第61話 スタートダッシュ
その後、俺とアーサーは続けてもう1つの拠点を攻め落とした。
俺はアーサーに感心した。
というのも、このグランツでは序盤が大切なのだ。
誰しもが、拠点を整備し、武器や食料を調達して万全の状態にするべきだと考える。
でも、一番に考えないといけないのはこういった序盤から襲撃された場合だろう。
序盤は誰しもが武器もなく、拠点なんて整備もされてはいない。
言い換えれば、一番手薄なタイミングだ。
アーサーはそれを知ってか知らずか、序盤にこうして3つも拠点を攻め落とした。
これは、攻撃であると同時に防御でもある。
近くの敵拠点が無くなれば、それだけ自分たちの拠点が安全になるわけだ。
「……チッ……ありゃあセント・クラーク生か。」
遠巻きに人影を窺っていたが、どうやらその人影は同じセント・クラーク生のようだ。
「……さすがにそろそろ戻らないか?俺たちの拠点も心配だし、荷物もさ……」
俺たちは拠点を2つ攻め落とした際、宝玉2つと彼らが所持していた武器と食料を回収していた。
まあ、武器といっても小さいナイフと斧。それからフォーク。
食料はパンと缶詰、それと満タンの水筒がいくつか。
これからもう1つ拠点を落とすとなると、夕暮れに差し掛かった今では敵の回収班が戻ってきているタイミングの可能性も高い。
「……まぁいい。」
そう言ってアーサーも今日のところは引き返す判断を下した。
帰りの道中は静かなものだった。
2つ拠点を落としたとは言え油断は禁物だな。
「……そういや……テメェ、アリシアと付き合ってやがんのか?」
「ぶふぉっ!!?……き、急になんだよ……!?」
「聞かれたことに答えやがれ。どうなんだ?」
「………ま、まぁ………そう……かな………」
「………チッ………つくづく気に入らねぇ……で、ヤッたのか?」
「は!!?やや、ヤるとか意味分かんねぇし!」
「……んだよ、童貞ってわけか。」
「……う……うるせーよ。」
「ハッ!国の王女様ともありゃあビビっちまうわな。」
「………わ……悪かったな……ヘタレで。」
「……あの女……俺が口説いても全く靡かなかったくせに……こんなヘタレ野郎に惚れちまうとはな。」
我ながら、それは本当そう思います。
「……そ、それにしてもさ……まさか2つも拠点を落とせるなんてやるじゃん…!」
堪らずに俺は話題を変える。
「……あんな雑魚共に俺が手古摺るワケねぇ。」
「そりゃあアーサーから見りゃあそうかもしれないけどさ、あんなに沢山いたのに怪我一つ負わないなんてやっぱり天才だよ。」
「………………」
……な、なんでそこ沈黙なんだよ……
せっかく褒めてやったってのに。
「……んな事より、やっぱりテメェは力を隠してやがったな。」
「………え……そ、そんな事は……」
「ハッキリ言ってやる。俺はテメェだから組んでやったんだ。他の奴らと組むなんざ御免だからな。」
……ん?
それって、俺の事を認めてるってことか?
「他の奴らとだとこうも動けなかったからな。」
……まあ、空気を読むことに関しては任せてくれ。
前世でも色んなゲームで野良と組んでたりしたから。
だから今回、アーサーが暴れ回るのを見越して陽動に使わせてもらったわけだし。
「……なんか、アーサーにそう言われると照れるな……」
「……図に乗んじゃねぇ。凡人の中でもマシってだけだ。」
凡人、か。
『雑魚』に比べれば随分と評価が上がったな。
「……お、拠点が見えてきたな。どうやら俺たちの拠点は無事だったみたいだ。」
「落とされてたらリュゼをぶっ殺してたけどな。」
「…………」
そんな事言うもんじゃありません!
……とは口が裂けても言えなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やるじゃねぇか2人とも!!まさか2つも拠点を落としてくるなんてよ!!」
「ホントホント!!凄いよ2人とも!!」
帰ってきた俺たちが拠点を2つも落としたことに皆は歓声をあげていた。
「……ア、アーサーのおかげだよ…!」
「……にしても……序盤で敵も装備が整ってないとはいえ、2つも落としてくるとは僕も想定外だったよ。」
「……いやぁ……それより、こっちは襲撃されなかったのか?」
「それは大丈夫だったよ。仮に襲われたとしても、宝玉はそう易々とは触れない。」
「………触れないって………一体……?」
「聞くより見たほうが早いだろう。」
リュゼに案内されて宝玉の場所へと案内された。
が、そこには1メートル四方の箱が5つあるだけで、宝玉は見当たらなかった。
「………まさか、この箱のどれかに宝玉が入ってるとか?」
「そうだ。」
確かに、この箱のどれかに宝玉が入っていたとしても、持ち帰るとしたら1メートル四方の箱を回収しないといけない。
「んなもん、ぶっ壊したらいいだろうが。」
「そう簡単には壊せないんだよ。」
「リュゼ氏の仰る通りでしてな。こちらは自分が設計した代物でしてな。」
「……設計……?箱に?」
「左様。この箱は『からくり箱』と言いましてな、ちゃんとした手順を踏まえれば開けることのできる箱なのですぞ。」
「……『からくり箱』……」
「日本の寄木細工の技術ですな。」
「……すげぇなそれ……そんなのが5つもって……」
「本物がどれか、箱の解除方法を知っているのは僕とアキだけ。念の為にね。」
「……よくこんなの作れたな……」
聞くと、リュゼはこうやって宝玉を隠す事を当初から考えていたとか。
グランツの開始後、回収班に剣かナイフを見つけたらすぐに持ってきてもらうよう依頼し、それにより近くの木を切り倒して加工したらしい。
リュゼのやつ、なんて狡猾な……
拠点周りの設備を整えるのかと思いきや、まさか初手で宝玉を隠すとは。
いや、褒めてんだけどさ。
その後、回収班の報告も聞いた。
食料に関してはパンや水、砂糖や塩。干し肉。それと缶詰。上手く節約すれば、残り時間を15人で分けても足りる量ではある。
それもこれも、想定されている食事の量は1チーム30人とされているためだ。
さらには薬草も手に入っていた。
武器に関しては、剣が1振り、槍が2本、弓が2張と矢が20本、棍棒が1本、手甲が1双、ナイフが3丁、木製の盾が2枚。
そこに俺たちが回収したナイフ1丁に斧が1本とフォーク1本。
大収穫だ。
その内、剣とナイフはリュゼ、槍はロータスとアリシア。ナイフはヴィオラさんとジャック、手甲はアーサー。
防衛用にアキとトーヤに弓矢。木を切り倒すために斧も渡された。
盾はフェンさんに手渡された。
余っている武器は棍棒1本とナイフが1丁。木製の盾とフォーク。
……まあ、フォークが武器かどうかは今は置いておこう。
俺はその中から棍棒とナイフを頂いた。
こういうサバイバルにおいてナイフは必需品だし。
残りの武器はマデリンさんが盾を受け取り、フォークはサイラスが受け取った。
「あ、ハル!こ、これも一応作ったんだ!よ、良かったら使ってよ!」
トーヤから手渡されたのは30センチ程度の木製の人形だ。
ただ、間接部にベアリング等を仕込んではいないので、長時間使用していると摩擦熱で焦げてしまうため、使用には気をつけないといけないが。
それでもありがたい。
「ありがとうトーヤ!」
夕食はジャックが担当してくれたものの、適当にパンを切り分け、缶詰を分けただけだった。
食事を済ませた後、改めて拠点を見回す。
拠点の構造は敵チームを攻め落とした時の構造とほぼ同じだった。
二階建てで、1階に2部屋、2階は宝玉の部屋を含めて3部屋ある。
階段は屋上へと繋がっている構造だ。
2階は女子部屋、1階が男子部屋だ。
「ハル、アーサーとは問題無かった?」
ここに来てようやくアリシアとゆっくり会話が出来た。
「ん……まあ、なんとも。」
「それにしてもホントやるねぇ!あのアーサーと組んだばかりか、拠点を2つも落としちゃうなんて!」
「……全く……ケガが無くて良かったよ……」
……まあ、2人っきりというわけではなく、ヴィオラさんとルイスさんもいるわけだが。
「基本的にアーサーがヘイト買ってくれるからさ。俺は楽させてもらったよ。」
「……ヘイト……?なんそれ?」
「……あ、えーっと……敵の注意を引く、みたいな。」
「あ〜、ま、確かにアーサー君ならやるよね。」
「みんなは敵に会わなかったの?」
「……まあ、何回か鉢合わせたけど、お互い碌に武器も無いから戦闘にはならなかったよ。」
アリシアは地図を広げ、敵と鉢合わせた大体の場所を教えてくれた。
「今日鉢合わせたうち、ここの2箇所はソルフレア。ここはローズベルのチームね。おそらくこことここの拠点からの回収班ね。」
そう言いながら地点を指さす。
……ふむふむ。
なら、明日にでもアーサーとそこを攻め落としてもいいかもしれない。
向こうが俺たちの拠点を攻め落とそうとしてくる前に。
なるべく近い場所の拠点は攻め落としておくに限るね。
「……やっぱり僕は不安だな。いくらアーサー君が強いとは言え、たった2人で偵察班をやるなんてさ。」
「私たちのクラスでまともに対人戦闘をしたことのある人はアーサーしかいません。彼は前世でもボクシングで対人戦闘をしてきたはずですから。」
「……そうは言ってもさ……ここは異世界。僕らの地球の常識とは違って、ここの住人なら慣れてる子が沢山いるだろう。」
「ま、ウチらは地球じゃあの〜んびり過ごしてましたからね。」
「この訓練もさ……戦争を前提としてると思うんだよ……多分、魔族との戦争を前提に。」
同意見だ。
クラス対抗祭にしても、今回のグランツにしても。
明らかに戦争を前提としての訓練だろう。
「学年が上がっていくごとに、おそらくもっと戦争を意識したような過酷な訓練があるかもしれない。そこで優秀な成績を修めれば修めるほど、戦争の道具として扱われる気がするんだよ。」
ルイスさんはさらに続けた。
「アキ君にも頼まれた事があってね。僕のジョブ【錬金術師】があれば、銃に使う火薬を作り出すことも可能だろうって。確かにその通り。けど、もしもそんな兵器を作り出せば、結果は火を見るより明らかだ。
人間の歴史は戦争の歴史。今は魔族との戦争が起きた場合についてのみ考えているのかもしれないけど、そうして大きな力を得た人間というのは、須らく傲慢になり、何かしらの因縁があれば戦争で解決する。
そして、その時に徴兵されるのは僕やキミたちだ。」
……ルイスさんの言う通りだ。
もしも銃なんて作り、その技術が流用すれば、必ずどこかの国が戦争を仕掛ける。
なまじ、『戦い』に慣れているこの世界では。
今でこそ『魔族』という共通の敵がいるだけでその矛先が向かないだけだろう。
「……ま、僕なんかがとやかく言う資格が無いし、キミたちに僕の考えを押し付けるつもりも無いさ。すまないね、なんかしんみりさせちゃったみたいで。」
「……いえ、私も先生と同意見です。戦争なんて無いに超したことないのに、考えや宗教の違いで地球でもどこかしらで戦争がありましたから。」
「ウチも戦争なんて嫌だし。増してや、それで徴兵なんてたまったもんじゃないし。」
「……俺も……です。」
戦争なんて誰もやりたくは無い。
でも、聞く耳を持たない奴らが攻めて来た時、戦う術を知らないまま殺されたくなんて無い。
願わくば、この訓練はあくまでも身を守るための訓練であること、だな……
「んじゃお堅い話はここまでにしてさ〜……」
ヴィオラさんは俺とアリシアをジロジロと見た。
「アンタたち2人……もうどこまでやったの〜?」
「……へっ?」
「……………」
「付き合ったんっしょ?意外な組み合わせだけどさ〜。ねぇねぇ、もうどこまで〜?キスくらいはしたんっしょ?」
「…あ……えっと………」
アリシアのほうを見ると顔を赤らめて俯いている。
「わあ!マジで付き合ってんだ!!やるねぇハルっち!!」
「ハルっちって……」
ヴィオラさん、カマかけてきたのか……
「……オホン……まあ、今はもう先生という立場じゃないが……ちゃんと節度のあるお付き合いをするんだよ、2人とも。」
「もも、もちろんですよ!」
「はぁ…彼氏とかいいなぁ……ハルっちって目立たない人代表だったのにこの前の対抗祭でも大活躍だったじゃん?それに顔も案外悪くないし。」
目立たない人代表で悪かったな……
「……ヴィオラは5組の子とお付き合いしてるって言ってたんじゃないのかしら?」
「……あ〜、あれはね、もうフッたし。顔は良くても性格がなんかオラついてるってやつ?あれが見えちゃってさ〜……ってかウチの話はいいっての!2人の話、聞きたいなぁ。」
ヴィオラさんはその後も俺たち2人に色々と質問をぶつけてきた。
どこが好きになったの?とか、どんな告白を?とか。
ルイスさんは早々に「じゃああとは若者で。」って席を離れてしまった。
ってか、年齢的にはルイスさんも同い年だってのに。
色々と質問して満足したのか、ヴィオラさんは静かになり、その後、突然真面目な表情をした。
「ハルっち。アリシアっちをちゃんと守りなよ。」
いつもはチャラけてるヴィオラさんらしくなかった。
「……も、もちろん……」
「ま、ウチからはそんだけ。んじゃね!」
ヴィオラさんは席を立って去っていった。
「じゃあ、私たちもそろそろ寝ましょ。ハルも疲れてるだろうし。」
「……ん……あ、うん……」
寝室に戻る道中、ヴィオラさんの助言を思い返す。
『ちゃんと守りなよ。』か。
男として当然と言えば当然の責務だろう。
が、前世とは違ってアリシアはこの国の王女だ。
ルイスさんが言ってたように、このグランツは戦争を想定した訓練だと思う。
もしもこの国が戦果に巻き込まれた時。
いや、それだけじゃない。
俺たちには、御堂というヤバい奴に狙われる可能性もある。
気合いを入れていかないとだな。




