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ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第6章 誘拐
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第54話 誘拐犯

「……今頃上じゃあ大騒ぎだろうよ。」


「……だな。それで、この先はどうすんだい?」


「この穴はエルミリアの国外まで続いている。とある人物がこの姫を大層お気に召していてね。手土産として引き渡すだけさ。」



 小屋の中には男が3人。


 1人は全身を黒のマントで覆い、残りの2人はボロい布切れを全身で覆っている。


 その傍らには顔に布袋を被せられ、両手両足を縛られている人物が1人。


 あのしなやかな腕は間違いなくアリシアだ。



 おそらくだが、ボロ布の男らが実行犯。


 主犯と思われるのがアリシアの隣に立っている男だろう。



 なぜなら、男2人に比べても全身を覆う布がボロボロじゃない。


 布から垣間見える服装も、戦闘向きとは思えない。



 ………それよりも、だ。



 アリシアを攫った理由が、『手土産』だと?



 そんな時、Axel(アクセル)側の視点からあるものが見える。


 それは、こちらとは反対側の通路から明かりが差して来たのだ。



 誰かが反対側から来た、のか?



「確かにこの姫様は相当に別嬪だからなぁ!欲しがるっつうのも頷けるぜ。」


「けど、アンタだって姫様を渡して報酬貰うだけって訳じゃあ無ぇんだろ?」


「モチロンさ。アリシア姫を手土産として、僕らはその国で匿ってもらうのさ。貴族としてね。」


「……ほう………」


「そりゃまた大層な計画だなぁ。」


「それ程までにアリシア姫を欲しがってるって訳さ。まあ、彼女のジョブも目当てかもしれないけどね。」


「……ジョブが……?」


「彼女は【軍師(ストラテジスト)】持ちでね。戦争とあらば、彼女のジョブ1つで戦局がひっくり返るほどの代物さ。」


「なるほどねぇ……」



 Shadow(シャドウ)側では男らの会話が続いている。



 アリシアを攫ったのは、彼女の美貌とジョブが目当てってことか。



「にしても、キミ達は大いに役立ってくれたよ。ちなみに興味本位で聞かせてもらうけど、どうやってアリシア姫を攫ったんだい?」


「そりゃあ俺のジョブのお陰だ。」


「……ほう?」



 実行犯の話によると、彼は【暗殺者(アサシン)】というジョブ持ちらしい。


 このジョブは熟練度により、気配を完全に殺す事が出来るとの事。


 彼はそのジョブを使用し、パーティが行われていた城へと潜入した。


 ただ、城内の警戒は厳しい。


 そこで、もう1人の実行犯のジョブだ。


 それは、【調合師(ファルマシスト)】だ。


 彼のジョブにより、睡眠薬やら麻痺薬などあらゆる薬を調合する。


 夜にアリシアが寝静まった際、邪魔になる衛兵らを【調合師(ファルマシスト)】の作成した睡眠薬を利用した。


 野球のボール程度の大きさの球に導火線があり、それが燃える事で気化した睡眠薬が散布される。


 それでまんまとアリシアを誘拐した。



「……なるほどねぇ。面白いね、これ。」


「だろぉ?俺たちにかかれば人攫いでも暗殺でもチョロいってもんさ。」


「また金さえ積んでくれりゃあ何でもやってやるぜぇ?ま、口止め料もそれなりに必要だけどなぁ。」


「ハハッ!それには及ばないさ!」


「………あ?」



 小屋の扉が突然開かれたかと思うと、実行犯の2人は突如押し入ってきた黒マントの男に胸を刺し貫かれた。


 まぁ、俺はAxel(アクセル)で見てたから分かっていたが。



 ………俺が昨夜に見かけた不審者は、あの実行犯の1人だったって訳か。



「……な………なにを………!?」


「現場に色々と残っちゃってるだろうし……何よりキミ達に弱味を握られるのは面白くないからね。仮にキミ達が捕まった時に僕らに捜査が及ぶ危険もあるしね。」


「………ふ……ふざけ………!!」


「ふざけてる訳じゃあ無いよ。大真面目さ。僕はね、他人の弱味を握るならまだしも、自分の弱味を握られたままだなんて生きた心地がしないからね。安心して欲しい。キミ達の死体は誰にも見つからないようにするさ。裏世界で生きたキミ達にお似合いだね。」



 主犯の男は饒舌に語る。



 ………この饒舌さには………覚えがある。



「それにアリシア姫には個人的にも恨みがあってね。この作戦のお陰で僕らは復讐を果たせた訳だし、さらにはまた貴族として迎えられるって訳さ。それもこれも、キミ達の犠牲のお陰だね。………って、あれ?もう死んだ?……まぁいいか。」



 実行犯の2人は力無く項垂れており、すでに事切れている。


 2人を刺し貫いた男が剣を引き抜くと、そのまま崩れ落ちた。



「……そろそろ良いですかな?リックス殿。」


「……あぁ、いいよ。」



 主犯の男が被っていたフードを脱ぐと、そこにはリックスが現れた。


 ……………



 ………マジかよ………



 アイツが……!!?



 ………い、いや、落ち着け俺……



 このままアリシアをみすみすリックスの思惑通りにどこぞの変態に渡す訳にはいかない。



 俺はAxel(アクセル)で小屋へと駆け寄り、力いっぱいドアを蹴り破った。



「……なっ……だ、誰だっ!!?」



 悪いが話せなくってね。


 それよりも、だ。


 よくも我が女神様を売り飛ばそうとしてくれたな。


 卑劣な奴だと思っていたが、まさかここまで堕ちるとはな。



「……ふっ……あははは!!こりゃあ面白い!!黒衣の騎士様じゃないですか!!まさかアリシア姫を救いに?」


「……なに……黒衣の騎士……ですと……!?」



 俺の侵入音に気付いたのか、ゾロゾロと小屋を取り囲んでいる。



「まさかこのタイミングでアナタに会えるとは思ってませんでしたけど……まぁ、ちょうどいいですね。我々にとってアナタは邪魔でしたから。」


「……リック……いや……若君はすぐお逃げを!!」


「……フフッ……そうだね。そうさせてもらうよ。」



 逃がす訳無かろうて!!


 俺がリックスを逃がすまいと動き始めた途端、黒マントの男が間に入って攻撃を受け止めた。



「若君!!今のうちにさあ早く!!」


「じゃあね黒衣の騎士。姫様は貰っていくよ。」



 リックスはアリシアを担いで馬に載せ、そのまま走り去ってゆく。


 俺は目の前の護衛の間をすり抜けてリックスを追いかけようにも、また別の護衛が次々と前へと立ちはだかった。



「悪いが通すわけにゃあいかねぇ!!」


「テメェはここで大人しく死んどけ!!」



 ………邪魔を………



 …………邪魔をするなぁ!!!!



 俺は姿勢をグンと下げ、立ちはだかる護衛らに猛スピードで駆け寄って斬撃を与える。


 もういい。


 お前らが悪者だってんなら容赦しない。



 後にして思ったが、俺はこの時、確実にコイツらを殺そうと思っていた。


 明確な殺意で。



 立ちはだかる護衛らに刀が触れるかという時、何者かの剣でもって斬撃を受け止められた。


 それは、先の黒マントの護衛だった。



「ぬぅっ!!……さすがは黒衣の騎士……!!」



 斬撃を受け止められはしたものの、俺はその黒マントの男に次々と斬撃を浴びせる。


 しかし、黒マントの男はそれらの攻撃を的確に捌いた。



 ………何者だコイツ……!!



「………ふぅ………流石といったところだが、頭に血が上っていて単調だな黒衣の騎士。」



 ………………



「おい。お前たちでは相手にならん。俺を置いてお前らは若君の後を追え。」


「……し……しかし………」


「ここに居られては邪魔だと言っている。」


「………わ……分かりました………おい、行くぞ!」



 黒マントの男が護衛らを行かせる。


 それを後ろ目に見送った黒マントの男は、(おもむろ)にマントを脱ぎ捨て、顔が露になった。



「久しいな、黒衣の騎士よ。今回は前の時と同じとは思うな。」



 そこにいたのは、エルミリア選手権にて決勝戦で戦った相手。


 ライアン・デクスターがそこにいた。



 ………なんでアンタがこんなとこに……!?



「驚いたか?俺も色々と訳ありでね。」



 戸惑う俺を他所に、ライアンは構わず攻撃を仕掛ける。


 ライアンの斬撃は的確に手薄な場所へ叩き込んでくる。


 俺はそれらを捌いたものの、いくつかの斬撃により鎧に傷がつけられた。



「俺もあれから腕をあげただろう。しかしながら……貴殿とはこんな場所で出会いたくは無かった……!!」



 ライアンの斬撃はさらに力を増し、徐々にではあるものの押されてゆく。


 くそっ!!


 しっかりしろ、俺!!


 敵がなんであれ、アリシアを渡す訳にはいかないだろ!!



 俺は一度間合いを取り、ライアンに改めて対峙する。



 そして今度は俺から仕掛けた。



 俺はライアンの懐に入って斬撃を浴びせかけようと最大速度で駆け寄る。


 ……が、ライアンの剣がそれに対応すべくピクリと動いた刹那、俺は急減速した。



「……同じ手に乗ると思うな!!」



 そう言ってライアンはやや後ろへと後退する。



 思ってませんよ。同じ手に乗ってくれるだなんて。


 俺はライアンを信じていた。


 俺が決勝と同じ動きをすれば、もう二度と引っ掛からないってね。


 急減速したのもつかの間、俺は再度地を蹴って後退するライアンを捉えた。



「…………なっ………!!?」



 予想外の動きに驚くライアンに向け、俺は袈裟斬りを見舞った。



 刹那、ライアンの胸から血飛沫が舞う。



 しかしながら、ライアンは崩れ落ちそうな体を剣で支えた。



「……さ………さすがは黒衣の騎士………というところだ………!!」



 俺が取った戦法は、一度戦った事のある人だと陥りやすい理論だ。


 決勝戦時、俺はカウンターを誘発させてのカウンターで勝利した。


 そして今回。


 今回はそれを逆手に取った。


 ライアンは一瞬でも思っただろう。


 『カウンターを誘発させてからカウンターだ』と。


 でも俺は、相手がそう信じ込んでいると信じた。



 ゲームでも同じだ。



 対人戦において、毎回同じ技で引っ掛かる人はいない。


 相手も人だ。考える頭がある。



「……ガハッ………!!」



 ライアンは膝をつき、血を垂れ流している。


 俺はライアンの喉元に刀の刃を当てた。



 ………どうしてアンタほどの奴が、あんな奴の護衛なんて………



 今すぐにでも問いただしたい。



「……ふっ……とうとう俺も焼きが回ったか……殺すなら殺せ……黒衣の騎士よ。」



 ……………



「……そうして、さっさとアリシア姫を救いに行くといい……」



 ……………………



「………俺になど時間を無駄にしている場合では無かろう。さっさと斬れ!!」



 ……………………



 俺は刀を納刀した。



 殺されると思っていたライアンだったが、チンという鍔鳴りの音でハッと俺のほうへと顔を向けた。



「………な、なぜだ……!?」



 何故も何も無い。


 俺はアンタに色々聞かないといけない。



 そうしていると複数の足音と共にステラが現れた。



「あぁ!黒衣の騎士様!!ご無事で!!」



 ステラの後ろには複数の衛兵も着いてきていた。



「……こ、黒衣の騎士殿……一体これは……!?」



 説明したいけど、生憎俺は話せない。


 それに今はそれどころじゃない。



 俺は紙に『あとは任せた』とだけ書いてステラに渡し、そのままアリシアの元へと駆け出した。


 後ろではステラが衛兵に何か言っていたが。



 奴らは馬での移動。


 ライアンとの戦闘によりかなり引き離されている。


 急がないと……!!



 足跡を辿って全速力で追いかける。



 にしても、こんな時に生身じゃなくて本当に助かる。


 生身であればここまで早く移動なんて出来やしないし、なによりスタミナが持たない。



 そんな事を考えていると、前方を走っていた集団が見え始めた。



 俺はそのまま全速力で追いかけ、誘拐犯らの背後を捉える。



「……ヤベェぞ!!後ろからアイツが……!!」


「……う、嘘だろ!!?……ライアンが負けたってのか!!?」


「おい!!もっと早く走れ!!」


「……アレを使えアレを!!」


「……お、おう!!」



 そう言って男はカバンから野球ボール大の球を取り出し、火をつけてこちらに投げつけた。


 すぐさまそれは白い煙を発する。



 あれはリックスが殺された奴から受け取っていたものか。



 悪いがAxel(アクセル)には効かん!!



 俺は平然と煙の中を突っ走り、そのまま煙を抜けても元気に走っている姿を見て誘拐犯らは驚愕する。



「……お、おい!!効いて無ぇじゃねぇか!!」


「もっと投げつけろ!!……って………ぐあぁぁ!!!!」



 間合いに入ったところで跳躍して馬上の1人を蹴り倒す。


 そのまま馬を足場にして他の誘拐犯らへと飛び付いて攻撃した。



「クソッ!!やっちまえ!!」



 残った連中は馬を止めて剣を抜く。


 ……が、無駄だ。



 俺は襲いかかる連中を次々となぎ倒す。



 残された1人は「ひぃぃ」と情けない声を上げて腰を抜かしていた。


 俺はそいつの首を鷲掴みにして持ち上げ、そのまま鳩尾へと拳を滑り込ませて無力化した。


 今にして思えば、リックスがどこに向かったのか問いただせば良かった……



 全員を無力化した後、俺は自身の魔力残量を確認する。


 ………うん。


 問題ない。



「ハル様!!お待ちください!!」



 後ろから遅れてやってきたステラが合流した。



「………ハァ……ハァ………ハ、ハル様……どうか私めもお供を………」



 渡りに船とはこの事か。


 ステラの嗅覚があればアリシアがどこへ向かったのかが分かるハズだ。



 ……しかしながら、ステラは俺に追いつくために全速力でやってきたのか、相当にスタミナを消費しており、せっかくの綺麗な服の足元も泥だらけだ。


 それに、俺の後を追ってきたということは、奴らが投げてきた煙玉により何かしら体に異変があったかもしれない。



 俺は屈み、ステラに背中に乗るようにと促した。



「……ハ、ハル様のお背中に……でしょうか!!?」



 いいから早く乗れって。



「………で、では………失礼致しま…………ひゃあ!!」



 俺はステラが乗るや否やすぐさま駆け出し、逃げゆくリックスを追いかけた。

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