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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第6章 誘拐
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第56話 誘拐

 あれから幾日が過ぎ、世間は今や年越しとあってか賑やかだ。


 雪が降り積もる中でも皆はせっせと年越しの準備のためにと普段よりも往来が多い。


 俺もまあ、一応寮の大掃除は終わらせたし、年越しのためにと色々と買い込んではいる。


 ……まあ、寮生のほとんどは実家へと帰ってしまってるせいで、寮内は街中とは違って閑散としているけど。



 そういえば、あれからのことについてだ。



 ……と言ってもほとんど何も無い。


 シェーファーを王城へと引き渡し、俺はそのままステラに乗って一度国外へと出た。


 あの場でドラゴンから人の形態に変化させる訳にもいかないからな。


 あとは外で変身してもらい、そのまま徒歩でヴァレンティアへと戻り、いつもの生活へと戻ったわけだ。



 ステラには礼をいい、今度ご馳走するって約束した。


「ハル様がこの私めにまたお食事を……!!?」


 と舞い上がってた。



 ともあれ、アリシアの奪還とシェーファー親子の逮捕。


 これにより、王城は落ち着きを取り戻していた。



 本当なら、俺も取り調べに参加したい。


 シェーファー親子に、という訳じゃない。


 ライアン・デクスターに、だ。



 どうして彼はあんなシェーファーなんかの味方なんてしたのか。


 雇われた傭兵だったのか?


 それとも昔からシェーファーと仲良くしてたとか?



 ………分からん。



 それと、アリシアを誘拐して欲しいと頼んだ国がどこの国の奴なのか。



 一般人にまでそんな情報は教えちゃくれないだろうな。



 此度の誘拐事件については後日大々的に発表された。


 『今回アリシア姫を誘拐し、他国へと売り飛ばそうとした輩がいたものの、かの白きドラゴンの背に乗った黒衣の騎士がそれを奪還した。』と。


 まあ、そうでもしないとステラが堂々とドラゴンの姿のまま王城へと降り立った理由について国民に知らせないといけない訳だし。



 ちなみにステラのほうは国王様より褒賞を受け取っていた。


 まあ、ステラが白いドラゴンだってことは国王様は知ってるわけだしな。



 その時、扉をノックする音と共に寮長さんから声がする。



「ハル・アルフィード君。手紙が届いております。」


「…………手紙…………?」



 誰だろ。


 家族かな?


 年越しくらい帰ってこい、的な?



 俺は扉を開けて手紙を受け取ると、如何にも高級そうな紙で包まれた封筒で、おまけに封蝋がされていた。


 俺は寮長さんに礼を言い、部屋へと戻って封筒を開けた。



━━━━━━━━━━━━━━━



 ハル・アルフィード様。


 突然ですが、12月31日の夜、お会いできませんか?


 もしもお会いしてくださるのであれば、午後19時、王城裏通りにある公園にお越しください。



━━━━━━━━━━━━━━━



 ………………



 ………え、それだけ!?



 ってか、差出人は誰!?



 ………………




 ………いや、この字は間違いない。



 美しすぎるこの綺麗な文字。



 間違いなくアリシアの字だ。



 わざわざ手紙を送ってくるなんて……



 というか、お礼だったら別にいいのに。


 友だちを……というか、女神様の使徒である俺が女神様を助けるのは当然だからな。


 そんな事よりも、体調はもう良くなったってことか。



 さすがに誰かがアリシアの字体を真似て俺を呼び出した……って訳じゃないよな?



 ………………



 えぇい!!


 こうなりゃあ行って確かめるしか無い!



 ってか12月31日って今夜だけどな!


 女神様も唐突!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ……ふぅ………



 少しばかり早く着きすぎたかな。


 時刻は今は18時。


 …………



 うん。早すぎたよな。



 王城裏に来るまでに街中では来たる年越しを恋人同士で過ごすカップルがたくさんいた。



 いいねぇ、リア充は。



 ………いや、もしかするともしかしてだよ?



 俺がアリシアに告白されたり…………は無いか。



 俺なんてアリシアに比べてほとんど取り柄なんて無いし。


 ………自分で言ってて情けないけどさ。



 ………でも、アリシアは王女で……ゆくゆくはどっかの国の王子とか、あるいは貴族と結婚するんだろうな………



 ……当然そいつはイケメンで、地位も名誉もあって、あと白馬とか乗ってて。



 ………………



 うぅぅぅ!!



 想像するだけでモヤモヤする!!!!



「早いのね。」


「んひゃあ!!!!」



 透き通るような美しい声が突然背後から声をかけられ、思わず変な声が出た。



「………相変わらず、いつも驚いてるわね。」


「……ア、アリシア………お、驚かせないでよ……」


「こっちの方が驚いてるわ。予定時刻よりかなり早いのにもう着いてるなんて。」


「いや〜ハハハ…………ってかそれより、体調はもう大丈夫なのか?」


「えぇ。お陰様でね。」



 良かった………


 睡眠薬とはいえ、よく分からん薬を嗅がされたわけだから。


 それにしても、今日のアリシアはなんかこう………服装が………というか、雰囲気そのものが違う。



「……な、何か今日はいつもの雰囲気とは違うね……」



 いつものアリシアは私服の時でも高級な服に身を包み、如何にもなオーラを解き放っている。


 にも関わらず、今日の服はなんというか……



 悪い意味ではないけど、地味だ。


 決して悪い意味ではない。



 それに、いつもの美しい髪も纏めており、さらには帽子まで被っている。



「地味かしら?」


「……えっ!?……い、いや、地味っていうか……質素だなぁ…っていうか………」


「それを地味と言うのよ。」


「………まぁ………えぇっと………」



 ここで「それでも似合ってるよ!」は違うよな?



「いいのよ。わざとこの服で来たわけだし。」


「……そ、そなの……?」



 ………わざとなの?


 というか、いつもなら居るはずの護衛の人も見当たらないな。


 いつもなら遠巻きに鋭い眼光で見つめていらっしゃる護衛が。



「座りましょう。」


「………あぁ………うん…………」



 この公園は知る人ぞ知る……というか、あまり人の往来の少ない公園だ。


 当の俺も、『城の裏手に公園なんてあったっけ?』だったし、探すのに少し時間がかかった。


 こじんまりとした公園であり、ちょっとした花壇とベンチがいくつかある程度だった。



 アリシアに促されてベンチへと腰掛けた。



「……ありがとうね。助けてくれて。」


「え!?い、いいよそんなの!!当たり前だし!!」


「………それでも………ハルがいなかったら私は………」


「お、俺だけじゃないよ!ステラも手伝ってくれたしさ!それに、こうして無事だったんだから良かった良かった!」


「………それでも、ちゃんとお礼を言わせて。助けてくれて、本当にありがとう……」


「……あ………う………うん……………」



 そう言って見つめるアリシアの眼差しを俺はつい目を逸らしてしまう。


 嬉しいんだ。


 でも、正直照れのほうが上回る。



「………そ……そういや、シェーファー親子は……?」


「彼らは国家反逆罪として後日正式に裁かれるわ。」


「………まさか………死刑……とか?」


「さすがに死刑まではいかないわ。死人が出たけど、それはどうも誘拐の実行犯のようだし。」


「………そっか…………あ、それじゃあライアンは!?」


「彼も同じく捕まってる。誘拐に加担した、としてね。」


「…………なんであの人が………あんな奴らに協力なんて…………」


「今はまだ取り調べ中で詳細は分からない。でも、シェーファーが雇った傭兵なのかも。彼はその……借金もあったようだし。」


「………借金………?」


「詳しいことは分からないけど、どうも彼には多額の借金があったらしいわ。ここからは推測になるけど、ライアンはシェーファーに借金を肩代わりされたのかもしれないわね。」



 ………ライアンに借金、か………


 もしかして、エルミリア選手権で優勝すれば、その賞金で借金を返済できたんだろうか?


 ……俺が……


 大会に出たばっかりに………?



「言っておくけど、ハルのせいじゃないわ。」


「………え?」


「多分ハルのことだから、自分が大会に出場しなければ……なんて思ってるんでしょ?」


「……うっ……」


「ライアンはシェーファーに利用されたのよ。そこを履き違えないで。」


「………うん………」



 アリシアは俺のことをよく分かってらっしゃる。


 ……まあ、元はピースさんだし、普段アキとかトーヤにも相談できないことを匿名性を利用して相談してたわけだしな。



「……今日はそんな話をしに来たんじゃ無いわ。」


「……あ、う、うん……ごめん。」


「……謝るのなら私のほう。ハルの力になりたいだなんて言った割に、結局ハルに助けてもらったんだし………」


「……え……だ、だから大丈夫だって!俺は気にしてないから!」


「………………」


「………………」



 …………



 沈黙が辛い。


 こんな時、もっと気の利く言葉を掛けられないものだろうか。


 アリシアは俺に必要な言葉をすぐ掛けてくれるというのに。



「………ねぇ、ハル………」


「………ん?」


「………もしも、私が『私を誘拐して欲しい』って言ったら、誘拐してくれる?」


「………え………?」



 ……と、突然何を……!?


 そ、そりゃあアリシアの願いとあらばなんだってやるけど………



「……そ、そりゃあ…………」



 当然「Yes」と答えたい。


 でも、それよりも「なぜ?」が上回る。


 ただ、それを聞くのは野暮に思える。



「……アリシアの頼みならなんだって……」


「………理由は聞かないの?」


「……気になるけど……でも、アリシアがそうして欲しいって言うんなら、深くは聞かないよ。」



 王女とあらば、色々と束縛も多いだろう。


 政略結婚とか、そういうのも多分あるんだろうな。


 貴族の中にはアリシアをいやらしい目付きで舐めまわしている奴もいたし。


 そんな境遇から逃げ出したい、という気持ちは分からなくもない。



「………そういえば、同窓会の日。ハルの憧れの人と出会えたの?」


「……んぇっ!!?」



 ……い、いきなりなんてことを聞いてくるんだこの女神様は!!


 憧れの人なら出会えただけじゃなく、今目の前に居ますけど!!



「……で、出会えたというか………」


「居なかったの?」


「……いや……居たのは居たよ………」


「………ということは、こっちの世界に転生もしている訳ね。」


「……まぁ……うん………」


「ちなみに、どんな人なのか聞いても?」


「……え……えぇと…………」



 ど、どどど、どうしよう俺!!


 おお、落ち着け!!


 誰か違う人を憧れの人にする、か?


 ……………



 無理です!!


 ぶっちゃけ、俺はアリシア以外の女子と接点が無さすぎる!!


 というか、アリシアのせいで他の女子には悪いけど霞んでる!!



 落ち着け!!



 『憧れの人』なだけで『好きな女子』という訳では無い!


 つまり、アリシアにそれを伝えても問題無い!!多分!!



「………えっと………あ……憧れの人は…………目の前にいるというか…………」


「………まさか………私………!?」


「……あ………う、うん…………実は………そうです………」


「……………………」



 そう聞いたアリシアは頬を赤らめた。


 それ以上に俺の顔は真っ赤だったはずだ。



「……ど、どうして私になんか………」


「……い、いや!成績もすごく優秀だったしさ……いつも凛としてて………俺に無い物をたくさん持ってるなぁ……って…………」


「……………………」


「……だからまあ……その………あのですね………」


「…………フフッ…………」



 アリシアは無邪気そうに笑う。


 その笑顔もまたお美しい。


「まさかハルが私に憧れてるだなんて……思ってもみなかった………そっか………」


「……いやいや、アリシアは全生徒の憧れの対象だと思うけど………」


「………そんなことは無いわ。言い寄ってくる男子は下心見え見えだし、女子も私を煙たがってたわ。」


「………そ……そうなの……かな…………」


「………私は人付き合いが嫌いだったから。だから変な噂を流されても、否定することもしなかった。おかげで、私には本当の意味で友達なんて居なかったんだって思い知らされたけど。」


「…………もう、違うだろ?」


「………えぇ。ハルと出会い、色んな子達と触れ合えた。転生した意味はあったと思えたわ。」


「………なあアリシア。さっきの話に戻るけどさ……」


「……?」


「誘拐の件。今からやろう。」


「…………え?」



 俺は立ち上がってアリシアに向けて手を差し出した。



「アリシアの知らないヴァレンティア。俺が案内してあげるよ。」



 ……とか気障ったらしく言ったものの、断られたらどうしよう………


 なんていう俺の不安を他所に、アリシアは笑顔で俺の手を掴んだ。



「……なら、誘拐してもらうわ。」


「ま、任せろ!」



 ………女神様の手、柔けぇぇ………


 ……と、いかんいかん。


 これじゃあ下心丸出しの男子どもと何も変わらんじゃないか!!



 俺はアリシアの手を引き、夜の街へと繰り出した。

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