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エルフ編は今年中に全部投稿します。

 里に戻れば、夜中だというのにそこらの灯りが着いて明るくなっており、中央にある屋敷を囲うように人集りが出来ていた。

 そこでは武装した大人達が切羽詰まった様子で話し合っており、女や子供達はそんな大人達を不安そうに遠目で見守っている。


 戻った私にアレクが一足先に気付き、人集りから飛び出して駆け寄ってくる。


「ミーナ! 大丈夫だったか!?」


「無事よ、長老と話してただけ。それで、侵入者はどうなってるの?」


「そうか……。侵入者はまだ来てない、待機中だ」


 結界を張っていた老エルフから詳しく事の仔細を聞けば、侵入者は一人の人間だと。やはり長老の言っていた通りである。

 族長含む何人が居ない事で指揮系統を巡って僅かな混乱が起きていたらしいが、私が来たので今は落ち着いた。


 結界から里の中央まではそこそこ距離がある。人間は中央に向かっている最中なのだろう。


 寝込みを襲われたり各個撃破されたりするのは最も避けたい事例だったので、こうして一箇所に集まれたのは良い

展開だ。ここで待機すれば、勝手に向こうからやってきてくれる。それを全員で迎え撃てば良かった。

 しかしながら、


(アンナが居ない? どこに行ったの!?)


 長老から気を配るように厳命された、狩人らは揃っているのだが、アンナの姿が無い。

 いや、娘だけでは無い。何人かの古老も居なかった。


(古老は単に鐘の音に気付いて居ないだけ? 耳が遠くなるとは聞くけど、普通に会話は出来てたよね……)


 古老は長く生きているだけあって、弓や魔法の達者である。彼らが戦闘時に居ないのは大きな痛手だ。


「アレク! アンナ含む何人かが居ないんだけど!」


「ん? 起きたら二人とも居なかったから、てっきり一緒に動いていると思っていたんだが……。違うのか?」


「……えっ」


 当然、ミーナは何も知らない。

 そして、娘はまだしも古老に関しては一切の心当たりが無かった。


(探す余裕は無い。でも、流石に古老は居て貰わなくては困る……)


「そこの二人! 貴方達はここに集まっていない老エルフの家に向かいなさい! 異常が無いか確認して、無ければここまで連れて来なさい!」


 ミーナは適当に二人の若いエルフに命じる。念の為、狩人では無い二人に。


 異変の一つかとも思えるが、この騒動に気付いてないだけの可能性も十分にあった。戦力の分断は避けたいが、この程度ならば誤差の範囲内だろう。


 二人のエルフが脱兎の如く駆け出すのを尻目に見ながら、今度はアンナの事を考える。

 アンナは鐘が鳴るより前に家を抜け出していた。そして未だに姿を現さず、行方は分かっていない。


(アンナも、この件に関わっている?)


 アンナは人間と行動しているのだろうか。だが、それだと一つ疑問が生じる。

 アンナは結界を無効化する魔法を習得している。それを人間に教えれば、不意を突く事が可能になり襲撃はより確実になったのでは無いだろうか。


 それに、異変が起きていたアレクら狩人は侵入者の影響で多少緊迫感を漂わせているものの、普段通りの言動である。魅了系の能力を受けている様子は見受けられなかった。


 そもそもアンナは、今まで私に異変を察知されない程に自然に振舞っていたのに、この状況で忽然と姿を消した。

 余りにも不自然だ。怪しめ、警戒しろ、と言わんばかりである。我々を倒したいならば、普段通りに振舞いつつ戦闘のどさくさ紛れて同士討ちをする方が良いのでは無いか。そうすれば、戦況を混乱させて一気に優位に持ち込めただろう。


 アンナが侵入した人間と連携してるにしては、拙い部分が多過ぎるのだった。


(人間とも一枚岩では無いってこと? それとも錯乱させるのが狙い? そもそもの前提が間違っているの?)


 だが、この場にアンナが居ないのも事実で。独断で動いているのか、何か別の考えがあっての事なのか――


 ミーナはそこまで考え至った所で、軽く頭を振って、娘に関する益体の無い思考を打ち切る。

 妄想の領域に突入するのは宜しくない。余計な事まで考えてしまい、誤断を招いてしまう。どの道、居ないのでは警戒のしようが無いのだ。


 何かあれば長老が動いてくれるだろうと信じて、侵入者の対処に切り替える。


「侵入者である人間は、ここで迎え撃つ! 戦える者は弓や魔法で攻撃! 女子供等々戦えない者は、逃げる準備を整えなさい!」


 余りに歳を取りすぎた者や事情があって訓練を殆どしてこなかった者は、殆ど戦力にはならない。下手に戦いに加わらせると人質にされる恐れがあるので、子供を逃がすのに一役買って貰うのが懸命な判断だろう。

 狩人は……魅了された疑いのある者は隔離させたかったが、同族達が何も事情を知らない現状で表立って怪しい者を分断させれば、余計な混乱を招くだけだ。戦力も必要なので、一旦放置するしかなかった。


 方円を組ませて全方位を警戒するよう指示する。

 狩人らは素直に指示に従ってくれて、不穏は動きは見られない。人間を迎え撃つ準備は万全だった。




「出たぞ! 人間だ!」


 少しして、結界が感知した方向から声が飛んで来た。

 即座に戦えないエルフは反対方向に避難し、残った者で避難民を追えないよう横並びに陣形を変える。狩人らは力量を見込んで、という建前で最前線に立たせた。


 ミーナも人間の姿を確認する。やはり一人で、それぞれの手には白く輝く剣が握られていた。


「族長! 良いですね!?」


 若いエルフが興奮した目付きで攻撃許可を求める。

 ここで許可を出せば、人間に向かって一斉に敵愾心が込められた弓と魔法が放たれるだろう。


「いや、待って」


 だが、ミーナは許可を出さない。人間から感じる違和感といまいち腑に落ちない思いが、彼女を躊躇わせていた。


(何? この嫌な感じは?)


 違和感の正体には、直ぐに気付けた。


 目だ。我々を目にして立ち止まった人間の両目が、仄かに赤い光を帯びているのだ。


(どこかで見聞きしたような.…..)


 ミーナは敵を前にして、腑に落ちない思いの源を探るべく記憶を辿る。人間の存在よりも重大な何かを見落としている、そんな気がしたのだ。


(確か、アレクの異変の原因を探るべく、ヴァンパイアに関しての資料を読んだ時だっけ。ヴァンパイアの持つ魅了の魔眼の特徴が、人間が持つ目に似通っている……)


 そこでふと、人間が無造作に片方の剣を宙へと放り投げた。

 自然な動作で、それでかつ意表を突いた行動に、皆の視線が上空を舞う剣へと集中する。剣は重力に引っ張られて、徐々に地に近付いていく。皆の視線も付き従うように徐々に下がっていって、やがては最前線に居る狩人達が目に入る。彼らはいつの間にか伏せており、こちらを狙うように弓を構えていて――


「今すぐ伏せてっ!」


 味方だったはずの者から、数多の矢が放たれた。


「うおっ! 危ねぇ!」


「ぐあっ!? い、痛い……」


 ミーナは咄嗟に声を張り上げたものの、何人かは反応が遅れて至近距離から放たれた矢を浴びてしまった。


 一つの可能性に行き着いたミーナだけは、剣に気を取られず常に狩人を注視していた。そうして見たのは、人間が現れた時にピクリと肩を震わせ、剣を投げたと同時に身を伏せて我々に向かって力一杯に弓を引く狩人らの姿だった。


 突然の裏切りに周囲が浮き足立つ中で、ミーナは二射目を警戒して引き続き狩人らを注視する。


 彼らは、陣形を崩して人間の元へ駆け出していた。奇行を止めようと押さえようとする者も居るが、強引に振り払われて徒労に終わる。その中にはアレクも居た。

 そして、人間を守るような陣形を組む。


 その光景は、ミーナが行き着いた可能性が正しいと証明するものであった。


(魅了系の能力の所有者はアンナでは無く人間! 狩りの際に男性だけの一団が襲われて、魅了された……!)


 長老は勘違いをしていた……いや、恐らくアンナにさせられたのだろう。

 ただそうなると長老の推測が間違っていた事になるので、アンナはどうやって結界を無効化する魔法を知ったのか、人間とはどんな関係なのか、不明瞭な物事が増えていく。


「おいお前! 気でも狂ったのか!」


「貴方! どうして人間の側に付いているのよ!」


 歯軋りをするミーナを他所に、魅了の影響を受けていない正常なエルフ達が説得を試みている。


 幾ら裏切り者だったとしても、同族と争うのは精神的に来るものがあるだろう。増してや、戦闘経験が豊富な狩人が敵に回るのは戦力的にも厳しい所がある。

 ただでさえ古老が何名か欠けているのだ。更に狩人らが敵に回れば、苦戦を強いられるのは必至である。


 それを考えれば、説得を試みるのが最上だと言えた。

 しかし、無理なのだ。魅了の力は掛けるのが難しい分、掛かれば強大な力を発揮する。深く掛けられてしまっては、言葉の一つや二つで解除するのは困難になる。


「皆、落ち着いて聞いてっ! 人間はサキュバスに似た魅了の魔眼を持っていて、彼らはそれで操られているの。後で戻す事は可能だから、今はとりあえず殴るなりして気絶させなさい!」


 だが、不可能では無い。

 気絶させる等々で強引に軟禁状態に持っていき、サキュバス……魅了させた存在との接触を無くせば、次第に魅了は解けていく。そう資料に書いてあった。


「魔眼だと? そういう事か……」


「彼奴め、よくも我の同胞を……」


 戻せるという希望を含んだ言葉に、皆僅かではあるが落ち着きを取り戻す。

 

「つまりは、操られている者は気絶させて、当の人間は殺せば良いんだな?」


「そうよ。念の為、至近距離で目を合わせないように気を付けつつね」


 森の民らしくない野蛮な言葉遣いが気に触るが、こればっかりは目を瞑ろう。怒りの感情は暴走させると危険だが、コントロール出来れば頼もしい力に変わる。


 状況が明確になったお陰で皆から動揺や困惑が消え去り、代わりに戦意が高まる。同族を操られた怒りで、皆の心は燃え滾っていた。

 司令塔のミーナは意を決する。


「勇敢なる諸君! いずれ長老や古老が援護に駆け付けてくれるから、それまで避難民が安全に逃げれるようにここで堪え忍ぶわよ! 数では勝っているから、囲んで近距離戦に持ち込ませて殴り倒したり、後方から狙撃や医療魔法で援護したりと、上手く仲間達と連携しなさい! 卑劣な企みを図る人間に、痛い目を見せてやるのよ!」


「「おおおぉぉぉーーーっ!!!」」


 周囲のエルフがミーナの発破に応えるように叫ぶ。

 そして、双方から矢と魔法が飛び交い始める。


(ごめんね、アレク。私が空者だったばかりに……。でも、二度とこんな事は起こさせないから!)


 周囲の仲間達に気を配りながら、ミーナも弓を引いて攻撃に加わる。かつての幸せだった日常を取り戻す為に。

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