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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第7章 三大高等学校対抗試合
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第65話 闇ギルド

 人形へとリンクした俺は高速で森の中へと駆け出す。


 その間も必死に助けを求める声が聞こえていた。



 森の中にはリュゼが言っていた通り多数の罠が張り巡らされている。


 俺は急ぎつつも慎重にそれらを回避する。



 そうして森の中を駆け抜けていると、頭上に逆さ吊りにされている生徒が目に入った。



 助けを求めていた声の主だ。



「……頼む………誰か…………!!」



 その生徒はとてつもない恐怖に襲われたのか顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。



 俺はすぐさま木をかけ登り、括り付けられていたロープを断ち切る。


 その生徒は重力によりそのまま大地へとドサッと転がった。



「……た……助かった…………あ……ありが…………!!?」



 生徒は助けてくれた礼を言おうと俺を見たが、まさか人形とは思っておらずに思わず絶句していた。


 襷の色は青。


 セント・クラーク生だった。



 色々と聞きたいことはある。


 が、何分人形の身では筆談するしかない。


 このまま彼を撤収ポイントへ逃げるよう指示したとて、罠だらけのここから無事にたどり着く保証もない。


 ならばこのまま彼をここに待機させ、何が起きたのか人形で確認するべきか。


 もしくは彼を連れて罠を回避しながら撤収ポイントへと急ぐべきか。



 そう考えている時だった。



「……見つけたぜ……!!」



 というドスの効いた声が木霊する。


 その声に「ヒィィッ!!」と情けない声が隣から聞こえた。



「逃げられるとでも思ってたとはなぁ……」


「ヒャハッ!おいジンネマン!アイツぁ俺にヤらせろよ!」


「…シェルドン……お前はさっきもそう言って獲物を独り占めしただろうが……」


「良いじゃねぇか!若ぇ奴らの悲鳴を聞くのは俺の愉しみなんだからよぉ!ヒャハッ!!」


「……まぁいい。ガキだからといってしくじるなよ。」


「ヒャハハッ!ったりめぇよ!!」



 会話が終わると何者かが樹上から飛び降りて現れた。



 現れた男は骸骨のように頬が痩けており、そのせいで異様に大きく見える目玉で俺たちを見つめている。


 武器は両手にククリナイフ。


 しかしながら防具は軽装だ。



「ヒャハッ!んねぇ〜、教えてくれよぉ?この辺にエルフが逃げ込んでんだろぉ?教えてくれたらスパッと殺してやるからよぉ。ヒャハハッ!」


「……し、知らないって……頼む……お願いします……!!助けてください!!」


「知らねぇのは罪なことだなぁ……残念だけどよぉ?俺たちの姿を見た以上は皆殺しってわけよぉ。ヒャハハハッ!!」


「……ヒ……ヒィィィッ……!!」



 シェルドンと呼ばれた男は笑うなりいきなり駆け出し、手にしていたククリナイフで斬りかかった。


 俺は人形でもってその攻撃を受け止める。


 その際、俺の持っていた剣に少しばかりヒビが入った。



「んんん!?なんだぁ?……人形だぁ……?」



 斬撃を止められた人形をそのギョロリとした目玉で睨みつける。


 近くで見るとキモいな……!!


 ……って、そんな場合じゃない!!



 シェルドンは一瞬戸惑ったものの、すぐさま切り替えて人形に向けて斬撃を放つ。


 俺はそれをヒラリと躱し、改めてシェルドンと対峙した。



「……なんだなんだぁ!?この人形……俺様の攻撃を受け止めるだけじゃなく回避しやがっただとぉ!!」



 ……まずいな。


 この人形は木製。


 このグランツの最中にアキとトーヤが作ってくれた代物だが、Axel(アクセル)ほど完成度は高くない。


 さらには木製のため、連続で稼働させれば摩擦熱で動作不良となる(おそれ)がある。


 それだけじゃない。


 後ろには怯えた生徒がいる。


 ここでパニックを起こされて逃げ出されれば……



「……た、助けてくれぇぇぇ!!誰かぁぁぁ!!」



 ………マジかよ。


 この罠だらけの森の中、さっき自分が罠に掛かったことも忘れて逃げ出しちゃったよ。



「おいおいぃぃ!逃げるなんざぁ許されねぇぜぇ!ヒャハハッ!!」



 シェルドンはまず先に俺を倒すべく斬りかかる。


 俺はシェルドンから繰り出される斬撃を的確に捉えて躱し、カウンターを仕掛ける。


 しかし、シェルドンはそのカウンターの斬撃を有り得ないほど背中を逸らして回避した。


 さらに、そのまま足で俺を蹴り上げた。


 防御体勢を取ったものの軽い人形はいとも容易く吹き飛ばされてしまう。



「……この人形……ヒャハッ!……操縦者はタダモンじゃないようだなぁ……!」


「遊んでいる場合かシェルドン。さっさと始末して逃げたやつを追え。」


「っるせぇなぁジンネマンよぉ……んなこたぁ分かってるってよぉ!!」



 吹き飛ばされた俺に追撃すべくシェルドンが駆け出す。



 どうしたものか。



 この体格差は完全に不利だ。


 グランツの最中に回収した武器を使用しているが、その性能はかなり悪い。


 シェルドンの斬撃を受け止めただけで軽くヒビが入っている。


 シェルドンから繰り出される斬撃をヒョイヒョイと躱してはいるものの、摩擦熱により間接部が熱を帯びたのか、股関節の動きに違和感を覚え始める。


 反撃をしようにもこのシェルドン、普通の人間では有り得ないような動きで斬撃を躱す。


 異様に身体が柔らかいんだ。



「……面白かったけどよぉ……そ〜ろそろオネンネといこうぜぇ……逃げたヤツを探さねぇとだしなぁぁ……!」



 シェルドンはそう言うと卑しく笑った。


 そしてすぐさま斬撃を浴びせかかる。


 俺はその攻撃を的確に処理する。


 だが、先程までとは違って動きが緩慢な気がする……


 疲れ、か?


 しかし、これはまたとない反撃のチャンスでもある。


 俺はシェルドンの身体の柔らかさをも考慮して深めに攻撃を繰り出した。



 捉えた!!



 俺のナイフでシェルドンを袈裟斬りにした。



 ………ハズだった。



 しかし、斬られたハズのシェルドンが幻影となって霧散する。



「ざぁんねん!残像でしたぁぁ!!」



 ……しまった……!!


 そう思った時には、既にシェルドンのククリナイフが俺の左腕を切り飛ばしてしまった。



「……おいおいぃぃ!!今のでも仕留められねぇとはよぉぉ……俺様ちぃとだけイラッとしたぜぇ!?」



 ……コイツ……強い……!!



 しかも『残像』だと……!?


 確か残像は……【処刑人(エクセキューショナー)】のスキル……だったか……?


 ……想像以上に厄介だ。



「……まあいい……ヒャハッ………次で仕留めるからよぉぉ!!」



 駆け寄ってくるシェルドンを睨みながら思考を加速させる。


 人形は左腕を失い、摩擦熱により股関節にも違和感がある。


 奴のスキル『残像』により、奴の居場所すら特定しづらい。


 ……どうする……!!?




 ………そうだ…………




 …………アレだ…………!!


 アレしかない!!



 俺は攻撃を横に躱し、そのまま反転して来た道を戻るようシェルドンへと背を向けて逃走する。



「おいおいぃぃい!!ここに来て逃げるとか興醒めだろぉぉ!!」



 シェルドンは俺の背後から高速で追いかける。


 俺はスキルの俯瞰視点によりシェルドンの位置を的確に捉えながら逃走する。


 ……だが、股関節の違和感はついに形となって現れた。


 パキッという音と共に右足の感覚が途絶えてしまう。



 もう少しだけ!!



 俺は左足で目一杯跳躍し、空中で身体を捻って反転する。



「終わりだぜぇぇ!!ヒャハハッ!!」



 俺の跳躍と同時にシェルドンも跳躍し、両手のククリナイフで俺を捉える。



 ………ここだ!!!!



 俺は着地と同時に足元のロープを引っ張るとすぐさま罠が発動した。


 それにより、大地から大きな網が現れ、それがシェルドンを包み込んだ。



「……んなっ……なんだぁぁ!!?」



 これはリュゼらが仕掛けてくれていた罠。


 シェルドンはそんな罠が仕掛けられているとは露知らず、まんまとその罠に嵌ってくれた。



 しかしながら、人形はすでに立てる状況ではない。


 俺は座り込みながらも魔力を集中させ、網の中にいるシェルドンへ向けて力いっぱいナイフを投擲した。


 シェルドンは網の中で藻掻いているが、抜け出せる様子は無い。



 もらった!!



 ナイフがシェルドンの頭部へ向けて飛んでゆく。



 しかし、ガチィンという音と共に、俺の投げたナイフはシェルドンに刺さることなく地面へと突き刺さった。



「……やれやれ……シェルドンよ。あれほどしくじるなと言ってあっただろうが……」



 ドスの効いた声………ジンネマンという男が俺のナイフを弾いてシェルドンを救っていた。



「…いやぁぁ……世話をかけるねぇジンネマンよぉ……こぉんな小賢しい罠があるとは思って無くってよぉ。」


「……全く……しかしながら、だ。何者かは知らんが、シェルドンをここまで追い詰めるとは。これは捨て置けんな……」



 ジンネマンはそう言いながら俺の元へと歩み寄って上から見下ろす。



「これほどの【人形師(マリオネイター)】がいるとはヴェリク以来だな……しかもこのような木偶で……」



 そう言ってジンネマンは剣で俺の胸を貫いた。



 徐々にリンクが途切れ始める。



「……惜しい奴だ……我がギルドに来るなら歓迎してやるぞ……………」



 ここで俺のリンクは完全に途絶えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「………ハッ………!!」


「……おぉ、ハル氏よ。目覚めたのですな。」


「ハ、ハル!ど、どうだったの!?」



 目を覚ました俺はアキに背負われて移動していた。


 俺はアキの背から降り、皆に歩きながら説明した。



「……ヤバい奴らが来る……人形は……破壊された………」



 この言葉に驚いていたのはアキとトーヤ、アリシアだけだった。



「………そ……そんな………!!ハ、ハルでも敵わなかったってこと!?」


「……トーヤ氏……声を抑えてくだされ……」


「……あ……ご、ごめん…!」


「それで、ハル。何があったの?」



 俺は森の中での出来事について簡単に説明した。


 助けを求めていたのは同じ学校の生徒だったこと。


 シェルドンとジンネマンという連中と会敵し、人形が破壊されたこと。



「……悪い……2人とも。せっかく作ってくれた人形だっていうのにさ……」


「仕方ありませんぞ。それで、助けた生徒は?」


「……分からない……逃げ出したっきりで……どうなったのかまでは………」



 その時、突然エリオが屈み、ガタガタと震え出した。



「……お、おい……エリオ……?どうしたんだよ?」



 そして何を思ったのか、突然俺に掴み掛った。



『……お、おい……!!さっき、お前の口から聞こえた!!シェルドンと……ジンネマン!!なぜ奴らの名前を知っている!!』



 エルフ語が分からない連中は突然のことで動揺していた。



『……なぜって……さっき会敵したんだよ……森の中で………』


『……馬鹿な!!お前はさっきまで寝ていただろう!!』


『……それはジョブというものでさ……』


『落ち着いて、エリオ。シェルドンとジンネマンというのは、アナタの村を襲撃した人間の名前っていうことね?』



 アリシアが横から割入る。



『……そうだ………アイツらが……俺の仲間を……!!……もう……お終いだ………あんな奴らが来てるだなんて…………』



 やはり、奴らがエリオの村を襲撃し、奴隷としてエルフを捕獲していた連中か。


 ……にしても、奴らは只者じゃない。


 いくらいつものAxel(アクセル)じゃないとは言え、あそこまで腕の立つ奴がただの奴隷商人とは思えない。



 『闇ギルド』。



 間違いない。


 それも、シェーファーが雇っていたような小物なんかじゃない。



「……ともかく急ぎましょう。早く撤収ポイントへ。」



 アリシアがそう言うと、皆走って撤収ポイントへと駆け出していた。

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