第46話 陣取りと白兵戦
陣取りゲームが始まったものの、1周目、2周目は特に何も無く進んで行った。
予想通りではあるが、基本的に全クラス共に外側を埋めていくが、時折真ん中辺りにフラッグを置いている。
1クラスもその例に漏れずに基本的に端から埋めている。
が、少しばかり他クラスとは違う特徴があった。
2周目が終わって今現在は全クラス共に4つずつ陣を取っている。
ただ、1クラスの陣は端から約3メートルくらい離れた場所に陣が固まってしまっている。
他クラスでも基本的に端を埋めていくが、どのクラスも基本的に自陣をまだ固めて設置してはいない。
3周目が終わった段階で、ステージには36個の陣が点在している。
「……ほほう……なるほど。さすがはアリシア氏とリュゼ氏ですな。」
展開を見ていたアキが呟く。
「……どういうことだよ?」
「おそらくアリシア氏とリュゼ氏は、このゲームを囲碁に見立てているのでしょうな。」
「………囲碁………?」
「左様です。」
ルール上、自陣に被せてもいい陣は1つまで。
そして、被せて設置した陣に新たに陣を被せることが出来ない。
このルールを満たしながらこのゲームを優位に進めるには、なるべく自陣に遠からず近すぎずの距離で陣を設置させ、他クラスに陣を割り込んで設置させないようにする。
陣による囲いを完成させるのだ。
その囲いは陣と陣の距離を1メートル未満の間隔で設置する。
こうすることで、他クラスにその囲いの中には陣を設置する事が出来なくなる。
さらには、1つの自陣になら被せて陣を置くことが出来るというルール上、ゲームの終盤で陣の数を増やすことにも繋がる。
「……というわけですな。」
「……なるほど………それで囲碁に見立ててるって事か。」
囲碁も同じく陣取りゲームって聞いたことがある。
碁石を並べてより多くの陣地を取れば勝ち、って。
勝負が動いたのは4周目の折り返しだった。
6番手の2クラスが2連続で陣を置く。
その際、俺たちのクラスの陣地にフラッグを2回連続で設置した。
仕掛けてきたか。
そう思ったのも束の間、今度は5番手の4クラスまでもが俺たちの陣地の近くへとフラッグを立てた。
さらに4番手の3クラスまでもが、だ。
現在俺たちの順位は総合点で1位。
逆転を狙うなら俺たちを潰したほうが良い。
……と言っても、露骨だな。
ステージ上ではすでに45個の陣が設置されており、手狭になってきている。
そろそろ自陣に被せて陣を設置してもおかしくはない。
明らさまに邪魔をしてきた中、勝てる見込みがあるのか?
しかも、囲碁は確か相手を囲うとその碁石が取れるルールだったはず。
でもこの陣取りではそのルールは無い。
そして5周目。
ステージ上ではもう新たな円を描くスペースも無いように見える。
1番手の6クラスは結局自陣に被せて円を描いた。
そして1クラス。
リリーの【占い師】のジョブが光り、大まかな占い結果から空いている場所を見つけ出す。
その後も他クラスが陣を描くが、ステージにはもう新たな円は描けそうになく、自陣に被らせて陣を描く。
が、先の2クラス、3クラス、4クラスはわざわざ俺たちの陣地の邪魔をするべく円を被せた。
・
・・
・・・
そして結果が発表された。
最下位は2クラスと4クラス。
7周目に時間切れで敗退となったが、わざとらしい。
もしかするとリックスの指示かもしれないな。
俺たちのクラスは見事に1位でフィニッシュした。
さすがは女神様です!!
2位に3クラスとなったが、これで差は8ポイントと大きく差を広げられた。
終盤の手は見事だった。
予め終盤を見越して陣を増やせるように囲いを作っていたのが功を奏した。
3クラスがもう書き込める場所が無くなってしまい1位が確定してからも、うちはまだ余裕で何個かは陣を描ける場所を確保していた。
アリシアのゲームメイクは見事だったが、その陰でリュゼの手腕も光っていた。
他にもリリーは占いにより空き陣地を探すのに一役買っていたし、ヴィオラさんの走る速さで1ターン30秒という持ち時間でもすぐに走って陣を描けた。
見事なチームワークだ。
こちらの策を見抜いたリックスが慌てて妨害をしてきたが、残念ながら手遅れだったようだ。
当たり前だ。
アリシアはボードゲームがクッソ強いんだ。
昔にチェスのレートを聞いた事もあるが、確か2000を超えてるって聞いた。
………まあ、それが高いのかどうかは分からないけど。
それだけじゃない。
オセロでも将棋でも、俺はアリシアに勝てた試しが無い。
いつも良いように手玉に取られてる感が半端なかった。
そういえば、昔アリシアに聞かれた事がある。
『どうすればそんなにゲームが強くなれますか?』って。
その時の俺は、「ゲームが上手くなるのは反復ですよ」と教えた覚えがある。
ただ、何も考えずに反復すれば良いって訳じゃない。
相手が攻撃してくる際の予備動作を見極めたり、コンボを体に染み込ませる。
そういった繰り返しにより、ゲームが上達すると思う。
ただ、テーブルゲームは訳が違う。
確かに戦術を覚えれば強くなれる。
将棋であれば矢倉とか、チェスならイタリアン・ゲームとか。
ただ、ボードゲームはそういう戦術を覚えただけでは強くはなれない。
相手がどのような手を考えているのか。
その上で自分にとって有利な展開をどうすれば作れるか。
繰り返し対戦すれば自分のどこが悪かったのかが分かるようにもなるんだろうけど、どうしても時間がかかる。
それに、人ならではの意外な手も存在する。
俺はアリシアとたくさん対戦して多少は強くなったのかもしれないけど、それでも力の差が圧倒的すぎて自分の進歩をあまり感じられなかった。
そんなボードゲームにおいて圧倒的な強さを誇るアリシアを相手にするのは分が悪すぎるってもんだ。
今回のように他クラスと結託したとて、こちらにはリュゼまでもがいる。
頭脳戦において、この2人が組めば最強すぎる。
そしてお次は今回の目玉種目、白兵戦だ。
この種目の参加者は各クラス10名。
ズボンに襷を挟み、それを取られると退場となる。
ステージは先ほどの陣取りゲームでも使用した20メートル四方のステージで行われる。
ゲーム時間は10分間。
時間内に決着が付かない場合は取得した襷の数で勝敗が決まる。
ジョブの使用は一切禁止。
ステージの外へ出た場合は失格となる。
今回この種目に参加するのは、俺、アーサー、ロータス、リュゼ、ルイスさん、ジャック、アリシア、ヴィオラ、リオさん、リリーの10名だ。
3クラスにはリックスは当然ながら、合同演習時に俺の仕掛けた罠に嵌り、リックスにボコボコにされたゲイザーもいた。
「……分かってると思うけど、ここから3クラスが逆転するには、私たちが最下位かつ3クラスが1位、というのが条件よ。」
アリシアは俺にそっと呟いた。
……本当に美しいお声だ……
……ってそれどころじゃない。
「……本当に大丈夫なのかな……?」
「確実、という訳じゃないけど。やれる事はやったわ。」
「………だな。」
それよりもまずはゲームに集中だ。
リックスの事ばかり気を取られて別の奴らに襷を取られちゃあ元も子も無いし。
ゲーム開始の合図が鳴ると、皆一斉に散開した。
ヴィオラさんはジョブを使わずとも素早い動きで敵チームの中をスルスルと駆け抜けてゆく。
この目的は撹乱だ。
ヴィオラさんに襷を取られまいと気を取られている隙に他のメンバーが襷を引き抜いていく。
いくつか襷を取ることが出来たものの、リックス率いる3クラスはすぐさま対処した。
3クラスはわざとヴィオラさんに駆け抜けさせたが、通り過ぎ際にヴィオラさんの襷を引き抜いた。
「……え〜!もうおしまい!?」
とヴィオラさんは嘆いていたが、仕方なく退場していった。
さすがはリックス。対応が早い。
ヴィオラさんが早く走れば走るほど襷はヒラヒラと舞い上がる。
アイツはヴィオラさんが駆け抜け易いようにわざと間隔を空け、そうとも気付かずに飛び込んできたヴィオラさんの襷を通り過ぎ際に引き抜いたってわけか。
ゲームが進むと脱落者も増え、当初60人いたステージ上もその数は半分以下となっていた。
そしてついに奴らが動いた。
まずは2クラスの連中が固まって俺たちの元へとジリジリと近寄る。
その間に4クラスの連中が俺たちを挟み込むように背後へと回って来た。
まずは正面にいる2クラスの連中が挨拶とばかりに突進してきた。
ヒラリとそれを躱したものの、次々に新手が俺の襷を狙ってくる。
それの対処に集中していると、今度は背後から4クラスの奴らが忍び寄っては襷を狙う。
素早い立ち回りのせいで襷がヒラヒラと舞い上がり、危うく引き抜かれそうになって肝を冷やした。
防御に徹するのは悪手だな。
よく言うじゃないか。
攻撃は最大の防御ってね。
俺はただただ防御に徹していた訳じゃない。
コイツらの連携パターンを分析するために今まで防御に徹していただけだ。
正面から突進してくる奴らは、互いに死角から突進してくるように努めている。
相当に練習した動きだ。
けど、そんなのは自然界に生息する魔物に嫌というほど相手にしてきた。
こういう相手をする場合、対処は容易だ。
なぜなら死角からしか攻撃してこないから。
2クラスの連中は俺の策をも知らずに相変わらず突進を続ける。
俺はそれをヒラリと躱すが、すぐさま死角から二の矢が降り注ぐ。
待ってました!
俺は死角からくる相手をクルリと回転しながら躱しつつ、相手の襷をもぎ取った。
俺のまさかの動きに一瞬足を止めたものの、俺は一転して攻勢にかかる。
大地を蹴って相手の懐へと潜り込み、それに慌てた相手が俺の襷を狙う。
俺は流れのままクルリと相手を躱し、そいつの襷ももぎ取った。
浮き足立った相手にとって、さらに予想外の出来事が舞い込む。
ロータスとリュゼが2クラスの背後へといつの間にか回っており、俺の動きにばかり気を取られていたそいつらの襷をことごとくもぎ取っていった。
「ハル、待たせたな!」
「僕らもいることを忘れてもらっては困るな。」
「2人ともサンキュー!」
形勢は逆転。
2クラスは俺たちの策に嵌ったせいで多数の退場者を出してしまった。
その光景を目の当たりにした4クラスは分が悪いと察したのか、攻撃してくることなく様子を伺っている。
「……こっちはあと何人残ってるんだ?」
「……えーっと……1、2、3………」
「僕らを含めて7人だ。」
さすがはリュゼ。
盤面をしっかりと把握している。
チラリと3クラスのほうを窺うと、あちらはまだまだ人数的に余力を残しているのが見えた。
「3クラスは未だに様子見ってとこか。」
「あいつら、完全に防御に徹してるからな……」
その時だった。
「キャアアア!!」
という悲鳴とともにゴツッという鈍い音が響き渡ると2人の生徒が倒れ込んでおり、よく見るとその内の1人はリリーであり、頭から血を流して倒れていた。




