第59話 『グランツ』について
冬休みが明け、クラスにはいつも通りの光景が蘇る。
とは言え、クラス内は少しばかり違った様相を呈している。
というのも、いつもは最前列に座っているハズのアリシアが、俺の隣に座って授業を受けているからだ。
クラス内からは好奇の眼差しで見つめられたな…
当のアリシアは何処吹く風なんだけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「皆、来週から始まる三大高等学校対抗試合、通称『グランツ』が開催される。知っての通りだと思うが、このグランツではリベルタスからソルフレア高校、プロスピアからローズベル高校との対抗試合だ。」
授業が終わり、ホームルームにてラインハート先生が皆に告げる。
三大高等学校対抗試合、通称『グランツ』。
このグランツは毎年行われ、1年生の締めくくりの行事でもある。
この大会に優勝することは非常に光栄な事であり、卒業後の進路にも大いに貢献してくれるらしい。
しかも、優勝賞金が白金貨で100枚、つまり1億円も出るという大盤振る舞いだ。
ソルフレア高校からは177名、ローズベルからは172名の参加予定。
セント・クラークからは164名だ。
毎年近くの無人島で大会が開催される。
「では、グランツの内容について説明する。」
ラインハート先生から詳細が語られた。
このグランツでは、各クラスがそれぞれチームとなる。
俺たちなら1クラスで15人がチームという感じで。
その生徒らには1人1人襷が手渡される。この襷を奪われると即座に敗退となる。
そして、各クラスには宝玉が1つ手渡される。
この宝玉を失うとそのチームは敗退となる。
つまりは、襷を奪われればその人は失格となるが、チームが敗退する訳では無い。逆に、宝玉を奪われでもすれば襷が残っていようとも敗退となってしまう。
開始前に地図を手渡され、各チームの代表者がエリア内にいくつか指定されている拠点を指定する。
開始後に指定した地点で拠点を築き、宝玉はその拠点内にて保管しなければならない。
宝玉が奪われたかどうかについての判断は受け持ちの先生が判断する。
不公平が無いようにチームを受け持つ先生は他校の先生が行う。
宝玉が奪われたと判断されれば、そのチームに応じた色の煙が上がって知らされる。
それと、武器や食料などの荷物の持ち込みは一切不可。
エリア内には所々に武器や食料が置かれているため、開始の合図と共にそれらを回収していく必要がある。
エリア内には運営側が用意した少々手強い魔物も配置される。
その魔物のいる付近には有用なアイテムが配置されている。
が、横槍を入れても文句は言えない。
期間は72時間。
72時間を過ぎてもまだチームが残っていた場合は3時間だけ延長される。
それでも勝敗が決しない場合はその大会での優勝チームは無し、ということになってしまう。
また、残っているチームがいずれかの高校のチームのみになった場合は即座に試合は終了する。
最後まで残ったチームが優勝。もしも残っているチームが同じ陣営のチームのみとなった場合は宝玉の多いチームの優勝となる。
そして、優勝チームには白金貨100枚が授与される。
「以上がグランツの内容だ。質問はあるか?」
クラス内はザワついていた中、リュゼが手を挙げて質問した。
「拠点の移動は容認されているのでしょうか?」
「それは許されてはいない。最初に決めた地点が最後まで拠点として認められている。」
「分かりました。それともう1つ、同じ陣営同士で人の移動は認められていますか?」
「それも認められない。開始当時のチームにのみ在籍するように。」
「ではもう1つ。他チームが奪取した宝玉を奪うことは許されますか?」
「いや、それも許されてはいない。奪取した宝玉は受け持つ先生に手渡せ。」
リュゼに続いて皆もそれぞれ質問をしてはラインハート先生が返していた。
俺としては気になることは一つだけ。
皆の質問が落ち着いたところで俺は手を挙げて質問した。
「……あの………TK………じゃなくて、同じ陣営のチームを襲撃することは認められていますか?」
この質問には多少ザワついていた皆も一斉に静まり返って先生の返答を待っていた。
「味方への襲撃、か。当然認められてはいない。が、特にこれといった罰則規定は無い。しかし、同じ陣営の宝玉をいくつ手にしていても最終査定には数えられないが。」
「……ということは、宝玉目当てではなく、武器や食料の略奪をしたとて、お咎めなしって訳ですか……」
「あぁ。味方陣営が近くにいるからと油断して足元を掬われたりせんようにな。」
これの意味するところは単純だ。
誰も真正面から味方陣営が略奪に来るとは思っていない。
考えるべきは、「怪我をした」だの「敵から追われてて」だの適当な言い訳で俺たちに近づき、匿ってもらう。
そうして油断した所を狙い、武器や食料を奪う。というやり口だ。
こういうのはオンラインゲームでは日常茶飯事だからな。
「質問が無いなら説明は以上だ。皆、グランツに向けてしっかりと準備しておけ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ホームルームが終わっても、皆はまだ教室内に残っては話をしていた。
かく言う俺たちもだけど。
「……それにしても、武器の持ち込みもダメとなると、ハルはどうするの?」
「…まあ…いざとなったら木で人形を作るかな。」
「そそ、それにしても……い、い、今から緊張するなぁ……」
「トーヤ氏よ、もっと肩の力を抜いてくだされ。」
「そ、そうは言っても……みみ、みんなはよく緊張しないね。」
「当日であれば多少緊張はするでしょうがね。」
「失礼、少しいいかい?」
俺たちの輪の中に突然リュゼが声を掛けてきた。
「キミたちにも相談しておいたほうがいいかと思ってね。今回のグランツについて。」
……俺たちに相談って……
それは『俺たち』と言うよりむしろ『アリシア』に相談したいってことか?
「特に、ハル。キミに。」
「……へっ!?お、俺に!?」
「キミはこの手のゲームに慣れているだろう?さっきキミが言ってた『TK』。これは『Team killing』の略語だ。」
「……あ……そ、それで………いや、それくらいはこういうゲームをやってりゃあその略語くらい誰でも……」
「僕が言いたいのはそういう事じゃない。キミはそれがあると見越して質問した事だ。どこの世界にもいるからね。『荒らし』というのは。」
「……まあ……そうだけど。」
「今回のグランツのルールによると、『荒らし』は禁止とされているけど罰則は無い。そして、高額な優勝賞金。ここから推測できるのは、敵チームに寝返った者が場を荒らす可能性があるってこと。キミはそれを見越してあの質問をしたんだろう?」
………そ………そ……………
………そこまで………考えて無かったです………
「……お、おう……まあ……うん………」
「そんなキミなら、どう動くのがベストだと考えているのかな?」
……勝手に進めないで………
……リュゼは勘違いしてるようだけど……
俺があの質問をしたのは、敵味方をハッキリとさせておきたかっただけだ。
リュゼの言うように、荒らし行為で試合が荒れてしまうのは面白くないからさ。
ただ、リュゼの説明を聞いて妙に納得した。
自チームの優勝が難しい状況ともなると、敵チームに寝返るよう唆され、食料や武器を奪う。
……有り得る。
……で、だ。
それらを踏まえた上でどう動くのがベストなのか。
「……まあ、普通に考えれば、拠点の防衛班と食料・武器の調達班。それと偵察班に分かれて行動する、くらいしか思いつかないけど……」
「なら、拠点はどんな場所が理想かな?」
「……順当に考えるなら、高い位置かな。高所ってのは見晴らしも良いし。」
「……なら、逆に1番不利なのは?」
……不利な場所ねぇ。
「それなら森の中とか、とにかく見晴らしも効かず、遮蔽物の多い地点だな。森が迷彩になってくれるかもしれないけど、これだけ参加人数が多ければすぐにバレる。」
一体リュゼは俺から何を引き出したいんだ?
これくらいなら、別に誰だって考えうるだろうに。
「なるほど。ではもう1つ質問。キミが言う偵察班っていうのは、会敵した場合は戦闘も余儀なくされる班だろう?」
「……まあ、そうだな。」
「それなら、偵察班にキミなら誰を選ぶ?」
……ふーーむ……
誰を選ぶ、か……
足の早いヴィオラさんは偵察班に欲しい。
戦闘職でならアーサーとルイスとリュゼ。一応俺も戦えるけど、それはこの3人は知らないからな。
ただ、戦闘職全員を偵察班には入れないほうがいい。
回収班が戦闘に巻き込まれるケースもあるし、拠点の防衛を疎かにする訳にもいかない。
つまりは、アーサー・ルイス・リュゼの3人をそれぞれの班に振り分ける必要がある。
この3人の中なら、アーサーが圧倒的にスキルが高い。
ならアーサーを偵察班、ルイスとリュゼで他の班、か。
あとは回復役のリオさん。
整理すると、偵察班はヴィオラさん、アーサー、リオさんの3人だ。
さすがにこの3人だけだとキツいか。
………いや、待てよ?
「……偵察班は2班。1つはアーサーとヴィオラさんとリオさん。なるべくならあと1人は必要かも。それと、もう1班は俺だけで良い、かも……」
「……ふむ………その根拠は?」
「アーサーは俺たちのクラスの中で圧倒的に強い。性格的にも防御より攻撃のほうが適してるし。ヴィオラさんは足も早いし、何かと役に立つ。リオさんは言うまでもなく回復役。」
「……ふむ。なるほど。それで、もう1班はキミだけでいい、というのは?」
「俺のジョブなら、偵察に一番向いてる。もしも敵に倒されたとしても人形だし。」
「………なるほど………いい考えだ。」
リュゼは納得したような口ぶりを見せたけど、どうにも最初からその考えに至っていた気がした。
「……おいテメェら、何をコソコソとやってやがる。」
「アーサーか。ちょうどいい。今度のグランツ、キミには偵察班として組んでもらおうかと思っていてね。キミとリオ、それにヴィオラ。出来ることならルイス先生も入ってもらうほうがいいかもしれないが。」
「邪魔くせぇ。偵察なんざ俺一人で十分だ。」
「そうはいかない。キミがいくら強いと分かっていても、最低でも2人1組くらいで組んでもらわないと。もしもキミという戦力を失えば、人数的にも僕らのクラスは少ないんだ。」
「……………なら、お前となら組んでやる。」
アーサーはいきなり俺を指差してそう言う。
………え?
ハハハ、いやまさか。
俺の後ろに指を指して……
「テメェだテメェ。【人形師】。」
「……い、いやいや、な、なんで俺なんだよ……」
「あぁ!?俺が組んでやるってんのが気に入らねぇのか!?」
「……マ……マジで……?……いや、てか偵察なら俺のジョブを活かしたほうが……」
「……ふむ……案外悪くない考えかもね。」
リュゼ!?
ななな、なんで俺がアーサーと!!?
………はっ!!
……そういえば、アーサーは前世からアリシアを狙ってた……
なのに、アリシアがまさかまさかで俺とくっついてしまった。
……まさか……その恨みを……俺にぶつけるつもりじゃ…………
「リ、リュゼ……俺はさ……やっぱジョブを活かして1人で偵察するほうが……」
「……いや、考えてみたけど、もし万が一戦闘にでもなった場合、リオやヴィオラでは戦闘できない。それなら、キミならそこそこ立ち回れるだろう。危険と判断すれば逃げればいい。それに、偵察中にハルのジョブを活かし、人形を先遣隊として様子を伺うことも可能だ。」
「……マジか……」
「アリシア、キミはどう思う?」
「……私も、それが一番危険が少ないと思うわ。」
アリシアまで………
「ただし、アーサー。」
「……なんだ?」
「ハルに手を出したら許さないわ。」
「………フン………どうだかな………」
アーサーは俺を見つめながらいやらしい笑みを浮かべた。
……な……なんでこうなったのよ………
…………
いや、気持ちを落ち着かせよう。
考えてもみれば、確かにリュゼの言う通り、いざ戦闘となった場合、リオさんやヴィオラさんじゃあ戦力にはならない。
それに、今回相手にするのは人間だ。
相手だってジョブを持っている。
敵チームの偵察班は戦闘職で固めてくる可能性だってある。
アーサーとロータス、もしくはアーサーとリュゼという組み分けもいいかもしれないけど、ロータスじゃあ心許ない。
リュゼも、偵察班に入れるよりも防衛班として適宜司令を出してもらうほうが良いだろう。
そう考えると俺とアーサーが組むほうが確かにいい。
……ただ、アリシアはああ言ってくれたものの、果たして俺は無事にグランツを終えられるのだろうか……




