第60話 グランツ開催
次の日のホームルームではリュゼが先導してグランツの立ち回りについて説明した。
グランツでは、防衛班・回収班・偵察班の3つの班に分かれる。
偵察班は俺とアーサー。
回収班はヴィオラさん、ロータス、リリー、フェンさん、サイラス、ジャック、ルイスさん、それにアリシア。
回収班は2班に分かれての行動とし、リーダーはアリシアだ。
それ以外の人員は全て防衛班だ。
アキが拠点内の設備について設計し、トーヤが鍛治で作成する。
マデリンのジョブで防衛に必要な木々を促成させ、リュゼのジョブで斬って加工する。
リオさんはアキとトーヤの補助だ。
一旦はこの采配で行動し、必要とあらば適宜交代する、ということで皆も了承していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしてもハル氏よ、アーサー氏と2人きりで大丈夫なのですか?」
帰り際、アキは不安そうに俺に聞く。
そんなの俺だって不安だっての。
「……さぁ……アイツがなんで俺を指名したのやら……」
「そそ、そんなの、ア、アリシアさんとさ……つ、つつ、付き合ってるってのが気に入らないっていうんじゃないの?」
「……確かに、彼は前世ではアリシア氏に言いよっていたようですし。」
「……まぁ、もしそんな暴力沙汰になったとしたら、俺も上手く逃げるよ………ただ………」
「……ただ、なんでしょう?」
……ただ、あいつはそんな理由だけで俺を指名したんじゃあないようにも思う。
あいつは天才で、なんでもこなせる凄ぇ奴だけど、あいつは絶対にルールを守る。
この前の対抗祭の時もそうだったが、あいつはどんなスポーツでも、ルールを破ってまで勝とうなんてしない。
……まあ、そもそもルールを破らずともあいつは勝ってきただけってことなのかもしれないけど。
リックスの度重なる嫌がらせに対しても、あいつはルールの中で圧倒した。
だからか……あいつは多分、アリシアを取られた腹いせとか、そんな理由で俺を指名したんじゃあ無いと思う。
「……いや、やっぱなんでもない。」
って言っても、俺の願望というか、希望的観測なのかもしれないと思い、はぐらかした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは船に乗り始めて3時間。
今回のグランツの会場となる無人島へとやって来た。
すでに何隻もの船が停泊しており、グラウンドには他校の生徒らがズラリと並び、後から到着した俺たちへ鋭い視線を浴びせている。
やる気満々だなぁ。
俺たちも整列させられ、しばらくもすれば彫りの深い顔立ちに白い髭を生やした男が壇上に上がった。
「諸君。此度もこうして無事に三大高等学校対抗試合、通称グランツが開催された事、誠に嬉しく思う。申し遅れたが、私はソルフレア高校の学長ラグナル・グリムヴァルドだ。此度のグランツの総責任者を勤めさせてもらう。
すでに皆も此度のグランツにおけるルールを承知していることと思う。しかし、今一度。此度の大会において、死者を出してしまった場合は即失格とさせてもらう。その点においては重々に承知してもらいたい。
……さて、長ったらしい挨拶も疲れるだろう。では、只今より、三大高等学校対抗試合を開催する!!」
グリムヴァルド校長から開催宣言がなされると、ソルフレアと思しき生徒らが盛大に拍手を送っていた。
その後、各学校に地図と襷が配られた。
この襷は、言わば認識票みたいなものだ。
俺たちセント・クラークは青色、ローズベルは赤色、ソルフレアは黄色の襷であり、この襷を体のどこかに巻き付けておく必要がある。
それにより、遠くからでもどの陣営のチームなのかが分かる。
俺はそれを左腕へと巻き付けた。
その後、各クラスの代表者が前へと出て、地図に複数ある地点のどこに拠点を置くのかを指定する。
俺たちからはリリーが代表者として前へ出た。
リュゼ曰く、「彼女の占いを信じる」らしい。
俺も賛成だ。
先に渡された地図を見てみたが、ハッキリ言って精度の高い地図ではない。
等高線なんてそもそも無いし、かなり大雑把な地図である。
リリーはジョブにより地点を占い、それにより島のある地点を指さした。
……が、その地点にはソルフレアの生徒数人も同じ地点を指さしていた。
指定が被った場合は公平にジャンケンで決めるらしいが、どうにも作為的なものを感じる。
なぜなら、どの高校も6クラスあるので、代表者の数は全部で18人。
拠点として認められる地点は20箇所。
そりゃあ指定が被るってこともあるかもしれないが、こうも被る人数が多いとなると不自然だ。なによりも、それがソルフレア高校となると。
と、俺がいまここで異議を唱えたところでどうしようも無い。
結局リリーはジャンケンに負け、別の地点を指定した。
「……あぅぅ……みんな、ごめん………」
「気にする必要なんて無いわよ。どうやら向こうは有利な地点を知ってたみたいだし。」
謝るリリーをアリシアがフォローしていた。
「……でも、リリー。選んだ地点もそう悪くは無いんだろ?」
「……うん……何となくだけど、他の地点よりはちょっとはマシって感じかな……」
「では皆の者、ただちに拠点へと出発せよ!ただし、14時になるまでは一切の回収は禁止する!」
号令がかかり、俺たちは移動を開始する。
ただし、見張りとして別の高校の先生の監視付きだが。
ただ、リリーが指定した地点は入口とほぼ真反対の位置にあるため、かなりの移動を強いられてしまった。
……いや、それはむしろ俺たちに良いアドバンテージとなるか。
目隠しして移動する訳にもいかないので、移動中の回収は禁止されていても、移動中にある程度エリアを観察することはできる。
つまり、後の偵察や回収が捗るわけだ。
途中に他チームの拠点の近くを通った時、あからさまに人数の少ない俺たちのほうを見てニヤニヤと笑みを浮かべている。
俺たちのチーム以外は30人程度であるため、そのせいだろう。
途中で俺たちが当初拠点にするつもりだった場所を眺めてみると、その地点は少しばかり丘となっていた。
そうこうしつつ、1時間もすれば俺たちはようやく自分たちの拠点へと辿り着いた。
俺たちの拠点は近くに浜辺があり、左右には木が群生している。
ふむ。拠点としてはそこまで悪くは無い。
浜辺からわざわざ船を作って侵入してくるチームももしかしたらいるかもしれないが、そこまで気にするほどでも無いだろう。
問題は左右に群生している木々だな。
それに、平地という訳でもなく所々地面には凹凸もあり、遮蔽物として利用される可能性はある。
その点は注意しておかないとだな。
……と言っても、俺は防衛班じゃ無いけど。
「……よし。じゃあ回収班と偵察班は開始とともにすぐに行動を。回収班の振り分けはアリシアに任せたよ。」
「えぇ。任せて。」
俺はアーサーと、か。
本当に大丈夫なんだろうな?
そんな時、アリシアが俺の元へとやってきた。
「……ハル、アーサーのことなら、多分大丈夫よ。」
「……う、うん……」
「………ともかく、気をつけてね。」
「アリシアこそ。他のみんなを頼んだよ。」
「えぇ。」
「定刻となった!それではグランツを開始する!」
見張り役の先生が時計を確認し、俺たちに開始を知らせた。
「チンタラしてんじゃねぇぞ!さっさと行くぞ!」
アーサーは始まるやすぐさま駆け出し、俺もそれに続いて駆け出した。
駆け出しながら後ろを振り返ると、アリシアは手を振ってくれていて、俺も手を振り返した。
駆け出したアーサーは俺たちが来た道を戻るのではなく、拠点から西側へとぐるりと島を反時計回りに駆け出した。
……一応はちゃんと考えてんのね。
俺たちが来た道はすでに自分たちの目で見て回ってるわけだから、わざわざそっちを偵察する意味は無いってことに。
無いよりはマシかと思い、一応木の枝を拾っておく。
あとは武器や食料がどのように置かれているか、だな。
ゲームとかならいかにもな箱があるわけだけど、さすがにそんなものは無さそうだし。
アーサーはその後も留まることなくグングンと駆けてゆく。
普段からランニングしてないと着いてくなんて無理だろってくらいの速度で。
その時、突然アーサーがピタリと足を止めて、近くの木へと身を隠す。
俺もすぐさま足を止め、同じように木に身を隠した。
その先を注視すると、人影が5人確認できる。
巻き付けてある襷は赤。つまりはローズベルの生徒だ。
彼らは注意深く足元をキョロキョロと見回しながら散策している。
おそらく回収班だろう。
「……さぁて……どうしてやろうか……」
そういうアーサーの目は獲物を見つけた肉食獣のそれと同じだ。
2対5か。
今なら彼らも武器なんて見つけられていないだろうし、勝てる見込みがあるとするなら今だろう。
……って言っても、対人戦闘なんて生身だと初なんだよな……
普段Axelでしか戦ってないし。
「…ア、アーサー……戦うつもりか?」
「ったりめーだろ。奴らは丸腰。ビビってんならそこで見てやがれ。」
言い終わるや否や、アーサーは突然彼らに向かって駆け出した。
……おいおい!!
判断が早すぎるっつうの!!
仕方なく俺もアーサーを追いかける。
足元ばかりを注視していた彼らは一瞬俺たちの接近に気付くのが遅れた。
気付いた時にはすでにアーサーの右ストレートが1人の生徒の腹へと食いこんでおり、顔が歪む。
「……このっ!!」
慌てた彼らはアーサーへと拾った棒で対応しようとしたものの、その頃には俺の棒により無力化されていた。
アーサーはその後も残った敵を倒すべく攻撃を継続し、俺はアーサーの邪魔はしないように距離を取りつつも尻込みしている敵を処理していった。
時間にして何秒か。
俺たち2人によって5人居たはずの敵は全て無力化させてしまった。
「悪いね……これが戦いなのだよ……」
と俺は呟きながら、敵の襷を回収した。
「……チッ……案の定何も持ってやがらねぇか。」
アーサーがこれで満足するハズなんて無いよな。
そう思った瞬間には、「さっさと行くぞ!!」と言って駆け出していた。
……はいはい、分かってましたよ。
1人駆け出したアーサーを俺は追い掛けていく。
その道中、さらにローズベルの生徒と会敵したものの、全くといっていい程に相手にならない。
無理もない。
まさかこんな武器も何も揃ってない状態で戦闘が始まるだなんて考えの外だ。
まぁ、武器が揃ってないのはこっちも同じなんだけど。
約1名は拳が武器だから関係ないが。
「……見ろよ。あいつらの拠点だ。」
アーサーはそう言いながら顎で指した方向には、確かに拠点があった。
おそらく今まで出会ったローズベルの回収班らはこの拠点のチームメイトだろう。
回収班に人員を割いたのか、防衛にあまり人を割いていない様子だ。
行くなら今しかないってわけね。
もうここまで来りゃあやることは決まってる。
俺が頷くと、アーサーと共に襲撃を開始した。
ローズベルの生徒らは俺たちと目を合わせたが、まさかこんなタイミングで襲撃に来るとは思ってもみなかった様子で、対応に一瞬遅れた。
「…て!敵だ!!襲撃だ!!」
と声を上げたのもつかの間、アーサーは一瞬で間合いを詰めて鳩尾に肘鉄で一撃食らわし、上がった顎へと回し蹴りで追撃した。
俺も猛スピードで拠点内部へと侵入したが、何名かの生徒は俺の姿を見て驚いていた。
辺りを一瞥し、宝玉の位置を確認する。
……と、驚いていた生徒らのうち何名かは意を決して俺に攻撃を行う。
ここに残っているということは生産職がほとんどだ。
俺は攻撃をスルスルと躱す。
うん、生身でも全然いけるな。
普段からAxel頼りだったもんで不安はあったけど。
視覚はさすがにAxelの広い視野には劣るが、生身であるためか音や振動がよく伝わる。
攻撃を躱しつつカウンターを入れて次々と無力化させてゆく。
女子生徒はいきなり襲いかかってきた俺に恐怖して腰を抜かしてしまっていた。
「……や………いや………ここ、来ないで……!」
「……えっと……大人しくしてれば攻撃しないからさ……」
うーん、格好つかんな俺!
俺は腰を抜かした女子生徒を警戒しつつも宝玉を手にした。
「……よし、回収完了っと。さて……アーサーは……と。」
拠点の外に出てみると、拠点が襲撃されたと聞いて戻ってきたソルフレアの生徒らがアーサーと戦ったのか、来た時よりも人数が増えていた。
しかしながら、アーサーはそのほとんどを無力化させてしまっていた。
「……終わったぜ、アーサー。」
「……よし……次いくぞ。」
次!?
マジっすか!!?
「……ま、まだいくのかよ……」
「ったりめーだ!暴れたんねぇわ。」
嵐の如く去ってゆく俺たちを、ローズベルの生徒らは驚愕の表情で見つめていた。




