについてはある意味ではYESだった。
『ある意味では』というのは、『転写』を行う際には人形に対して相応の魔力を注入しなければならなかった。
それも、普段戦闘する程度の魔力では無く、フル状態近い魔力を注入る必要がある。
ちなみに『転写』出来るのは1体までだった。
そして2つ目に、予め設定してある行動を『転写』により遂行できるのか?という問題。
これはまあ予想通りだったけど、『転写』された意識も当然俺なんだから問題なく行動した。
ただし、意識を共有している訳では無い。
『転写』状態のまま、例えば俺本体が『A地域の見回りをして欲しい』と願ったとしてもそれが伝わる訳ではない。
当然、『転写』体が得た情報を俺本体に伝わるわけでもない。
言うなれば、意識は俺だとしても他人だということだった。
3日間ほどAxelに『転写』して行動させてみたが、本当に普段の俺と同じだった。
俺と同じ思考を持ち、同じ記憶を持ち、同じ行動をする。
変に聞こえるかもしれないが、とても安心できる相棒みたいなもんだ。
まぁ、宿題を代わりにやらせる、みたいな運用も出来なくは無いのかもしれんが……
そんな折、俺の部屋の扉がノック……というか、荒々しく叩かれて驚いた。
「……はいはい……どちらさん?」
「俺だ。」
「俺だ」で分かるか!
「……どちらさんで……?」
「さっさと開けやがれ!」
……まぁ、9割方分かってたけどさ。
扉を開けるとそこにはやはりアーサーが立っていた。
「……やあアーサー。どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたも無ぇ。ちょっと面貸せや。」
「……えぇ……」
……これって校舎裏に連れてかれてボコられるやつじゃん。
てかなんでコイツこんなに不機嫌なんだよ。
アーサーは俺の返事を聞くまでもなく振り返って歩き始めてる。
……マジかよ……仕方ない……
俺は気乗りしないままアーサーの後ろを着いて行くことにした。




