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(剣も魔法も一流だというのに、治癒能力まであるとはな。この化け物めっ!)


 摩訶不思議な力によって、地上をさながら水流のように滑る樹木。長老はそれを器用に乗りこなしながら、ひたすらに相手との距離を取り続けていた。

 恨めしく睨む長老の視線の先に居るは、素質や魔法による妨害を薙ぎ払いながら、全速力で長老を追い立てるリン。


 二人は激闘を繰り広げながら、里の外周を回るようにして一定の距離を保ちつつ移動していた。


 今の長老を傍から見れば、あらゆる手段を講じて逃げ惑う臆病者に映るだろう。長老に敵無しだと信じている民に見られれば、失望されるかもしれない。

 だが、長老はそれでも構わなかった。

 リンは森の奥地に住まう強力な魔物に引けを取らない化物の一種。それが怒涛の勢いで、近接戦を望まんと迫ってきているのだ。


 ――近接戦になってしまえば、敗北は濃厚。


 負けんじとする思いに駆られて、周りの目も気にせず長老は必死にリンの接近を拒む。

 現地点では、上手く近接戦を拒否出来ていた。


(しかし、このままでは一方的な鬼ごっこじゃ)


 木々を自在に動かせるとはいえ、その速さは俊敏の魔法を掛けているリンには遠く及ばない。何もしなければ容易に距離を詰められてしまう。それに、幾ら逃げた所で倒せなければ意味が無いのだ。


 リンに傷を負わせたり体力魔力武器を消費させたりと消耗させる狙いも兼ねて、素質や魔法を用いた様々な手段で足止めを試みているが、残念な事に結果は芳しくなかった。


 木の一部を伸ばして捕縛する? 根や枝のような細い部位では軽々と斬り落とされ、太い部位では量が少なく動きが遅いせいで触れることさえ能わない。

 

 ならば、比較的硬い枝や幹を重ねて斬れない壁を作る? リンは風属性の魔法を使って高く跳躍し、壁をあっさりと飛び越えてしまった。

 飛んだ先に魔法を放てば一度目は直撃したが、それ以降は警戒して当たってくれない。


 ……思い切って周囲一帯の木々を総動員させて巨大な箱を作り、リンをその中に閉じ込めてしまう? 確かに有効な足止めにはなったが、例の爆発する武器で穴をこじ開けられてしまうし、植物の消耗が激し過ぎて割に合わなかった。

 こんな事を繰り返せば、忽ち辺りから木々が消え失せて荒れ野原となってしまうだろう。


 長老に残された唯一の有効策は、魔法だった。

 たまに走りながら魔法を放って相殺して来るが、基本は回避行動を取ってくれるので、次の行動に移るだけの僅かな余裕が生まれていた。


 しかしそこでもまた、一つの問題がある。


 リンは肉体改造の影響なのかは知らないが、謎の治癒能力を有している。中途半端な威力の魔法を放とうものなら、治癒能力に物を言わせて突っ込んで来るのだ。

 多少の傷を与えるが直ぐに治ってしまい、果たしてダメージが通っているのかも分からない。


 その為威力を妥協する事が出来ず、魔法を放つ度にそれなりの魔力が消費されていた。

 どこかでこの状況を打開せねば、やがて魔力は尽きる。長老の敗北は確実なものになりつつあった。




「喰らえ!」


 長老から呪詛の籠った声と共に、巨大な岩の塊が放たれる。土属性の中位魔法だ。


 リンはそれを相殺出来ないと判断し、横に回避。直後に逃がさまいと、再び距離を詰めてくる。魔法が掛かってるとはいえ、人間とは思えぬ呆れた運動能力である。

 

 それでも間合いを確保する事は出来、僅かな余裕が生まれた。長老は胸を撫で下ろし、数分とは思えぬ濃密なやり取りによって流れた汗を拭う。


 化け物め、と改めて思う。


 人間離れした肉体能力に、それが活かされる一流の剣技。魔法の腕も相当で、謎の治癒能力も有している。

 加えて、冷静な心。

 常に的確で効率的な判断を下し、体力や魔力の消費を最低限に抑えている。敢えて隙を晒して誘ってみても不用意に詰めて来ず、虎視眈々と長老の魔力が尽きるのを待っている。

 何と堅実なのだろう。せめて傲慢な性格で油断してくれれば、まだ付け入る隙はあったというのに。


 戦士として欲しい要素を全て取り揃えていて、命令に忠実に従うリンは、神の手によって作られたゴーレムに思える。だが、リンはれっきとした人間だ。先程見せた主人を想う恍惚な表情、あれをゴーレムで表現するのは不可能だろう。


 最早長老は、リンを格上として認識していた。

 同時に、このままでは負けるという事も。


 これ程の怪物が里を襲うとは何たる不運、理不尽か。

 嘆きたくなるが、そんな事をしていても里は護れない。


 迫り来る格上の怪物を倒すには、今のままでは駄目だ。治癒能力を活かす隙も与えず一瞬で殺せるだけの、強力な一撃が必要だった。


(これ程とは、儂は井の中の蛙だったと言う事かの……。しかし、儂が諦める訳にはいかぬ! このまま逃げ回って、植物と魔力が尽きる位ならば……っ!)

 

 やがて長老は、一か八かの動きに出る決断を下した。



――――――――――――――――――――



「近寄るなっ!」


 叫ぶ長老の手から、魔法が放たれる。短時間にして飽きる程に繰り返されたやり取りだ。


「……」


 しかしここに来て、どんな攻撃が来ようとも即座に対処していたリンが、初めて動きを止めた。どの行動を取るのが正しいのか、判断を逡巡したのだ。

 何故なら今長老が放った魔法は、これまでの足止めと攻撃を兼ねた土属性や火属性とは違い、殺傷力が著しく低い水属性。殺傷力は低いというのに、今まで以上の相当量の魔力が込められてある。

 攻撃とは別の狙いがあると見て、警戒しているのだろう。


 しかしそうしている間にも、長老の手から生み出された大量の水が、激流と化してリンへと迸る。水はリンの視界を埋め尽くす程の量で、リンの速さをもってしても左右に逃げる事を許さない。

 風魔法で浮遊、同じ魔法で相殺、後ろへと下がる。色々な選択肢が残されているが、足場を持つ者を相手に空中戦は挑みたくは無いはずだ。魔法使いを相手にこれ以上距離を空けたくは無いはずだ。


 リンは逡巡した結果受け切ると判断したのかその場に立ち止まって、押し寄せる濁流へと呑まれていった。


 濁流に呑まれて何処かへと流されてくれれば嬉しいが、それは甘い考えだ。リンは絶対に耐える。生成出来る水も無限大では無い。水がどこかへと流されて行けば、自由に動

き出すだろう。猶予は数秒しか無い。

 そう確信する長老は、一呼吸整えて、次に備えての行動を開始した。



 やがて濁流は消え去り、一面が泥と化した一帯。

 そこには多少の泥は被っているものの、傷一つ無いリンが佇んでいた。水が消えた瞬間の奇襲を警戒して、防護魔法を展開している。


 その様子を、長老は遥か上空から見ていた。

 足場代わりにして逃げるように伸ばしてきた樹幹を、天へ向かって高く伸ばしたのだ。樹幹には辺り一帯の木々が群がるように纏わり、一本の図太い柱を作って、高所に立つ長老を支えている。


 長老は満月の明かりを背に、頭上へと手を伸ばす。

 柱に纏わりついていた木々がその掌に集い、独りでに形を変えていく。長く、硬く、鋭く、どんな盾だろうと防護魔法だろうと貫ける、尖った槍へと。それも一本だけでは無い。何本もの槍が長老の掌の上で織り成す。


 長老がそれらの槍一本一本に魔法を込めれば、炎や氷、岩や旋風、雷などを纏って、夜空へ浮き上がる。


 遥か下に居るリンはと言えば、魔法の発動を事前に止めようと浮き上がって来るかと思いきや、恐ろしい物を見るようにジリジリと後退りをしていた。

 止めるのが間に合わないと判断したか、彼女の本能が槍を恐れているのか。


 どちらもあるだろうが後者は特にだろう、と長老は思う。

 槍は込められた魔力が膨大過ぎて、夜空の星のように光り輝いている。こんなものを見せつけられて、恐れない者が居る訳が無い。


 現にリンは、槍から逃れようと本格的に撤退を始める所だった。


「逃がさんよ……っ!」


 だが、もう遅い。それより早く、長老が事前に仕込んでおいた魔法を起動させる。

 土属性の上位魔法だ。効果は大規模な陥落。リンの足元が揺れたかと思えば、大きな穴を開けて陥没した。


「……!?」


 リンは飛行系統の魔法を使う間も無く、穴へと飲み込まれた。


 彼女は激流で視界が塞がれている間に、長老が魔法を仕込んでいた事に気付いていたのだろう。だからこそ、即座に撤退や浮き上がって止めるという、思い切った判断を下せなかった。

 彼女の堅実さ、慎重さが裏目に出た形だ。結果として、判断の遅れを招いてしまったのだから。


 思い通りに事が進んで、長老は微かに笑みを漏らす。リンの性格を考慮した上での行動だったが、ここまで上手く嵌ってくれるとは思わなかった。


 長老が生み出した深い穴の底には、月と槍の光に照らされて、転びそうになるリンの姿がある。

 ただの陥落であればここまでバランスを崩す事は無かっただろう。だが、リンの足場は先程の激流の影響で泥濘んでいる。加えて槍に気を取られて不意を打たれたとなれば、バランスを崩すのも無理は無かった。寧ろ、転ばずに何とか踏ん張れているのが流石である。


 ここからリンが体勢を立て直して穴から飛び出すまで、多く見積もっても数秒しかないだろう。


(十分だ!)


 だが、高次元の戦いにおいて数秒の隙は命取りとなる。

 長老はその数秒に勝機を見出した。


「逃がさんと言ったろう!」


 この隙を絶対に逃す訳にはいかない。

 危険を察知したリンが動くより早く、彼女を閉じ込める穴の地面や壁を木々で覆い尽くす事によって、横穴を開けてそこから逃れる可能性を潰す。更には地中の根をリンの手足へと這わせる。


「これで終わりじゃあぁっ!!」


 荒げた怒号と共に長老は複数本の槍を一斉に放つ。

 里の命運が賭かった一撃が、リンの居る所へ直下する。


(嗚呼、森よ、自然よ。護るべき立場であった我が、力不足が故に破壊してしまう事を、どうかお許し下さい)


 振り撒く光が、辺りの荒野を鮮やかに映す。

 それを目にした長老は、心の中で懺悔していた。


 これまで敵を倒す為だと内心で詫びながら植物の力を借りて来たが、この一撃は詫びで済む範疇には収まらない。

 土壌をも破壊し、木々が中々育たない地を生み出してしまうのだ。自然をも脅かす威力である。


 一度単なる好奇心で試しに使ってみた時、悲惨な事態になって絶望に暮れた事を今でも覚えている。幸いにも森の奥部で使っていたので、誰かに見られる事も里に被害が行く事も無かったが、この手で自然を破壊した事実だけは残ってしまっていた。

 それからは償いの為に、族長を退任して隠居と称して家族と離れては、度々里を抜け出して独り復興に励む日々。来る日も来る日も、素質には頼らず自身の手で環境を整え、森を興していた。数十年掛けて無事元の姿に戻し、二度とこの技は使うまいと心に固く誓った。


 それを今、長老は放った。

 長老は自然だけで無く、里に居る同族も護らねばならないのだから。中途半端に出し惜しみをしてリンを倒せなくなっては、悔やんでも悔やみきれない。この自然に仇を成す危険な技を使うしか道は残されていなかった。


(事が落ち着き次第、心血を注いで再生に努める所存。故にどうか、この一撃で全てを終わらせて下さい……!)


 長老の想いが込められた槍が疾風、否、稲妻の如く高速で落下し、流星群となってリンが居る巨大な穴へと吸い込まれて行く。やがて地へと衝突し、強烈な光が辺り一面を長老の視界諸共呑み込んだ。



――――――――――――――――――――



「いかん、目がっ、足がっ……」


 長老は体内の魔力が尽きたせいで、酔った感覚に陥り平衡感覚を失う。謎の武器による爆発で損傷した足で支え切れる訳も無く、あえなく高所から転げ落ちる。


 魔力も植物も無く、強烈な光に焼かれて視界も悪いのだ。当然受け身を取る事も出来ず、生身の老体が地面へと叩き付けられた。


「ぐぅ……っ!」


 落下の衝撃で口から血反吐が吹き出る。老いのせいか、予想以上に堪えるものがある。

 最早、里に援護どころか様子を一目見に行く余力があるかどうかも怪しかった。


(だが、これで勝てた。我々エルフの勝利のはずじゃ……)



 あの流星群のような攻撃は、長老が放てる最大の一撃だ。


 巨木を無理矢理凝縮させる事によって尋常では無い硬度を持つ槍を生み出し、更に魔法を込めて威力を上げる。

 それを上空から風属性の魔法で放てば、重力と風速が合わさって目で追えぬ速度を生み出し、回避防護不可能の高威力の攻撃と化す。例え回避出来たとしても、衝撃波だけで殺せるだけの威力が出ていることだろう。


 森で生きるエルフには恵まれ過ぎた素質と、里一の実力を誇る魔法を組み合わせた、欠点から目を逸らせば長老の最高傑作と言っても過言では無い攻撃。


 それを残った魔力を全部使って複数回放ったのだ。

 槍の一本一本に込められた魔法の属性が異なるので、あの一瞬で全てを相殺するのは不可能。防ぐ障壁も作れない。

 限界までリンの様子を見極めていたが、大きく動いた様子は無かった。


 どう足掻いても攻撃を喰らい、死んだはずだ。跡形も無い程に木っ端微塵になっていてもおかしくは無い。


(それでも……確認せねば……)


 それでも、相手は人外の領域に踏み込み、謎の治癒能力を有しているリンなのだ。


 治癒能力がどこまで効くのか分からないが、下手をすれば身体の一部が残っているだけで全身が元通りに再生出来る。なんて事もあるかもしれない。

 その場合は再生するより早く、トドメを刺さなくては。


 リンが確実に死んだのをこの目で確認するまでは、全く安心する事が出来なかった。


「ぐ、ふ……っ!」


 長老は血反吐を吐き出しながらも何とか身体を起こし、リンの姿を求めて土煙の中を歩み――


「がっ!?」


 腹を踏み付けられたような強い衝撃。同時に胸からピキピキと鳴り響く低く鈍い音。視界が目まぐるしく切り替わり、突風が背中を打ち付ける。


 幸い頭は働いており、腹を蹴られて吹き飛ばされたのだと気付けるが、極度の疲弊故に身体を思い通りに動かす事が出来なかった。

 長老の老身はなすがままに吹き飛ばされる。地面を数回バウンドした後にゴロゴロと転がり続け、木の幹に叩き付けられた事でようやく止まった。


「ごっ……がっ……」


 口から黒い血が溢れて、呼吸が苦しい。

 この辺りの木々は全部使い尽くしたはず。だというのに木にぶつかるとは、相当な距離を吹き飛ばされた事になる。体内の骨が何本も折れたと思われた。内蔵も損傷してるかもしれない。


 だが、それよりも……。


「馬鹿、な……」


 長老は満身創痍な老身を振り絞って、力無く呻く。


 長老の赤く染まりながら揺れ動く視界には、先程の攻撃で死んだはずの人間の姿があった。

 服は破け腰に携えていた武器は無く多少の傷は見られるものの、四肢の一つも欠けてはおらず、ほぼ万全な状態で立っている。


 ――有り得ない! 死んだはずだ! これは幻影だ!


 必死に幻覚だと祈り、消えてくれと念じる長老。

 それを否定するが如く、リンが口を開いた。


「危なかったですね……。如何に魔力量があれど一斉に放出するのは難しいはずですが、まさか出し切ってこれだけの威力を放つとは。流石は里一の実力者と言った所でしょうか。評価を上げねばなりませんね」


 内容は素直な称賛。だが、敗北が濃厚な状況で己より強い敵にされては、何一つ心には響かない。寧ろ称賛する余裕がある程に平然とされては、虚無感まで湧いてしまう。

 

 逃げたい。逃げるとまでは行かなくとも、何か毒を吐いてやりたい。だが思いに反して、身体は動いてくれない。

 魔力は尽き身体は限界を迎え……何より心のどこかに諦めてしまっている自分が居た。


(この儂が負けたのだ……。もう里は終わりじゃ……)


 リンが慎重に歩を進めて、こちらに迫って来る。

 身体中に付いていた傷はいつの間にやら消えていた。

 全ての魔力を使っての渾身の一撃は、結果として傷を与える事すら出来なかったのである。


 この里は人間に乗っ取られるだろう。我々エルフは彼等の奴隷に成り下がり、不老不死の研究という非道な襲撃者の私利私欲の為に使われると思われた。


(すまない、ミーナ……)


 娘の顔が脳裏に浮かぶ。幼い少女だったミーナは、瞬く間に成長を遂げ、今や里を治める逞しい族長となっていた。立派に育ってくれた自慢の娘だ。

 唯一心残りがあるとすれば、孫娘であるアンナの動向を掴みきれなかった事だろうか。人間側に着いたか奇行の一種なのか、判別出来ずミーナに憂慮を残してしまった事が悔やまれる。

 せめて、全てを捨ててでも逃げてくれれば良いのだが。


(族長としての使命感が強いから、望み薄かもしれんな……。立派過ぎるのも難儀な物だ)


 そして、長老自身にも、今後は辛く苦しい拷問が待っているだろう。仮にも交渉の為とはいえ、不老不死の情報を持っているという嘘を付いてしまった。

 リンの主である異常者は、あらゆる手段を用いて聞き出そうとするだろう。嘘だと知れば、何をされるか分かったものでは無い。娘の命が奪われる事も考えられた。


(自分で蒔いた種は自分で刈り取る、か)


 先祖代々伝わる言葉が、ふと靄が掛かる頭を過ぎった。

 今が正にその状況では無いだろうか。自分が身勝手に吐いた嘘で、他の者達にまで迷惑を掛ける訳にはいかない。


(うむ、このまま彼等の手駒に成り下がる位ならば……)


 長老は静かに意を決して、背を支える木を動かす。


 迫り来るリンの足音が止んだ。

 この状況になっても油断しないとは、本当に慎重で堅実で強かな者だ。内心で思わず苦笑してしまう。

 だが今は逆に、それが有難かった。


(ミーナよ、里のエルフ達よ、どうか忌々しき人間共から逃げて、生き延びてくれ。生きてさえいれば、望みはあるのだから。そして、儂の決断を許して欲しい)


 警戒して足を止めるリンをちらと見ては、長老は一本の枝を伸ばして……。


「――――っ」


 自身の胸に、思い切り突き刺した。


「なっ……自決!?」


 即座に長老の行動の意図を把握したリンが、今までの感情を窺わせない冷淡な声とは違う、人間味で溢れた驚愕の声を上げる。

 その直後、身体に温もりを覚える。医療魔法を掛けて、死なせまいとしているのだろう。だが長老はそれに構わず、枝を体内で引っ掻き回して自らの臓器を引き裂いて行く。


 暗転しかかる長老の最期の視界に、血相を変えて焦りを露わにするリンの姿が映った。想う主からの命を果たせそうにないからか、彼女の瞳が恐怖で揺れている。


(ふん、最期に一矢報いたぞ……)


 そんな狼狽したリンを見て、長老はしてやったりと微かに頬を緩める。


 こうして長老は、千年を超える長い人生に終止符を打った。

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