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「二人とも、外の世界はどうだった?」
「まぁ、色々見れて面白くはありましたね。演技が大変でしたが」
「俺は色々な物が見れて面白かったぞ! やっぱ本で知るのと実際に見るのとでは全然違うな!」
「そうかそうか、それは良かった」
好奇心が上手いこと刺激されたようだ。
ホムンクルスの二人には、僕に対する忠誠心だけでは無く、好奇心や探究心も強くなるように教育してきた。
色々な物事に興味や疑問を持つことは良い事だ。
研究の際には、その好奇心が研究の進展に貢献してくれる事だろう。
教育の成果が現れていてなりよりだ。
今回の観光には好奇心を刺激させる事の他にも、ちゃんと他人とコミュニケーションが取れてるか、怪しまれない普通の人間を演じられるか、等々を確認する目的があった。
ナダールからの報告を聞いた限りでは問題無いだろう。
エリックは演技ではなく、純粋に楽しんで居そうだが。
ナダールにレイン達の正体を予想して貰うと、洗脳した田舎の村人という答えが返ってきた。
僕が平然と洗脳するような人間だと思われてるのが少し気に食わないが、実際似たような事をやっているから何とも言えない。
まぁ村人と勘違いするくらい人間味があったのならば、今後も外に出しても問題無いだろう。
ホムンクルスが上手く育っている事に喜びつつも、もう一つの大きな目的について問いかけてみる。
「それで、ナダールはどうだったのかな?」
実は、ナダールに二人を監視させていたように、二人にもナダールを監視するよう命令していたのだ。
白銀の乙女はエルナが監視している現状、一番何か行動を起こせる可能性が高いのはナダールだ。
死にかけから救った恩よりも、敵愾心や解放されたい感情が勝っている可能性がある。
指輪で縛っているが、毒や白銀の乙女を気にせず、なりふり構わず逃げ出そうとすれば面倒だ。不安要素になる。
そうなったら少し残念だが、殺す事になるだろう。
任務の話になったと分かり、エリックからは笑顔が消えて真面目な表情に切り替わる。
リンは終始無表情で何も変わらないが。
「ご主人様の手駒になる事に、何か不満が無いかを聞かれました。念の為牽制しておきましたが……アレは危険です」
「俺は何とも無かったが……。レインのそれは、危ないんじゃないか?」
「そうですね、殺すべきでしょうか」
二人の声に敵意が混じる。
一緒に観光した仲というのに、明らかに仲間だとは思っていない、嫌悪の感情が滲み出ている。
うんうん、変に感情移入もしていないね。
レインの不満が無いか聞かれた話については、後でじっくりと聞くとしよう。
「いや、ナダールの素質は使えるから殺しちゃ駄目だよ。そういう時は、楔を打ち込んだり首輪を嵌めたりして飼い殺すんだ。また後で、色々やり方を教えてあげよう」
問いかけてくる程度だし、ナダールにも死にたくないという気持ちはあるだろうから、揺らいでる程度だな。
引き続き白銀の乙女と仲良くさせて楔を打ち込み、毒という名の首輪を嵌めて置けば良いだろう。
ナダールにも二人のホムンクルスにも、特に大きな問題は無い。これなら、両者共に次の段階に進めそうだ。
よし、もう一人のホムンクルスにも会いに行こうか。
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レインとエリックは第三研究室で、各自身体を鍛えるトレーニングをさせるよう命じて、第一研究室へ向かう。
第一、第三と言うのは、ホムンクルスをずっと研究室で育てても邪魔なので、他にも幾つか研究室のような整備された綺麗な部屋を作ったのだ。
今は本や玩具、家具、木製の武器なんかが置いてあって、ホムンクルスが自由に暮らす空間となっている。
後々は新たな研究室として使う予定だ。
「お父さ〜ん、私も外に行きたかったよ〜!」
第一研究室に足を踏み入れれば、甘えて来るような声と共に女性が抱き着いてくる。
「我慢させてごめんね、ツグミ」
この子はツグミ、三人目のホムンクルスだ。
ツグミは他二人とは違って性格に問題有りと見なして、ナダールとの観光には行かせなかった。
「ツグミ、ご主人様から離れなさい」
背後からリンの不機嫌そうな声が飛んでくる。
振り返って見れば、リンが嫉妬というか怒りというか、複雑なものを感じさせる視線を僕らに送っていた。
リンは自ら甘えては来ないから、こうして気軽に抱き着けるツグミが羨ましいのだよう。
「えー、お父さんも嫌がってないじゃん」
ツグミはリンに注意されても、平然としている。
「……はぁ」
困ったような声を出すリン。
ツグミは見ての通り、結構甘えん坊な性格だ。
生まれて間もないホムンクルスは、身体は大人でも精神年齢は子供だ。これ位は致し方無しと判断している。
「うんうん、リンの言う通り一回離れよっか」
「はぁ〜い」
とは言え、僕の言う事はちゃんと聞くように教育したので、こうして言えば残念そうではあるが離れてくれる。
よく甘えては来るが、自制はしっかりと出来ている。
性格に問題有りと判断したのは、こうした甘えん坊な性格とはまた別の所なのだが……そこは後々話すとしよう。
「おいマークス、要件があるならさっさと話せ」
そう不機嫌そうに言うのは、部屋の奥に座って居たツバキ。
この第一研究室は最初に作った、火薬を生み出していた部屋で、今やツバキ専用の研究室となっている。
ツバキの手元にある机を見れば、ナダールに買わせた薬品を使った、簡単な実験の痕跡がある。
ツグミも居たことから、ツバキがツグミに研究に関する事を色々教えて居た事が伺える。
好奇心旺盛なホムンクルスからしたら、ツバキの研究は非常に興味を引かれるものだろう。
ホムンクルスに教えてと懇願されるツバキの姿が容易に想像出来る。微笑ましい光景だ。
……おっと、不機嫌そうなのはその教えている所に水を差されたからか。さっさと要件について話そう。
「数日後にツグミとナダールの顔合わせをさせるから、その打ち合わせをね」
「わたし?」
名前を出されたツグミは、可愛らしい子供のように首をコテンと傾ける。
そんなツグミに、僕は物騒な言葉を吹き込んでやる。
「あぁ、ナダールとの顔合わせの際に、お願いをするんだ。『人を攫って下さい』ってな」




