第47話 雑魚なりの意地
リリーは頭部を抑えているが、その手からは血が流れ出していた。
接触したと思われるもう一方の生徒は右肘を抑え、しきりに「痛え痛え!!」と叫んでのたうち回っている。
「リリー、大丈夫か!!?」
「リリー!!」
皆が駆け寄ろうとしたその時だ。
皆の背後から4クラスの奴らが俺のも含めて襷を一斉に抜き取ってしまった。
「……お、おい!!それどころじゃ無ぇだろうが!!」
「……はぁ?まだゲーム中なのに気ぃ抜いてるお前らが悪いんだろ!」
「……なんだと……!!」
すぐさま教員が一時中断を宣言したが、その時にはすでに1クラスのほとんどが襷を奪われた後だった。
これがアイツらの策ってわけか。
クラスメイトがケガして血を流しているのを目撃すれば、誰だって心配するしゲームどころじゃ無くなる。
一時中断が宣言されるより早くにその隙を狙って俺たちの襷を奪う寸法ってことか。
ここまで一連の流れは完璧と言わざるを得ない。
俺もリリーに駆け寄り、傷の具合を確認する。
リリーの額には肘が直撃したらしく、裂傷により血が流れていた。
「……ご……ごめん………みんな…………」
「そんなことはどうでもいいわ!そんなことより早く治療を!!」
相当痛いはずだ。
なのにリリーは涙をこらえて皆に謝罪した。
その間も肘鉄を食らわせた方は「痛え痛え」としきりに叫んでいる。
痛がる生徒の向こうには、ニヤリと笑うリックスがいた。
「……あのクズ……!!」
俺は目を血走らせて立ち上がろうとしたが、それを察したのかアリシアが止めた。
「ハル、抑えて。」
「……けど……!!」
「どの道、リックスの指示だという確固たる証拠はないわ。このまま暴力を振るえば、立場が悪くなるのはこちら側だけよ。」
「……………………」
クソッ!!
あのクズ、俺を狙うんじゃなくリリーを狙うとは……
ましてや、リリーは女の子だ。
そんな女の子の顔に傷を付けるのも厭わない。
ゆるせない。
俺の中で黒いものが込み上げる。
でも、アリシアの言うように、何も証拠は無い。
リリーが医務室へと運ばれ、一時中断されていたゲームが再開される。
しかしながら、すでに襷を奪われた者らは退場となってしまった。
リリーのケガに気を取られた俺たちはまんまと襷を奪われ、残っていたのはアーサーただ一人となっていた。
アーサーは善戦したものの、多勢に無勢。
やがて囲まれ、襷を奪われてしまい、俺たち1クラスは敗退となってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして白兵戦が終了した。
結果、1位は3クラス。俺たちは最下位となった。
その結果、総合点で俺たちは3クラスに逆転され、逆に2ポイントのリードを取られてしまった。
「……あの野郎……絶対わざとだろ……!!」
「我々はここからでしたのであまりよく見えてはおりませんでしたが……皆の反応から察するに、故意に怪我をさせたようですな。」
「絶対わざとだ。証拠なんてないけどさ……」
「証拠なんざカンケー無ぇ。俺がアイツらをボコボコにしてやりゃあいいだけだ。」
アーサーは俺たちの会話に割り込んできたと思いきや、目を血走らせて3クラスへと今にも殴りかかろうとしていた。
「止めてアーサー。アナタが行くと余計にややこしいわ。」
「……あぁ!!?テメェらやられっぱなしで悔しく無ぇのかよ!!」
「私だって悔しいわ。でも、暴力では何も解決しない。」
「アリシアの言う通りだアーサー。少しは頭を冷やしてくれ。」
「………クソッ!!!!」
アリシアとリュゼに諭されたアーサーは椅子を蹴り飛ばして八つ当たりした。
「……みんな……ごめんね………あたしのせいで………」
声がして振り返ると、頭に包帯を巻いたリリーが先生に連れられて申し訳無さそうな表情をして戻ってきた。
「リリー!!」
「大丈夫なの!?ケガは!!?」
「う、うん……治療してもらったから大丈夫……痕も残らないって……」
「……良かった…………」
「……ただ、完全に治りきった訳じゃないから、しばらく安静にしてろって………」
「任せてリリー!ウチらがあいつらぶっちぎってやるからさ!」
「そうそう!安心して休んでてよ!」
リリーは何とか笑顔を取り繕っていたけど、責任感の強い彼女のことだ。
きっと自分のことを責めてしまう。
だからこそ、絶対に勝たないといけない。
「……ハル、念の為に言っておくわ。」
「……な、なにを……?」
アリシアは俺の耳元で囁きかけた。
女神様の吐息が耳に当たる!!
これが新手のご褒美ってやつか!!!!
………って、そんな場合じゃねえだろ!!
気を取り直してアリシアの囁きに耳を傾ける。
今回のリリーのケガ。
アリシアは、悲鳴と打撃音のタイミングについて話した。
俺もよく覚えている。
リリーの悲鳴の後にゴツッと打撃音がしたことを。
通常、こういうケガの場合は生徒同士が接触したタイミングで肘が顔に当たって転倒する。
もしこの順序なら、悲鳴があがるよりも前に打撃音がするものだ。
しかし、今回は悲鳴が先だ。
ここから推測できるのは、接触したタイミングでリリーが悲鳴をあげて転倒した。
その後に肘鉄が顔面に直撃した。
こういう順序になる。
以上より、今回のリリーのケガは明らかに向こうが故意に起こしたものだ。
他クラスとはいえ女子生徒にケガをさせたとあっては自分たちの沽券に関わるということで、接触してきた側も痛がる演技でもしているのだろう。
「……分かっていると思うけど、アーサーには内緒よ。アイツが知ったら本当に暴力で訴えるわ。」
「……そうだな。」
そうして最後の種目、リレーが始まった。
このリレーは基本的には全クラスメイト参加型なのだが、今年は俺たち転生組のせいで1クラスだけ15名と少ない。
なので、この種目は1〜6クラスまで各15名での参加となる。
が、リリーは先のケガにより不参加。
なので、誰かが1人、2回走る事となった。
「順当に考えればヴィオラさんが適任だね。」
「だよね〜。一応【走者】だし。みんなの意見は?」
「俺にやらせろ。アイツらぶっ潰してやる。」
とアーサーは息巻いた。
『ぶっ潰す』って言葉だけで済まなそうな表情をしてるけど。
「アーサー、しつこい様だけど暴力で解決なんて……」
「そんくらい分かってる!!ただテメェらに任せててもヌルすぎんだよ!!」
「いい加減にしてアーサー。」
「………あぁ………!?……アリシア……テメェ俺に文句でもあるってのか!!?」
「大アリよ。」
「……何だと……!!」
「第1、このクラス対抗祭はこのクラスが一丸となって戦うべき競技よ。にも関わらず、アナタは周りが不甲斐ないだのなんだのと責めるだけ。みんな一生懸命にやっているのに、アナタはそんなみんなの頑張りを踏みにじっているのよ。」
「一生懸命頑張ってるから何だってんだ!?一生懸命やってるから許して欲しいってのは弱者の言い訳だろうが!!」
「人にはね、向き不向きというものがあるの。逆に聞くわ。私がアナタのテストの点数について、何か責めるような事をしたかしら?」
「………テストとこれとは……」
「一緒よ。今回の競技は目に見えて勝ち負けとして評価されるけど、テストだって同じ。アナタの理論でいけば、私より点の低い生徒は落伍者だって決めつけているようなものよ。」
「………………」
「アナタは他人を足手まといだって決めつける。その人がどれだけ頑張っているかも考えもしない。」
………足手まとい、か……
ピースさんも言ってたな。
『足手まといの自分をどうして助けるのか?』って。
「私はある人から大切なことを学んだわ。いつも弱者のために身を削っている人に。」
…………………
「その人はね、こう言ったのよ。『楽しく生きたいから。』って。それは、自分だけが楽しいんじゃない。誰かが損な役回りをするんじゃなく、皆にも楽しく生きて欲しいって。」
…………………………
「でも、世の中そう甘くは無いわ。特にこんな世界だと余計に。でも、だからこそ私は思う。楽な道を選ぶより、険しい道を歩まなければならないって。自分だけが楽しく生きるのは楽なことよ。他人にも楽しく生きてもらおうとするのは、とてもとても険しい道よ。」
………………………………
「……私も、それからは険しい道を歩もうって決めたわ。」
「…………じゃあアリシア、誰なら逆転できるっつうんだ?ヴィオラか?」
「……ハルよ。」
「んえぇ!!?お、俺!!?」
急に飛び火しますやん。
完っ全に油断しとりましたわ。
「…………アリシア、そりゃあテメェが考え抜いた上での判断っつうことか?」
「勿論よ。」
「………………」
アリシアに指名された俺のことをアーサーは無言で睨んできた。
……俺、何も聞かされてないしさ……そんな睨むなよ………
「でも、私の一存では決められないわ。」
「……今から多数決でも取ろうってのか!?」
「それならリリアンに決めてもらうのはどうかな?」
「……え……あ、あたしが?」
「うん。別にそれで負けたってキミを責めない。アーサーにもだ。というか、キミだってケガしたくてした訳じゃないだろう。」
「………それなら………あ………あたしは…………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最終種目、リレー。
1人100メートルずつ走るが、アンカーは200メートル走る。
「……おい……」
アーサーが誰かを呼んでる。
「おいテメェ!テメェだよ!」
うん?誰のこと?
「【人形師】!!」
俺かよ!!
ってか人のことをジョブで呼ぶなよ!!
「……何か……?」
「ご指名されたからってチョーシ乗るんじゃねえぞ。」
「べ…別に調子になんて……」
「ハル様ー!!ファイトですわー!!」
応援席からの声にも負けじとステラから声援が飛んでくる。
シエルはどうやら活動限界らしく、すでに帰宅させたようだ。
「……チッ……どいつもこいつも………」
アーサーは俺がチヤホヤされてると思ったのか面白くなさそうだ。
「……まあ、やれるだけやるよ。」
「………アリシアはああ言ってたけどな……足引っ張りやがったら承知しねぇぞ。」
「分かってるって。雑魚にも意地ってもんがあるもんでさ。」
「……………」
アーサーはそれきり黙り込んだ。
そしてスタートラインに着く。
第1走者は俺だ。
というのも、俺は第1走者と第14走者を掛け持つ。
なにせリリーからのご指名だからな。
ちなみにアンカーはアーサーだ。
俺たちのクラスのスタートラインは1番内側だ。
「位置について………」
もう今さら隠しても意味はない。
「よーーい………」
最初から全力で行く。
「スタート!!」
合図と共に地を蹴って体を前へと押し出す。
上体を徐々に起こし、先の100メートル走の如く駆け抜けてゆく。
しかしながら、早速妨害が起こる。
本来のリレーでは一走目はレーンを超えて内側には入ってはいけない。
そういうのは二走目からだ。
にも関わらず、俺の隣の走者は足がレーンを超えてはいないが、腕は明らさまにレーンを超えて振っている。
地球でなら失格だ。
しかもこの走者、遅い。
このままコイツに邪魔され続けるとタイムを大きくロスしてしまう。
俺は上体をグッと下げ、足により一層の力を込める。
そのまま大地を蹴り、体当たりの要領で一時的に加速させる。
そうして相手の腕を掻い潜り、前へと躍り出ることに成功した。
そこからはもう邪魔者はいない。
俺は通常の走り方へと体勢を戻し、グングンと加速させて次の走者に1位でバトンを手渡した。
「ハル、ナイスだ!!」
「……頼んだ……!!」
バトンを2番手のロータスに渡す。
すぐさま2位がバトンを繋ぐ。
……そこまで距離を離せて無かったのか……
にしてもこんな妨害をしてくるとはね。
1位でバトンを貰ったロータスはリードを保ったまま3番手へとバトンを渡す。
ともかく少しでも体を休めなくちゃ……
その後、俺は皆のリレーを観戦する。
しばらく1位をキープしていたが、次第に差を詰められて2位へと転落……そしてそのまま3位だ。
まあ無理もない。
うちのクラスは15人。
今回リリーを除いてその全員が出場だ。
対して他クラスは30人いる中で15人の選出だ。
当然足の速い奴が選ばれる。
ついには5位にまで順位を下げたが、7番手のヴィオラさんが巻き返して3位にまで浮上する。
実際2位も狙えたが、2クラスの連中が走行妨害を行っていた。
9番手はいよいよ我が女神様ことアリシアだ。
アリシアは普段からもトレーニングを怠った事がないと豪語するだけはあり、走力も問題無い。
いや、むしろその美しすぎる髪をなびかせて走るそのお姿は神々しさを放っている。
しかしながら、2位の4クラスが迫り来るアリシアの前へと出て妨害する。
あまりに危険な行為に俺たちのクラスからも野次が飛ぶ。
結局そのまま抜けずに3位でバトンを繋いだが、2位との差はかなり詰まっている。
問題は1位との差だ。
1位は当然3クラス。
1位と俺たちのクラスとの差は20メートルは空いてしまっている。
これ以上差を付けられるとさすがに厳しい。
そうこうしているうちに10番手、11番手とバトンが渡る。
2位の4クラスは明らさまに妨害を継続させていたせいで俺たちは前に出れない。
妨害に専念していたのか速度が落ち、後ろから2クラスが追い上げてきている。
このまま挟まれるとまずい。
いよいよ13番手のジャックへとバトンが渡る。
が、その時だ。
先行していた4クラスのバトンを受け渡した走者が、その後に続いてバトンを受けたジャックの進路を塞ぎ、接触した。
ジャックはなんとか転倒することなく堪えたが、その隙に2クラスが抜き去り4位へと転落した。
明らさますぎる。
「………卑劣ね………」
「ハル氏よ……さすがにこれだけリードされては巻き返しなど……」
「……難しいな……でも、俺だけじゃない。アンカーにはアーサーがいるさ。」
「……暴力沙汰になら無ければいいけど。」
「ともかく、やれるだけやるしかない。雑魚なりの意地ってやつ、見せてやらないと。」
俺はレーンに入り、ジャックを待つ。
1位の3クラスがバトンを受け取って走り去ってゆく。
去り際にこちらを見てニヤリと歯を見せた。
2位に4クラス、そして3位に2クラス。
その差は僅差だった。
少し離れて1クラス。
「……す……すまない………!……あとは………!」
「大丈夫!!」
ジャックからバトンを受け取った直後、俺はグッと上体を下げて加速させた。
一走目に行った瞬間的な加速。
それにより2、3位とグングンと近づく。
両クラスは俺が背後から距離を詰めていることに気づき、すぐさまライン妨害を行う。
んなもん関係無い!!
俺はルートをわざと外して大外から抜きにかかる。
すると前にいる両クラスともわざわざ大外へと進路妨害を行う。
その一瞬の隙に切り返し、コースの内側へと入り込んだ。
2クラスの奴はそれに反応できなかったが、4クラスの奴は焦りながらも対応した。
しかし、もう後の祭りだ。
内側へと入り込んだ俺はグングン加速させて2人を離す。
その時だ。
2クラスの奴が躓いて転倒し、倒れ込み際に俺の足を掴んできた。
咄嗟に足を引っ込めてそれを躱そうとしたが、そいつの指が俺の靴の踵部分に引っかかる。
まずい!!
引っかかった指により靴がスポーンと脱げた。
それにより俺は体勢が崩れ、前のめりで倒れてしまう。
咄嗟に受け身を取り、前転して再度立ち上がる。
何とか耐えたか?
……いや、今はいい。
1位は50メートル先。
これ以上差を開ける訳にはいかない。
何より、散々俺たちを妨害したこいつらをようやく抜き去った。
俺は靴が片方脱げたのもお構い無しに加速させてゆく。
……40メートル……
………30メートル………
しかしながらそこで3クラスはアンカーへとバトンを繋いだ。
俺も最後の力を振り絞って走り抜け、バトンをアーサーへと手渡した。
「………た………頼む…………!!」
「………あぁ………!」
アーサーへとバトンを手渡した俺はコースの内側へと入り、そのまま仰向けに倒れてしまった。
膝が痛ぇ。
背中も。
脹脛も太ももも悲鳴をあげてる。
「……ハハ、ハル!!だだ、だ、大丈夫!!?」
「………な……なんとか…………」
呼吸を整えながら体を起こすと、膝は転倒した際に擦りむいたのか血が流れている。
レースを見ると、アーサーはグングンと速度を上げて、3クラスとの差を縮めてゆく。
当初あった30メートルの差は縮まり、今では10メートル程の差まで縮まっていた。
3クラスの奴は後ろから追い上げてくるアーサーをチラチラと確認しては焦った表情をしている。
100メートルが過ぎたころには両者の差は3メートル。
早速3クラスの奴は前に出られないようルートを塞ぐ。
………が、相手はアーサーだ。
アーサーは走行ルートを塞がれたのもお構い無しに突進する。
「邪魔だ!!」
アーサーがそう叫ぶと、そのままルートを変更することなく速度を保つ。
アーサーの気迫に負けたのか、3クラスの奴はビビって内側へと逃げ、アーサーの走行ルートが空いた。
アーサーは残った体力でさらに加速させる。
残り30メートル。
最後の直線、ついに両者が並んだ。
アーサーは最後の力を振り絞る。
3クラスの奴も同じく力を振り絞って走り続ける。
そして、ついにアーサーが前へと出た。
そのままアーサーは速度を保ち、1位でゴールテープを切った。
観客はワッと沸き立つ。
………さすがアーサー。
やっぱお前、天才だよ。
俺は小細工で抜いただけだけど、お前は力でねじ伏せた。
安堵した俺は疲れた体を横たえ、しばらく空を眺めていた。
その時、誰かが俺の元へと歩み寄る。
「……おい。」
「………んえ……?」
頭だけ擡げて声の主を確認すると、そこには息を荒らげたアーサーがいた。
「……雑魚なりによくやったじゃねぇか。」
「………ハハ………まぁ……なんとか勝てて良かったよ………」
「………………」
「………………」
両者の間にしばらくの沈黙が続いたが、突如にアーサーがニヤリと笑った。
「……立てんのか?」
「……まあ……ただ、もうちょっと休憩させて……」
「……立てよ。」
アーサーは何を思ったのか俺に手を差し出した。
疑問に思いながらもアーサーの手を掴む。
するとグイッと力任せに俺を引き上げ、そのまま自分の肩へと腕を回して俺を支えて歩いた。
「……テメェは前世の頃はすぐ諦める雑魚だと思ってたぜ。」
「……そ……それを言われると……」
「……雑魚の意地とやら、とくと見せてもらったぜ。」
「……あのままやられっぱなしってのは俺も癪だったしなぁ……にしても、アーサーも最後の進路妨害。無理やり退かせるなんてさすがだよ。」
「ああいう連中はな、最後の最後で保身に走るもんだ。」
「てっきり暴力沙汰になるんじゃないかって……」
「あぁん?んな事したら全部パァになるだろうが。」
「ハハハ。」
アーサーとこうやって話した事なんて初めてだ。
コイツはいつも、自分より能力の低い連中を道端の石程度にしか見ていないと思っていたから。
……いや、実際そうだった。
その考えがいきなり変わった訳じゃないとは思う。
でも、何かしら変わろうというキッカケにはなったのかもしれない。
「………悪かったな。」
「…………え?」
突如アーサーが謝った。
「テメェのジョブを見下して笑ったりしてよ。」
「………あぁ………そのことか。」
「……そのことしか無ぇだろ。」
「何とも思ってない……って言ったら嘘になるけどさ……ってかアーサーが謝るなんて思ってもみなかったけど。」
「……うるせぇ!!」
アーサーに連れられた俺はクラスのテントへと戻ると、クラスメイトから拍手で出迎えられた。
「すごいすごい!!2人ともカッコよかった!!」
「さすがだミスターアルフィードにミスタードラグルス!!」
「……うんうん……!……若返ったのに……歳のせいか感動したよ……!」
皆から賛辞を贈られて気恥しさを覚えたが、それはどうやらアーサーも同じのようだ。
俺はそのまま椅子へと腰掛け、すぐさまケガを治療してもらった。
「アーサー、見直したわ。」
アリシアがアーサーを褒めているのが聞こえた。
「……あぁ?」
「アナタがハルを支えて来るなんてね。」
「………言っとくが、俺は馴れ合いなんざゴメンだ。ただ、コイツには借りがあったってだけだ。」
「………そう言うところ、アナタらしいわね。」
「……ありがとな、アーサー。」
俺はアーサーに礼を言った。
アーサーは慣れていないのか、そのままフイッと振り返って椅子へと腰掛けた。
俺はアーサーが嫌いだった。
前世でアイツが現れてから、才能の壁をまざまざと見せつけられた。
その上、アイツは他人を無能だと見下し、いつも横柄な態度を取っていたからだ。
でも、俺はアイツを天才だと認めている。
そんなアイツに、俺には俺の、雑魚なりの意地ってやつを分かって貰えただけでも、今回のクラス対抗祭での収穫として十分だとも思えた。




