第48話 リックスの目的
表彰式が始まり、俺たち1クラスは1年生の中で優勝した。
次いで3クラスが2位となり、3位は5クラスとなった。
本来の点数でなら2クラス・4クラスのほうが順位が上だったものの、度重なる反則行為により減点され、5クラスが3位に浮上したのだ。
壇上で表彰状を受け取った俺たちに観客から盛大な拍手が送られた。
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その日は最後にクラスへ戻って簡単にホームルームがあり、そのまま解散となった。
クラスメイトらはそのまま打ち上げに行くこととなり、皆はそのまま外へと繰り出して行った。
……が、俺とアリシアには別の用事があるもんで欠席した。
用事というのは、リックスについてだ。
俺たち2人はリックスの元へと訪れていた。
そこには取り巻きが何人かおり、その中心にはリックスがニッコリと笑ってこちらを見ていた。
「やあやあ。優勝おめでとう。後半に逆転するなんて敵チームながら天晴れだよ。」
リックスは微笑みながら拍手した。
「……ありがとう……と言いたい所だけど、そういう訳にもいかないわ。」
「……はて……なんのことです……?」
「今回の私たちへの妨害工作。全てアナタの指示でしょ?」
「………ハハッ!アリシア姫、何を根拠に?」
リックスは笑顔を継続させ話を続けた。
「僕がこんな大会のために妨害なんてする訳が無いじゃないですか。この大会で優勝したとて、何のメリットがあると言うんです?『1クラスに勝てた』っていう自己満足でしょうか?そんなもののために、僕がわざわざキミ達の妨害をするとでも本気で考えているのですか?」
本当によく舌の回る奴だよ。
ただ、確かにコイツの言うように、こんな大会でズルをして勝利したとて、そんなものはただの自己満足でしかない。
「当然、私もそう思うわ。こんな大会で私たちに勝利したとしても、アナタにそこまでメリットがあるようには思えないって。」
「……なら、なぜ僕を疑ったんです?それに、どうせ大した根拠も無いわけでしょう?」
「アナタの目的が、『私たち1クラスに勝利すること』だけで妨害した訳じゃ無いからよ。」
「……………………」
リックスの目的。
奴はこの大会で俺たちを妨害工作の黒幕に違いない。
ただ、その目的が『俺たちのクラスに勝利するため』だけじゃない。
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「……それにしてもさ……リックスがこの大会で俺たちに勝利するためだけに妨害してくるとしたら、なんか小さい男だよな………」
対抗祭の1週間前にアリシアらと打ち合わせをしていた時にふと俺が発した。
「………確かに………」
そう発したのはアリシアだった。
リックスは俺に脅しを掛けて来た時も、裏には黒衣の騎士を捕らえるという別の目的があったと俺たちはそう推測している。
そんなリックスが、ただ俺たちに勝ちたいがために妨害をしてきたとしたら、俺たちの想像するリックス像と少し異なる。
もしリックスが今回俺たちの妨害をしてくるなら、もっと別の、所謂『真の目的』があるはずだ。
「……ここで想像していても仕方ないわ。」
そう言ってアリシアは立ち上がって、すぐさまとある行動に出た。
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「もういいわよ、ゲイザー。ご苦労様。」
アリシアがそう発すると、リックスの輪の中にいたゲイザーが輪を外れ、俺たちの元へと歩み寄った。
「アナタの企みは分かっているのよ、リックス。」
「…………………」
それまで笑顔を保っていたハズのリックスから笑みが消えた。
「アナタの企みは『学園を支配すること』。今回、アナタが2クラスや4クラスまで手駒に加えたのもその結果よ。」
「………なるほど…………ゲイザー、アナタが僕を裏切った、というわけですか。」
「………し……仕方ねぇじゃねぇかよ………俺だってこんなこと………」
「その辺の内輪の事情はどうでもいいわ。アナタが行ってきた所業は全て確認済よ。」
「……………………」
「リックス。アナタは狡猾に嘘を織り交ぜ他クラスを脅し、今回の妨害に協力させた。アナタにとって今回の対抗祭での勝敗なんてどうでもいい。大事なのは、『妨害するために協力した』という弱みを握るためよ。」
リックスは対抗祭が始まる前に、対抗祭を利用して学園を支配する計画を思いつく。
奴の父は子爵。
その立場をも利用し、他クラスの生徒に脅しをかけた。
『協力しなければ、お前の両親は職を失う』だとか、『協力すれば、今よりもっと地位の高い職につける』といった具合だ。
そうして2、4クラスの大半を籠絡した。
そもそも、2〜6クラスの全クラスが1クラスに対抗意識があったというのもリックスにとって有用に働いた。
昔、地球でこんな話を聞いたことがある。
『1番裏切らない自分だけの客を捕まえる方法』だ。
それは、『共犯者になること』だ。
ここでいう共犯とは、本当に重罪なものでなく軽微なものでいい。
そういった秘密を共有することで、それは強固な繋がりになる、と。
言わば、『秘密の共有』だ。
リックスは、この原理に近いものを行った。
元々持っていた1クラスへの対抗意識を逆手に妨害を行う。
その裏にちょっとした脅しがあったとしても、後々には『あの時妨害するのに協力した』という弱みを握られる。
妨害行為も生徒によってその差がある。
中には、今回のリリーの時のように、ケガを負わせる生徒もいた。
そうした妨害行為に、少なからず自分も加担したとなれば、それは弱みとなる。
リックスはこうして、学園の裏番長にでもなるつもりだったのだろう。
特にここセント・クラーク高校出身者ともなれば、卒業後の就職にもかなり有利に働く。
俺たちはリックスの真の目的を探るべく、協力者を探した。
そこで今回白羽の矢が立ったのがゲイザーだ。
俺たちは内々にゲイザーを呼び出し、俺たちに協力するように求めた。
俺たちに協力すれば、リックスの圧政から解放してやる、と言って。
しかし、一筋縄ではいかなかった。
そこで思いついたのが、『秘密の共有』だ。
ゲイザーはリックスに唆され、色々な悪事を手伝わされた。
その見返りとして、ゲイザーの両親はリックスの親のツテにより良い職場へと移動でき、前よりも良い暮らしが送れた。
この情報だけでゲイザーを籠絡出来た訳じゃない。
このネタで揺すったとしても、おそらくゲイザーはリックスを裏切らない。
なぜなら、これでもしリックスが失脚すれば、ゲイザーやその親の立場すら危うくなってしまう。
なので、アリシアはゲイザーを説得した。
「もしも協力してくれるなら、ゲイザーの家族の安全や職は国で保証する」って。
これが俺とかリュゼが言ったところで何の効力も持たないが、アリシアなら別だ。
『リックスに脅されて仕方なくしてしまったのなら、情状酌量の余地は十分にある。その被害者らには何の落ち度も無い。』と。
そうしてついにゲイザーを説得する事が出来、それによりリックスの企みが判明したのだ。
「……当初は今回の妨害工作の裏にそんな大それた目的があったなんて驚いたけど。」
「……リックス………すまねぇ!!……でもよ……お前を止めるためには仕方無かったんだよ!!」
「……フフッ……自分は保身に走ったというのに、見苦しいですねゲイザー。」
「違ぇよ!!……俺は……俺は、お前がまた昔みたいに戻って欲しいだけだ!!」
「………そんなもの、どうだっていいんですよ。僕からすれば、ゲイザー。キミは裏切り者です。裏切り者に用はありませんね。」
「………リックス………」
「それで、アリシア姫。そこまで暴いたということは、僕を捕まえるのですか?それとも、この弱みを握ってアナタが支配者にでもなるつもりですか?」
「……ハハッ!!捕まったとして、僕は一体何の罪に問われるのでしょうねぇ?脅迫罪でしょうか?それとも傷害罪でしょうか?」
「………全く………上手くやれてたと思ったんですけどねぇ………まさかこんなに早くにバレてしまうなんて………」
「……ほら、何を悠長に突っ立ってるんです?まさか、僕の企みを暴いてそれで終わりというわけでは無いでしょう?」
リックスは自分の悪事をバラされたというのに、今度は開き直って不敵に笑う。
まさに刑事ドラマで見るような犯罪がバレた時の犯罪者と同じように。
「……まさか、ここまでの事になっていたとはな。」
「……誰だ!?」
リックスが驚いて振り返ると、そこにはラインハート先生含め、他の教員らもそこにいた。
「話は聞かせてもらったぞ。」
「……リックス君……まさかキミが……」
「……わ、私のクラスもそれで妨害に加担していたというのか………」
「反省は後にしましょう、フューゲル先生。」
集められた先生らもこの事実に驚愕としていたようだが、ラインハート先生は相変わらずだった。
「……アリシア………貴様………!!」
「私はアナタに何もしないわ。それはこの学校が決める事。この学校のいい所はね、誰に対しても平等に扱うところよ。」
「観念するんだな、リックス。」
俺、ようやく喋った気がする。
今回、俺、いる?
「……………アリシア……………!!」
リックスの表情から完全に笑みが消え、その目には怒りが宿っている。
おいおいリックス。それを世間では逆恨みと言うんだぜ。
リックスは怒りに任せてアリシアへと駆け出し、俺は慌ててアリシアの前へと躍り出た。
……が、リックスが握った拳は俺へと届く前にラインハート先生によりすぐさま確保されていた。
「諦めろリックス・シェーファー。残念ながら数々の校則違反により、お前を退学に処する。」
「……アリシアァァアアア……!!……覚えていろよ……必ず復讐してやるからな!!」
リックスは他の教員らにも取り押さえられ、アリシアへと罵詈雑言を放ちながらも連れられて行った。
ゲイザーはそれを見送った後、ドサッと腰から崩れてへたりこんだ。
「………リックス………馬鹿が……!!……アイツ……信じられねぇかもしれねぇけど……昔はあんな奴じゃ無かったんだ………」
「……旧友……か?」
「………あぁ…………アイツは小っせえ頃からの連れでよ………ちょっと狡賢い所はあったけど……それでも気のいい奴だったんだ………」
日本でもよくインタビューを受けてる光景があった。
犯罪者と近所だった人が、「よく挨拶をする子だった」とか「まさかそんな事するなんて」とか。
当時の俺はそのインタビューを見た時は、正直どうでもいいって思ってた。
犯罪者の普段の素行とか、そんなものを流すことに何の意味があるんだって。
……でも、ゲイザーはリックスとは旧友だった。
だからこそ、踏みとどまって欲しかったんだろう。
でも、自分ではもう止められないと悟った。
もしもアキやトーヤが間違った道を歩み始めた時、俺はアイツらを止められるだろうか?
もしかすると、俺も同じ道を歩もうとしないだろうか?
………分からない。
多分、道を間違えたと思った時には、色々と遅いんだろう。
でも、そこからでも道を引き返すことは出来るハズだ。
「……なぁアリシア姫……俺の家族の事だけどよぉ……」
「安心して。アナタの身の安全は必ず保証する。」
「……違う。俺はどうでもいい。俺よりも、他の奴らの方を優先してやっちゃあくれねぇか?」
「……他の生徒を……?」
「……あぁ……他の奴らも、リックスに脅されて仕方なかったんだ………だから………頼む………いや……お願いします………!」
ゲイザーは恥を捨てて土下座した。
「……分かったわ。少し大変だけど、任せて。」
「………ありがとう……ございます………お願いします……!!」
ゲイザーの必死の願いをアリシアは受け入れた。
「お前たちも事情をもう一度確認する。すぐに職員室へ来い。」
ラインハート先生が俺たちの元へ再度現れ、俺たちは事情を説明するために職員室へと足を運んだ。
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数日後、リックスは正式にセント・クラーク王立高等学校を退学となった。
彼の父であるシェーファー子爵も相当に抗議したそうだが、結果として受け入れられずに退学処分となったようだ。
リックスの被害に遭った生徒らの家族らの安全を保証する、という名目でヴァレンティアでは警備がしばらく強化された。
それと、シェーファー子爵までもが今回の件に深く関わっていたということで、子爵の座を剥奪された。
シェーファー子爵自身も自分のコネであらゆる人らを囲い、優遇していたというわけだ。
そして、裏では闇ギルドとの関連性も疑われた。
しかしながら、シェーファー子爵が失脚すると踏んだ闇ギルドは早々にシェーファー子爵と縁を切ったのか、捜査隊がやってきた頃にはもぬけの殻となってしまっていたようだった。
すぐさま闇ギルドらを追跡し、すでに全員捕らえた。
……というのが騎士団の発表だ。
ただ、事実は多少異なる。
俺は早々にAxelにリンクし、闇ギルドの逃げ先を突き止めて全員捕縛した。
どうやって居場所を突き止めたのかと言うと、ステラのおかげ。
ステラは俺を見つけた時もニオイで見つけたと言っていた。
その鋭い嗅覚にて、闇ギルドの連中の逃げ先を追跡し、捕獲したってわけ。
闇ギルド、と聞いてもっとヤバそうな奴らを予想してたが、なんてことは無い単なるゴロツキだったので肩透かしを食らった。
聞けば、基本的にシェーファー子爵の命令で窃盗やら恐喝、脅迫を行っていただけに過ぎないようだ。
ま、余罪に関しては騎士団に任せよう。
このお手柄を俺は騎士団のお手柄として譲った。
何せ、黒衣の騎士がなぜシェーファー子爵の裏にいる闇ギルドを追うのか?なんていう疑問だけで俺にはたどり着かない、とも言いきれないからだ。
高校から1人の退学者が出てしまったものの、俺たちの生活にようやく平穏が訪れようとしていた。




