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あんまり上手く書けてないので、気が向いたら何処かで修正するかも。
というより、マークス以外の視点の書き方が宜しくないですね。
次章では(多分)改善されておりますのでお許しを...。
「塩焼きを二つ、お願いします」
「はいよ、毎度ありぃ!」
マークスに渡されたお金で、レインと名乗った女性が魚の塩焼きを買う。
その様子をナダールは、隣に立って眺めていた。
ナダールは珍しい事に、気配を殺していない。
今日は旅人を装って観光をしに来たのだ。
「ナダールさんもお一つどうぞ」
レインが人の好い柔らかい微笑みをこちらに向けながら、買った塩焼きを一つこちらに渡してくれる。
マークスの何処か不気味さを感じさせる、貼り付けたような微笑みとは大違いだ。
レイン……マークスに紹介された、彼の新しい手駒。
挨拶の時は、無表情な顔つきと何の感情も篭っていない声から、リンのような非常識人が増えたと考えていた。
容姿や言動がリンに似ていたのも、その考えに拍車をかけている。
だが都市に着けば、人が変わったように笑顔になった。
こうして美味しそうな食べ物を買ったり、変わった物を売っている店に入り物色したりと、都市にある色々な物に興味を示している。
マークスも世間知らずだと言っていたし、本当に都市に来るのが初めてで、色々な物を見れるのが楽しいのだろう。
俺に対しては何処か距離を感じさせるが、初対面の人と一緒に行動する訳だから、それ位は仕方ない。
俺は男でレインは女だしな。
「ナダールさん、大丈夫ですか?」
いつの間にやら考え込んでいたらしい。
レインに声を掛けられて、ハッと我に返る。
前を見れば、リンが塩焼きを一つ差し出している。
「大丈夫だ、一つ貰おう」
どうやらレインは気遣いも出来るらしい。
気遣いの欠片も無く問答無用で殺そうとしてくるリンとは大違いだ。
マークスもそんなリンを毎度毎度止めるだけで、二度とやるなと注意はしない。同類だ。
「うん、やはり都市の料理は美味しいですね。鉱脈内だと、どうしても料理の種類が限られてましたから」
レインは終始楽しそうにしており、初めて都市に来て燥ぐ田舎の村娘のようにしか見えない。
『――レイン達の監視をして、僕の害となるような言動をしていたら、素質を発動して即座に殺してね?』
不意にマークスの言葉が、頭をよぎる。
もしもレインが変な事をすれば、俺は彼女を殺さないといけなくなるのか?
レインがリンのような異常者ならまだ良かった。
だが、こんな優しい女性を殺すのは気が引ける。
いや、ハッキリ言ってこんな事はしたくない。
解放して欲しいが、そんな事を言えば……。
『――なら契約は無しだ、今ここで死んでもらおう』
どうなるかは目に見えている。
リンは素質によって聴覚が研ぎ澄まされるのか、気配を殺しても俺の存在に気付いている。
俺よりも格上の実力者だし、とても逃げ切れるとは思えない。返り討ちは以ての外だ。
そもそも指輪のせいでそんな事も出来ないが。
「結局俺も、死ぬのが怖くてマークスに従ってるだけだから、人の事が言えないんだよな……」
「ん? 何か言いましたか?」
「いや、何でもねぇよ」
思わず小さく独り言をぼやいてしまった。
レインも一応マークスの手駒な訳だから、聞かれたら反逆心が〜、なんて言われて殺されかねない。
……そう言えば、レインもそこら辺に居る明るい村娘にしか見えないが、マークスの手駒ではあるんだよな。
マークスの事だから、無能は手駒には加えず、人体実験や捨て駒にして使い潰すだろう。
ならば、レインにマークスは何かしらの価値を見出していると言う事になる。
その価値は何だ?
そもそもレインは、何処から連れて来たんだ?
何故マークスの手駒になったんだ?
マークスやツバキがよく向かっている鉱脈の奥にも行かせてくれないし、隠れて何かをしているのは確かだ。
まぁ馬鹿な俺がそんな事考えても、分かる訳が無いか。
いや、待て。
レインは指輪を嵌めていない。
そしてエルナのように、マークス以外はどうでも良いと言うような狂信者でも無さそうだ。
何よりマークスが、レインの裏切りを懸念している。
レインは、マークスに徹底的に縛られては居ないという事では無いのか?
レインがその気になれば、マークスに逆らえるのでは?
レインはマークスに騙されているのかもしれない、何とか言葉で上手く惑わせて、マークスを裏切らせるように誘導出来ないものか。
出来ることなら俺を解放して欲しい。
指輪のせいでそんな事は言えなくなっているが――
「なぁ、レインはマークスの手駒になる事に、不満はねぇのか?」
――徹底的に縛られている訳では無いので、これくらいの質問ならば可能である。
ここで何か不満があれば、それを掘り下げて行くことで不信感を募らせる事が出来るかもしれない。
だが期待とは裏腹に、レインの顔からは徐々に笑顔が消えていく。
「微塵もありません。私はマークス様の手駒になる為に生まれてきた存在だと思っています」
即答だった。それも嫌な方向での。
声には、確固たる意思が感じられる。
顔にも固唾を飲んでいるような真剣な色が表れており、本気で言っている事がこれでもかと言う程に伝わってくる。
強い意思に、声が出ない程心が打ちのめされた。
レインに抱いていた村娘のようなイメージが、音を立てて崩れていく。
あぁ、こいつも普通の人間に見えるだけで、結局はマークスの手駒だったって事か。
あんな裏切りを警戒するような任務を言い渡す必要なんて無いじゃないか、変に期待させやがって。
まぁあのマークスが、そう簡単に逃げる隙を与えてくれる訳が無いか……。
「まぁそういう事を聞くのは構いませんが、誰にも聞かれないように気を付けて下さいね」
「気を付けるも何も出来ねぇよ、指輪のせいでな」
「せい、ね……」
……ん?
一瞬レインから殺意を感じたが、直ぐに霧散した。
気の所為……だと信じたい。
まぁでもどの道レインにとっての俺は、同行を命じられただけの存在で何とも思って無いんだろうな……。
「はぁ……」
空を仰いで重い息を吐く。
マークスの手駒になってから、溜め息を吐く回数が異常に増えたように思える。
休暇を貰い楽しく観光をしていた筈なのに、何故か憂鬱になっている。
あぁ、白銀の乙女の人と話してぇなぁ……。
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「ナダールさん! 折角の休暇なのにそんな顔してちゃ駄目ですって! 楽しまないと!」
レインとの二人旅が終わったかと思えば、今度は別の領にある都市へ、レインの自己紹介の時に居たもう一人の男と観光する事になった。
「ナダールさん! あの店に行きましょう!」
「えっと……エリックって呼べばいいのか?」
「何でもいいっすよ!」
この男はエリックと名乗った。
先程のレインよりも、非常に明るくて元気な男だ。
エリックは子供のように元気に動き回るものだから、制御出来ずに監視する筈の俺が振り回されている。
でも何だか、昔の仲間を思い出して心が休まる。
偶にはこういうのも悪くはないかもしれんな……。
まぁでもこうしてマークスが外に出してるって事は、中身はレインのような思考……ああもう。
そんな事を考えたって憂鬱になるだけだ。
折角の休暇なんだ。難しい事は考えずに、エリックと素直に楽しもう。




