第45話 簡易建設と演劇
「テメェらがショボい点しか取らねぇから負けたじゃねぇか!!」
「……す、すまない……」
アーサーらがテントに戻ってきたが、戻るなりロータスとリュゼに声を荒らげた。
「こちとら満点だってのによぉ!!おいリュゼ!テメェも何か言ったらどうだ!!」
「すまない。露骨に高得点を狙うクラスが現れるとは思っていたが、あれほど徹底されていたとは僕も驚いている。」
「……テメェ、明らかに手ぇ抜いてやがっただろうが……!!」
「そんなことはない。単なる僕の実力不足だよ。」
「……チッ……クソが……!!」
アーサーはまだ発散し足りなさそうだが、これ以上責めたとて意味は無いと察したのか、それきり口を噤んだ。
……実力不足……ねぇ。
悔しいけど俺もアーサーと同意見だ。
リュゼはああ言っているものの、本当ならもっと上手く立ち回れた気がする。
あれほど頭の回転が早いやつだ。
それに実際の立ち回りを見たが、まだまだ余裕そうな雰囲気はあった。
頭の風船を割るだけじゃなく、腕や胸、背中の風船を割ることだってリュゼなら出来たように見える。
まあ、追求しても仕方ないか。
テント内の雰囲気はやや悪くなったものの、午前の部は残すところ『簡易建設』のみ。
この種目に参加するのはアキ、トーヤ、ルイスさん、マディ、それとリリーだ。
『簡易建設』というのは、その名の通り実際に建物を建てる種目だ。
デザイン性・利便性・耐久性・容易性・廉価性という5つの項目にてそれぞれ5点満点にて採点を行う。
今回の簡易建設のテーマは『橋』だ。
アキはこの種目のために予てより設計図を書き起こし、他の4人にも見せていた。
俺も見せてもらったが、正直、こんな橋だと直ぐに崩れるのでは、という印象で、ルイスさん以外の他の3人も皆同じ意見だったという。
しかも驚いたことに、この橋は釘を必要としないという。
意味がわからなかった。
5人は早速アキの設計図を元に木材を組んでいく。
木材を2本並行に並べ、その真ん中に木材を並べる。
上から見ると『H』の形だ。
そのHの上と下に木材を潜らせ、今度は『日』の形となる。
『日』の上部分を持ち上げ、下から2本の木材を差し込み、下部分も同様にしてハシゴのような形となった。
あとはこれの繰り返しだ。
そうしていくとアーチが出来上がって完成した。
……え、マジでこれで完成……?
他クラスよりも圧倒的に早く終わってるし。
他のクラスのを見ると、要所にしっかりと釘を打ち込み、橋の中央部分が重みで沈んで壊れないように橋脚により支えられる構造を取っている。
他のクラスの奴らは俺たちのクラスの橋を見て失笑が起こってる。
……マジで大丈夫なのかよ、アキ……
そうして終了の合図が鳴り、審査員らがそれぞれの作った橋を見て採点し、実際に渡ってみたりもしている。
中には途中で折れてしまった橋もいくつかあった。
そうして俺たちのクラスの橋の採点が始まる。
審査員らは如何にも「こんなものすぐに崩れてしまうだろ」って表情だ。
釘も使わず、橋脚も無い。
ただ、実際に審査員が橋を渡った時だった。
アーチを描いた橋がややしなったが、橋は全くもって崩れる様子が無い。
組まれた木材が外れる事もなく、審査員は無事に橋を渡りきる事に成功した。
……え……ななな、なんで!!?
他のクラスの連中も、ウチのクラスメイトらも皆驚きが隠せない。
そんな中、採点が行われた。
結果として、うちのクラスはデザイン性3点、利便性4点、耐久性4点、容易性5点、廉価性5点の21点により、1年生の中でトップの成績となった。
その後も審査員らはアキらが作成した橋をまじまじと見つめ、なぜ釘も使わずに橋として成り立っているのかを議論していた。
アキは誇らしげな表情で戻ってきたが、他の3人もまだ「なんであんな橋が崩れないのか」が理解出来ていない様子だった。
「あれが釘を必要としないのは摩擦力で支えられる形状となっているからですな。」
「……摩擦力って……」
「テイラー君の言う通りだよ。」
ルイスさんがアキに代わって説明する。
「みんなも名前くらいは知っているだろう?レオナルド・ダ・ヴィンチって名前を。」
そりゃあ当然知ってる。
モナ・リザで有名な画家だ。
でもそんな人と何の関係が?
「あの橋は『ダ・ヴィンチの橋』と言われていてね。橋の各部位が互いに支え合い、摩擦力により支えられている構造なんだよ。」
「その通りですな。さすがはルイス氏です。荷重を橋脚で支えるよりも、分散させれば良いのです。」
「……ってか……ダ・ヴィンチって画家の人なんじゃ……」
「ダ・ヴィンチは画家でありながら、建築・解剖・軍事など、あらゆる分野であらゆる発明をした人なんだよ。一説によると、自転車が作られるよりも300年も前にその設計図がスケッチとして残ってるってくらいだからね。」
……マジかよ……
天才すぎるだろダ・ヴィンチ……
その上こんな簡単な橋の設計まで行ったってどんな頭してんだ。
「にしても、最初テイラー君がダ・ヴィンチの橋の設計図を持ってきた時はさすがだと思ったよ!」
「さすがは元・科学の先生ですな。昔ダ・ヴィンチ氏の橋を見た時はたまげたものでした。」
「ハハハ。僕も同じだったなぁ。」
「……あたしら……ほとんど何もしてない……」
盛り上がる2人を他所に、トーヤ、マディ、リリーの3人は消化不良の様子だった。
余談だけど、このダ・ヴィンチの橋はとても評価され、簡易的な橋の建設にはこの橋を作るほどにまで拡充されていったほどだ。
それほどまでに、シンプルでありながらも耐久性に優れ、誰でも簡単に作れると評価されたんだろう。
これにて午前の部は終了となり、中間結果では1クラスは1位。
2位に3クラスとなっていた。
といっても2位とは5ポイントしか離れておらず、まだまだ気を抜くことは出来ない。
昼休憩が終わると演劇が始まった。
この演劇は戦闘職でも生産職でもないジョブ持ちが参加する。
ウチのクラスからはサイラスとマディ、それとフェンだ。
マディの【植物学士】にて即興で植物が生え、サイラスが隣で【音楽奏者】にて演奏をし、フェンが【調教師】で飼い慣らした小型の魔物と共にダンスをする。
初めてマディとフェンのジョブを目にしたが、2人のジョブは汎用性が高いと思った。
マディの【植物学士】は植物がすぐに成長するだけじゃなく、その形状まで自在に組み込めるようであり、盆栽でしか見たことの無い角度で枝が成長している。
今の季節は秋なのにも関わらず、季節に関係の無い花が咲き乱れ、根元にも色とりどりの花が咲いていた。
その周りをフェンの【調教師】にて飼い慣らした魔物が踊る。
フェンが飼い慣らしていたのはファングラビットだった。
コイツは肉食で獰猛な魔物なのにフェンのジョブにより普通のウサギのようにしか見えない。
あの凶暴さを知っている者からすれば有り得ない光景だ。
そしてサイラスの演奏。
これはお見事という他なかった。
サイラスはマディとフェンと連携し、木の成長に合わせて音楽を奏でる。
日本でも聞いたことのある『ボレロ』という曲だ。
最初にフルートとドラムの音が流れ、徐々にクラリネットやファゴットといった楽器が追加され、単純なボレロの曲調に力強さが増していく。
ボレロの冒頭を聞いていた聴衆は『こんな程度か?』と思わせておいてから、力強さを増していくボレロに次第に飲まれていった。
ボレロに合わせるようにフェンのジョブにより鳥たちも集まり、フェンの合図で鳴き声をあげる。
………すげぇ………
汗を流して懸命にタクトを振るう姿はまさにオーケストラの指揮者そのものだった。
音楽が終盤になり、最後に大太鼓とシンバルが追加された時には聴衆は釘付けだった。
曲が終わった瞬間、思わず立ち上がって拍手した。
皆も同じく、サイラスたちは盛大にスタンディングオベーションを受けていた。
サイラスたちは汗だらけになりながらも声援にお辞儀をし、テントに戻ってきたサイラスたちを皆拍手で出迎えた。
しかしながらサイラスは消費した魔力が相当に多かったらしく、そのまま倒れるように椅子へと腰掛けた。
「……いや〜………格好がつかなくて申し訳ないねぇ、ミスオリエンス、ミスメリディエス……少々疲れたよ。」
「ううん!!そんなことないない!!すんごい楽しかった!!」
「……う、うん……!……あんなにもたくさんの人から褒められるなんて……サイラスくんのおかげだよ……!」
「レディにそう言われて光栄だねぇ……しかしながら、少々休ませてもらうとするよ……」
サイラスは汗を拭いて水を飲み、少しの間目を瞑って体を休めていた。
偉いもんだよ、サイラス。
さすがに魔力枯渇まではいかなかったんだろうけど、それでも相当に体に負担があっただろう。
それでも懸命にタクトを振るうお前はめちゃくちゃカッコ良かったし、聴衆の前で倒れるのも我慢したんだもんな。
全クラスの演劇が終了し、すぐさま採点が行われた。
結果は2位。
1位でもおかしくなかったが、これは5クラスの演劇がサイラスたちをも上回っていた。
10分間の演劇でもしっかりと構成が練られ、参加者が20人もいながらもクラスが一丸となって取り組んだのがよく分かる演劇だった。
特にボレロは日本であれば聞き馴染みも多いが、この世界の住民からすれば初めて聞いた音楽だ。
5クラスの演劇はこの世界でなら誰もが知る昔に実際にあった戦争の一コマだ。
戦争で傷ついた仲間のために孤軍奮闘する兵士の姿を描いている。
今回初めてこの演劇を見たけど、気付くと目からは涙が溢れていた。
そして続いての種目は『陣取り』だ。
この『陣取り』は全クラス合同で行われる。
20メートル四方に区切られたスペースの陣を取り合うゲームらしい。
各クラス1人ずつ順番にステージに上がり、自由にステージ上で自陣フラッグを立てる。
その際、フラッグは直径1メートルの円を描けるようにコンパスのようになっており、それが自陣となり、1ポイント加点される。
この円が他クラスの陣と被らないように引かないと自陣とは認められないが、自陣と被る場合は1つまでなら認められ、その場合でも自陣を1がプラスされる。
ただしその際、新たに置くフラッグは、既にある自陣より外側に置かないといけない。
それと、被らせた陣に新たに陣を被らせることは出来ない。
数珠繋ぎみたいに陣を増やしていくのは出来ないってことだ。
順番は公平に1→2→3→4→5→6となり、その後は6→5→4……のように折り返す。
勝敗はより多くの陣を取れたクラスの勝利。
以上がこのゲームのルールだ。
こう聞くと簡単そうに見えるが、このゲームはやってみると案外難しそうだ。
なるべく最初から自陣に被って陣地を増やさないほうが得策だろう。
そういうのは終盤、どうにか陣地を増やせないかという最終手段として取っておくものだ。
20メートル四方に直径1メートルの正円をぎっしり敷き詰めるなら、理論値では400個の円が描ける。
けど実際にはそれよりもっと少ない円しか描けない。
他クラスに円を描かせないよう、ステージの端ぎりぎりに円を描くよりも、中途半端に空けて描く。
あとは潰しだ。
被り陣地を描けないように潰していく。
このゲームはおそらく、如何に自陣を増やすかというよりも、如何に他クラスの陣地を増やさせないか、だと思う。
この陣取りは、1クラスからはアリシア、リュゼ、リリー、そしてヴィオラさんが参加した。
アリシアとリュゼがいるならばこういうゲームは鬼に金棒だろう。
他クラスの参加者を見渡してみると、3クラスにはリックスがおり、いつものように貼り付けたような笑顔を見せていた。
そして、陣取りゲームが開始された。




