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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第7章 三大高等学校対抗試合
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第64話 警鐘

 俺は倒れ込んだエルフ族を担ぎ、拠点へと寝かせる。


 まだ起きていた何名かの生徒は初めて見るエルフ族に興味津々の様子だ。


 まあ、かく言う俺もだけど。



 髪をかき分けて顔を窺うと、いくつか擦り傷があったものの、それ以外は教科書通りの端正な顔立ちが現れた。



 が、かなり憔悴している様子だ。



「……この子……一体どうしてこんな所に……?」


「……浜辺でいきなり倒れ込んだんだ。多分、海から流れ着いたんだと思う。」


「そんな所で2人はナニしてたワケ〜?」


「い、いやいや!!なんもしてないから!!」


「ホントに〜?」



 ヴィオラさんは含み笑いをしながらそう言った。



「……そ、それよりもリオ。アナタのジョブでなんとかならない?」



 アリシアが話題を戻す。



「……やってみるね。」



 そう言ってリオさんが手を翳すと、途端に淡い光がエルフを包む。


 すると顔にあった擦り傷が見る見るうちに回復していった。



 ……ロータスの言ってた通り、ホント凄いな【治癒士(ヒーラー)】は……



 リオさんの治療のお陰か、さっきまで辛そうだった表情も少しばかり緩み、スゥスゥと寝息を立てていた。


 リオさんはエルフの額に手を当てて体温を確認し、次いで手首から心音も確認した。



「……多分、もう大丈夫かと。エルフ族の子なんて初めて診るから確証は無いけど。」


「……良かったぁぁ……」



 皆はホッと胸を撫で下ろす。



「……にしても、この子は一体どうして浜辺に?この辺りにエルフが住み着いている森は無いハズなのに。」



 アリシアの言う通り、この辺りにはエルフ族が暮らしている森なんて無いハズだ。


 いや、それ以上に。



「……この子、こんなにもボロ布の服なんて着せられてさ……もしかしてその……奴隷だった……とか無い……よな……?」



 俺の質問には誰もが口を噤んだ。



 奴隷。



 この辺りにエルフの森は無く、着ている服はボロ布。


 多分、誰しもがそう考えただろう。



 アリシアはエルフの服を少しだけ脱がせ、胸元を顕にする。


 すると、見たこともない印が胸に刻まれていた。



 これは……エルフに伝わるタトゥー的な……?



「……やっぱり………」



 そう言ったアリシアの表情は険しかった。



「……アリシア……そのタトゥー?って……」


「これはタトゥーじゃなくて焼印よ。それも、奴隷のね。」


「………焼印………!?」



 マジかよ。


 ……確かによく見ると、タトゥーとは違って赤黒く、皮膚が盛り上がっているように見える。



「……ってことはさ、この子、逃げてきたってワケ?」


「…だとしたらどこから……確かこの国でも奴隷なんて……」



 リオさんが言葉を濁したが、エルミール王国では奴隷は違法だ。


 いくら貴族と言えど、奴隷を所有しているとなれば重罪だ。


 となれば、どこか違う国の連中か?



「……あ、あの……せ、先生に言ったほうが……?」



 フェンさんが思いついたように言った。


 確かに、これは俺たちの手には余る。


 引率として来ている先生でも、ちゃんと対応はしてくれるだろう。



 皆もそれに了承したその時だった。



 エルフが咄嗟にガバッと起き上がり、俺たちを見つめたかと思いきや次第に表情を変えてゆく。



「……だ……大丈夫……?」


「……ウ………ウ……………」



 まずい!!



「ウガァァァアアアアアアアア!!!!」



 エルフは殺気に満ちた表情でリオさんへと飛びかかる。


 すんでのところで俺が横から割り入り、エルフの手を掴んでいなし、後ろ手にして押さえ付けた。



「ウガァァアア!!☆¥%○$#!!」



 エルフは俺に押さえ付けられながらも殺意をむき出しにし、尚も叫んで暴れようとする。



「止めろって!藻掻くと折れるぞ!」



 エルフはそれでも歯を食いしばって俺を睨み、口からは血が滲み始めている。



『落ち着いて!誰もアナタを傷つけようとはしてないわ!』



 尚も暴れようとするエルフにアリシアがエルフ語で語りかけた。


 その言葉にエルフはハッとしてアリシアを見やり、少しばかり力が緩む。



『その通りだ。浜でお前が倒れてたから、ここに運んで手当てしたんだ。』



 上から押さえ付けながら説明したが、このエルフはまだ半信半疑のようだ。



『傷つけたりはしないから……離すぞ?』



 徐々に力を緩め、エルフを解放する。


 俺たちに敵意が無いと分かってくれたのか、暴れ出すことは無かった。


 それでもエルフは完全に気を許した訳では無く、警戒したような目付きで辺りを注視していた。



『……いい?ここにはアナタを傷つける人はいないわ。何があったのかは知らないけど、アナタは奴隷として飼われていて、そこから逃げてきた、ということよね?』



 アリシアは優しい口調で質問した。


 その質問に対し、エルフは静かに頷いた。



『アナタが逃げてきたここはエルミリア王国領。ここでは奴隷は禁止されているの。だから、アナタを飼い主に売り渡したりは絶対にしないと約束するわ。』



 その言葉に少し安堵したのか、エルフはスルスルと腰を落とした。



 俺の中にあった疑念はある意味確信に変わった。


 この子の飼い主は人族だ、と。


 俺たちの姿を確認するなりいきなり飛びかかるほど怒りに満ちていたわけだし。



「……あ、あのぅ………これ、良かったら……」



 そう言ってリリーはスープを持ってきてくれた。


 少し冷めてしまったものの、ジャックお手製の栄養価の高いスープだ。もちろん味も素晴らしい。



 エルフは提供されたスープの匂いを嗅ぎ、俺たちの顔を眺めてる。


 強ばったような警戒した表情を続けてはいたものの、結局空腹には勝てず。


 皿の縁からスープを1口。


 その後は一気にスープを口に運び、具材を手で口へと掻き込む。



 そのエルフは夢中でスープを掻き込んでいたが、その目からポロポロと大粒の涙を流していた。



「……さっきから騒がしいけど……何かあったのかい?」



 声がして振り返ると、リュゼとアーサー、それにロータスがそこにいた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 それぞれに状況の説明を終えた頃にはエルフも食事を終えていた。



『改めて聞かせて。私の名はアリシア。アナタの名前は?』


『………僕は………エリオ……』



 ふむ。エリオか。


 一人称から察するに男の子かな。



『ありがとうエリオ。アナタは飼い主から逃げてきた、ということよね?』


『………うん………コリーと…ブレンダも一緒だったのに…………アイツらが………!!アイツらが!!』



 エリオは怒りの形相で拳を握りしめた。



『……そう……かなり酷い事を………ねぇエリオ。アナタの買主の名前は分かる?』


『……分からない………村に住んでたところ、ニンゲンが襲って……捕らえられ………僕らは船に乗せられて………こんな焼印を入れられて………』



 なるほど。


 奴隷船にて運ばれている最中に逃げ出してきたってわけか。



『他の村人たちもその奴隷船に乗せられてるのか?』



 俺は気になって質問した。



『……そうだ………村の長グロリア様も……捕らわれた……何人かは逃げられたけど……アイツらは森に火を放った………多分……逃げた皆は全員………焼かれた………』



 ………ひどいな………


 エルフが一体何をしたって言うんだ。


 それまで平和に暮らしていたのに、突然こんな仕打ちを受けるなんて。



「ふわぁあ……なんかよく分かんね。俺ぁ寝る。後は勝手にやれ。」



 そう言ってアーサーはさっさと部屋に戻ってしまった。


 ……多分だけど、エルフ語での会話で何を話してるのか分からなかったんだろうな。


 というか、ここにいる殆ども分かって無さげだ。


 ステラに感謝だな。



『……そう………辛かったのによく話してくれたわ。安心して。ここでアナタを傷つける人はいないから。今日はもう遅いから、ゆっくり休んで。』


『……あり……が………とう…………お前も。』



 そう言ってエリオはアリシアとリリーを見つめた。


 当のリリーは何を言われてるのかあまり理解はして無さそうだが。




 その後、エリオは安心したのかすぐさま眠ってしまった。



 そして、アリシアの口から皆に説明された。




「……奴隷船、か。アリシア、この辺りで奴隷の売買をしてる商人について心当たりはあるかい?」


「エルミールでは聞いた事はあまり無いわね。ただ、エリオの話から察するに、相手は相当の手練集団よ。」



 エルフ族は俺たち人族とは異なり、自然界にいるとされる精霊の力を借りて魔法を使用することの出来る種族だ。


 更には突出した耳。


 あの耳で周囲の音を聞き分けられる。



 今回エリオの村を襲撃、とあるが、当然ながら村人全員の耳を掻い潜って襲撃したということだ。


 それに、エルフ族にも戦えるエルフもいただろう。


 奴らはそんなエルフ族でも諸共しない連中だったハズ。



「………闇ギルド………?」



 俺は小さく呟いたが、誰しもがその可能性に思い当たったのだろうか、誰も否定はしなかった。



「……ってかさ〜、アリシアっちもハルっちも、めっちゃエルフ語上手いじゃん。ウチなんて何話してんのか全然分かんなかったってのにさ。」



 やや重くなった空気をヴィオラさんが変えた。



「……た、確かに!アリシアはともかくハルまであんなに話せるなんて!」


「……あ〜、えぇっと…あれはさ……習ったんだよ……その………ステラ……先生に。」


「へぇ〜!今度私にも教えてよ!」


「ダメだよリリっち。ハルっちはアリシアっちのものなんだからさ。」


「………えっ……!?」



 リリーは驚いて俺とアリシアを交互に見つめた。



「え!そ、そうなの!!?いつの間に!?もうデートとかしたの!?どっちから告白したの!!?も、もしかして……キスとか……!?」



 と言って勝手に盛り上がられた……



「……コホン。ともかく、エリオの件については明日にでも引率の先生にでも話そう。僕らじゃ手に負える案件とは思えない。」



 リュゼのお陰でその場は一旦解散となった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして翌朝。


 今日も今日とて子鳥のさえずりで目を覚ます。


 起きては日課の早朝トレーニングだ。



「……Oh、ミスターアルフィード。グッモーニン。今日もトレーニングとは精が出るね。」


「おはようサイラス。特に異常は無かった?」


「私の知る限りでは特に無かったよ。」


「そっか。」



 ランニング前にエリオを確認したが、スヤスヤと眠っている。



 今日はせっかくだ。


 浜辺でのランニングと致しますか。


 砂地でのランニングは足腰を鍛えるのには持ってこいだ。


 俺は拠点を出て浜辺へ向かい、早速ランニングを行った。


 さすがに靴は履いたままだ。


 というのも、砂浜に打ち上げられた貝殻で足の裏を切ったりしないために。



 そうして1時間ほどのランニングを終え、そのまま砂浜にて腕立てや腹筋、スクワットも行う。



 硬い地面と比べてやっぱり負荷が大きいな。


 いつもやってるトレーニングだけど、砂が沈み込む分体幹が鍛えられている気がする。



 冬場ではあったもののじんわりと汗が出た。



 ………………



 ん?


 なんだあれ?



 トレーニングを終えて潮風を浴びていた時、大きな船が島の東側で停泊しているのが見える。



 どこかの学校の船か……?



 …………



 ………いや、それにしてもまだグランツの最中に船を停泊させるなんておかしくないか?



 それ以上に、嫌な予感が駆け巡る。



 まさかだけどさ。


 まさか、あの船は奴隷船だったり……?



 その時、東側から多数の煙が打ち上がる。


 それと同時に突如として甲高い鐘が鳴り響いた。



「……なんだ………!?」



 その音で仲間も次々に起きては拠点の外へと現れる。



「皆のもの!!グランツはここまでだ!!」



 突如引率の先生が宣言した。



「……なっ……!?」


「い、一体どういう……?」


「あの鐘は『グランツの中止』を知らせる鐘だ!!総員、直ちに撤収せよ!!」



 困惑する俺たちだったが、森の中にて罠が発動したのか木々が揺れる。



「……次から次へと……!!」



 誰となしに悪態を付いた。



「助けてくれー!!頼む!!誰かーー!!」



 森の中から声がする。



「……お、おい………どうすんだよ……?」


「……こ、この鐘自体が罠だったりとか……?」


「それは無い!あの鐘が鳴った時点でグランツは終了だ!!直ちに撤収せよ!!」



 引率の先生の表情からは冗談とも思えない。



「……そういや、東側に船が停泊してたんだ。まさかとは思うけどさ……」


「……船だと!!?」



 そう言ってエリオを見やると突然の事でワナワナと震えている。



「……まさか……奴隷船が……!!?」


「考えているヒマは無いわ!先生の言うように、今すぐ撤収しましょう。ロータス、先頭をお願い出来るかしら?」


「……ま、任せてくれ……!」


「中間はリュゼにお。アーサーは殿(しんがり)を!」


「あぁん?なんで俺が殿なんか……」


「つべこべ言わずに!!」


「……わ…わぁったよ……」



 その間も森からは必死に助けを求める声がする。



「アキ!トーヤ!俺を背負っていけるか!?」


「……こんな時にどうされるので?」


「このまま放っておけない。それに、何が起きてるのか確認したい。」


「……ででで、でも……だだ、大丈夫なの!?」


「ともかく頼む!!」


「………仕方ありませぬな。ならば、自分がハル氏を担いで行きましょう。早く乗ってくだされ!」



 俺はすぐさまアキに背負われ、すぐさま人形へとリンクすると本体の意識が無くなった。


 同時に皆は拠点を捨てて走り出した。

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