第7話 宴
<翌日>
王妃は 次の日の出立の準備や挨拶回りで、朝から忙しかった。
アイラは用も無いのに、一日中 母の後ろをついて回った。
エイジャ (何か、ひな鳥みてーだな)
エイジャは、王妃について回るアイラに 更について回りながら思った。
王妃は時間があると、隅の方に居る 落ち込んだ娘に微笑みかけて、いつもと変わらない何気ない話をしたり、手を繋いだり、抱きしめて顔中に口付け、くんくんと我が子の匂いを嗅いだりした。
エイジャ「……。」
後ろで見ていたエイジャは完全に白けていたが、アイラはその度にうるうるした。
アイラ (母さま…!)
露店で買った母とお揃いの金色の首飾りが、二人の胸元に揺れた。
チェン「……。」
王妃に付いているチェンは、妖艶に目を伏せていた。
・・・・
昼頃になると、王妃はバルコニーへ出て、民衆に別れの挨拶として手を振った。
ほんの数日ではあったが、中央広場で働く王妃と王女を見た市民達が、この混乱と困窮の中 、沢山詰めかけていた。
子供「どうして王妃さま行っちゃうの?」
老夫「王妃様が草馬に行ってくれるから、しばらく戦争が無いんじゃ」
子供「そうなんだ…。〈大声で〉王妃さまー! 元気でねー!」
王妃は笑ってバルコニーから手を振った。
アイラ・王「……。」
アイラと王は、沈んだ顔で王妃の横に突っ立っていた。
エイジャ・リワン「……。」
明日、父と娘だけになる主人一家を、腹心二人は横目で見ていた。
バルコニーでの王妃の挨拶が終わり、沈んだアイラの後ろから廊下を付いて行きながら、エイジャが呟いた。
エイジャ「何かなぁ…、暗っ! いってぇ?!」
リワンが 無言でエイジャの足を踏んづけた。
アイラは俯いたまま、おもむろに足を止めた。
エイジャはあさっての方を見ながら ポリポリと頭を掻いた。
ふと見ると、前を向いたままのアイラの顔から雫が滴っているのが目に入った。
エイジャ「ウゲ」
この所の 大人になりつつあるアイラが泣くのを見るのは、エイジャにとって大変不快だった。
エイジャはくるりと後ろを向いてアイラを視界から外すと、ため息をついた。
リワン「姫、首の痛みは取れましたか? 今晩、踊れそうですか?」
アイラはコクリと頷いた。
リワン「良かったです。ではお伝えしてました通り、私は一旦家に戻ってリファと母を連れて参ります。また夕方に…」
アイラは またコクリと頷いた。
エイジャが、"どうすんだよコレ?!"という顔でリワンを見た。
リワンは、"自分でどうにかしろ"という顔で冷たくエイジャを見流すと、踵を返して行ってしまった。
エイジャ「…なぁ、泣くなや」
エイジャは げんなりして言った。
アイラ「別に、あんたのせいじゃない」
アイラは震える声でそう言うと、腕で顔を拭いてまた歩き出した。
エイジャ「あれ? メシは?」
アイラ「お腹痛いからいい。あんた食べたの?」
エイジャ「食ったけど…。お前さぁ、そのチグハグすぎる繊細なの、もうやめたら? どう見たって危険生物なのに実は弱いんですとか、意味わかんねーから。世の中、結局 図太いのが最強だぜ?」
エイジャは頭の後ろに手を組んで軽口を叩いてみた。
"誰が危険生物よ!" と返って来るかと思ったが、前を行く主人の返事は無かった。
・・・・
夕方になると、リワンは妹を背負い、母と一緒に湖畔を城へ向かって歩いた。
リファ「兄さま、歩けるわ」
リワン「なら、広間の手前からは歩いて貰おう」
リファはこの数日で驚く程 回復し、死ぬような状態だったのが嘘のようだった。
リワンは一体何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
空と湖の色が薄紫色に染まり、それは明日の朝 この国を去る王妃の衣の色と同じだった。
黄色い月が出ていた。
リファ「アイちゃん、明日でお母様とお別れなのね」
リワン「そうだな…」
リファ「かわいそう…」
リワン「…あぁ」
リファ「エイジャみたいに初めから家族が居ないのと、途中から失うのと、どちらが辛いのかしら」
リワン「どうだろな。辛い時が違うんじゃないかな。でも、自分がそうなってみないと、本当には理解できない。俺は、エイジャの辛さは一生分からないよ」
リファ「アイちゃんの辛さは理解できるの? 家族を失ったことなんて無いじゃない」
リワンとミーナは深くため息をついた。
リファ「あぁ! そ、そうね…。心配かけてごめんなさい」
リワン「もう、死なないでくれ」
リファ「もう、殺さないで?」
リファは少しおもしろめかして言ったようだったが、ミーナは笑えなかった。
リワンも どんよりと押し黙った。
・・・・
夕方、王妃は宴が始まる頃になって、やっと諸々の準備から開放された。
直前にできるかもしれないと言っていた舞の稽古は、結局できなかった。
いつもは広々とした二階の広間は、所狭しと膳が並べられ、宴会場になっていた。
膳の前には 既に人々が座り、場はガヤガヤとしていた。
王妃「遅くなりました」
先に座っていた王の隣の王座へ、王妃がやや息を上げてやって来て、ふわりと座った。
髪につけている香油が微かに香った。
王はチラリと妻を見ると、俯き加減で聞いた。
王「準備は…、抜かりないか?」
王妃「はい。問題ございません」
王妃はにっこりと夫を見て答えた。
王「そうか…」
暫くの沈黙の後、王が低い声で言った。
王「やはり今晩は…」
王妃「はい?」
王「わ、私の所で休まないか?」
王妃は目を丸くして、歳の離れた不器用な夫を見た。
王「いや違う、別に何もしない。ただ…、傍に居てほしいだけだ」
夫は自信なさげにボソボソと言った。
王妃はにっこりと微笑むと、嬉しそうに答えた。
王妃「はい、そう致します」
ナザルは、会場全体が見渡せる場に控えながら、二つの王座を見た。
今夜で、あの血色の悪い"うらなり君"と、その美しすぎる妻の凸凹コンビが横に並ぶのも、最後だった。
ナザル (あのお二人が ああして座るようになって十五年か…。長かったのか、短かったのか…)
ナザルは複雑な思いで、王座に座る夫婦を眺めた。
・・・
送別の宴が始まった。
王妃の挨拶が済み、草馬の将の音頭で乾杯となった。
酒が運ばれ食事が始まると、楽師達が音楽を奏で、城の舞い手達が煌びやかに舞った。
アイラは王族の席から、会場に我が物顔で座り ゲラゲラと下品に笑う草馬人達を見て、唇を噛んだ。
アイラ (あの人達が、母さまを連れて行ってしまうんだわ…! あの人達が来なかったら良かったのに…!)
エイジャ「……。」
エイジャは、主人の どす黒く渦巻く念が滲み出ている顔を見た。
エイジャ (こえー顔しちゃって。あれで踊るのかね…)
・・・
城の碧沿人達は、代わる代わる王妃に挨拶に来た。
王妃は いつになく、盃を形だけでなくカパカパと空けた。
隣に座る王は、ややハラハラして見ていた。
後ろに控えるチェンも、王妃がどれだけ飲んでいるか、密かに勘定していた。
チェン「王妃様、差し出がましいようですが、大丈夫ですか? 初めからそんなに飲んでは、後で踊れないのでは?」
王妃は赤くなりながら 楽しそうに言った。
王妃「踊るわ。あの子と、最後だもの」
・・・
アイラは膳には一口も口をつけず、華やかな会場を見回していた。
リファが兄におんぶされて、入口まで来たのが目に入った。
アイラ「リファだわ!」
エイジャ「うわ、幽霊じゃねーだろな?」
リファが兄の背から降り、ミーナに掴まって リヤンの席へ向かってゆっくり歩いて来るのを見ると、アイラは席を立って行った。
アイラ「リファ!」
リファ「アイちゃん…!」
リファは やつれてはいるものの、全く死ぬような感じではなかった。
アイラ「身体…、大丈夫なの…?」
リファ「うん。治してもらったから…」
アイラ・エイジャ「……。」
アイラとエイジャは、違う世界に行って 生き返ったという噂のリファを、果たして正気かどうか測りかね、目を白黒させて見た。
リファ「アイちゃんこそ、おととい刺客に襲われて 危機一髪だったって聞いたわ。今日、踊れるの?」
リファは、アイラの首のスカーフを見た。
アイラ「うん」
リファ「そう…。王妃様に、ご挨拶に行きたいわ」
ミーナ「あたしは、後で〈リヤンを見て〉この人と行くわ」
リヤンも頷いた。
リファ「うん」
リファは兄の腕に掴まり、ゆっくり歩き出した。
・・・
幼馴染の四人は、王妃の前に並んだ。
王妃はお酒で顔が赤くなり、上機嫌だった。
リファ「王妃さま…」
リファが王妃の前に跪こうとしたのを、王妃は慌てて止めた。
王妃「リファ、いいの、楽にして頂戴。身体は大丈夫なの?」
リファ「はい。別の世界で、兄に治してもらったんです」
リワン「……。」
アイラ・エイジャ「……。」
王妃「……。」
王妃は、一瞬キョトンとして黙った。
リワン「リファ、それは言わない方が…」
王妃「信じるわ」
王妃は酔いながらも、リファを真っ直ぐに優しい目で見つめた。
王妃「私も、違う世界に行ってみたい。そしたら、もっと思うように生きるの」
王妃は頬を紅潮させながら、少女のような顔をした。
リファ「王妃様…」
リファは、王妃の明日からの運命を思うと、いたたまれなくなった。
リファの沈んだ顔を見ると、王妃は明るく切り出した。
王妃「リファ、アイラの友達でいてくれて本当にありがとう。ワガママな子でごめんなさいね。あなた達、随分と我慢させられているでしょう」
エイジャ「本当ですよ」
リワンは、また黙ってエイジャの足を踏んだ。
エイジャ「ってっ?! お前さぁ、今日 二回目だよなぁ?」
リワン「一日に二回も失言するな」
エイジャ「はぁ?」
王妃「〈くすくすと笑って〉それにしても、出会った頃は四人とも小さな子供だったのに、随分と大きくなったわ。確か…、リファとリワンは アイラが四つの頃、エイジャは六つの頃だったから…、出会ってから九年、エイジャは七年になるのかしらね」
リワン「はい」
エイジャとリファも頷いた。
王妃「皆 もうすぐ大人ね。あなた達は私の子供も同然だわ」
嬉しそうに微笑む王妃を前に、子供達は互いをチラチラと見た。
王妃「早いものだわ…」
王妃は思い出しながら、一瞬 素に戻った。
逃れられない別れが数時間後に待ち受けているのを、王妃は酔いの隙間に思い出した。
ドクン、と動悸がした。
空気が薄くなる気がして、王妃は乱れそうな心から逃れようと、急いで王座から立ち上がった。
王妃はリファに、震えそうな手を もう片方の手でさりげなく押さえて差し出した。
王妃「あなたが居てくれて、アイラはどんなに寂しくなかったか…」
リファは王妃の手を 両手で握った。
王妃の手は冷たくて、よく注意していると 小刻みに震えているのがわかった。
リファ「いえ! わ、私こそ…! あの…、頂いた薬草の本、本当に嬉しかったです! 素晴らしい資料です。ありがとうございました」
王妃「そう、良かったわ。あなたはきっと、素晴らしい薬師になるわ」
王妃は真っ直ぐ穏やかにリファを見た。
リファ「ありがとうございます! 王妃様、どうか…お元気で…!」
王妃「えぇ。リファもね」
リファ「はい…」
王妃はリファに、最後に輝くような笑顔を向けた。
アイラはリファの横で、今にも泣き出しそうな顔で聞いていた。
エイジャ「化粧 崩れるぞー」
アイラ「わ、分かってるわよ!」
王妃「アイラ、舞の神様には 一番良いものを届けるんでしょ?」
アイラ「うん…。大丈夫だよ」
アイラは、ぐっと口を引き結んだ。
・・・
宴もたけなわになり、いよいよ親娘の出番となった。
アイラはゆらりと立ち上がると、後ろに控える二人の腹心に一言も言わずに行ってしまった。
リワン「…大丈夫かな」
エイジャ「な」
エイジャがやれやれとアイラの後を追おうとしたのを、リワンが止めた。
リワン「俺 行ってくる」
エイジャ「あそ?」
王妃は、舞台袖に来た機嫌の悪い娘を見ると、酔っ払って上機嫌に聞いた。
王妃「踊れそう?」
アイラ「うん…」
王妃は、娘のブスッとしたほっぺを摘んで言った。
王妃「そんな怖い顔しないで? 今夜は、私の為に踊ってくれるんでしょ?」
アイラ「…!」
アイラは、母を見つめて唇を噛んだ。
アイラ「母さまこそ、そんなに酔ってて踊れるの? 足がもつれるんじゃない?」
王妃「ふふ、どんなに酔ってても踊るわ。足が踊るんじゃないもの」
アイラ「じゃあ何が踊るのよ?」
王妃「私の、魂よ」
アイラは目を見開いて、母を真っ直ぐに見つめた。
母は娘を優しく見返すと、この夜が明けたら母親を失うことになる娘を抱きしめた。
王妃「今日この時、あなたと踊るこの時間は、幾千年が過ぎても朽ちないわ。誰も入り込めないし、永遠に私達のものよ。アイラ、闇を照らす月の光、私の希望。あなたの、心のままに」
音楽が始まった。
母は娘から腕を解くと、客の前に出て行った。
・・・
母の舞は熟練され、美しく、愛らしく、気品があった。
アイラ (あぁ、母さまの舞だ…!)
アイラは小さな頃から追いかけてきたその背中を、眩しく見つめた。
王は、王座から瞬きを忘れて妻の舞を見ていた。
それは思いがけず手に入れたが、決して自分のものにならなかった妻の魂だった。
会場の一同は皆、その美しく愛らしい舞に魅かれた。
それは、朗らかで天真爛漫な、王妃になる前のユエそのものだった。
ユエは、あんなに酔っ払っていたのに、その正確さに一つの狂いも無かった。
途中、ヨタヨタとしたかと思ったが、それさえも歌詞に合わせた演出で、アイラは横から見ていて舌を巻いた。
母の舞を食い入るように見ながら、アイラは小さな頃から母に習ってきた、朝の中庭の一日一日を思った。
アイラ (私は、あんな風には踊れない…)
アイラは思った。
アイラ (あんな…輝くようには舞えない。あぁ私は、光じゃないんだ)
アイラは羨望と諦めをもって、母の最後の舞を見た。
母と代わり アイラが出て行く節になると、アイラは煮え切らない顔のまま出ていった。
アイラは、怒りと、非力さと、諦めを孕んだ目を剥き出しに上げると、一心に踊り出した。
それは、母のように完璧で神々しいものではなかったが、確かに、影のある迸る魂が躍動していて、そして未だ子供ではあるものの、どこかセクシーだった。
ナザル (何か…、いつのまにか大人になったんだな…。ついこないだまで子供だったのに…)
ナザルは、これまで意識していなかったアイラの成長を、ハッとして見た。
リワンは横からアイラの舞を見ながら、寂しい思いに駆られた。
リワン (あの人は…、俺とは違う世界に棲む人だ。俺とあの人の人生が今 こうして交錯していること自体、本来は不思議な事…。あと何年かして大人になったら、もう二度と、交わらないのだろうな…)
客席は、この渇望し、不機嫌で多くの要求があるアイラの魂に、どういう訳か引き込まれた。
決して、見ていて幸福感を与えてくれる舞ではないのに、追いたくなるような、よく分からない求心力があった。
それは、傍に寄ると火傷をさせられそうな危うさがあるのに、自分だけはその傍に寄って 助けてやれると思わせられるような、よく分からない魅力だった。
エイジャは、壁に持たれかかって見ながら思った。
エイジャ(何かあいつって、俺に似てるよな…。いっつも、満たされねーの)
リファは、客席からアイラを眩しく見た。
リファ (アイちゃん…! 何か、綺麗だわ…! もうすっかり、一人前の踊り手さんになのね…)
曲の後半になると、親娘は一緒に踊った。
二人の雰囲気は全く違うものだったが、それぞれに強烈なエネルギーがあった。
ユエは、"あの子と結婚して頂戴"という歌詞の所で、横に控えるリワンを真っ直ぐに見て、歌詞に合わせた振りをリワンに向けて踊った。
リワンは、いきなりのことでギョッとした。
リワン (いやいやいや、ただの歌詞だから)
リワンは変な汗が出た。
踊り終わると、拍手が飛び、アンコールがかかった。
親娘は顔を見合わせると、先に踊った城の舞い手達と一緒に、もう一曲踊った。
それはユエが娘時代に踊った、彼女をスターダムにのし上げた曲だった。
若い頃の王が、釘付けになって 恋焦がれた曲だった。
ユエは、花びらの入ったカゴを腕にかけ、踊りながら花びらを散らして客席を練り歩いた。
アイラは、これでもう最後だと思うと、この底抜けに明るい曲が、かえって もうどうにも悲しかった。
眩しい母の後ろから、アイラは花びらのカゴを持ち、泣きそうな顔でついて行った。
城の舞い手達も、花びらのカゴを持って二人に続いた。
会場は、音楽と歌と踊りと舞い散る花で、その絢爛な一瞬一瞬が ゆっくりと進むようだった。
ユエ「アイラ、笑って。最後なんだから」
母は花びらを散らしながら、弾けるように後ろの娘に言った。
母は、ここへ来てもなお 決して泣かなかった。
あくまで、その芯から光る笑顔を崩さなかった。
アイラは無理やり笑おうとして、ついに涙が(あふ)れてしまった。
アイラ (母さま 行かないで…! 行かないでよ…!)
アイラは 顔をグシャグシャにして母の後ろからついて行った。
エイジャの前に来ると、アイラは恥ずかしそうに下を向いて通り過ぎようとした。
エイジャ「見てらんねーぞー!」
エイジャはアイラが通り過ぎる時に、わざと憎らしく言ってやった。
アイラは眉間にシワを寄せ、カゴの花びらをむんずと掴むと、エイジャに思い切り投げつけた。
エイジャは花まみれになりながら、ケタケタと笑った。
アイラは唇を噛み、腕で涙を拭くと、顔を上げた。
ずっと追いかけてきた母の背中が、目の前にあった。
ナザルの前に来ると、強面の顔を緩めて、拍手を送ってくれた。
草馬の将の前を通ると、酒を手にしたまま、親娘をベッタリと舐めるような目つきで見ていた。
広間の外にも、見知った侍女達、料理人、洗濯係ら、宴に呼ばれていないが王妃に餞の意を持った者達が集まって、手拍子をしているのが見えた。侍女の中には手を振ったり、泣いている者も居た。
王の前に来ると、王は懸命に苦しい感情を隠し、できる限りの威厳を持って妻に拍手を送った。
ユエの後ろに続いてアイラが前を通ると、父はチラリと娘と目を合わせた後 すぐに逸らしたが、口をへの字に曲げたまま 拍手を送ってくれた。
客席を一回りして前に帰って来ると、リワンとチェンが手拍子をして端の方に待っていてくれた。
アイラが濡れた瞳でリワンを見上げると、リワンはその緑がかった目に微かな憐憫の色を含みながら、優しく微笑んで拍手を送ってくれた。
アイラは、その苦しい胸に 温かいお湯が注がれたような気がした。
舞い手と楽士達の総勢二十五名程は 前に集まり、二列になって手を繋ぎ、お辞儀をした。
アイラは母と手を繋ぎながら、言った。
アイラ「母さま」
ユエ「ん?」
アイラ「私に舞を教えてくれて、ありがとう。一生、大事にする」
ユエ「…!」
母は満面の笑顔になり、ここへ来て、胸が熱くなるのを止められなかった。
ユエの両頬を、熱い涙が伝った。
ユエ「私も、あなたと一緒に踊れて、幸せだったわ…!」
ユエは 娘と手を繋いでお辞儀をしながら嗚咽した。
演者達は皆 手を繋ぎ、鳴り止まぬ拍手に 再度お辞儀をした。




