第49話 冬季休暇
やあみんな!
クラス対抗祭も終わり、学期末テストも終え、こちらはいよいよ冬休みでございます!!
……しかしながら……
寒い!!!!
この世界の冬は日本より寒い。
なんならこの首都ヴァレンティアは俺のいたシルバーレイクよりも緯度が高いのか気温も低い。
そのせいで冬のシーズンは雪が毎年積もり、豪雪とあらば雪下ろしをしなければならないほどだ。
ちなみに学期末テストだけど、俺の順位は164人中84位だった。
はい、半分より下になっちゃいました!てへ!
「ハル、さっきから身が入ってないわよ。」
「…あ、ご、ごめん!」
テストが半分以下の順位だったこともあり、我が女神様が直々にこうして俺に勉強を見てくれている。
勉強は嫌いだけど、こうして女神様が教えてくれるのはご褒美以外の何物でもない。
「ハル様!スペルが間違われておりますわ!それだと『レモン』では無く『女性のうなじ』という意味ですわ!」
……まあ、勉強を見てくれてるのはアリシアだけじゃあ無いんだけど。
ステラは魔人語だけでなくエルフ語も話せるようであり、こうして俺の勉強に付き合ってくれていた。
「……アナタ……この前も『リンゴ』を『女性の胸』とスペルミスしてたわよね。」
「……うっ……!」
……お、覚えてらっしゃったんですね………
てかワザとじゃないんです!!
間違え方が神がかってるだけなんです!!
「それに、和訳が直訳すぎるわ。文章の構造を把握して和訳しないと。」
「ハル様、私ならそれでも伝わりますから!」
「それはステラだからよ。長文読解する際、ハル自身がこの文章の意味を正確に捉えられているかが問題なの。」
「ハル様なら大丈夫ですわ!ね?」
いや、「ね?」じゃなくてね。
出来てないから点数が悪いんです。
「把握出来ていればこんなに悪い点数は取らないわ。」
「そ、そんな……!!ハル様はこんなにも頑張ってらっしゃるのですよ!?」
そう言うとステラは俺を抱きしめてきた。
その際に豊満な2つの柔らかい巨大なマシュマロに包まれて……むふっ……
「……ち、ちょっと!!ハルから離れて!!」
「嫌ですわ!先程からアナタはハル様を虐めて……!」
「い、虐めてなんか無いわよ!」
「ハル様、ご安心してくださいませ。私が守って差し上げますから!」
「……アナタ……!」
あれ?
なんか、俺をめぐって争いが起こってる?
……ってそんな悠長な事を言ってる場合じゃねぇ!!
「ち、ちょっと……ステラ……放してくれよ……」
俺の言葉でようやくステラは俺を解放してくれた。
「ハル様!ハル様も私の教え方の方が嬉しいですわよね!?」
「……い、いや………俺はその…………」
「甘やかしたところで身についていなければ意味が無いわ。間違いは間違いだと正しく指摘して、何がどう間違えているのかを正しく理解させないと……」
「ハル様は頑張ってるんです!多少間違える事があっても問題なんてありませんわ!」
「ステラが良くても他の教諭はそうはいかないでしょ。ハルを特別扱いすれば他の生徒にも示しがつかないわ。」
………なんか、白熱してるとこ申し訳ねぇ……
「ハル様はどちらのほうが宜しくて!?」
「そんなもの、聞くまでもないわ。」
「まあ!ハル様のご意見を無視すると言うのですか!?」
「そういう意味じゃ無くて……」
「ハル様を蔑ろにするなど言語道断です!」
「……あぁもう。分かったわよ。じゃあハル。アナタはどちらの教え方のほうが良いわけ?」
………やっぱり俺に聞きますよね……
ステラには申し訳ない。
ステラが俺を持ち上げてくれるのは有難いことだけど、それでテストの点が良くなる訳でもない。
「………じゃあ………アリシア………かな……」
「……そ……そんな………!!」
「じゃあハル。さっさと次の問題にいくわよ。」
「…あ、はい。」
アリシアはあっさりしてるなぁ……
ステラは俺に選ばれなかった事が余程ショックだったらしく、膝から崩れ落ちて目を潤ませながら俺を見つめている。
……いや……そんな目で見つめられましてもね?
「……ス、ステラの褒めて伸ばすってのも有難いんだけどさ……アリシアの言うように、他の先生が俺を贔屓するわけでも無いし……」
「…………ハル様は………厳しくされるのがお好きなのですね………」
「いや違うわ!!」
ってか女神様は厳しくなんか無いからな!!
普通だ普通!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………まぁ、まずまずの出来ね。」
勉強会が行われて3日目になり、今日はアリシア手製の小テストが行われた。
わざわざ俺のために魔物学や歴史、エルフ語についてのテスト問題を自作してくれていた。
10点満点のテストだが俺が躓きやすい問題で構成されていた。
結果は平均点7点という微妙な出来ではあるものの、躓きやすい問題ばかりでの構成の中、良くできたほうだと褒めてくれた。
「……はぁ………疲れた………」
「まだまだですわハル様。エルフ語の発音やスペルミスを完璧なまでに無くすために徹底的に正さないとなりませんわ。」
「……え?」
「それにこの問題。ハル様は昨日も間違えてらっしゃいました。ここのスペルミスは十分注意するようにとお申し付けておりましたのに。」
「……あ…あの………」
「このままではなりませんわ。間違えたスペルの書き取りを100回、それと共に発音練習も致しましょう。私もお付き合いさせて頂きます!」
「ちょっと待てぇぇい!!」
ステラは先日、俺に選ばれなかったことから教育方針を180°変え、かなり厳しくなってしまった。
当初はこの変わり様に気圧されてたアリシアだったが、甘やかすよりは良いと判断してそのままになってしまった。
「ハル様。このくらいで根を上げていてはいけませんわ。私もお付き合いさせて頂きます故に、共に乗り越えましょう!」
「……ア…アリシア………」
俺はアリシアに助けを求めたものの、アリシアは咄嗟に顔を背けてしまった。
………た……助けてくれぇぇ………
「こうなったら、この冬季休暇は毎日勉強致しましょう!明日も明後日も、ハル様が全教科で満点がとれるまで!!」
とステラは張り切っている。
………いや、やらないよりはいいんだろうけどさ?
ちょっとは休憩させてくれ………
雪のせいで父さんの仕事の手伝いも無く、少しはゆっくり出来るかと思っていたのに………
………いや、そんなことよりも、だ。
「……あ、明後日は……よ、用事があってさ……!」
「用事、でございますか?」
「う、うん!」
「ではその用事は何分ほどで終わるご予定で?」
分!?
分刻みっすか!!?
「……いや……何分とかじゃなくて……明後日はその……休みにしてもらいたいなぁ……なんて。」
「ハル様!!何を仰いますか!!そんな事ではテストで赤点を取ってしまいますわ!!」
「い、1日くらい休んだってそう変わらないって……」
「……1日くらい……?」
俺の『1日くらい』って言葉に引っかかったのか、突然ステラは俺に顔を近づけた。
「聞き捨てなりませんわ!私、ハル様のためを思って心を鬼にして言わせていただきます!1日休むということはその1日分の勉強をどこかで取り返さなければならないのです。それがさらに1日、また1日と休みを重ねれば、もう取り返す事など出来ません。『たった1日』と言えども、『されど1日』でございます。たった1日の遅れを取り戻すというのは……」
「ちょーーっと!!分かってるから!!でも、明後日はダメなんだ!」
「………では、明後日は丸一日お忙しい、ということでしょうか?」
この質問には間違えてはいけない。
なぜなら、もし俺がここで「昼から夜まで忙しい。」と答えると、おそらくステラは「では朝から昼までなら大丈夫、というわけですね。」と返ってくる可能性が高い。
極端すぎるステラには質問の答えを間違えてはいけないのだ。
「……そう。明後日は早朝からトレーニングして、そのまま用事があって、帰ってくるのは20時ジャスト。その後は弟の座学に付き合わないといけない。うん。」
「……………………」
………ふぅ。
ステラはどこかに勉強の時間をねじ込めないかと思案しているが、これなら大丈夫だろう。
というか、この冬季休暇ずっと勉強なわけ?
……マジでそれだけは勘弁してくれ……
「………ハル様、不躾な質問ですが、その用事というのは如何なるご用事で?」
「……そ、それはほら……プライバシーの問題だからさ……」
「……プライバシー……?というのは何でございましょうか?」
「えっと……他人に知られたくないこと……みたいな?」
「……………………」
ステラはしばらく黙っていたものの、その後突然膝から崩れ落ちた。
「……ハル様……!!私にも知られたくないような事をなさるというのですか……!!散々私の体を慰めてくれたのは遊びだったと仰るのですか……!!」
「へ?……い、いや……言い方!!」
「私はハル様の為ならばこの身を捧げるつもりでしたのに……ハル様は私には言えないようなあんな事やこんな事を………!!」
「違ぁぁう!!」
ステラはしばらく泣いていたものの、『プライバシー』の意味を教えるのにアリシアも手伝ってくれ、ようやく理解してくれたようだった。
……何はともあれ、明後日の勉強会が休みになってくれて助かった………
「……ハルも、もう少し語彙力を付けたほうがいいわね。」
「……ぜ…善処します……」
次の日の勉強会でもアリシア手製の小テストが行われたのだが、難易度がかなり下がっており、平均点9点をたたき出せた。
おそらくこの冬季休暇をずっと勉強会に費やされるのを見かねたアリシアがわざと難易度の低い問題を選んでくれたからだろう。
お陰で勉強会の頻度を減らしても問題無いとの判断に至ったが、それでもエルフ語の勉強会だけは1日3時間は取るとステラは譲ってくれなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして2日後の今日。
俺は朝からアキとトーヤと共にとある場所へと訪れていた。
とある場所、とは王城だ。
門兵にはすでに国王より話が通っているらしく、俺たちは案内されて応接室へと通された。
応接室とは言えやはり王城。
豪華な装飾や意匠がそこかしこに鏤められ、椅子も机もとても豪華だ。
俺たち3人は借りてきた猫のごとく縮こまって椅子へと腰掛けた。
アキもトーヤも包みを持っていた。
暫くすると扉がノックされ、扉からはアリシアが現れた。
「今日は来てくれてありがとう。」
「…い、いえいえ!!とと、友達でゃから!!」
久々に噛んじまった。
というのも、少しばかり弁解すると、その日のアリシアはとても豪華なティアラを頭に乗せ、服もとても豪華なドレスを身にまとい、少し照れくさそうな表情をしたその姿があまりにも美しすぎたのだ。
「こちらこそお呼び頂き恐悦至極ですぞ、アリシア氏。」
「うう、うん!ここ、こ、こんな凄いお城でぼぼぼ僕たちを呼んでくれたなんて!!」
「そう言ってもらえて良かったわ。リリーとロータスも来てくれてるから、あなた達もホールへ案内するわね。」
俺が勉強会を断った理由。
それは、今日はアリシアの誕生日パーティが王城で開かれ、学友として招待されたためだ。
しかしながら信じられるか?
我が女神様ことアリシア。
彼女の誕生日は12月25日。
なんと、あのイエス・キリストと同じ誕生日なんだよ。
……さすが、持って生まれた神特性ですね。
階段を前を先行するアリシアに着いていくが、彼女は普段付けていないはずの香水の仄かな香りが鼻腔をくすぐる。
……はぁぁ………ここが天国へと続く階段かぁ………
「ここよ。」
アリシアが頷くと衛兵が門を開けた。
そこには別世界が広がっていた。




