表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジョブ世界の人形師  作者: かるぱりあん
第6章 誘拐
58/63

第52話 混乱

「本日はお招きいただき、ありがとうございました。」


「う、うん!ありがとう、アリシアさん!」


「いいえ。こちらこそ、わざわざ来てくれて感謝してるわ。素敵なプレゼントまでいただいて。」



 皆が皆、別れの挨拶をしているが、俺は先の人影がどうしても気にかかっていた。



 誰が?


 なぜ?


 目的は?



 俺の思い過ごしならそれでいいんだけど。



「じゃあね、みんな。また学校で。ハルも。」


「…あ、う、うん……!また!」



 俺たちは衛兵2人の案内で門まで送られることとなった。


 帰り際に中庭を見てみたが、人影が見えた場所にはもう誰もいない。



「……それにしてもハル氏よ。どうなされたので?」


「……え?……どうって?」


「ささ、さっきから心ここに在らずって感じじゃないか。どうしたんだ?」


「……そ、それはさ………」


「ハハッ。んなもん、アリシアが綺麗すぎて見とれちまってたんだろ!」


「確かに!アリシアめちゃくちゃ綺麗だったもんね〜!……ハァ〜……あたしもあんなドレス着てみたいなぁ……」


「……ち、違うっての!!……いや、まったく違うって訳でも無いけどさ……」


「ん〜、何か悩み事かね?ミスターアルフィード。」


「悩みってことでも無いさ………さっきバルコニーから外を眺めてた時にそこの中庭に人影がいてさ。誰だったんだろうかなって。」


「……人影?」



 俺の言葉に皆が中庭を見やるが、もうそこには人影らしきものは見当たらなかった。



「……誰もいないけど……?」


「衛兵じゃないか?」


「……アルフィード君。その人影とやらは、灯りを持ってはいなかったのかね?」



 衛兵の1人が問いただす。



「…………いや………そんなのは持ってなかったと思いますけど…………」


「……ふむ……暗がりでの見間違いの可能性もあるかもですが、1度警備に確認させておきましょう。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後俺たちは馬車で寮まで送ってもらい、自室へと戻ってきた。


 俺以外の皆は今日のパーティが余程楽しかったのか、馬車の中でも浮かれていたけど。


 アキとトーヤは貴族に時計が気に入られ、専属契約をしないかと本気で迫られたり、サイラスは貴族が経営するコンサートで演奏してみないかと誘われたり。


 リリーの占いも人気だったし、ロータスの持ってきたチーズも貴族から人気だった。


 ……貴族から何のお声も掛けられてないのが俺だけだった。



 いや、そんなことよりもだ。



 改めて、俺とアリシアは住む世界が違うんだなと実感した。



 彼女は美しくて聡明で、スタイルも良くて。この国の王女様。


 対して俺は、師匠のお陰で多少戦える程度の農民の息子。



 俺は内ポケットから白のナイトを取り出して、改めて眺める。



 ……………




 うん。


 自分で作っといて言うのもなんなんだが、我ながら会心の出来だと思う。


 凛々しい馬の表情に、(たてがみ)も綿密にナイフで削り込み、堂々たる風格を醸し出している……はず。


 惜しむらくは、この駒の素材がニックスウッドっていう硬いだけで剣術などの打ち込み用丸太としてしか活用されていない木であり、決して高級な素材という訳では無い。



 自室にて俺はAxel(アクセル)へとリンクする。



 Axel(アクセル)の足元には夜通しで作った駒の失敗作が散らばっている。


 ニックスウッドの丸太から適度な大きさにナイフで切り分け、足りていない駒の制作へと着手する。



 ……って、ナイト2つしか完成してないんだから、あと38駒必要な訳だが。


 ………いや、プロモーションした時の為に白と黒のクイーンも作っておかないとだな………



 木を削りながら、先の人影の事が思い起こされる。



 衛兵や使用人があんな場所でコソコソと隠れる必要があるのだろうか?



 ………………



 わからん。



 ………まあ、俺がAxel(アクセル)で乗り込んで確認するわけにもいかないか。


 それに、城のことは衛兵に任せておくべきだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 次の日、いつものように早朝からトレーニングをし、朝ごはんを食べ、勉強会となる図書館へと赴く。



「ハル様!おはようございます!」


「おはよう………って、アリシアは?」


「珍しいことに、アリシア様はまだ来ておりませんわ。」



 ……ふむ………



 昨日俺たちは門限のせいで早めに帰宅したが、アリシアはまだあの後もパーティがあったはずだ。


 俺たちがいなくなってからも、あの貴族の相手をしなければならないんだから相当疲れただろう。


 全く、姫様ってのもつくづく大変だな。



「そんなことよりも、早速お勉強を始めましょう!アリシア様の分まで、私めがみっちりとお教えさせていただきますわ!」


「……あ……えっと………ほどほどに………」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そうして数時間が経過した。



 途中昼休憩が30分だけ取らせてもらったものの、それ以外はずっとエルフ語と魔人語の勉強だった。


 普段制止役のアリシアがいないのをいいことにステラはやたらと抱き着いてくるわ、谷間を押し付けてくるわ………むふっ。



 はっ!!



 違う違う!!



 これはあの〜、アレだ!全男子共通の反応というやつで……その…………



 ………………



 いや、今はその事はどうでもいい。



 時間はもう2時過ぎ。


 なのに、一向にアリシアが現れる気配が無い。


 昨日いくら遅くまでパーティをしてたにしろ、休むなら連絡くらいはくれそうだし。



「……あのさステラ。アリシアがまだ来ないってのは………」


「全く、アリシア様もいい加減ですわ。ハル様のお勉強を蔑ろにするなど……」


「な、蔑ろにしたかどうかはさておきさ……何かあったと思わない?」


「………そう言って、ハル様は勉強をサボるおつもりでは?」


「ちち、違うって!アリシアが休むにしても何の連絡もしないなんて珍しいなあって……」


「……………はぁ…………仕方ありませんわね。」



 ステラは了承してくれはしたものの、あまり納得はして無さそうに返事をした。


 気になるってのは本音だ。


 アリシアは他人にも厳しい面もあるけど、それ以上に自分に厳しい印象がある。


 そんな彼女がなんの音沙汰も無しに勉強会を休むなんて考えづらい。



 俺とステラは図書館を出て、数時間ぶりの太陽の下へと出てきた俺は軽く伸びをした。



 ただ、街の中は少しばかり様相が違う。



「……どうだ?」


「い、いえ……こちらにもまだ……」


「こちらB班、以上ありません。」


「……くそっ……場所を移動する!」



 衛兵らが物々しい様子で捜索をしているのが目に入った。



 俺たちに気付いた衛兵の1人がこちらへと駆け寄って来る。



「……失礼……あなたは確かステラ様ですね……?」


「……えぇ。左様ですが……?」


「……この辺りで怪しい人物を見かけませんでしたか?」


「……怪しい……と言いますと?」


「……例えば、覆面をしている者や、全身コートに身を包んでいるようなやからです。」


「………いいえ。見ておりませんわ。」


「……左様ですか………」


「……あの………な、何かあったんですか……?」



 『怪しい人物』と聞いた俺は居ても立ってもいられなくなった。



「……キミは確か………い、いや……すまないが今はまだ知らせる訳にもいかない。もしも何か不審人物を目撃した場合は最寄りの駐屯地にてお知らせください。では……」



 衛兵は足早に去っていってしまった。



 『不審人物』なら心当たりがある。


 それは昨日、王城の中庭で見かけた人影だ。



 まさか、そいつがなにか城内で事を起こした……?



「ステラ、悪いけど急いで図書館へ戻る。」


「あら!ハル様、もう休憩は宜しいのですね!」



 ステラはにっこりと微笑んだものの、当の俺は勉強会を再開するためじゃないのが何とも言えない。



 すぐさま椅子に座り、ステラへとお願いした。



「悪いけど、少しの間俺の体を見張っててくれないか?人形にリンクするから。」


「………え………?……ハル様、お勉強をするために戻られたのでは……?」


「それどころじゃないかもしれないんだ!頼むステラ!」


「………かしこまりました。それならば、ハル様の身の安全は私の命に代えてでも保証しましょう。」


「ありがとう、ステラ。」



 すぐさま俺はShadow(シャドウ)へとリンクし、図書館を飛び出しては先の衛兵へと忍び寄る。


 そうして衛兵の体に取り付き、会話を盗み聞く。



「……C班、どうだった?」


「……いいえ………こちらも何も収穫はありません。」


「クソッ!!」


「た、隊長……我らが捜索していることを犯人に知られたら……」


「そうも言ってられん!それに、奴らにとっても大事な人質だ。殺せばその後ろ盾を失う。」


「……で…ですが………このまま無闇に捜索したとて………」


「奴らの目的がなんであれ、我らはアリシア姫の無事を祈り、今できる限りの事を行うのみだ。無駄口を叩いている暇があるならさっさと探すんだ!」


「は、はい!!」



 俺は再度図書館へと戻り、そこでリンクを解除した。



「あらハル様!もう戻られ……………」



 意識の戻った俺の顔を見たステラだったが、俺の表情を見てか口を噤んだ。



 誰かがアリシアを誘拐した。



 衛兵から聞いた情報で、俺の顔から血の気が引いていたからかもしれない。



 もしかすると、アリシア誘拐犯は昨日王城で見かけたアイツか?


 ……いや、確たる証拠はない。



「……ハル様……?……どうされたのです!?」


「………悪いステラ………アリシアだけど………多分誘拐されてる。」


「……ゆう……かい………ですか?」



 まさか御堂か?


 アイツが密かにこの国に潜入し、アリシアを誘拐したのか?


 だとしたら目的は?



 …………分からん。


 というか、目的なんてどうでもいい。



 俺は勢いよく椅子から立ち上がり、気付くと図書館を飛び出して駆け出した。



「ハ、ハル様!!どこへ行かれるので!!?」


「悪いステラ!!勉強会はまた今度だ!!」


「ハル様!!」


「それから、頼みがある。」


「……頼み……でしょうか?」


「うん。前にステラは匂いで俺の居所が分かっただろ?その力でさ、アリシアの居場所を突き止めて欲しいんだ。」


「……………」



 ステラは少しばかり目を瞑って考えた後、改めて俺を見やる。



「畏まりました。このステラ、ハル様の頼みとあらばなんなりと応じましょう。」


「ありがとうステラ!じゃあしばらくここで待っててくれ!」



 俺はそれっきり振り向きもせず、急いで男子寮へと戻って自室へと入った。


 そしてそのままAxel(アクセル)へとリンクした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ