第67話 借り
剣を引き抜くと傷口からとめどなく血が溢れ出し、次いでオーガロードは力無く崩れ落ちて絶命した。
「………や……やった………ハァ………ハァ………」
地べたに這いつくばって絶命しているオーガロードを見て、疲れが一気に押し寄せた。
いくらバフやデバフがあったとはいえ、生身での、それこそ直後すれば死ぬという緊張感の中戦うというのは初めての事だ。
アーサーを見てみたが、少々疲れてはいるものの肩で息をする程度。
……やっぱすげぇよアーサーは……
……いや、それより!!
「ロータス!!」
ディガーと戦闘していたロータスを見ると、まだ戦闘は継続中だった。
しかしながら、【騎士】でもあるロータスの攻撃をディガーは余裕そうにいなしているだけだ。
「……これはこれは……私のオーガロードを倒された様ですね。少々侮っていたようです。」
「次はテメェだ!!覚悟しやがれ!!」
「ほっほっほっ。威勢がよろしいことで。ですが……」
ディガーが再度指をパチンと鳴らすと、森の中から続々とオーガロードが現れた。
「説明不足だったようで失礼しました。私の手駒は何も、オーガロード1体という訳ではございません。」
「……そ……そんな………」
ついさっき、俺とアーサーとの共闘でようやく1体倒せたばかりなんだぞ……?
……それが……何体もだと………
………ハハハ………
………さすがにこれは………
ほかの皆も絶望している表情だ。
「おぉっとぉ……こりゃあまた沢山の獲物がいるじゃねぇかぁ………ヒャハハッ!!」
………その嫌な笑い声は………
振り返ると、シェルドンとジンネマンの2人が俺たちに追いついたようだ。
………終わりだ。
「あ゛あ゛あ゛ァァァァァ!!!!」
エリオは2人の顔を見るなり恐怖で泣き叫ぶ。
それだけあの2人に植え付けられた恐怖が大きいのだろう。
「……クソがッ!!」
アーサーはこんな絶望的な状況でも果敢にオーガロードへと挑む。
しかしながら、これだけの数を相手では分が悪すぎる……というよりも、もはや無理ゲーだ。
「ぐ……ぁああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
誰かの悲鳴が木霊する。
そこには、倒れたロータスをオーガロードの巨体がのしかかり、今にも踏み潰そうとしていた。
「おいおぃぃ!!中々良い悲鳴を聞かせてくれるじゃねぇかよぉ!!それによぉ……ヒャハッ!中々上玉もいるじゃねぇかぁぁ!!こりゃあ楽しめそうだなぁぁ!!」
シェルドンは女子を見て舌なめずりしながらそう言った。
その時、突然師匠の言葉が呼び起こされる。
『決して諦めるな』と。
……いやいや、無理ですよ師匠……
これだけの数を相手に……戦えるわけが無い……
………………
………畜生………
……だからダメなんだよ、俺は……
そうやって、諦めて……
アーサーを見てみろよ。
アイツはこんな時でも諦めずにさ。
サイラスもだ。
こんな時でも、何故かずっと演奏している。
俺は誓ったハズだ。
どんな時でも諦めないって。
……なら……
………こんな所で………
諦めてたまるか!!!!
「ハァァアアアアアッッッ!!!!」
俺は足に力を込め、1人で戦うアーサーの元へと駆け出した。
「ほっほっほっ。良いですね良いですね。若いというのは。これぞ青春ですぞ!」
オーガロードの群れから繰り出される拳を掻い潜りながら反撃する。
しかし、その攻撃のどれもがやはりオーガロードの皮膚すら斬れない。
そしてついには剣そのものが折れてしまった。
どうでもいい。
どの道、こんな剣じゃあ傷一つ付けられない。
ならばせめて。
俺は拳を握りしめ、オーガロードの体に拳を叩き込む。
拳からは血が噴き出る。
構うものか。
こんな所で諦めてたまるか!!
その時、ロータスを踏み潰そうとしていたオーガロードの背後からリュゼが現れ、渾身の力で体当たりしてロータスを救い出した。
「動けるか、ロータス!」
「……わ……悪い………足……引っ張っちまって………」
どうやらロータスは無事のようだ。
良かった。
それを確認した俺は、改めてオーガロードの群れを睨む。
その時、ふとアーサーと背中同士が隣り合わせとなった。
「……なんだハル……ビビってもう動けねぇのかと思ってたぜ……!!」
「……こんな所で………死んでたまるか……!!」
「……根性論で凌げるような状況じゃあ無ぇぞ?」
「……それでも、諦めるわけにはいかない……天才のお前だって諦めちゃいなんだろ……!!」
「………俺は天才じゃねぇ。」
「お前は天才だ、アーサー。誰がなんと言おうと……!!」
「…………テメェ…………」
「来るぞ!!」
「分かってらぁ!!」
オーガロードの群れが襲いかかる。
俺は血塗れの拳を振り上げてはオーガロードへと攻撃する。
オーガロードらはアリシアのデバフが掛かってる。
とは言えこの数で、さらにはダメージなんて与えられてない。
それでも俺は動く限り攻撃し続けた。
「ほっほっほっ。青春ですなぁ。」
「おいおいディガーよぉぉ!俺にもヤらせろよぉ!!」
「失礼ながらシェルドン殿。彼らを先に見つけたのは私でございます故に。」
「……チッ……ならよぉ、女は殺すなよぉ!!」
「……やれやれ……仕方ありませんな。」
拳から血が滴り、骨が見える。
それでも俺は動き続けた。
場には俺やアーサーの他にもリュゼとロータスが参戦した。
しかしながら、状況は一向に好転しない。
するはずもない。
その時、アリシアからのデバフが解除され、オーガロードの動きが機敏になる。
「……ハァッ………ハァッ…………ま……まだ………!!」
アリシアは膝をつきながらも辛うじて俺たちへのバフを継続させている。
ロータスもなんとか踏ん張ってはいたものの、攻撃をガードした際に槍がへし折れ、そのまま吹き飛ばされてしまう。
リュゼの剣でもオーガロードの硬い防御に阻まれ、刀身はボロボロ。
疲れを知らないハズのアーサーですら疲労が蓄積しており、拳の威力がどんどん落ちている。
「……だ………だめ…………!」
ついにアリシアの魔力が底を尽く。
途端にバフが全て解除された。
善戦していたリュゼもバフが消えたことでついにオーガロードに捉えられ、咄嗟に防御体勢を取ったもののそのまま殴り飛ばされて気絶した。
俺の足ももう限界だった。
膝がガクガクと震えだし、どれだけ息を吸っても肺が苦しい。
………………
……………なぜ……………
……………なぜ、リュゼは勝てる見込みの無い戦いに身を投じたんだ……………?
リュゼほど頭の冴える奴なら、もっと上手く立ち回って、生き延びる方法を模索できたんじゃないのか………?
………………
…………いや………よそう。
………もう、無理だ…………
………完全に………スタミナが切れた。
いや、スタミナが残っていたとて、だ。
目の前からオーガロードが拳を繰り出すが、もう避ける気力もない。
「………ボサっとしてんじゃねぇ!!!!」
完全にスタミナ切れを起こし、動くことすら出来なくなった俺をアーサーが蹴り飛ばした。
「………アーサー………!!?」
「……クソッ………これで前の借りは返したぜ………」
入れ替わるように、アーサーがオーガロードの拳に直撃して吹き飛ばされた。
「……アーサー………!!!!」
……何してんだよ……!!
俺なんかを庇って……!!
「ハル氏!!お待たせしましたぞ!!」
その時、背後からアキの声がする。
『待たせた』って……何も待ってなんかいないってのに………?
「い、急いでハル!!」
振り返るとアキとトーヤが金属製の人形を担いでいた。
「………は………?……ど、どうしてこんなものが………?」
「説明は後にしてくだされ!!一刻も早く!!」
アキとトーヤが持ってきた人形はAxelほど洗練されている物では無い。
ほとんど骨組みで、RPGで言うところのスケルトンの骨格が金属に置き換わっただけのような物。
……でも、今の俺に一番必要な物であることには間違い無い。
俺はすぐさま人形にリンクする。
俺の意識はすぐさま新たな人形へと乗り移る。
簡単に動作確認をするが、違和感も無い。
「ハル!!ここ、これも!!」
トーヤが俺に向かって武器を投げ渡す。
受け取った刀を見やると、グランツで回収できるような一般的なものでは無い。
……打ち直したってわけか。
………助かる!!
2体のオーガロードが俺に向かって駆け寄ってくる。
俺は刀を構え、自らもまたオーガロードへ向けて突進した。
オーガロードはすぐさま殺人級の拳を繰り出してきたが関係ない。
敵の拳ごと、そのまま刀で両断した。
……すげぇ………!!
さっきまで全然刃が通らなかったあのオーガロードをこんなにも簡単に……!
「……ふぅむ。これは驚きましたぞ。よもやオーガロードを両断してしまうとは……それに、あの少年のジョブは…………」
「おいおぃぃ!!あの時の【人形師】じゃねぇかぁ!?だろぉ、ジンネマン!!」
「……ふむ……しかしながら、先の木偶とは比べ物にならん。」
「ただの学生かと思っておりましたが……ですが、私のオーガロードを舐めて貰われては困りますぞ。」
その後ディガーが何やら呟くと、残りのオーガロードの動きが変わった。
「……き……気をつけて……!!多分、【調教師】のスキルでオーガロードに命令を出してる……!」
フェンさんがそう叫んだ。
「ほう?そのお嬢様も私と同じジョブ持ちという事ですな?ただ、それが分かったとて、この戦いにおいてさほど大した影響もございませんがね。」
『この戦いにおいて大した影響は無い』か。
それは俺も全くの同意見だ。
ただし、ディガーとは少しだけ意味合いが違うけど。
お前らは、俺の友だちを傷つけた。
今の俺には、アキとトーヤが必死に作ってくれたこの人形がある。
大した影響が無いっていうのは、つまり──
お前がどんな手を使おうとも、さっきのオーガロードのように為す術無く皆殺しにしてやる。




