第44話 綱引きと演舞
「すげぇよハル!!1位だなんてよう!!さすがだぜ!!」
「……やりますね……さすがに1位は無いと思っていたのですが……」
「ハル君陸上部に来なって!ウチが推薦するからさ!」
「……い……いや………マ、マグレですよ……」
「マグレとかそんな謙遜いいって!さっきのレース、陸上部の奴もいたってのにさ!」
マジですか。
1クラスのテントでも俺が大金星を上げたということで湧いている。
ただ、アリシアはため息を付いている。
すんません。
集中しすぎて周りが見えなくなっちゃって……
その後、第2、第3とレースが行われた。
結果として、1位、3位、3位、1位という結果であり、総合点で1クラスは1位となった。
「凄いよハル!陸上部の人もいたのに1位だなんて!」
「練習してたの!?ハル君めちゃくちゃ早かったよ!」
「さすがミスターアルフィード!!彼の勇姿も立派だが、他の3名の健闘も讃えようではないか!!」
テント内はとても賑やかだった。
「……ハル。アナタそんなに足が早かったのね。」
「ひえっ!!す、すません!!」
「責めてるわけじゃないわ。もしかすると、これが最善なのかもしれないし。」
「ハル氏は集中しすぎると周りが見えなくなるタイプですからな。」
「ぼぼ、僕もそう言われるけど……ハルよりはマシだよね。」
トーヤ、フォローする気あるのかそれ?
「それよりも、ハルは次の競技にも出場するんでしょ?」
あ、そうだった!
次は綱引きか!
まあ、綱引きならやらかす心配も無いな!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
綱引きは1、2、3年生合同で行われ、トーナメント方式により順位が決まる。
2、3年生の生徒らとの交流は無いが、3年生の1人とは面識があった。
「やあ、アルフィード君。同じチームとして頑張ろう!」
「オーガスタ先輩、宜しくです。」
「さっきのレース、見てたよ。凄いじゃないか!」
「いやぁ…ハハハ……」
この人はケンリー・オーガスタ。
入学初日の学食にて会話した上級生だ。
部活の勧誘でもしてくるのかと思いきや、あれから勧誘らしき事は受けていない。
俺たち1年生は綱の真ん中付近へと配置され、上級生になるに従って端の方へと配置される。
綱の先端は体格のいい上級生で、こちらのチームでは見るからに体格のいい……というより、太っちょな先輩だ。
相撲部とかあるのならその関係者だと思うほど。
先端にああいう体格のいい人は必要だろう。
綱引きというのは、決して力比べだけという訳ではない。
引くタイミングを合わせ、団結する必要がある。
俺は綱の左側へと立ち、両手で綱を握る。
この感じ、久しぶりだな。
笛の合図とともに一斉に綱が引かれ、「オーエス」という掛け声のもとタイミングを合わせて綱を引いた。
1回戦はそのまま勝利となった。
そうして決勝戦。
相手は見るからに筋骨隆々の男が3人ほど最後方で鎮座している。
つぅかあれ、本当に18歳?
決勝戦は当初はいい勝負をしていたものの、ズルズルと力負けし、最後には完全に綱を持っていかれてしまった。
……さすがに体格差がありすぎたな……
その後は演舞だ。
これはアーサー、ロータス、そしてリュゼが出場した。
体の各所に紙で出来た風船を取り付ける。
割った箇所によって得点が決まる。
背中が100点、頭は50点。胸は30点。腕は10点だ。
頭の風船が割られるか、戦闘継続不可と判断されれば即終了だ。
一対一で行われ、総得点で順位が決まる。
なんなら、俺もこれに出たかったけどな。
先方はロータス。
ロータスの相手は双剣使いであるようで、両手に木剣を構えている。
ロータスが間合いに入られないように牽制し、相手もジリジリと機会を伺う。
意を決した相手が間合いを詰めてきたものの、ロータスはそれらを的確に捌く。
上手い。
相手の実力も中々のものだが、間合いの中に入られたとしてもロータスは決して焦ることなく柔軟に対処した。
逆に柄の部分で相手の腕に付いていた風船を叩き割る事にも成功し、テント内でも歓声が湧く。
相手は痛みで間合いを取ろうと下がったが、ロータスはそのスキを見逃さずに追撃する。
ロータスの槍が相手の顔面に迫り、相手は咄嗟に双剣で防ぐ。
が、それはフェイント。
ロータスは槍を引き戻し、直ぐさま胸の風船を突いて割った。
相手は槍を直撃し、そのまま呻いて跪き、戦闘不能となってロータスの勝利となった。
「ロータス氏、お見事ですな。」
「すす、凄い!!ロータス君、ここ、こんなに強くなってるなんて!!」
それは同意だ。
少し前のファングラビット相手に二の足を踏んでいたあの頃とは違うようだ。
次鋒はリュゼ。
リュゼは木剣、相手は槍だ。
そういや、リュゼの剣術は見た事がないな。
前世で剣道をやっていたって聞いた気もするけど、その実力は分からない。
開始の合図と共に両者が睨み合う。
リュゼの構え方は剣道のそれと同じだ。
俺も、剣の構え方について師匠に習った。
構えは基本的には上段・中段・下段・八相・脇構えとある。
上段は剣を振りかぶったままの姿勢をキープし、チャンスとあらばそのまま振り下ろす。
一撃必殺の技だ。
しかしながら、一撃必殺であるが故に、外した時のスキもデカイ。
もう1つは中段。
攻防一体の型だ。
戦闘中に発生する様々な状況の変化に柔軟に対応でき、前世の剣道でも基本的にはこの型が選ばれる。
そして下段。
下段は上段よりも使い勝手が悪いとされている。
『カウンターを狙うための型』と言われることもあるが、剣が完全に相手を向いていないのと、腕を下げていることでカウンター攻撃の出が遅くなる。
足への攻撃への対処や、逆袈裟斬りを狙うならいい、というくらいだ。
八相とは剣を顔の横に立てる構え方で、時代劇でもよく見かける構えだ。
この構え方は他の構えに比べて疲れづらく、余計な体力を消耗する心配が無い。
さらには相手の攻撃を見やすく、動きやすい利点がある。
脇構えは剣を自分の後方に下げ、自分の体で刀身を隠す構え方だ。
剣を下げた分、左半身が無防備となる。
この構えの最大のメリットは、相手に刀身の長さを見せないこと、だ。
ただ、この構えのメリットは他にもある。
ジリジリと睨み合っていた両者だったが、不意にリュゼが中段の構えを止め、脇構えへと移行した。
相手はその構えの意味についてよく分かっていないようで、訝しみつつも警戒した。
リュゼらは互いに睨み合いながら円を描くようにジリジリと移動する。
ただ、相手はリュゼの意図に気付いていないようだ。
リュゼは円を描くように動きながら、少しずつ間合いを詰めていたのだ。
そうしてリュゼの間合いに入ったところでリュゼが仕掛ける。
右足を踏み込みながら剣を槍に向かって叩きつけ、相手の槍先が地面に突き刺さる。
そのまま槍を足で押さえて槍の自由を奪い、その流れのままに相手の頭に剣戟を浴びせた。
相手は防御する事も叶わず、モロにリュゼの剣戟を受けて風船が割れたが、剣戟は風船を割っただけで寸止めされていた。
「そこまで!!勝負あり!!」
審判が号令を掛けてリュゼの勝利が確定した。
脇構えのもう1つのメリットは、間合いを悟らせないことだ。
剣での戦闘をした事がある者ならば誰しもが通る道だが、間合いを測る際に剣の長さで測る者がいる。
当然俺も師匠に指摘された。
「相手との距離を剣の長さで測るのでは無く、目と目の距離で測れ」と。
最初のうちはこれがどういう意味か全く分からなかった。
そこで師匠は脇構えを取り、実践してみせた。
すると、思っていた以上に間合いを詰められていることに気付いた。
……まあ、そこからはスパルタで特訓された訳だけど。
この特訓があってから、俺は間合いを剣の長さで測らないようになれた。
今回リュゼの相手は、まさにこの『剣の長さで間合いを測っていた』んだろう。
それが故に、リュゼがすでに必殺の間合いに入っている事に気付けなかった。
テントではリュゼの勝利に沸き立っていたが、他クラスの女子までもが頭への攻撃を寸止めしたリュゼの紳士ぶりに色めき立っていた。
そして、最後は大将戦、アーサーだ。
といっても、この大将戦は相手が気の毒にすら感じた。
アーサーは性格こそアレだが、戦闘に関しては天賦の才がある。
強者になればなるほど、最初に対峙した瞬間に相手の力量が分かるというが、アーサーはそれですぐに感じたのだろう。
相手が自分より格下だと。
アーサーは素早い動きで相手を攪乱しつつも、要所要所でジャブを打つ。
そのジャブで相手がイラついた所でさらに速度を上げ、腕・胸・背中にある風船を次々と割り、最後に頭の風船を叩き割った。
相手は、ほとんどアーサーの動きに対処できなかった。
結果として、3人での総得点はロータスの40点、リュゼの50点、アーサーの190点。合計で280点という高得点を取得した。
誰しもがこの得点ならこの種目は1位だと思っていたが、結果は2位となった。
1位は3クラス。リックスがいるクラスが総得点360点であった。
3クラスの戦い方は異質だった。
ひたすらに背中の風船を割ることに執心している。
それ自体は悪く無い。いやむしろ当たり前と言えば当たり前だ。
しかし、審判の見えない絶妙な角度で反則ギリギリの行為も行われた。
相手の足を踏んだり、顔面に軽く肘鉄を当てたり。
「………卑劣ね。」
アリシアも思わず呟いた。
同感だ。
アーサーのような容赦のない攻撃もやられた方はたまったもんじゃないと思う。
でも、アーサーの戦い方は卑劣とは無縁だ。
アーサーはこういう競技の際、反則技を使っているのを見た事が無い。
エルミリア選手権での時もそうだった。
性格はアレでもだ。
3クラスのテントでは、リックスはいつものようにニコニコとしているのが見て取れた。




