第63話 浜辺にて
「……それにしても……テメェ、凡人の割に中々やるじゃねぇか。」
ローズベルの拠点へと向かう道中、突然アーサーが褒めてきた。
「……なんだよ急に……珍しく褒めてくるなんてさ……」
「凡人の割にっつってんだろうが!」
「あ〜、はいはい。まあほら、こんな世界であっさりと死にたくなんてないからさ。」
「………それに、アイツらが潜伏してたのにすぐに気付いたな。なぜ分かった?」
「……まあ、師匠に魔物がいる森の中に放り込まれて……それで、かな……?」
「…………………」
師匠の厳しい訓練の賜物ってことだ。
バカ正直に突っ込んでくる獣より、息を潜めて近づいてくる獣のほうが恐ろしい。
あとはAxelでの経験も役に立っている。
Axelでは触覚が無いぶん、所謂『肌で感じる』ことが無い。
だからこそ、周囲の音に敏感になってた。
そうして今回、生身での戦闘。
音に加え、チリチリと肌に焼き付くような感覚。
五感が研ぎ澄まされてるっていうんだろうな。
「………1度しか言わねぇ。」
「……ん?」
「………さっきは助かったぜ………」
「……………………」
え!?
あのアーサーが?
どうしたん?話聞こか?
「……なんだ?」
驚いて目をパチクリさせてた俺にアーサーが問いかける。
「……い、いや……あのアーサーが礼を言うなんてさ………」
「………チッ………ボサボサしてると置いてくぞ!!」
「……あ、あぁ……うん………」
………意外だった。
アーサー、ちゃんとお礼言えるんだ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「凄いじゃないか2人とも!!昨日の今日だと言うのに!!」
「ホントホント!!こんなに拠点を落としてくるなんてさ!!」
「いや〜、ミスターアルフィードにミスタードラグルス、これほどまでに尽力してくれるとは私から曲を贈ろう!!」
夕方となり、俺たちは拠点へと戻って来ていた。
あの後、奇襲を掛けてきたローズベルにはキッチリと落とし前を付けさせた。
これで、昨日の分も含めると合計で5つの拠点を落とした事になる。
「これ、ウチらぶっちぎりじゃね?18チームある敵のうちの5チームも潰したって。」
「……ホント……凄いよ……!」
「でも、油断は禁物よ。私たちの宝玉を取られでもしたら、いくつ宝玉を集めていたって無駄になるのよ。」
「……それもそうだけどさ……でも、俺たちの宝玉を奪うなんて実質無理ゲーっしょ。」
「だとしてもよ。敵チームが結束して、防衛班全員無力化されたら、あの箱も時間を使って解除される可能性もあるのよ。」
うんうん。
勝って兜の緒を締めよ、とはよく言ったものだ。
その点はアリシアはよく心得てる。
「アリシアの言う通りだね。それに、ここからは敵もより一層慎重になる。数の暴力で攻め入ってくることも考えないといけない。夜間の侵入にもね。」
訓練はまだ終わってない。
安心するにはまだ早い。
「……ま、それはそれとして、ハル、アーサー。2人ともご苦労様。」
「ハハハ…ま、アーサーがほとんどやっつけてくれたからさ……」
「だな。『盗っ人』。ククッ……」
「うるせー!」
俺とアーサーのやり取りを見てか、皆は少しばかり不思議そうな表情だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さてと……皆に話しておかないといけない。これからのグランツについて。」
夕食を終えひと段落ついた所でリュゼが話し始めた。
「これから僕らはより一層気をつけないといけない。」
「……気をつけるって、さっきアリシアが言ってた敵勢力が団結してってやつか…?」
「その通り。僕らの宝玉は5つ。これは多分トップクラスに多いだろう。ここから敵チームが逆転するためには、僕らの宝玉を奪うのが手っ取り早い。」
リュゼは地図を広げ、攻め落とした敵拠点を丸で囲み、それぞれがどの学校かを追記した。
「アーサーとハルのお陰で、ローズベル2箇所、ソルフレア3箇所を落としてある。残る敵勢力は多くともローズベル4チームとソルフレア3チームで合計7チーム。人数だとおよそ210人だ。」
リュゼの説明によると、残る敵チームが俺たちに勝つために連合を組む可能性が高い、ということだ。
さらには、同じセント・クラーク高校の他クラスも加わる可能性はある。
「っつーか、護衛班は何やってたんだ?まさかサボってたんじゃねぇだろうな?」
アーサーがそう言って睨みを利かす。
「サボっちゃいないさ。罠を作ってあちこちに仕掛けてあるんだよ。」
「罠だと?」
え、そなの?
ここに戻る道中、それらしいものなんて見なかったけど。
「あのさ〜、ウチらが戻る時にそんなの見当たん無かったけど〜?」
ヴィオラさんが口を開くと、他の回収班の面々も同調した。
「当然だよ。キミたちが帰る時に使う道は拓けた道だ。そんなとこから敵勢力が忍び寄ってくるとは思えないから。」
…あ、確かに言われてみれば。
その後はリュゼは罠について説明した。
この拠点は左右に森があり、裏手には海。
前面は拓けているものの、所々に凹凸があって身を隠すには持ってこいの場所だ。
今回リュゼが罠を仕掛けたのは左右の森と前方だ。
大小様々な罠が森の中には張り巡らされており、全て回避しながらこの拠点へと来るのは相当に無理があるらしい。
そして前方。
前方の凹凸のある場所にも罠を仕掛けている。
こちらの罠は落とし穴だ。
単純だけど効果はかなりある。
もちろん、どの罠も非殺傷だ。
「…それでも、数の暴力で来られれば……もしも3クラスが手を組んでこちらへ来た場合、敵の数は90人弱だ。いくらアーサーが強かろうとも、それだけの数を相手には……」
とジャックが心配そうに話す。
確かに、罠で敵勢力をある程度は削げるだろう。
約半数を罠で無力化できたとしても、残る敵勢力は45人。
1人あたり3人を相手にしなければならない。
いくら宝玉を簡単に持ち出せないとしても、襷を取られて全滅すればあとは時間の問題だ。
「まあ、その点についても問題ないよ。そもそも、敵チームが自拠点の守りを捨ててまで全員で掛かってくるとは思えない。1チーム30人のうち、少なくとも5人は護衛として残る。そうなれば3チーム合同だと75人。罠で半数削れたとするなら37、8人だ。」
「…だとしても、それでも……」
「それに、フェンがたくさん仲間を作ってくれてね。」
フェンの名が出たことで一斉にフェンを見つめた。
「……あ……えぇっと……私の【調教師】で、何匹かの魔物をテイムしたけど……でも、そんなに戦力にはならない……かも……」
「いいや、大いに戦力になるよ。なにも、1対1で魔物が勝つ必要は無い。テイムした魔物はどれも小型だけど、その分足が早くて撹乱に使える。敵の足が止まれば、上から矢で狙撃もしやすいだろう。」
なるほど。
どんな小さい力でも、要は使いようってことね。
「……そういえば、ハル。お前の【人形師】でさ、敵の拠点の宝玉だけササッと奪っちまうってことは出来ないのか?」
話し合いがひと段落したかと思いきや、間髪入れずにロータスが耳打ちしてきた。
「……いけなくはない、とは思うけど。間接が摩擦熱で焼けてしまう前に休息を取ってってやれば…多分……」
「だろ!?それなら、敵が固まってる地点に人形で侵入してさ……」
「んな姑息なマネすんじゃねえ。」
と、アーサーが横入りした。
「こ、姑息って……良い戦法だと思ったんだけど。」
「んなマネなんざせずとも、真正面からぶっ潰すまでだ。」
相変わらずの脳筋だなぁ全く……
「それに、テメェは【騎士】があんだろ。雑魚共をぶっ倒しゃあ少しは強くなれるチャンスじゃねぇか。」
「……た……確かにそうだけど………あ、そうそう!話が変わるんだけどさ!」
……ロータスめ……
痛いところを突かれたのか明らさまに話題を変えようとするとは。
「リオさんって凄ぇんだぜ!さすが【治癒士】だ!」
ロータスは聞いても無いのに回収班の出来事を話し始めた。
回収班で食料や武器の回収をしていた際、敵勢力と鉢合わせたそうだ。
その際、ロータスが大活躍し、なんとか敵勢力を退けさせることに成功したらしい。
が、その際に敵の剣先が腕を掠め、負傷してしまった。
リオさんはすぐさまジョブを発動させると、見る見るうちに傷口が塞がったそうだ。
「……へぇ。ロータスもやるじゃん。敵を退けたなんてさ。」
「ハハッ!まあ、日頃の訓練の賜物だな!」
「んで、襷は何本回収したんだ?」
「……あ……えっと……た、襷を奪う前に逃げられちゃってさ……」
「あぁん!?それじゃあ意味無ぇだろうが!」
「だ、だって……深追いはするなってアリシアに……」
「……チッ……」
「……ま、まあ、結果的に皆無事だったんだからロータスは良くやったじゃないか!」
「……ハルぅぅ〜!!お前はそう言ってくれると信じてたぜ〜!!」
半べそをかきながらロータスが抱きついてきた。
……いやいや、やめてくれ……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
拠点をさらに3つも攻め落とした功績により、俺とアーサーは今夜もまた夜警を免除された。
と言われても、俺は俺として気になってる事がある。
それは、このグランツが始まってからまともにアリシアとお話ができてないことだ!!
……いや、何話すの?って特に何もないんだけどさ……
あんまり学校内で2人っきりにはなれないし……それにさ……
とにかく、みんなの冷やかしが効いてる。
「あまり放ったらかしにするのはね〜(ヴィオラ談)」とか、「そんなことじゃフラれるぜ(ロータス談)」とか、「まだヤッてねぇのか腰抜け(アーサー談)」とか……
色々と吹き込まれちゃってて……信じているけどなんか不安というか……
そう思って廊下を出ようとした時、ばったりとアリシアと鉢合わせた。
「ア、アリシア……!」
「……ハル……まだ起きてたのね。」
なんでまたこんなとこに?
と、とりあえずその……あれだあれ!
「……えっとさ……ち、ちょっとだけその……散歩でもどうかな……って……」
「いいわよ。」
アリシアはやや食い気味に了承してくれた。
俺たち2人は拠点の裏側にある浜辺へと訪れ、夜の海を眺めていた。
「……そっちはどう?ロータスに聞いたけど、なんか襲撃されたとかって。」
「あぁ…大丈夫よ。3人がかりで襲いかかってきたけど、ロータスがなんとか振り払ってくれたわ。」
「そっか……」
ロータスのやつ、なかなかやるじゃん。
「ハルのほうはどう?アーサーとは仲良さそうにしてたけど。」
「……な……仲良さそうって………まぁ……」
俺はアリシアに今日一日の出来事について話す。
俺とアーサーが敵チームから『鬼神&盗っ人』なんて呼ばれてるってところにアリシアはフフッと微笑んでくれた。
……喜んでいいのか分からんが。
でもそうやって俺の話に真剣に耳を傾けてくれるアリシアに嬉しくなってか、俺ばっかりが話しすぎた…気がする。
「………お……俺さ………その……」
ようやっと我に返り、なんとか言葉を探そうにも、こんな時どうしたらいいのか、何を話したらいいのか分からない。
「……ごめん……俺さ……その……誰かと付き合うとかって初めてで……何を話したらいいのか分かんなくってさ………なんか俺ばっかり話しちゃって。」
「……別にいいのよ。それに……わ…私だって……こうして誰かと付き合うなんて初めてだから……」
俺は浜辺に腰掛けるアリシアの隣にそっと腰掛けて海を眺めた。
横目でチラリとアリシアを見つめると、海に反射した月の光がキラキラと瞳に反射している。
思わず見蕩れているとふと目が合った。
気恥ずかしくなり目を背けようとするものの、俺の目は女神様に完全に囚われていた。
誰からとなしにそっと近づく。
互いの唇が重なろうかとしたその時、視界の端に何者かが映り込む。
その者はよろよろと歩いたが、ついには力無くドサリと倒れ込む。
その音でようやく俺はハッとした。
「…だ、誰だ…!?」
俺とアリシアは慎重にその倒れ込んだ何者かに近づく。
服装はセント・クラークでも、ソルフレアでも、ローズベルのものでもない。
というか、ぼろぼろの布が辛うじて服の体をなしているにすぎなかった。
……いや……
それ以上に俺の目に焼き付いたのは。
金色の髪で表情は見えない。
だが、その髪から耳だけは確認できた。
そして、その耳は人族のそれでは無かった。
「……まさか……これって………」
「………エルフ族………!!?」




