77 *R15
ツグミが魔法で水を生成し、寝ている村娘の顔に目掛けて思いっきり放った。
「ブハッ、なっ、なに!?」
「おはよ〜ございます! 突然ですがこの状況、どう思いますか!」
村娘が目を覚ませば、金属で出来た妙に綺麗な部屋に居て、手足は拘束されている。
目の前には陽気に話しかけて来る謎の女性、その後ろには静観する見知らぬ男女。
この情報量は処理しきれないと思うんだが。
「何よ……これ」
やはり処理しきれずに呆然としている。
ツグミは何も言わずに、周りを見て少しずつ情報を整理していく村娘を見守っている。
「誘拐? 誰か助けてぇー!」
村娘は攫われた事に気付き、助けを求めて叫ぶ。
村娘は知らないだろうが、ここは鉱脈の奥の方だ。
叫びは地上どころか、フランコやナダールが居る職務室にすら届かない。
「まぁそうなるよね〜。でもちょっと煩いよ、もう少し静かにしてくれないかな〜?」
ツグミが静かにするように催促するが、村娘は聞く耳を持たず叫び続ける。
狭い閉鎖空間で必死に叫ぶものだから、耳に響く。
僕が思わず耳を塞ぐと、それを見たツグミが慌て出して、部屋に置いてある道具を漁り始めた。
取り出したのは、金属製のメリケンサック。
銃のように、鉱脈内で内密に専門家や奴隷達に作らせた物だ。
ツグミはそれを手に取り付けて、喚き叫ぶ村娘の口を横から全力で殴り付ける。
鈍い打撃音が鳴り、村娘の口からは血と幾つかの歯が飛び散った。
「静かにしてって、何度も言ったよね?」
ツグミが拳を構えれば、村娘は顔を蒼ざめる。
先程とは打って変わって、怯えたように黙ってコクコクと首を縦に降った。
やはり人を大人しくさせるには、恐怖の感情を抱させるのが手っ取り早いな。
「お父さん、ゴメンなさい! こんなに煩いとは思わなかった!」
ツグミがこちらに向かって頭を下げる。
まぁ鉱脈には全力で叫ぶ人なんて居ないからな……。叫びの声量を想像出来なかったのは仕方無い。
「事前に猿轡を噛ませて、強制的に喋れないようにしておくべきだったね。これが外の世界なら、周りに気付かれて大惨事だ」
だがここで許してはいけない。
事前に防げた事ではあるし、問題点は厳しく指摘していかないと何処かで足元を掬われる。
甘い判断を下したり油断したりするような子は、手駒には不要である。
「本当にゴメンなさい……」
ツグミは意気消沈して、消え入るような声で謝る。
可哀想だが、これも教育の一つだ。
立派な手駒になる為に必要な事だ。頑張って立ち直って、乗り越えてもらうしかない。
流石にフォロー位はしておこうか。
「まぁ、次も同じ失敗をしなければ良いさ。ほら、続きをやろう?」
「うん……うん……分かった! もう二度としない!」
よしよし、その調子だ。
何となく親の気持ちが分かった気がする。
にしても、叫びの声量か……。
やはり本や僕達が教えるだけでは限界があるなぁ。
何をどう考えたら叫びの声量なんて教えるんだ。
今回のようなホムンクルス特有の認識のズレは、他にもまだまだあるだろう。
少しでも無くす為に、そのズレやそれ故の失敗談を、ホムンクルス同士で共有するように指示しておくか。
「お待たせしました! それで、貴方には色々聞きたい事があるんです! 聞かれた事だけを答えて下さいね? 逆らったり叫んだりすれば殴りますよ〜!」
村娘は黙って、笑顔でメリケンサックをつけた手をグルグルと回すツグミを見ている。
すると村娘はまだ何もしていないのに、ツグミが突然殴り掛かった。
「ちゃんと返事はしようね〜?」
「すっ、すいません! はい!」
村娘は慌てて返事をする。
理不尽な暴力を振るう事で、相手に本能的な恐怖と上下関係を植え付けて支配する事が出来る、と過去にホムンクルス達に教えた事がある。
これはその一環だろう。
教えた事をこうして自分なりに考えて実行出来るとは、やはりツグミも優秀そうだ。
「それじゃあ、質問ね〜。まずは貴方の事から聞きましょうか――」
そこからは長い質問攻めが始まった。
村娘自身についての質問から始まり、両親、友達、外の世界の食事、金、仕事……あらゆる分野の質問をして、村娘も頑張ってそれに一つ一つ丁寧に答えている。
歯が数本抜けて話しにくいだろうに、頑張るねぇ。
「――なるほど、ありがとうございます! それでは、次の段階に行きますね!」
そう言うとツグミはこちらに振り返って、道具から取り出した耳栓を渡して来た。
「お父さん! これから煩くなるかもだから、嫌だったらこれ付けて! どんな声を出すか知りたいの!」
「分かった、ありがとうね」
声を聞きたいので猿轡を噛ませたくないが、かと言ってそのままだと煩くなってしまう。
彼女なりに考えて工夫してくれたのだろう。
ツグミの成長を感じられて、妙な達成感が湧き出る。
子を育てる親もこんな気持ちだったのかなぁ。
「それじゃあ、次は君の身体を調べるね〜! 痛かったら素直に叫んでいいからね!」
「ひっ、ヤダ! やめグフッ!」
身体を調べると言う言葉に嫌な予感を覚えたのか、突然村娘が拒絶しようとして、即座に殴られる。
今回は血と歯だけでなく、頬の肉片も飛び散った。
「返事と返答以外、何も許してないよね? それに貴方に拒否権は無いの、分かった?」
「わ、分かりました……」
「それじゃあ、次の段階へ行ってみよ〜!」




