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砂漠の月(第一部 碧沿)  作者: kohama
第二章 春
52/60

第13話 組み手とラクダ

エイジャ「いーち、にー、ケツ上がってんぞー、さーん、しー」

城の裏手の湖畔で、アイラは地面に手をついて腕立て伏せをしていた。

エイジャが 側(そば)の棗(なつめ)椰子の木にもたれかかり、手を頭の上に組んで かったるそうに座っている。

エイジャ「あら…?」

アイラは ペシャリと地面に潰れた。

エイジャ「…なぁ、まだ五回もやってねーんだけど…。流石に冗談だよな?」

アイラはプルプルする腕で起き上がると、疑問を呈した。

アイラ「…腕立て伏せに、何の意味があるの?」

エイジャは、アイラが一体 何語を喋っているのか分からないような顔をした。

エイジャ「…は? 筋力ねーと、剣持てねーだろが。アホか!」


アイラは、ハッとしてエイジャを見た。

アイラ「剣…、教えてくれるの?」

エイジャ「剣は、父ちゃんダメっつってたろ」

アイラ「え…、でも今…」

エイジャ「先がどう変わるかは分かんねーじゃん。少しずつ近付いとくんだよ! 剣はダメでも、組み手はダメだって言われてねーからな。ま、聞いてもねーけど」

エイジャはフフンと鼻を鳴らした。

エイジャ「とりあえず、今日の所は腕立てと腹筋 背筋 三セットずつにしといてやるから、早くやれや。それ以上やってたら、見てるこっちが眠っちまうわ」

アイラ「さ…、三セット?!」


・・・


アイラ「む…、無理…」

筋トレで既にヘロヘロになって座り込むアイラへ、エイジャは立ち上がると上機嫌に言った。

エイジャ「おーっし。じゃ次。今から俺、お前の胸触るから」

アイラ「はっ?!」

アイラは、目を三角にしてエイジャを見上げた。

エイジャ「触られたくなかったら、防御しろ。手、足、頭突き、何使っても良い。投げ飛ばしてもいいぜ?」

アイラ「そ、それって、ただ あんたが触りたいだけでしょうが!」

エイジャ「〈チッチッと舌打ちをして〉分かってねーなぁ。こっちだって少しは取り分がねーと、割に合わねーだろが。何もしねーで座ってる方が楽なんだからよ。だし、お前も 嫌なら本気になるだろ」

アイラ「…!」

アイラは眉間にシワを寄せた。

アイラ「わ…、分かった」



エイジャは満足げに笑うと、フンフンと鼻歌を歌いながら近付いて来た。

アイラ (キモ…!)

アイラは両手に拳を握り、ぐっと身構えた。


間合いに入ると、エイジャは アイラの右腕をパッと掴んだ。

アイラ「あっ」

エイジャ「鈍(にぶ)…。お前さ、腕掴まれんの位、回避しろや。距離取る位できんだろ。まず近付くな。ほれ」

むにゅり。

エイジャは空いている右手で、アイラの膨らんだ左胸を掴んだ。

アイラ「なっ…!」

アイラは カァッと顔が赤くなった。

エイジャ「心臓。死んだ」

エイジャは まるで、獲物を捉(とら)えた豹(ひょう)のように、至近距離から金色の目でアイラを見据えて笑った。

アイラ「!」

アイラ (な、なにコイツ、こんな顔するの?)

アイラはこれまで、エイジャを怖いと思った事など無かったが、背筋に寒気が走った。


アイラは すぐに、空いている左手でエイジャの頰を引っ叩こうとした。

エイジャはアイラの胸を掴んでいた右手を離すと、内側からアイラの手を防いで、その手首を掴んだ。

エイジャ「腕取られたらまず身体閉じて、横から蹴り入れるなり 腕 捻(ねじ)って逃げるなりしろや。ビンタで倒れてくれる奴なんていねーから!」

アイラは掴まれた両腕を振りほどこうとしたが、全く動かなかった。

エイジャ「んで 腹、ガラ空きな」

エイジャはそう言うと、アイラの腹を"彼的には"軽めに蹴った。

アイラ「っ!」


エイジャはそのまま、アイラの両手を左手で後ろ手に掴むと、アイラの首に右手の人差し指をスッと当てた。

エイジャ「首。また死んだ」

アイラ「!」


エイジャ「足、空いてんだろ」

アイラは、後ろに居るエイジャを蹴ろうとジタバタした。

エイジャ「狙えるとしたらスネな。あとは、一点集中で指とか折れれば打撃与えられっけど、靴履いてっから難しい。けど この状況じゃなけりゃ、間合いに入っちまった時は、耳とか、手の指折るとか、少ない力でも一点集中すれば、逃げるチャンスが作れる」

アイラは言われた通り、エイジャのスネを踵(かかと)で蹴ろうとした。

エイジャはすかさず、後ろ手に掴んでいたアイラの両手を 無理な角度で持ち上げた。

アイラ「あっ! う…」

アイラは苦痛に顔を歪めた。

エイジャ「あ、わり、ちょっと強かったか? なーんつってー?」


エイジャは構わず、アイラを地面に"彼的には"優しく組み伏せた。

アイラ「〈悲鳴〉」

エイジャは アイラの突き出た尻を見ると、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

エイジャ「な、胸だけじゃなくて、尻も触って良いことにしねぇ?」

アイラ「?! 良い訳ないでしょ! バカ! 変態!」

エイジャ「あそう? ま、無理矢理は俺のポリシーに反するからな。どっこらしょっと」

エイジャは組み伏せたアイラの背中にどっかりと乗ると、あぐらをかいてケラケラと笑った。

アイラ「重…い…! どいて!」

エイジャ「どけてみろ。ほれ、千載一遇のチャンス」

エイジャはそう言うと、後ろ手に掴んでいたアイラの両手首を離した。


・・・・・・


その日の夕食で、アイラは母が居なくなってから初めて"おかわり"をした。

猛烈に腹が減っていた。

アイラ (あいつ…、同い年のくせに、いつの間にあんなに強くなったのよ…!)

アイラは肉にかぶり付きながら、無遠慮に胸を掴まれた事を思い出すと、今更 腹が立ってきた。

アイラ (見てらっしゃいよ…! いつかあいつの背中にあぐらをかいてやる…!)

アイラは鼻息荒く、千切ったパンを口の中に詰め込んだ。


王「……。」

同じ食卓に座る父は、何も言わずに娘の様子を見ていた。

よく見ると、アイラの腕や顔に 幾つか擦り傷ができていた。

王「……。舞の稽古には行っているのだろうな。近く隣国の客人の宴がある。髪は布で覆(おお)え」

父は娘を見ずに、事務的に言った。

アイラはチラと父を見ると、不機嫌に言った。

アイラ「分かってるわよ!」

アイラは残ったパンを無理くり口に詰め込むと、早々に父と二人の食卓を立った。


・・・


ルカ「姫、元気になられたようで、何よりです」

ルカは、食堂から出てきたアイラについて行きながら話しかけた。

アイラ「……。」

アイラはふと思いつき、殺気を持って いきなりルカを振り返った。

ルカ「!」

ルカは無意識に、サッと一歩後ろに引いた。

アイラ (なるほどね。まず近付くな、か…)

ルカ「ひ…、姫…?」

ルカは困惑した笑顔でアイラを見た。

アイラ「ごめんなさい。何でもないの」

ルカ「はぁ…」

アイラは また前を向くと歩き出した。

ルカ (何だ、今の…?!)

ルカは、前を行くアイラの短い髪を見つめた。


・・・・


リファ「ふぅ…」

リファは煮出した薬草を濾(こ)すと、額の汗を拭(ぬぐ)って一息ついた。

明るい朝の光が、湖畔の研究室の窓から差し込んでいた。

リファ (できたわ。飲んでみないとね)

リファは濾(こ)した液を匙(さじ)ですくって小さな器(うつわ)に入れた。


リワンが入口から入ってきた。

リワン「もうやってるのか? 昨日も遅かったろう?」

リファ「やめられなくって…。いつの間にか時間が過ぎちゃうわ」

リファは楽しそうに笑った。

リワンは妹の傍(そば)まで来ながら、困ったように言った。

リワン「無理するとまた倒れるぞ。今度は何を作ってるんだ?」

リファ「うん…。恋する薬」

リワン「…は?」

リファ「南大路の診療所に、子供ができない、って相談に来る人がチラホラ居るのよ」

リワン「……。」

リファ「女の人の方は、身体を暖める生薬を中心に前から作ってたんだけど、男の人の方は、今回初めて作ってみたの」


リワンは半目になった。

リワン「…お前それ、どう効くか意味分からないだろ? 子供のお前が作るような薬じゃないし…」

リファは 頰を少し赤らめながら言った。

リファ「わ、私、もうそんなに子供じゃないわ。一通り、本で知識は入れたし…。血の気を集めるのよ。今回は書いてある通りの配合で作ってみたの。兄さま、少し試してみてくれない?」

リワン「えっ?! いや無理無理。それでなくても…」

リワンは、最後の方は口の中でごにょごにょと言った。

リファ「え?」

リワン「何でもない」


リファ「そう…」

リファは残念そうに器に入れた茶色の液体を見つめると、一気に飲み干した。

リワン「?!」

リファ「まずは安全かどうかが大事よね。効き目はその次だわ。しばらく飲み続けてみる」

リワン「……。」

リワンは唖然として妹を見た。

リファ「本当は男の人に試して貰いたいんだけどな…。困ったわ。じゃあ父さまにお願いしてみようかしら…」

リワンはギョッとした。

リワン「父さまはやめとけ。あれで立場のある人だから」

リファ「そう…。じゃあエイジャに…」

リワンはエイジャの名を聞くと、間髪入れずに遮(さえぎ)った。

リワン「分かった。少しだけ貰おう」

リファはパアッと明るい顔になると、器に匙で注(つ)いだ。

リファ「ありがとう 兄さま。いつも助かるわ」

リワンは げんなりして妹から小さな器を受け取ると、飲み干した。

リワン「うえっ。これ何が入ってるんだ?」

リファ「スッポンと東の人参。それに、南のネバネバの芋も少々」

リワンは大きくため息をついて、項垂(うなだ)れた。

リファ「ね、兄さまもしばらく飲み続けてみてくれない? それで、効き目を教えてほしいの」

リワン「……。」

リワンは項垂(うなだ)れたまま、何も答えなかった。


・・・・・・


半月程が過ぎたが、残念なことに、交代役の護衛がリワンからルカに代わっても、特段これといって困った事は起きなかった。

リワンは、朝 中庭で仲間達と舞の稽古をするアイラと、その近くに座っているルカを、医務室の扉の陰から見ていた。

リワン (あそこは、俺が座っている場所だ…)

リワンは、アイラを見守るルカを 暗い瞳で見つめた。


<回想>

アイラ「さっきの取り消す! リワンなんて大嫌い! バカ!」

<回想終わり>

アイラの泣き顔が、また目に浮かんだ。

リワン (あんなに酷いことを言ったのに、俺が傍(そば)に居る資格なんてないよな…)

リワンは一人 首を振った。


兄の様子を見ていたリファは、同情したように話しかけた。

リファ「兄さま、寂しいわね」

リワンはハッとして、プイと中庭から目を背けた。

リワン「そんな事ない! 集中できて何よりだ」

医務室の奥から、医官の声が聞こえてきた。

医官「リワン、これ、処方間違ってるぞ? 量も違うだろ」

リワン「えっ?! す、すみません!」

リワンは慌てて奥へ入って行った。

リファは 目をぱちくりさせて、兄の背中を見送った。



リファが再び中庭を見ると、稽古の途中で アイラが肩を抑えてしゃがみこんでいるのが見えた。

リファ (アイちゃん…?)

リファが近付いて行こうとすると ルカが駆け寄り、何度かの押し問答の末、アイラを抱えて医務室の方へやって来た。

アイラ「ルカ、いいって! 大した事ないから! 下ろして」

ルカ「見なかった事にはできませんね」

リファ「ア、アイちゃん? どうしたの?」

アイラはリファを見ると、バツ悪そうに目を逸らした。


ルカは医務室へ入ると、寝台にアイラを座らせた。

アイラ「本当に、大丈夫だから…!」

リワンは アイラの声を聞きつけると、こっそりと棚の後ろまで来て アイラの様子をうかがった。

アイラは 少し疲れているように見えた。



リヤン「どうした?」

リヤンが入口から入って来た。

リファ「父さま…」

リヤン「おや、姫様。どうされましたかな。あぁリファ、お前の軟膏だがな、南大路の診療所で正式に仕入れる事にするそうだ。評判が良かったらしい。安定して供給できそうか?」

リファは目を輝かせて父を見た。

リファ「はい…! 嬉しい…! も…、もしかして私、お金を頂けるの?」

アイラ (!)

アイラは優秀な友人を そっと盗み見た。

リヤン「お前の場合、体調管理ができればな。うまく行けば、城(ここ)でも仕入れる事になるやもしれんぞ」

リヤンは娘を見て、優しく笑った。

リファ「すごい…! 私、寝込んだ時の事も見越して作っておくわ!」

リヤン「無理はするなよ。調子が悪い時はリワンも手伝ってくれるだろう。一人でやり切れなくなってきたら、人を雇ってもいいし…」

リファ「えぇ…?! 私が…?!」


アイラは嬉しそうなリファを見ながら、リワンの言葉を思い出した。

<回想>

リワン「彼女は、仕事を持つ事になるでしょうから…」

<回想終わり>

アイラ (仕事…。あぁ、リファは自分の力でお金を稼げるようになるんだわ…。私は…?)


アイラは小さい頃、街の楽士達の前で舞って、ポケットいっぱいにお金を貰った事を思い出した。

アイラ (私だって…!)

<回想>

リワン「他国の王の寵愛を受けて、子供を授かることです!」

<回想終わり>

アイラ (そんな…!)

アイラの心は沈み込んだ。



リヤン「姫、すみません、お喋りが長くなってしまいました。どうされましたか?」

アイラ「…何でもないわ」

アイラは俯(うつむ)いて、元気無く答えた。

ルカが横から口を出した。

ルカ「肩を痛めていらっしゃるようなのですが…。それにこの所、お疲れのようで…」

アイラ「つ、疲れてない!」

リヤン「ふむ…。姫、私に看せてもらえませんか? 皆 少し外して貰えるか?」

アイラ「……。」

アイラが僅(わず)かに頷(うなず)くと、ルカは外に出て行き、リファは奥に引っ込んだ。

リファは 棚の後ろに兄が居た事に少し驚いたがが、黙ってその隣に並んだ。



アイラと二人になると、リヤンは アイラの腕をそっと肩の辺りまで持ち上げてみた。

アイラ「いっ…」

アイラは痛みに顔を歪めた。

リヤン「…いつからですか? どうされたのですか?」

アイラ「昨日…、こ、転んだの」

リヤン「……。」


リヤンは見え透いた嘘を追求せず、静かに言った。

リヤン「宜しければ、直接診せて頂けませんか?」

アイラ「……。」

アイラは渋々シャツのボタンを外すと、服を胸の辺りまで下げた。

アイラの華奢な肩が露(あら)わになった。

リワン・リファ「!」

棚の陰から見ていた二人は、目を見開いた。

アイラの身体には、至る所に小さな青あざがあった。

リワン (まさか、エイジャに剣を習ってるんじゃ…)

リワンは目を細めた。

リヤン「…随分と何度も転んだんですね」

アイラ「……。」

アイラは俯(うつむ)いたまま、何も答えなかった。



リヤンは一つ息をつくと、脇の棚から軟膏を取った。

リヤン「失礼します」

リヤンは、アイラの身体に丁寧に軟膏を塗ってやりながら言った。

リヤン「姫、しばらく安静にして、転ばないで下さい。気力も下がっているようにお見受けします。今夜の宴に出るのは、難しいのではありませんか?」

アイラ「父さまに、出ろって言われてるもの」

リヤン「私から事情をお話ししましょう」

アイラはハッとしてリヤンを見た。

アイラ「お願い! 父さまには言わないで! 宴も問題ないわ。ちゃんとやるから…!」

リヤンは息をついた。

リヤン (王様も今日はお忙しいしな…)

リヤン「ならば、これ以上の怪我はいけませんよ?」

アイラ「分かった…」


・・・・・・・


リワンはその後(あと)、陰からアイラにくっついて回った。

宴の大詰めの稽古をするアイラの近くには、ルカが控えていた。

リワンより六つ程 年上のルカは 当然リワンより大人で、アイラに始終 温厚に接し、適切なタイミングで短めの会話を提供し、ケチの付け所が無かった。

リワン (俺は、あんな風に気さくに笑えないな…。気の利いた話も殆ど思いつかないし…)

リワンはルカを見ていると、益々 自信が無くなってきた。



エイジャに交代すると、夕方近くになって二人は裏門を出て行き、湖畔へ向かった。

そしてリワンは、アイラをビシバシしごいているエイジャを目撃することとなった。

リワン (あいつ…!)

リワンが拳を握ったその時、

エイジャ「そりゃっ」

エイジャは アイラを砂の上に"彼的には"軽めに投げ飛ばした。

アイラ「〈悲鳴〉」

リワン「!」

エイジャ「ほら、受け身取れって。肩痛めるぜ」

リワンは木の陰からノシノシと出て行った。

エイジャ「ん…? ありゃ? 何だお前、どうし…」

リワンは いきなり、エイジャの胸ぐらを掴んだ。

リワン「お前…!」

エイジャ「な、何だよいきなり?!」


アイラは驚いて起き上がった。

アイラ「リワン?!」

リワン「何してるんだ!」

エイジャ「何って、護身術だよ。剣はやってねーよ?」

そっぽを向いてとぼけるエイジャに、リワンはギリリと奥歯を噛んだ。

リワン「教えるにしても、手加減しろ! 背丈は同じでも、お前とは骨の太さも筋肉量も違う!」

エイジャ「はぁ?! 見て分かんだろ! 全っ然、手加減してんだろがよ! つかさ、そこまで手加減してたら、実際に使えねーじゃん! やる意味ねーじゃん!」

リワン「やらなくていい! 既に肩を痛めている! 中止だ!」

エイジャ「ほーん?」

エイジャはポリポリと頭を掻いて、アイラを見た。

エイジャ「だってよ?」


アイラ「リワン、私が頼んだの! 大丈夫だから…!」

リワン「姫、今晩は来客の宴もあるじゃないですか! こんな間際まで無理をして…! 暫くお部屋でお休み下さい! エイジャ、お前も姫の予定は知っているだろうが!」

アイラはギュッと唇を噛むと、小さな声で口を開いた。

アイラ「リワンには…」

リワン「はい?」

アイラ「リワンにはもう、関係ないじゃない!」

リワン「!!」

リワンは愕然として、エイジャの胸ぐらを離した。


エイジャ (うっはー、ひっでーこと言っちゃって…。何年 傍(そば)に居た訳よ? こないだの仕返しか? 俺もその内、言われんのかね)

エイジャは横目で、リワンの顔を見た。

リワンは動揺した瞳を、やっとのことで伏せた。

リワン「そう…ですね」

リワンはポツリとそう言うと、踵(きびす)を返して行ってしまった。

空が、夕焼けになりかけていた。


・・・


リワンは二人から離れた所まで来ると、椰子の木の幹に背を預けて ズルズルと座り込んだ。

<回想>

アイラ「リワンにはもう、関係ないじゃない!」

<回想終わり>


リワン (そうだ。俺はもう 姫の護衛じゃない。関係無いじゃないか…)

リワンは、参ったとばかりに首を振った。

リワン (あぁ、長く傍(そば)に居たのに、こんなにあっさりと辞めてしまえるものなんだな…。護衛なんて、代わりはいくらでもいるって、いつかカルファさんが言ってたけど、本当だ…)

リワンは、足元の夕日で赤く染まった砂を手に取った。

指の間からサラサラと砂は溢(こぼ)れ、手には何も残らなかった。


リワン (ルカさんは、俺よりずっと上手くやっている。腕も確かだし、姫を不用意に傷付けたりしない。それなら、姫にも 国の為にも、それが一番じゃないか)

そろそろ涼しくなってきた風が、リワンの金色の髪を揺らした。

リワンは、高く結っていた髪を解(ほど)いた。

リワン「問題、無いだろ」

リワンはそう呟いたが、なぜか苦しかった。

リワン (あぁ、ミスしてクビになるって、辛いもんなんだな…。いや、俺から辞めたいと言ったんだったか…。違う、辞めたいとは言ってない。 不適任かもしれない、って言ったんだ。かもしれない、って…。ナザルさんも、"そんな事ない、お前しか居ない"って言ってくれたっていいだろ?!)

リワンは意図せぬ事の急展開を、人のせいにしようとした。

が、今更 ため息しか出て来なかった。

リワンは低い位置に髪を結び直すと、ゆらりと立ち上がった。


・・・・・・


日が暮れると、客人をもてなす宴が始まった。

隣国の王「噂によれば、貴国の第一王女の舞は それは魅惑的だとか。お母上に似られたのですかな。まだ年若いのに、楽しみですなぁ。私も娘がおりますが、一番美しい時に、国にとって最も良い条件で嫁がせたいものですなぁ」

王「は…ぁ…」

王はお茶を濁して、ちびちびと杯(さかずき)を口に運んだ。


アイラ (確かに…、ちょっと疲れてるかも…)

アイラは舞台袖でこめかみを抑え、壁に手をついて身体を支えていた。

舞い手の仲間の娘「姫ちゃん…? どうしたの? 朝もしゃがみこんでたよね? まさか調子悪いの?」

アイラの事を多少変わったあだ名で呼ぶ 同じ年頃の舞い手の娘は、ひょうきんな顔でアイラの顔を覗き込んだ。

アイラ「ううん、ちょっと疲れてるだけ…」

舞い手の娘「そう…? ま、姫ちゃん 踊り始めたら世界に入るもんね」

仲間の娘はそう言いながら、アイラの頭に巻かれた布が緩(ゆる)んでいるのを 結び直してやった。



宴が始まると、アイラはいつも通り踊った。

つもりだったが、クルクルと回る所で 本当に世界が360°ぐわんぐわんと回り、何かに掴まろうと手を伸ばした。


舞い手の娘 (姫ちゃん?! ウソ、やっぱり具合悪いんじゃない!)

舞い手の娘はギョッとして、足元の怪しいアイラを前から抱き止めた。


エイジャ (お?)

袖の方で見ていたエイジャは目をパチパチさせた。

リワン「!」/リファ「アイちゃん…?」

会場の後方で見ていたリワンとリファも、異常事態に気が付いた。


アイラはそのまま、仲間の娘の腕の中にズルリと落ちて、膝をついた。

頭に巻いていた布がスポンと取れ、アイラは 短髪も露わに、その場にうずくまった。


王「…!」

王は、はわわと口を開けた。

音楽は続いていたが、客席はサワサワとし始めた。

王は、隣に座る隣国の王を そろりと見た。

隣国の王「いやはや…、これはまた…、斬新な…」

隣国の王は、目を丸くしてアイラを見ていた。

王は、自分の胃液がジワリと自らの胃を攻撃するのを感じた。


・・・・・


リヤン「リワンの話によると、ここの所 エイジャが組み手を教えていたようで、お疲れだったようです。朝、肩を痛めたと医務室にいらしていたのですが、ご報告せずに申し訳ありませんでした」

王「そうか…」

王は机に突っ伏して、胃をさすっていた。

ナザル「止(や)めるよう、エイジャに言っておきましょう」

王「……。」

王は突っ伏したまま、沈黙した。

ナザルは王が返事をしないので、もう一度王を見た。


王「いや、言わんでいい」

ナザル「えっ? …宜しいのですか?」

ナザルは目を丸くして、王を見た。

王はゆっくりと顔を上げた。額に跡が付いていた。

王「先日は腹立ち紛れにあぁ言ったが、認めようとは思っていた。エイジャも、アイラの意を汲(く)んでの事であろう。…が、少々荒っぽいな…」

リヤン「はい…」

ナザル「エイジャは元々 並外れた運動神経があるから、教え方や力加減が分からないんでしょう」

王「うむ、そこは何とかしたい。…が、ルカは自分の担当時間外まで目を光らせてくれる訳でもなかろう。やはりリワンに付いていて貰った方が安心だが…」

ナザル「リワンに、姫と仲直りしたらどうかと聞いたんですけど、姫の傍(そば)に居る資格が無いとか何とか言ってましたよ。何をそんなに言い合ったんだか…」

王「……。自分の力になってくれる者を獲得して 組織立てる事こそ、力なのだがな…。一人でできることなど、たかが知れている」

王は、先刻リワンが持って来てくれた薬湯を飲み干した。


・・・・


アイラ「ラクダ?」

エイジャ「そ。肩いてーんならよ、違うことならできんだろ。ラクダはダメって言われてねーじゃん? ま、聞いてもねーけど」

エイジャは、厩舎(きゅうしゃ)から早速 連れてきた二頭のラクダを見上げると、またフフンと鼻を鳴らした。

アイラ「……。」

アイラは 心配そうにエイジャを見つめた。

エイジャ「んだよ? 自分の足で 行きてーとこ行くんじゃねーのかよ? その内」

アイラ「あんたが…、怒られないかと思って。私 こないだの宴で失敗したから…。あんたにこっそり習ってる事、リワンから父さま達に伝わってると思う…」

エイジャ「あー」

エイジャは上を向いて考えたが、アッケラカンと言った。

エイジャ「けど俺、何も言われてねーぜ? ってこたぁ、黙認する ってこったろ? だし、ダメって言われるにしても、そこまで時間あんじゃん。一時間でも二時間でも、練習できんじゃん」


アイラは、エイジャの どこかふざけたような金色の瞳をまじまじと見つめた。

アイラ「あんたって…」

エイジャ「あ?」

アイラ「どこまでも楽天的で、プラス思考なのね」

エイジャはそれを聞くと、呆れた顔をした。

エイジャ「はっ! お前と違って、俺は元から命以外 何も持ってねーのに、そこからどうやって引くんだよ! 足すしかねーの!」

エイジャはそう言うと、ラクダの手綱をアイラにぶっきらぼうに渡した。

エイジャ「ダメって言われる前に、覚えちまえ!」


・・・


エイジャはアイラに、ラクダの扱い方を教えてやった。

アイラ「ひゃ!」

ラクダは後ろ足から立ち上がる時に大きく揺れ、アイラは 何度も前につんのめって振り落とされそうになった。


二人は数日に渡って、城の裏手の湖畔を何往復もした。

アイラ「エイジャ! これ、どうやって止めるの?!」

走り出したラクダの上から、アイラがラクダのコブにしがみつきながら叫んだ。


夕方、湖畔を帰るリファとリワンの横を、アイラは爆速で通り過ぎて行った。

リファ「ア…、アイちゃん…?!」

リファは、目を丸くしてアイラを見送った。


エイジャ「手綱引け、手綱! ったく…」

エイジャは後ろからついて行きながら、面倒臭そうに叫んだ。

リファ「エイジャ…」

エイジャは、チラリとリファとリワンを見下たが、すぐにアイラの後を追って行った。


リファ「兄さま…。アイちゃん、ラクダの練習始めたの?」

リワン「そうらしいな」

リワンは素っ気なくそう言うと、先を歩き始めた。


・・・


練習の甲斐があり、アイラはどうにか 一人でラクダを乗りこなせるようになった。

夕日が 湖を赤く染めていた。

二人で並んで乗りながら、アイラは口を開いた。

アイラ「エイジャ」

エイジャ「あ?」

アイラ「ありがとう。その…、教えてくれて」

アイラは気恥ずかしそうに、ほんの少しだけエイジャに笑いかけると、すぐにまた前を向いた。

エイジャは、ちょっと可愛かったアイラに二の句が告げず、その場にはたと止まってアイラを見送った。

エイジャ (…何だあいつ?! 普段ツンケンしてるくせに、どんなギャップだよ!)

エイジャは我に返って、またラクダを進めた。


アイラ「遠乗りに…行きたいな」

アイラはラクダを水際に止めると、夕焼けに染まった湖を眺めて言った。

エイジャ「遠乗り?!」

エイジャは アイラの横まで来るとラクダを止めた。

アイラ「うん。行ってみたい」

アイラは前を見たまま、風に吹かれた。

アイラの横顔は もう子供ではないように見え、どこか王妃と似始めていた。

エイジャはドキッとして、視線を外した。


エイジャ「いや、流石に…」

アイラ「南門なら警備が薄いわ」

エイジャは、小さい頃 城を抜け出して、危うく死にかけた事を思い出した。

エイジャ「ダメ。抜け出すのはダメ」

アイラは口をとんがらせた。

アイラ「じゃあ…、父さまに言ってみる」

アイラは途端にブーたれてそう言うと、ラクダを城の裏門の方へ向けた。

エイジャ「懲りねーなぁ…」

エイジャは眉尻を下げて、後を追った。


エイジャ「あ! そうだ、お前さぁ」

アイラ「?」

夕日の中、アイラは振り返った。

エイジャ「どうでもいーけど、胸小さくね? 全っ然 触った感じしねーんだけど。何かさぁ、損した気分になるよなー。麦買いに行って、あんま入ってない袋 掴まされた感じっつーの?」

アイラは一気に さっきの可愛い笑顔はぶっ飛んで、まるでゴミでも見るような目でエイジャを見た。

アイラ「どうでもいい! バカ! 変態!」

アイラはエイジャを置いて、ラクダを走らせ始めた。

エイジャ「あ、待てよコラ! 感想を言っただけだろが!」

夕焼けの湖畔に、二人の影が長く伸びていた。


挿絵(By みてみん)

リワン16歳


挿絵(By みてみん)

リファ13歳


挿絵(By みてみん)

エイジャ13歳


挿絵(By みてみん)

またchatGPTに画像を作って貰いました。


リワンは、何パターンも作ってもらった中では、これが一番イメージに近いですかね…。

もう少し美しい感じの提案が欲しいんですが、要求の度に 微妙に前の画像と表情が変わってしまったり、いきなりおじさんになっちゃったり、いきなりアジアンになっちゃったりして(笑)、AIに伝わる要求自体が難しい…。でもまぁ、ほぼこんなイメージかな…。


リファは、13歳にしてはちょっと幼い気がしますが、薬草に囲まれてる感じ、素晴らしいです。

「病弱」と要求したら、表情が幽霊みたいになっちゃったので(笑)、初めの頃に作ってくれたのを載せておきます。

何て要求したら伝わったんだろう?「はかなげ」とかかな…。

本当はジャンパースカートが透けてる感じとか、もっと昔っぽい服にしてとか、色々 細々(こまごま)と注文したいけど、要求の度に 初めのイメージから離れて行ってしまう事が多いので、初めの頃のベストショットを貰ってきました。でも上々です。素晴らしいとしか言いようがないです。


エイジャは、アニメ風イラストと、実写の二枚。

chatGPTに要求すると、なぜか男性は まずイラストをくれる事が多いです(女性はイラスト画像を貰った事は無いです)。私の要求の仕方が変なのかな?

その後「実写にして」と要求するとこうなりました。素晴らしい!

素晴らしいけど……、エイジャの目がデカい…! デカすぎる気がする! ちょっと宇宙人みたいかもしれない…!


あとやっぱり、表情とか、フィクション感っていうんですかね、キャラクターの性格も、アニメ風イラストの方が伝わるんだなぁと思いました。絵って、要素を誇張してあるんですね。絵の方が より伝わる。


Geminiも使ってみましたが、作ってくれる写真がかなり現実的で、あぁ、そういう人とシチュエーション、本当にあるよね、うん本物の写真、って感じでした。写真の人物が着ている服も、そういう服、確かに皆、本当に着てるよね、という感じで、大変現実的。

イラストにしてもらったら、アメリカンコミックなタッチで、私の欲しいイメージではなく。。

AIにも性格というか、得意分野があるようですね。


今 こうなら、近い未来には アニメや映画がAIをベースに作られるのかも…! 楽しみです。

でも、絵コンテとかは、やっぱり人の意思の力が大きい気がするけどなぁ。

何を描(えが)きたいのか、どう描(えが)きたいのか。

心の在り方だけは、人にしか持てない気がします。


ありがとうchatGPT! 私は描けないから、本当に助かります!

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